P5R
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ほら吾郎見て、こんな感じになったよ」
「どれどれ?……って君さあ、流石にこれはどうなんだい?」
はぁ、と少し呆れたように息を吐くのは吾郎と呼ばれた少年。柔らかな茶色の髪を揺らし、隣に腰を下ろした少女へ視線を向けた。
責めるような視線をむけられた少女は彼の意図が理解できない様子で手に持ったガラスの容器を見つめる。
「願い事や大切な人へのメッセージを書くっていうコンセプトでしょ?
ならこれ以上のことはないんだけどなぁ」
少女・シオンは頬を膨らませながら少し不満げに言葉を漏らす。
赤いガラスの小瓶には可愛らしく揃った筆跡で「もう二度と離れ離れになりませんように」と書かれている。
少年・明智吾郎はそれが気恥ずかしいようで、額に手を当てて視線を逸らした。
「だとしてもだよ。この小瓶は持ち帰る訳じゃなくて、ここに展示されるんだろ?
不特定多数の人の目につくんだから、もう少し内容を考えてだね……」
「ええ……わたしの名前も吾郎の名前も書いてないけど、それでもダメ?」
「う……」
「わたしにとってはこれ以上の願い事なんてないんだけど……」
「……」
シオンの瞳が明智を捉える。じっと真っすぐに見据えられ、静かに懇願され、つい言葉に詰まってしまう。
彼だってわかっていた。自分の言っていることがただのワガママであると。
シオンの言う通り、小瓶には彼女の名前も明智の名前も記されておらず。筆跡で判断されるほど特徴的な文でもない。
自分たちの事を知っている人間がこの小瓶を見つけたとしても、それだけで「これを書いたのはシオンである」と見抜きはしないかもしれない。
しかし明智にとっては気恥ずかしく思えたのである。
シオンが願ったそれは自分自身が心から求めているものと同じだったからだ。
こんなにたくさんのメッセージが書かれたキャンドルがあるのだから、大量にあるものの一つを見つけ、さらに書いた本人を言い当てる確率などほぼゼロに近いことなど彼も分かっていたのだが。
それでも「構わない」と首を縦に振ることは躊躇われてしまった。
「あの、少しよろしいですか?
お値段がプラスになってしまいますが、お持ち帰りしていただくことも可能ですよ」
「……えっ?」
なんとも言えない空気のふたりに助け船を出したのはスタッフエプロンをつけた大学生くらいの女性だった。
大きめのポケットから値段表を取り出し、会場に展示する場合と、持ち帰る場合にかかる費用について懇切丁寧に説明する。
「と、いうわけで、お持ち帰りとなるとLEDのセットをお買い求めいただくことになるのでお値段がかかってしまうということでして……いかがなさいますか?」
「……だってさ、吾郎」
持って帰れるなら問題ないよね?とでも言いたそうな視線をシオンは向けてくる。そうなったらもう何も言い返すことなどできない。
「僕が払うから、持ち帰りでお願いします」
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げたスタッフの女性は持ち帰り用のセットを取ってきますね、と小走りで駆けてゆく。
「吾郎の部屋に飾る?」
「……どうして」
「その方がいいかなと思って」
「……」
参った。もしかしたら彼女は気づいているのかもしれない。
自分も君と同じことを願っていたということに。
「どれどれ?……って君さあ、流石にこれはどうなんだい?」
はぁ、と少し呆れたように息を吐くのは吾郎と呼ばれた少年。柔らかな茶色の髪を揺らし、隣に腰を下ろした少女へ視線を向けた。
責めるような視線をむけられた少女は彼の意図が理解できない様子で手に持ったガラスの容器を見つめる。
「願い事や大切な人へのメッセージを書くっていうコンセプトでしょ?
ならこれ以上のことはないんだけどなぁ」
少女・シオンは頬を膨らませながら少し不満げに言葉を漏らす。
赤いガラスの小瓶には可愛らしく揃った筆跡で「もう二度と離れ離れになりませんように」と書かれている。
少年・明智吾郎はそれが気恥ずかしいようで、額に手を当てて視線を逸らした。
「だとしてもだよ。この小瓶は持ち帰る訳じゃなくて、ここに展示されるんだろ?
不特定多数の人の目につくんだから、もう少し内容を考えてだね……」
「ええ……わたしの名前も吾郎の名前も書いてないけど、それでもダメ?」
「う……」
「わたしにとってはこれ以上の願い事なんてないんだけど……」
「……」
シオンの瞳が明智を捉える。じっと真っすぐに見据えられ、静かに懇願され、つい言葉に詰まってしまう。
彼だってわかっていた。自分の言っていることがただのワガママであると。
シオンの言う通り、小瓶には彼女の名前も明智の名前も記されておらず。筆跡で判断されるほど特徴的な文でもない。
自分たちの事を知っている人間がこの小瓶を見つけたとしても、それだけで「これを書いたのはシオンである」と見抜きはしないかもしれない。
しかし明智にとっては気恥ずかしく思えたのである。
シオンが願ったそれは自分自身が心から求めているものと同じだったからだ。
こんなにたくさんのメッセージが書かれたキャンドルがあるのだから、大量にあるものの一つを見つけ、さらに書いた本人を言い当てる確率などほぼゼロに近いことなど彼も分かっていたのだが。
それでも「構わない」と首を縦に振ることは躊躇われてしまった。
「あの、少しよろしいですか?
お値段がプラスになってしまいますが、お持ち帰りしていただくことも可能ですよ」
「……えっ?」
なんとも言えない空気のふたりに助け船を出したのはスタッフエプロンをつけた大学生くらいの女性だった。
大きめのポケットから値段表を取り出し、会場に展示する場合と、持ち帰る場合にかかる費用について懇切丁寧に説明する。
「と、いうわけで、お持ち帰りとなるとLEDのセットをお買い求めいただくことになるのでお値段がかかってしまうということでして……いかがなさいますか?」
「……だってさ、吾郎」
持って帰れるなら問題ないよね?とでも言いたそうな視線をシオンは向けてくる。そうなったらもう何も言い返すことなどできない。
「僕が払うから、持ち帰りでお願いします」
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げたスタッフの女性は持ち帰り用のセットを取ってきますね、と小走りで駆けてゆく。
「吾郎の部屋に飾る?」
「……どうして」
「その方がいいかなと思って」
「……」
参った。もしかしたら彼女は気づいているのかもしれない。
自分も君と同じことを願っていたということに。
3/3ページ