東堂塾
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「続きまして、えーっと……毎年恒例ビンゴ大会へ移りますね!
みなさん、会場のトナカイからカードは受け取りましたか?塾長から景品を豪華にするよう指示がありましたので、期待してくださいね。
それでは早速始めますよ、いいですかー?」
真っ赤なサンタ衣装に身を包んだシオンはマイクを片手に丸いビンゴマシーンの取手をぐるぐると回す。ガラガラと中の玉が混ぜられ、少ししたのちぽろりと白い玉が一つ排出された。
「最初の番号は……6!6ですよ!
じゃんじゃん回していきますね〜?」
出てきた番号をホワイトボードに大きく書き、再びマシンの取っ手を掴む。酒も入った現役、OB塾生たちも野太い声を上げながら場を盛り上げた。栃木県にあるドラテク私塾・東堂塾。そのクリスマス会兼忘年会は塾生たちにとっては息抜きの場であり、毎年大いに盛り上がっている。カーショップの社長も兼ねる東堂のコネクションもあってか、地元ホテルのワンフロアを贅沢に貸し切り。泊まりがけで催される大きなイベントとなっている。
時期的にクリスマス会を兼ねるようになったのは数年前、事務員である久尾津シオンが入社してからのことであった。若い女性社員が入った効果は大きかったようで、塾生から「サンタの格好をしてもらえないだろうか」なる打診が繰り返されるようになり。根負けしたシオンが首を縦に振ったという経緯がある。
しかしシオンもただでは転ばない事務員だった。サンタクロースのコスプレで率先して盛り上げる代わりに、必ずトナカイ姿の助手を数名お願いしたいと条件を提示した。幼い子どもが着ていれば可愛らしいトナカイ着ぐるみだが、ゴツい成人男性が着用するとなると話が変わってくる。それでもシオンのコスプレ姿は拝みたい。
悩み抜いた末、塾生達は「くじ引きにより公平に助手のトナカイ役を選ぶ」ということで承諾することになり。今年白羽の矢が立ったのは現役生の酒井だった。
すらりとした長身をすっぽりと覆い隠すような着ぐるみのシルエット。手足が短く見えるようデザインされたそれに身を包んだ酒井を、他の塾生達は形容し難い面持ちで見つめる。笑ってしまえば間違いなく押しつけられる、おそらく数年。どれだけ愉快に見えても来年は我が身かもしれないということを、塾生たちは十分理解していた。
「現在出揃った数字は全部で十五個。リーチの方はひとり、ふたり……わぁ、舘さんもリーチですか?いいですねっ。
では番号の振り返りをさらっとやりますよ、よく確認してくださいね?」
だだっ広い宴会場の舞台でマイクパフォーマンスをこなすシオンは笑顔を絶やさず、そして明るい声音で数字を読み上げる。「次は35番を出してくれよ!」という野次もにこやかに受け流し、再びビンゴマシーンの取っ手を掴みぐるぐると回す。ひとつ、またひとつ。数字の書かれた球が排出される度会場は一喜一憂を繰り返し、豪華景品を手にする塾生も姿を見せ始めた。景品獲得のためにまた別のくじを引き、その度に会場は沸き立つ。ヒートアップしていくビンゴ大会は盛況のうちに終わり、その後は各々手にした景品を肴に酒を酌み交わしてゆく。
「お疲れ様、久尾津さん。
これ、ソフトドリンクだけどどうぞ」
そんな様子を満足気に眺めるシオンにグラスを手渡したのは愛くるしいトナカイ姿の酒井だった。差し出されたアップルジュースを笑顔で受け取り、シオンは一気に飲み干した。「ずっと声を張ってたもんな」と酒井は微笑み、彼女の隣にもたれ掛かる。
「毎年、大変だろ。忘年会自体の準備もあるのに」
「それはもちろん。楽じゃないですし、最初のうちはどうしてこんな格好しないとダメなのかなと思いました」
「ははは……そうだよな。
……あのさ。もし久尾津さんが苦痛に感じてるなら、オレからも社長に……」
「あっ、違うんです酒井さん。嫌じゃないんです、わたし」
違う違うと両手を左右に振り、シオンは酒井の言葉を訂正する。まん丸の瞳を少しだけ細め、昔を懐かしむような声色で彼女は言葉を紡ぐ。
初めは困惑していたこと。自信を持てなかったこと。不安だったこと。ぽつぽつと続けられるシオンの心中吐露を黙って酒井は受け止めた。
「今ももちろん不安なことはあるし。費用はかかりますけど、プロの方やコンパニオンを呼んだ方が盛り上がるとは思います。
だけど、このあったかい笑顔はわたしが前に立つから見せてくれるのかなって。そう考えるといくらでも頑張れそうなんです。
……まあ、特別手当も出してもらってますしね、このスカート丈が似合う歳までは頑張りますよっ」
くるりとその場で一回転し、膝丈スカートの裾が空間を撫でる。程良く肉のついた触り心地の良さそうな白い太ももまであらわになり、酒井は思わず目を見張る。オフの時でしかなかなか拝めない脚線に視線も言葉も奪われ、感嘆の吐息だけを漏らした。
そんな彼の目に気づいていないわけもなく、翻ったスカートが緩やかに戻りきったのち。
「えっちな目つきのトナカイさんへ、特別手当です」
酒井にだけ聞こえる声でそう微笑み、シオンは塾生達に呼ばれ喧騒の中へ駆けていく。取り残された酒井は変わらずぽかんとした面持ちで、「覚えてろよ」と小さく呟いた。
みなさん、会場のトナカイからカードは受け取りましたか?塾長から景品を豪華にするよう指示がありましたので、期待してくださいね。
それでは早速始めますよ、いいですかー?」
真っ赤なサンタ衣装に身を包んだシオンはマイクを片手に丸いビンゴマシーンの取手をぐるぐると回す。ガラガラと中の玉が混ぜられ、少ししたのちぽろりと白い玉が一つ排出された。
「最初の番号は……6!6ですよ!
じゃんじゃん回していきますね〜?」
出てきた番号をホワイトボードに大きく書き、再びマシンの取っ手を掴む。酒も入った現役、OB塾生たちも野太い声を上げながら場を盛り上げた。栃木県にあるドラテク私塾・東堂塾。そのクリスマス会兼忘年会は塾生たちにとっては息抜きの場であり、毎年大いに盛り上がっている。カーショップの社長も兼ねる東堂のコネクションもあってか、地元ホテルのワンフロアを贅沢に貸し切り。泊まりがけで催される大きなイベントとなっている。
時期的にクリスマス会を兼ねるようになったのは数年前、事務員である久尾津シオンが入社してからのことであった。若い女性社員が入った効果は大きかったようで、塾生から「サンタの格好をしてもらえないだろうか」なる打診が繰り返されるようになり。根負けしたシオンが首を縦に振ったという経緯がある。
しかしシオンもただでは転ばない事務員だった。サンタクロースのコスプレで率先して盛り上げる代わりに、必ずトナカイ姿の助手を数名お願いしたいと条件を提示した。幼い子どもが着ていれば可愛らしいトナカイ着ぐるみだが、ゴツい成人男性が着用するとなると話が変わってくる。それでもシオンのコスプレ姿は拝みたい。
悩み抜いた末、塾生達は「くじ引きにより公平に助手のトナカイ役を選ぶ」ということで承諾することになり。今年白羽の矢が立ったのは現役生の酒井だった。
すらりとした長身をすっぽりと覆い隠すような着ぐるみのシルエット。手足が短く見えるようデザインされたそれに身を包んだ酒井を、他の塾生達は形容し難い面持ちで見つめる。笑ってしまえば間違いなく押しつけられる、おそらく数年。どれだけ愉快に見えても来年は我が身かもしれないということを、塾生たちは十分理解していた。
「現在出揃った数字は全部で十五個。リーチの方はひとり、ふたり……わぁ、舘さんもリーチですか?いいですねっ。
では番号の振り返りをさらっとやりますよ、よく確認してくださいね?」
だだっ広い宴会場の舞台でマイクパフォーマンスをこなすシオンは笑顔を絶やさず、そして明るい声音で数字を読み上げる。「次は35番を出してくれよ!」という野次もにこやかに受け流し、再びビンゴマシーンの取っ手を掴みぐるぐると回す。ひとつ、またひとつ。数字の書かれた球が排出される度会場は一喜一憂を繰り返し、豪華景品を手にする塾生も姿を見せ始めた。景品獲得のためにまた別のくじを引き、その度に会場は沸き立つ。ヒートアップしていくビンゴ大会は盛況のうちに終わり、その後は各々手にした景品を肴に酒を酌み交わしてゆく。
「お疲れ様、久尾津さん。
これ、ソフトドリンクだけどどうぞ」
そんな様子を満足気に眺めるシオンにグラスを手渡したのは愛くるしいトナカイ姿の酒井だった。差し出されたアップルジュースを笑顔で受け取り、シオンは一気に飲み干した。「ずっと声を張ってたもんな」と酒井は微笑み、彼女の隣にもたれ掛かる。
「毎年、大変だろ。忘年会自体の準備もあるのに」
「それはもちろん。楽じゃないですし、最初のうちはどうしてこんな格好しないとダメなのかなと思いました」
「ははは……そうだよな。
……あのさ。もし久尾津さんが苦痛に感じてるなら、オレからも社長に……」
「あっ、違うんです酒井さん。嫌じゃないんです、わたし」
違う違うと両手を左右に振り、シオンは酒井の言葉を訂正する。まん丸の瞳を少しだけ細め、昔を懐かしむような声色で彼女は言葉を紡ぐ。
初めは困惑していたこと。自信を持てなかったこと。不安だったこと。ぽつぽつと続けられるシオンの心中吐露を黙って酒井は受け止めた。
「今ももちろん不安なことはあるし。費用はかかりますけど、プロの方やコンパニオンを呼んだ方が盛り上がるとは思います。
だけど、このあったかい笑顔はわたしが前に立つから見せてくれるのかなって。そう考えるといくらでも頑張れそうなんです。
……まあ、特別手当も出してもらってますしね、このスカート丈が似合う歳までは頑張りますよっ」
くるりとその場で一回転し、膝丈スカートの裾が空間を撫でる。程良く肉のついた触り心地の良さそうな白い太ももまであらわになり、酒井は思わず目を見張る。オフの時でしかなかなか拝めない脚線に視線も言葉も奪われ、感嘆の吐息だけを漏らした。
そんな彼の目に気づいていないわけもなく、翻ったスカートが緩やかに戻りきったのち。
「えっちな目つきのトナカイさんへ、特別手当です」
酒井にだけ聞こえる声でそう微笑み、シオンは塾生達に呼ばれ喧騒の中へ駆けていく。取り残された酒井は変わらずぽかんとした面持ちで、「覚えてろよ」と小さく呟いた。