高橋涼介
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「合わない」
「どうした」
「収支がおかしいの、絶対誰か領収書出してないよー……」
はぁ、とため息を漏らしてわたしは大きく伸びをする。数秒間息を止めて体を伸ばし、脱力する。それだけで鈍っていた思考が円滑になるということはなく。わたしは改めて目の前の紙の束を睨みつけた。部屋の主である涼介は相変わらずノートパソコンの画面に視線を向けたままでこちらを振り返ろうともしない。
「確かこの間はシオンが一枚出し忘れていたんだったよな?それはどうなんだ?」
「うっ……真っ先に確認したよー……今回はわたしじゃないもん。何度もチェックしたし」
面倒だなぁと思いつつも地道な確認作業に勝るものなし。それは理解しているものの、やはり眼前にどんと置かれた束を見ていると嫌気がさしてくるのである。
「……もう一回最初から見直してみる……。」
「いや、待て。その前に」
背を向けたままだった涼介がくるりと椅子を回転させる。目元にかかる艶やかな前髪を少し指先で整えながら「休憩にしよう」と持ちかけた。
——
涼介のFCに乗せられて連れられたのは最近できた小さな喫茶店。テーブル数も多くなく、店のマスターとその奥さん二人が穏やかに経営しているお店だった。どうやら一度来たことがあるようで。
店の扉を開けるとマスターが「またお越しくださりありがとうございます」と嬉しそうに目を細めた。
「マスターの淹れてくれるコーヒーが美味しくて、つい。今日もおすすめを二つ、お願いします」
流れるようにわたしの分も注文し、店の一番奥にあるテーブルへ案内される。
「いつ来たの?ここ」
「つい二、三日前だ。大学で話を聞いてな。
静かでいい雰囲気だったから、一緒に来ようと思っていたんだ」
ふ、と涼介は目を優しく細める。……本当にいい顔してるなぁ、と余計なことを考えないとクラリとしてしまいそうな笑みだった。
顔面偏差値の高さはもちろんだけど、当たり前のようにわたしを連れてこようと考えていてくれたことが純粋に嬉しくて。なんだか幸せな気持ちが溢れてへにゃりと表情が緩んでしまう。
「お待たせしました、本日のおすすめです。どうぞ」
そんなわたしたちの前にかちゃりと置かれる二つのカップ。静かに、それでいて手際よく提供してくれたオーナーはにこりと微笑んで「ごゆっくりお寛ぎください」と残し立ち去った。
柔らかいグリーンのカップを手にすると、コーヒーの香りがふわりと立ち上がる。味わうように嗅覚から楽しみ、こくりと一口。酸味も苦味もどちらもバランスよく楽しめる、ように感じる。
「すごく美味しい」
「だろう?」
わたしの感想を聞き、どこか嬉しそうな様子の涼介。心なしか彼の頬が染まっているようにさえ見える。わたしにも覚えがあるけど、自分がいいと思ったものを大切な人も同じように感じてくれるとすごく幸せな気持ちになるんだよね。
公道のカリスマ、赤城の白い彗星などと称され、色々なものを知らないうちに背負い続ける彼の落ち着ける場所のひとつがここなのだろうか。
もしもそうなら、そういう場所にわたしを連れてきてくれたことが本当に嬉しく思えた。
「語れるほどのコーヒー好きってわけじゃないんだけどね、わたし。だけど、この一杯は今まで飲んだ中で一番美味しくて、落ち着くなぁって思うよ。
……涼介、連れてきてくれてありがと」
「どういたしまして。いい息抜きになったか?」
「おかげさまでね。また地道な作業がんばれそうだよー」
大袈裟気味にそう言ってわたしは笑う。伝えた言葉に偽りはない、さっきまでの煮詰まった思考がどんどん軽快に巡っていくのをわたしは感じていたからだ。「財政管理はしっかり頼むぞ」と優雅にカップを持ち上げながら涼介は言う。冗談めかした声色を聞けるのは、わたしと二人でいるからだろうか。
「涼介も息抜きできた?」
「……ん?」
「わたしとコーヒーブレイクして、すっきりした?」
どうなの?とイタズラっぽい笑みを浮かべて尋ねると、涼介は少し困ったように眉尻を下げて息を吐いた。
「バレてたか」
わたしたちは顔を合わせ、目を細め微笑んだ。
「どうした」
「収支がおかしいの、絶対誰か領収書出してないよー……」
はぁ、とため息を漏らしてわたしは大きく伸びをする。数秒間息を止めて体を伸ばし、脱力する。それだけで鈍っていた思考が円滑になるということはなく。わたしは改めて目の前の紙の束を睨みつけた。部屋の主である涼介は相変わらずノートパソコンの画面に視線を向けたままでこちらを振り返ろうともしない。
「確かこの間はシオンが一枚出し忘れていたんだったよな?それはどうなんだ?」
「うっ……真っ先に確認したよー……今回はわたしじゃないもん。何度もチェックしたし」
面倒だなぁと思いつつも地道な確認作業に勝るものなし。それは理解しているものの、やはり眼前にどんと置かれた束を見ていると嫌気がさしてくるのである。
「……もう一回最初から見直してみる……。」
「いや、待て。その前に」
背を向けたままだった涼介がくるりと椅子を回転させる。目元にかかる艶やかな前髪を少し指先で整えながら「休憩にしよう」と持ちかけた。
——
涼介のFCに乗せられて連れられたのは最近できた小さな喫茶店。テーブル数も多くなく、店のマスターとその奥さん二人が穏やかに経営しているお店だった。どうやら一度来たことがあるようで。
店の扉を開けるとマスターが「またお越しくださりありがとうございます」と嬉しそうに目を細めた。
「マスターの淹れてくれるコーヒーが美味しくて、つい。今日もおすすめを二つ、お願いします」
流れるようにわたしの分も注文し、店の一番奥にあるテーブルへ案内される。
「いつ来たの?ここ」
「つい二、三日前だ。大学で話を聞いてな。
静かでいい雰囲気だったから、一緒に来ようと思っていたんだ」
ふ、と涼介は目を優しく細める。……本当にいい顔してるなぁ、と余計なことを考えないとクラリとしてしまいそうな笑みだった。
顔面偏差値の高さはもちろんだけど、当たり前のようにわたしを連れてこようと考えていてくれたことが純粋に嬉しくて。なんだか幸せな気持ちが溢れてへにゃりと表情が緩んでしまう。
「お待たせしました、本日のおすすめです。どうぞ」
そんなわたしたちの前にかちゃりと置かれる二つのカップ。静かに、それでいて手際よく提供してくれたオーナーはにこりと微笑んで「ごゆっくりお寛ぎください」と残し立ち去った。
柔らかいグリーンのカップを手にすると、コーヒーの香りがふわりと立ち上がる。味わうように嗅覚から楽しみ、こくりと一口。酸味も苦味もどちらもバランスよく楽しめる、ように感じる。
「すごく美味しい」
「だろう?」
わたしの感想を聞き、どこか嬉しそうな様子の涼介。心なしか彼の頬が染まっているようにさえ見える。わたしにも覚えがあるけど、自分がいいと思ったものを大切な人も同じように感じてくれるとすごく幸せな気持ちになるんだよね。
公道のカリスマ、赤城の白い彗星などと称され、色々なものを知らないうちに背負い続ける彼の落ち着ける場所のひとつがここなのだろうか。
もしもそうなら、そういう場所にわたしを連れてきてくれたことが本当に嬉しく思えた。
「語れるほどのコーヒー好きってわけじゃないんだけどね、わたし。だけど、この一杯は今まで飲んだ中で一番美味しくて、落ち着くなぁって思うよ。
……涼介、連れてきてくれてありがと」
「どういたしまして。いい息抜きになったか?」
「おかげさまでね。また地道な作業がんばれそうだよー」
大袈裟気味にそう言ってわたしは笑う。伝えた言葉に偽りはない、さっきまでの煮詰まった思考がどんどん軽快に巡っていくのをわたしは感じていたからだ。「財政管理はしっかり頼むぞ」と優雅にカップを持ち上げながら涼介は言う。冗談めかした声色を聞けるのは、わたしと二人でいるからだろうか。
「涼介も息抜きできた?」
「……ん?」
「わたしとコーヒーブレイクして、すっきりした?」
どうなの?とイタズラっぽい笑みを浮かべて尋ねると、涼介は少し困ったように眉尻を下げて息を吐いた。
「バレてたか」
わたしたちは顔を合わせ、目を細め微笑んだ。