東堂塾
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「うん、これで良し……っと」
自分の作業に漏れがないことを指差ししながら確認して、俺は自前の工具セットを片付ける。納期の近い仕事は全て済ませたし、火急の作業も飛び込んでこない。であれば今日はこれで終いだ。やれやれ、と大きく伸びをして息抜きにコーヒーでも飲もうかと事務所へ足を伸ばした。
時計を見たら結構な時間だし、流石に誰も残っていないだろう。こっそり隠していた美味しいドリップコーヒーでも淹れてしまおうか、そんなことを考えつつ扉を開ける。
角の一区画だけ灯りがつき、カタカタと規則的なタイピングと用紙が捲られる音が静かな空間に響いていた。手元に視線を落としていた彼女が俺の存在に気づき、遅い時間だというのに朗らかな微笑みをこちらにむけてくれた。
「酒井さん!遅くまでお疲れ様です、今日の作業は終わったんですか?」
「そうだよ、じゃなくて。えっ、久尾津さんこんな時間まで残ってるの?」
東堂商会の事務員である久尾津さんは普段なら定時で退社しているはず。そう思っていたのでまさか事務所に彼女が残っていたとは思わず、俺は声が大きくなってしまう。
「いえ、本当はもう少し早く終わるはずだったのですが、急ぎの用事が立て続けに来てしまって……社長にも手伝っていただいてようやく終わりそうな感じです」
要領悪くてお恥ずかしい限りです、と眉を下げて久尾津さんは自虐的に微笑む。そういう笑みは良くないなと思いつつ俺はデスクの側へ歩み寄った。
「さ、酒井さん?」
「あとどのくらい?俺にできることあるかな?」
「えっ、いいんですか?」
「もちろん。といっても、事務作業は久尾津さんの方が専門だろうから、たかが知れてるかもしれないけど」
少しおどけたように言うと、彼女は「またまたそんなぁ」と声を出して笑い。一息ついたのち、こちらの顔色を伺うように申し出る。
「それじゃああの、仕事のことじゃないんですけどひとつお願いしても良いですか?
途中まで一緒に帰ってもらって良いでしょうか?あんまりこう言う時間まで残っていたことがなかったので……。」
ちらりと窓の外に視線を向けながら久尾津さんは申し出る。確かにこんな時間だ、女性が一人で帰るのは不安なのだろう。わざわざ指名してくれたと言うことは、少なくとも俺に対し警戒心を抱いているわけではないということか。
彼女が心を許してくれている事実を噛み締めながら、俺は恭しく頭を下げる。
「俺でよければ喜んで。安心して、ちゃんと送り届けるからね」
自分の作業に漏れがないことを指差ししながら確認して、俺は自前の工具セットを片付ける。納期の近い仕事は全て済ませたし、火急の作業も飛び込んでこない。であれば今日はこれで終いだ。やれやれ、と大きく伸びをして息抜きにコーヒーでも飲もうかと事務所へ足を伸ばした。
時計を見たら結構な時間だし、流石に誰も残っていないだろう。こっそり隠していた美味しいドリップコーヒーでも淹れてしまおうか、そんなことを考えつつ扉を開ける。
角の一区画だけ灯りがつき、カタカタと規則的なタイピングと用紙が捲られる音が静かな空間に響いていた。手元に視線を落としていた彼女が俺の存在に気づき、遅い時間だというのに朗らかな微笑みをこちらにむけてくれた。
「酒井さん!遅くまでお疲れ様です、今日の作業は終わったんですか?」
「そうだよ、じゃなくて。えっ、久尾津さんこんな時間まで残ってるの?」
東堂商会の事務員である久尾津さんは普段なら定時で退社しているはず。そう思っていたのでまさか事務所に彼女が残っていたとは思わず、俺は声が大きくなってしまう。
「いえ、本当はもう少し早く終わるはずだったのですが、急ぎの用事が立て続けに来てしまって……社長にも手伝っていただいてようやく終わりそうな感じです」
要領悪くてお恥ずかしい限りです、と眉を下げて久尾津さんは自虐的に微笑む。そういう笑みは良くないなと思いつつ俺はデスクの側へ歩み寄った。
「さ、酒井さん?」
「あとどのくらい?俺にできることあるかな?」
「えっ、いいんですか?」
「もちろん。といっても、事務作業は久尾津さんの方が専門だろうから、たかが知れてるかもしれないけど」
少しおどけたように言うと、彼女は「またまたそんなぁ」と声を出して笑い。一息ついたのち、こちらの顔色を伺うように申し出る。
「それじゃああの、仕事のことじゃないんですけどひとつお願いしても良いですか?
途中まで一緒に帰ってもらって良いでしょうか?あんまりこう言う時間まで残っていたことがなかったので……。」
ちらりと窓の外に視線を向けながら久尾津さんは申し出る。確かにこんな時間だ、女性が一人で帰るのは不安なのだろう。わざわざ指名してくれたと言うことは、少なくとも俺に対し警戒心を抱いているわけではないということか。
彼女が心を許してくれている事実を噛み締めながら、俺は恭しく頭を下げる。
「俺でよければ喜んで。安心して、ちゃんと送り届けるからね」
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