秋山渉
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「こんにちは、和美ちゃんいます?」
土曜の昼前に鳴らされたインターホン、扉を開けると随分と気合が入った装いの女がオレを見て微笑んだ。
「やっほ、秋山くん。和美ちゃんは?」
高校時代の友人にして今年の春偶然再会した女・久尾津シオンは形の良い瞳を細めながら首を傾げる。対するオレは完全な休みモード、くたびれたジャージ姿で彼女と向き合うかたちだ。
「和美はまだ支度に手間取ってるみたいでな。上がってくか?」
「いいの?それじゃあお言葉に甘えて……。あっ、車で来てるんだけど、駐車場の前に少しお邪魔してもいい?和美ちゃんもそんな時間かからないだろうし、邪魔になったらすぐ退かすから」
そう言われてオレも視線を外へ向ける。久尾津の愛車は小さいし、道路を塞ぐわけでもないだろう。もし何かあれば彼女の言う通り動かせばいいだけだし、親父達も出かける予定があると話してはいなかった。「それで頼むわ」と短く答え、オレは久尾津を招き入れる。
「お邪魔します」
ぺこりと頭を下げ、久尾津は靴を脱ぎ。片隅に並べた。一連の所作に品の良さを感じ、思わず心臓がどきりと跳ねた。そんなオレの視線に気がついたのか、久尾津は「秋山くん失礼なこと考えてない?」とニヤリと笑いかける。
「失礼かどうかはわからんが、そういうこともできるんだと思ってな」
「やっぱり失礼だね秋山くん!」
目を吊り上げつつもその声音に怒りはの色はあまり感じない。お互いじゃれ合いの範疇だという意識があるからだろうか。久尾津は「わたしの仕草が色っぽいと感じたなら素直にそう言いなよ〜」とイタズラっぽい笑みを浮かべながら揶揄ってくる。そんなわけないだろうが、とオレは毒づいたが。彼女が口走った内容そっくりそのまま同じ感想を抱いたので、なんともむず痒くなり顔を逸らすしかなかった。
「散らかってるけど適当に座ってくれよ」
オレは彼女を居間へ案内し、冷蔵庫の扉を開く。大したものは入っておらず、麦茶でいいかと尋ねると「ありがとう」と返ってきた。
確か客用のグラスはこっちの棚のはずだよな……と普段とは違う場所を漁り、背の高いグラスを二つ取り出す。少し土台のある安定感のあるガラス製のそれに自家製の麦茶を注ぎ入れ、久尾津の前に差し出した。白いレース地のコースターの上にグラスを置いたが、久尾津は「そういう気遣いしてくれるんだね」とまたニヤニヤと笑う。本当に失礼だな。だが心地の良さをオレは感じていた。
「シオンさんごめんなさい、お待たせして!」
ややあって、喧しい声が居間に響き渡る。妹の和美だ、ようやく準備が整ったらしい。トレードマークのポニーテールはそのままに、見たことない服装と化粧に身を包んだ妹もまた少し別人に思えたのはここだけの話だ。
「秋山くん、和美ちゃんのあの服可愛いでしょう?
この間出かけた時買ったんだよ、わたしが選んだの」
「……べつに何も言ってないだろ」
「まぁ丈が短いし、生地もちょっと薄手だから峠じゃなくて、わたしとのお出かけ用〜」
「何も言ってねえよ……」
ばつが悪くなってオレは顔を逸らしてグラスを引っ掴む。少し緩くなった麦茶を一気に飲み干したらさっき込み上がった感情も一緒に飲み込めたようだ。
久尾津は本当に人をよく見ている。和美の新しい服は確かによく似合っていたが、峠へ連れていくにはちょっとなぁ、と思ったことは事実だからだ。一体オレの何を見て読み取ったんだか……そう考えながら少し視線を戻すと、ばっちり目が合った。
「……っ」
一瞬息を呑んだ久尾津が目を丸くし、頬を赤らめる。察するに、偶然視線が合ったわけではないようだ。ということはずっとこちらを見ていた、わけで。久尾津の視線の先にあるものなんて何もなくて、オレが座っているだけ。そこから導き出される答えは一つしか思い当たらなかった。
「兄貴!じゃあ、私たち出かけるね。
コップの片付けお願い!」
「そんな遅くならないよう気をつけるから、じゃあね秋山くん。ごちそうさま」
「あ、ああ……」
やかましい声を上げて女二人が居間を後にする。玄関を出ても和美の楽しげな声は届き、しばらくして車の音が響く。空になった二つのグラスには水滴が浮き、そしてコースターへと垂れ落ちる。「あー……クソ……」
思わず髪に手を突っ込み、わしわしと頭をかいた。オレと目が合った、ってことはずっとこっちを見ていたってことだろうが。しかも顔まで赤らめやがって。
「あんな服だってオレの前じゃ着ねえくせによ」
脳裏に焼きついた久尾津の一挙一動が離れない。何に対してイラついてモヤついているのか、その目処はついているのに。まだ素直に受け入れられない自分自身に腹立たしさが湧き上がる。
「今度オレも誘ってみるか……」
夜の峠じゃなくて昼間なら。人の多いところはあまり好きじゃねえが、それでも久尾津がいるなら楽しめるのかもしれない。そんなことを考えて、オレは次の休みがいつだったか無意識のうちに確認していた。
土曜の昼前に鳴らされたインターホン、扉を開けると随分と気合が入った装いの女がオレを見て微笑んだ。
「やっほ、秋山くん。和美ちゃんは?」
高校時代の友人にして今年の春偶然再会した女・久尾津シオンは形の良い瞳を細めながら首を傾げる。対するオレは完全な休みモード、くたびれたジャージ姿で彼女と向き合うかたちだ。
「和美はまだ支度に手間取ってるみたいでな。上がってくか?」
「いいの?それじゃあお言葉に甘えて……。あっ、車で来てるんだけど、駐車場の前に少しお邪魔してもいい?和美ちゃんもそんな時間かからないだろうし、邪魔になったらすぐ退かすから」
そう言われてオレも視線を外へ向ける。久尾津の愛車は小さいし、道路を塞ぐわけでもないだろう。もし何かあれば彼女の言う通り動かせばいいだけだし、親父達も出かける予定があると話してはいなかった。「それで頼むわ」と短く答え、オレは久尾津を招き入れる。
「お邪魔します」
ぺこりと頭を下げ、久尾津は靴を脱ぎ。片隅に並べた。一連の所作に品の良さを感じ、思わず心臓がどきりと跳ねた。そんなオレの視線に気がついたのか、久尾津は「秋山くん失礼なこと考えてない?」とニヤリと笑いかける。
「失礼かどうかはわからんが、そういうこともできるんだと思ってな」
「やっぱり失礼だね秋山くん!」
目を吊り上げつつもその声音に怒りはの色はあまり感じない。お互いじゃれ合いの範疇だという意識があるからだろうか。久尾津は「わたしの仕草が色っぽいと感じたなら素直にそう言いなよ〜」とイタズラっぽい笑みを浮かべながら揶揄ってくる。そんなわけないだろうが、とオレは毒づいたが。彼女が口走った内容そっくりそのまま同じ感想を抱いたので、なんともむず痒くなり顔を逸らすしかなかった。
「散らかってるけど適当に座ってくれよ」
オレは彼女を居間へ案内し、冷蔵庫の扉を開く。大したものは入っておらず、麦茶でいいかと尋ねると「ありがとう」と返ってきた。
確か客用のグラスはこっちの棚のはずだよな……と普段とは違う場所を漁り、背の高いグラスを二つ取り出す。少し土台のある安定感のあるガラス製のそれに自家製の麦茶を注ぎ入れ、久尾津の前に差し出した。白いレース地のコースターの上にグラスを置いたが、久尾津は「そういう気遣いしてくれるんだね」とまたニヤニヤと笑う。本当に失礼だな。だが心地の良さをオレは感じていた。
「シオンさんごめんなさい、お待たせして!」
ややあって、喧しい声が居間に響き渡る。妹の和美だ、ようやく準備が整ったらしい。トレードマークのポニーテールはそのままに、見たことない服装と化粧に身を包んだ妹もまた少し別人に思えたのはここだけの話だ。
「秋山くん、和美ちゃんのあの服可愛いでしょう?
この間出かけた時買ったんだよ、わたしが選んだの」
「……べつに何も言ってないだろ」
「まぁ丈が短いし、生地もちょっと薄手だから峠じゃなくて、わたしとのお出かけ用〜」
「何も言ってねえよ……」
ばつが悪くなってオレは顔を逸らしてグラスを引っ掴む。少し緩くなった麦茶を一気に飲み干したらさっき込み上がった感情も一緒に飲み込めたようだ。
久尾津は本当に人をよく見ている。和美の新しい服は確かによく似合っていたが、峠へ連れていくにはちょっとなぁ、と思ったことは事実だからだ。一体オレの何を見て読み取ったんだか……そう考えながら少し視線を戻すと、ばっちり目が合った。
「……っ」
一瞬息を呑んだ久尾津が目を丸くし、頬を赤らめる。察するに、偶然視線が合ったわけではないようだ。ということはずっとこちらを見ていた、わけで。久尾津の視線の先にあるものなんて何もなくて、オレが座っているだけ。そこから導き出される答えは一つしか思い当たらなかった。
「兄貴!じゃあ、私たち出かけるね。
コップの片付けお願い!」
「そんな遅くならないよう気をつけるから、じゃあね秋山くん。ごちそうさま」
「あ、ああ……」
やかましい声を上げて女二人が居間を後にする。玄関を出ても和美の楽しげな声は届き、しばらくして車の音が響く。空になった二つのグラスには水滴が浮き、そしてコースターへと垂れ落ちる。「あー……クソ……」
思わず髪に手を突っ込み、わしわしと頭をかいた。オレと目が合った、ってことはずっとこっちを見ていたってことだろうが。しかも顔まで赤らめやがって。
「あんな服だってオレの前じゃ着ねえくせによ」
脳裏に焼きついた久尾津の一挙一動が離れない。何に対してイラついてモヤついているのか、その目処はついているのに。まだ素直に受け入れられない自分自身に腹立たしさが湧き上がる。
「今度オレも誘ってみるか……」
夜の峠じゃなくて昼間なら。人の多いところはあまり好きじゃねえが、それでも久尾津がいるなら楽しめるのかもしれない。そんなことを考えて、オレは次の休みがいつだったか無意識のうちに確認していた。