東堂塾
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「だ、大輝くん!どうしたの?
こんなところで会うなんて凄い偶然だね?」
「はは、どうも……」
週末土曜のお昼前、少し大きなショッピングモールで出会ったのは東堂塾の塾生・二宮大輝くんだった。オーバーサイズなファッションに身を包んだ彼は少し頬を赤らめ、どこかばつが悪そうな面持ちだ。
彼はわたしの職場の社長が開いている私塾に今期から入った生徒さんで。塾の事務作業も請け負っているわたしと時折お話をするくらいの関係だ。お互い名前と顔は一致するけど、積極的に会話をするわけでもない。
つまり、気楽に一緒に遊ぼうと言い合えるわけでもなく。だからといってあっさりバイバイするとそれはそれで気まずいという……なんとも距離感が難しい現状である。それなら選ぶべきは逃げでなく攻めの一手。
「ねえ大輝くん、もし良かったら少しお茶でもしない?
こんな偶然ってそうあるわけじゃないし、ね?コーヒー一杯ごちそうさせて?」
「え……?」
大輝くんの瞳に驚きと躊躇いの色がはっきりと出る。付き合いが短くてもわかるほどに。流石にぐいぐい行きすぎたかな、と一瞬考えたけど気まずい沈黙が流れるよりはずっとマシだと思うことにした。「どうかな?」と目線を上げて伺うと、大輝くんは少しだけ表情を緩めて快諾してくれた。
「ありがとう大輝くん。
あっ、でも急ぎの用事や時間の都合あるだろうから、遠慮せず言ってね?
……実はね、大輝くんとお話ししてみたかったんだ。ほら、書類手続きとかでしか顔を合わせてないでしょ?だから今日、こうして会えてラッキー!って思ってるんだ。ふふっ」
まだ表情の固い彼の緊張を解したくて、いつも以上に戯けたテンションで言葉を紡ぐと。大輝くんはようやく声を出して笑った。
「なんすかそれ。
久尾津さんってそういうキャラなんすか?」
覚えときますね、そう言って悪戯っ子のように目を細めて大輝くんは微笑んだ。道化を演じすぎたのかもしれない、と考えつつ。わたしは誤魔化すように微笑んだ。
——
「あの人、可愛いっすね……小動物みたいで」
「ああ、事務員の久尾津さん?可愛いよな、癒し系っていうかさ」
あの有名な元ラリースト、東堂さんの教えを学べる東堂塾に入るための手続きをした時だ。にこやかに、それでいてテキパキと書類を捌き、応対してくれた人が目についた。チューンショップにやってくる男たちの中に頭ひとつ以上は小柄な姿。それでも可愛らしいだけでなくキビキビと動き、視線が合うとにこりと微笑んでくれる。
彼女……事務員の久尾津さんは他の塾生にとってそうであるように、オレにとっても癒しの存在だった。
だが職場は違うから昼間は会えねえし、東堂塾としての練習に彼女が来るわけでもなく。親しくなりてえのにそのきっかけすら掴めなくてオレはゲンナリしていた。
ある日偶然「郊外のショッピングモールで久尾津さんを見かけた」という話を耳にして、オレは心当たりのある施設を片っ端から巡った。我ながら何をしているんだと思うが……それでも久尾津さんと出会えるかもしれない、その事実の方がオレにとっては魅力的だった。
そして今日。何日かかったか数えたくないが、やっと出会うことができた。ありがたいことに久尾津さんから「一緒にお茶でも」と誘いも受けてしまった。
よし、とポケットの中で小さく拳を握る。絶対に彼女と親しくなってやる。オレ以外の先輩達に先を越されてたまるかよ。
表面上はクールに、だが心は熱く。そんな気持ちに気づかれないよう、オレは自然な動きで彼女の隣に立ち、喫茶店へ向かった。
こんなところで会うなんて凄い偶然だね?」
「はは、どうも……」
週末土曜のお昼前、少し大きなショッピングモールで出会ったのは東堂塾の塾生・二宮大輝くんだった。オーバーサイズなファッションに身を包んだ彼は少し頬を赤らめ、どこかばつが悪そうな面持ちだ。
彼はわたしの職場の社長が開いている私塾に今期から入った生徒さんで。塾の事務作業も請け負っているわたしと時折お話をするくらいの関係だ。お互い名前と顔は一致するけど、積極的に会話をするわけでもない。
つまり、気楽に一緒に遊ぼうと言い合えるわけでもなく。だからといってあっさりバイバイするとそれはそれで気まずいという……なんとも距離感が難しい現状である。それなら選ぶべきは逃げでなく攻めの一手。
「ねえ大輝くん、もし良かったら少しお茶でもしない?
こんな偶然ってそうあるわけじゃないし、ね?コーヒー一杯ごちそうさせて?」
「え……?」
大輝くんの瞳に驚きと躊躇いの色がはっきりと出る。付き合いが短くてもわかるほどに。流石にぐいぐい行きすぎたかな、と一瞬考えたけど気まずい沈黙が流れるよりはずっとマシだと思うことにした。「どうかな?」と目線を上げて伺うと、大輝くんは少しだけ表情を緩めて快諾してくれた。
「ありがとう大輝くん。
あっ、でも急ぎの用事や時間の都合あるだろうから、遠慮せず言ってね?
……実はね、大輝くんとお話ししてみたかったんだ。ほら、書類手続きとかでしか顔を合わせてないでしょ?だから今日、こうして会えてラッキー!って思ってるんだ。ふふっ」
まだ表情の固い彼の緊張を解したくて、いつも以上に戯けたテンションで言葉を紡ぐと。大輝くんはようやく声を出して笑った。
「なんすかそれ。
久尾津さんってそういうキャラなんすか?」
覚えときますね、そう言って悪戯っ子のように目を細めて大輝くんは微笑んだ。道化を演じすぎたのかもしれない、と考えつつ。わたしは誤魔化すように微笑んだ。
——
「あの人、可愛いっすね……小動物みたいで」
「ああ、事務員の久尾津さん?可愛いよな、癒し系っていうかさ」
あの有名な元ラリースト、東堂さんの教えを学べる東堂塾に入るための手続きをした時だ。にこやかに、それでいてテキパキと書類を捌き、応対してくれた人が目についた。チューンショップにやってくる男たちの中に頭ひとつ以上は小柄な姿。それでも可愛らしいだけでなくキビキビと動き、視線が合うとにこりと微笑んでくれる。
彼女……事務員の久尾津さんは他の塾生にとってそうであるように、オレにとっても癒しの存在だった。
だが職場は違うから昼間は会えねえし、東堂塾としての練習に彼女が来るわけでもなく。親しくなりてえのにそのきっかけすら掴めなくてオレはゲンナリしていた。
ある日偶然「郊外のショッピングモールで久尾津さんを見かけた」という話を耳にして、オレは心当たりのある施設を片っ端から巡った。我ながら何をしているんだと思うが……それでも久尾津さんと出会えるかもしれない、その事実の方がオレにとっては魅力的だった。
そして今日。何日かかったか数えたくないが、やっと出会うことができた。ありがたいことに久尾津さんから「一緒にお茶でも」と誘いも受けてしまった。
よし、とポケットの中で小さく拳を握る。絶対に彼女と親しくなってやる。オレ以外の先輩達に先を越されてたまるかよ。
表面上はクールに、だが心は熱く。そんな気持ちに気づかれないよう、オレは自然な動きで彼女の隣に立ち、喫茶店へ向かった。