中里毅
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夜の妙義山は賑やかだ。色々なクルマが峠を攻め、スキール音があちこちから響いてくる。ヒルクライムを終えたらしい黒い車が一台、駐車場へあがってくる。あれは中里さんのGTRだ。運転席のガラス越しに一瞬視線がぶつかる。ぺこりと会釈をすると、中里さんは柔らかい笑みを浮かべてくれた。
「中里さん、お疲れ様です。どうですか、今夜の調子は」
「あぁ、悪くない。乗れてるぜ、今日は」
さっきのタイムも良かったしな、と弾んだ声音で中里さんは教えてくれる。耳打ちしてもらえたタイムは確かに先週のものよりコンマ何秒かを更新している。秋名のハチロクに敗北してからの中里さんは走りが変わったように思える。技術的なことはわたしにはわからないけれど、きっと精神的なもの。追いかける目標ができたのが大きいんだろうか、そんなことを考えながら先刻のドライビングについて熱く語る中里さんを見つめる。
「おーおー、仲の良いこったなぁ毅」
「……なんだよ慎吾」
途端に中里さんの声色が変わる。ニヤリという擬音が聞こえるような笑みを浮かべ、わたし達に声をかけてきたのはナイトキッズが誇るダウンヒラー・庄司慎吾さんだ。相変わらずの犬猿っぷりな二人はばちばちと火花を飛ばし睨み合っている。これもいつもの光景だなぁと呑気に感じながら、わたしは庄司さんに「こんばんは」と挨拶をひとつ。
「シオンも暇か?毎週来てよぉ」
「ふふ、わたしの楽しみですから。皆さんの走りを見ないと元気が出ないんです」
「なんだそれ?オレ達はお前を元気づけるために走ってるんじゃねーぞ?」
「お願いしたらそういう風に走ってくれるんですか?」
「うるせ、屁理屈捏ねるな」
こつん、と庄司さんが拳をわたしに当てる。庄司さんも先日ハチロクと一戦交え、敗北を経験させられた。今は車も庄司さん自身も負傷中で峠を攻めることは出来ないのだけど。それでもメンバーの誰かに乗せてもらってやってきたのだろう。夜の峠の空気に触れていたいのかもしれない。
わちゃわちゃと戯れていると、鋭い視線を感じて口を噤む。はっと顔を上げると、じっとわたしを見つめる中里さんと目が合った。
「……あっ、い、いや」
視線がぶつかってバツが悪くなったのか。中里さんは歯切れの悪い単語をこぼし、ふいとそっぽをむいてしまった。
しまった……中里さんとお話しをしていたのに、庄司さんとばかり……。何かを言おうとして口を開くけど、言葉は咄嗟に出てこなくて。わたしは情けなさを飲み込むように唇を結ぶ。
形容し難い沈黙が訪れてしまったが、それを破ったのは庄司さんだった。
「さーて、イチャイチャしてる二人を揶揄ったし、オレは下りでも見てくるかな。タバコも吸いてーし。じゃな」
さらりとそんな言葉を残して、庄司さんはふらりと歩いていく。からかった、って……もう、庄司さん……!取り残されたわたし達は思わず顔を合わせて、へにゃりと笑った。
「……自由ですね、庄司さん」
「まったくだ……。
それにしても、その、イチャイチャだなんて……すまない……」
「……そんなこと、言わないでください……。
わ、わたしは……嫌、じゃない、ので……。その、そういう風に、見られ、ても……」
「な……!
そういうことは、軽率に言うんじゃ……」
「わたし……誰に対してもこんなこと、言ったりしません……。中里さん、だけです」
「う……」
暗がりの中でもわかる、中里さんの頬が赤くなっているのが。きっとそれはわたしも同じだと思った。だって、すごく熱いんだもの。心臓の音だってドキドキうるさくて。車の音がなかったら彼に全部聞かれてしまうんじゃないかっていうくらい。
中里さんの泳ぐ視線を捕まえるように、じっと彼を見つめてもう一度同じ言葉を繰り返す。恥ずかしいけれど、きちんと伝えたいから。
「中里さんとなら、どういうふうに見られても。わたし、嫌じゃないです」
「……久尾津、さん……」
言葉の真意がどこまで伝わったかはわからないけど、本気だということは汲み取ってくれたのだろうか。中里さんは少し照れたように微笑んで。小さな、小さな声で「ありがとう」と呟いた。
「中里さん、お疲れ様です。どうですか、今夜の調子は」
「あぁ、悪くない。乗れてるぜ、今日は」
さっきのタイムも良かったしな、と弾んだ声音で中里さんは教えてくれる。耳打ちしてもらえたタイムは確かに先週のものよりコンマ何秒かを更新している。秋名のハチロクに敗北してからの中里さんは走りが変わったように思える。技術的なことはわたしにはわからないけれど、きっと精神的なもの。追いかける目標ができたのが大きいんだろうか、そんなことを考えながら先刻のドライビングについて熱く語る中里さんを見つめる。
「おーおー、仲の良いこったなぁ毅」
「……なんだよ慎吾」
途端に中里さんの声色が変わる。ニヤリという擬音が聞こえるような笑みを浮かべ、わたし達に声をかけてきたのはナイトキッズが誇るダウンヒラー・庄司慎吾さんだ。相変わらずの犬猿っぷりな二人はばちばちと火花を飛ばし睨み合っている。これもいつもの光景だなぁと呑気に感じながら、わたしは庄司さんに「こんばんは」と挨拶をひとつ。
「シオンも暇か?毎週来てよぉ」
「ふふ、わたしの楽しみですから。皆さんの走りを見ないと元気が出ないんです」
「なんだそれ?オレ達はお前を元気づけるために走ってるんじゃねーぞ?」
「お願いしたらそういう風に走ってくれるんですか?」
「うるせ、屁理屈捏ねるな」
こつん、と庄司さんが拳をわたしに当てる。庄司さんも先日ハチロクと一戦交え、敗北を経験させられた。今は車も庄司さん自身も負傷中で峠を攻めることは出来ないのだけど。それでもメンバーの誰かに乗せてもらってやってきたのだろう。夜の峠の空気に触れていたいのかもしれない。
わちゃわちゃと戯れていると、鋭い視線を感じて口を噤む。はっと顔を上げると、じっとわたしを見つめる中里さんと目が合った。
「……あっ、い、いや」
視線がぶつかってバツが悪くなったのか。中里さんは歯切れの悪い単語をこぼし、ふいとそっぽをむいてしまった。
しまった……中里さんとお話しをしていたのに、庄司さんとばかり……。何かを言おうとして口を開くけど、言葉は咄嗟に出てこなくて。わたしは情けなさを飲み込むように唇を結ぶ。
形容し難い沈黙が訪れてしまったが、それを破ったのは庄司さんだった。
「さーて、イチャイチャしてる二人を揶揄ったし、オレは下りでも見てくるかな。タバコも吸いてーし。じゃな」
さらりとそんな言葉を残して、庄司さんはふらりと歩いていく。からかった、って……もう、庄司さん……!取り残されたわたし達は思わず顔を合わせて、へにゃりと笑った。
「……自由ですね、庄司さん」
「まったくだ……。
それにしても、その、イチャイチャだなんて……すまない……」
「……そんなこと、言わないでください……。
わ、わたしは……嫌、じゃない、ので……。その、そういう風に、見られ、ても……」
「な……!
そういうことは、軽率に言うんじゃ……」
「わたし……誰に対してもこんなこと、言ったりしません……。中里さん、だけです」
「う……」
暗がりの中でもわかる、中里さんの頬が赤くなっているのが。きっとそれはわたしも同じだと思った。だって、すごく熱いんだもの。心臓の音だってドキドキうるさくて。車の音がなかったら彼に全部聞かれてしまうんじゃないかっていうくらい。
中里さんの泳ぐ視線を捕まえるように、じっと彼を見つめてもう一度同じ言葉を繰り返す。恥ずかしいけれど、きちんと伝えたいから。
「中里さんとなら、どういうふうに見られても。わたし、嫌じゃないです」
「……久尾津、さん……」
言葉の真意がどこまで伝わったかはわからないけど、本気だということは汲み取ってくれたのだろうか。中里さんは少し照れたように微笑んで。小さな、小さな声で「ありがとう」と呟いた。