雑多
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「あなた達、銀牙を呼び出した子がどういう子なのか調べてきなさい」
形の良い眉を吊り上げながら芸能事務所の社長・玲子姉さんは三人の男の子にぴしゃりと言いつける。社長命令を受けた飛翔くん、電光くん、疾風くんはまるで兵隊のように敬礼ポーズをとり。どたばたと出かけて行った。
「まだデビュー前なのに恋愛沙汰なんて……」とぶつぶつ独り言を漏らす従姉を、まあまあとなだめるのはエース羽田くん。お茶でも淹れてきますよ、と一言入れて彼は部屋を後にする。
今の姉と二人きりになるのは少しだけばつが悪く思えたわたしも、エースくんと同じタイミングで部屋を出た。
「ん?シオンちゃんもお茶にするか?」
頭一つ以上背の高い彼。年はそう変わらないのに、まるで妹にするかのようなまなざしをこちらに向けてくる。普段は気にならない視線が、今日は少しだけ引っかかってしまった。とはいえ視線を外すのは相手に失礼だな、という理性は残っていたので、「お茶は玲子姉さんにあげて?わたしは頂き物のコーヒーにするから」と答えた。
普段はコーヒーなんて飲まないのに。少しでも大人っぽく見てほしい足搔きのようなものだな、と頭の片隅でそう思った。
「エースくんはさ、どう思うの?」
「何がだ?」
「……銀牙くんの、カノジョのこと」
「ああ……」
戸棚からカップとソーサーを取り出し、慣れた手つきでお茶の支度をするエースくんにわたしは尋ねる。ストイックな銀牙くんが彼女を作っていたなんて、あまり信じられない、というのはわたし個人の意見。
わたしの問いかけを受けてエースくんも困ったような面持ちになる。本当にそういう関係なのか、それとも質の悪いファンなのか。判断するには情報が無さ過ぎるからなあ、という返答にわたしは大きく頷いた。
……いや、本当に聞きたいのはそんなことではないのだ。銀牙くんに恋人がいるということではなくて。デビュー前とはいえアイドルが一人の人を好きになってしまうことについてどう思っているのか。それを知りたくて質問を投げかけたのに。
踏み込んだ問いかけができない自分の臆病さにわたしは嫌気がさした。
「……シオンちゃん?」
こちらを案じる声音に反応して視線を上げると、美しい碧眼の中に自分が映った。わたしの様子をうかがうように覗き込んだエースくんとの距離があまりにも近くて、思わずのけぞってしまったが彼は意に介さず、危ない!とわたしの背に腕を回し自分の方へ引き寄せた。
大胆に開かれた胸板とダイレクトに触れあってしまい、何が起こっているのか冷静に判断ができなくなってしまう。
言葉を中々発せないわたしを彼がどう感じたのかはわからないけれど、エースくんは優しげに微笑んで。「熱湯もあるから気を付けて」と事もなさげに言ってのける。
火傷をしなくてよかった、と目を細めて。彼はまたティーセットに向き直る。ポットの中で茶葉が蒸らされる間に手際よくトレイに茶器をそろえて。「それじゃあお先に」と爽やかに立ち去った。
わたしは、なにもできなかった。
不可抗力とはいえ抱き寄せられて。お互いの香りが鼻腔をくすぐるくらいの距離感にあったのに、異性として意識されてもいない。それを改めて思い知らされた。
彼にとって「異性」はアイドルのきらりちゃんや、玲子姉さん。わたしは家族……妹どまりなのだろう。
だってあの距離の取り方をわたしは知っている。あれは彼が飛翔くんの妹・つばさちゃんに対してとっているものとよく似ていたからだ。
「……困ったなあ」
こんなの、好きになってもらう土俵にすら立てていないってことでしょう?
それを思い知らされたわたしはその場にしゃがみこみ、両手で視界を覆った。
形の良い眉を吊り上げながら芸能事務所の社長・玲子姉さんは三人の男の子にぴしゃりと言いつける。社長命令を受けた飛翔くん、電光くん、疾風くんはまるで兵隊のように敬礼ポーズをとり。どたばたと出かけて行った。
「まだデビュー前なのに恋愛沙汰なんて……」とぶつぶつ独り言を漏らす従姉を、まあまあとなだめるのはエース羽田くん。お茶でも淹れてきますよ、と一言入れて彼は部屋を後にする。
今の姉と二人きりになるのは少しだけばつが悪く思えたわたしも、エースくんと同じタイミングで部屋を出た。
「ん?シオンちゃんもお茶にするか?」
頭一つ以上背の高い彼。年はそう変わらないのに、まるで妹にするかのようなまなざしをこちらに向けてくる。普段は気にならない視線が、今日は少しだけ引っかかってしまった。とはいえ視線を外すのは相手に失礼だな、という理性は残っていたので、「お茶は玲子姉さんにあげて?わたしは頂き物のコーヒーにするから」と答えた。
普段はコーヒーなんて飲まないのに。少しでも大人っぽく見てほしい足搔きのようなものだな、と頭の片隅でそう思った。
「エースくんはさ、どう思うの?」
「何がだ?」
「……銀牙くんの、カノジョのこと」
「ああ……」
戸棚からカップとソーサーを取り出し、慣れた手つきでお茶の支度をするエースくんにわたしは尋ねる。ストイックな銀牙くんが彼女を作っていたなんて、あまり信じられない、というのはわたし個人の意見。
わたしの問いかけを受けてエースくんも困ったような面持ちになる。本当にそういう関係なのか、それとも質の悪いファンなのか。判断するには情報が無さ過ぎるからなあ、という返答にわたしは大きく頷いた。
……いや、本当に聞きたいのはそんなことではないのだ。銀牙くんに恋人がいるということではなくて。デビュー前とはいえアイドルが一人の人を好きになってしまうことについてどう思っているのか。それを知りたくて質問を投げかけたのに。
踏み込んだ問いかけができない自分の臆病さにわたしは嫌気がさした。
「……シオンちゃん?」
こちらを案じる声音に反応して視線を上げると、美しい碧眼の中に自分が映った。わたしの様子をうかがうように覗き込んだエースくんとの距離があまりにも近くて、思わずのけぞってしまったが彼は意に介さず、危ない!とわたしの背に腕を回し自分の方へ引き寄せた。
大胆に開かれた胸板とダイレクトに触れあってしまい、何が起こっているのか冷静に判断ができなくなってしまう。
言葉を中々発せないわたしを彼がどう感じたのかはわからないけれど、エースくんは優しげに微笑んで。「熱湯もあるから気を付けて」と事もなさげに言ってのける。
火傷をしなくてよかった、と目を細めて。彼はまたティーセットに向き直る。ポットの中で茶葉が蒸らされる間に手際よくトレイに茶器をそろえて。「それじゃあお先に」と爽やかに立ち去った。
わたしは、なにもできなかった。
不可抗力とはいえ抱き寄せられて。お互いの香りが鼻腔をくすぐるくらいの距離感にあったのに、異性として意識されてもいない。それを改めて思い知らされた。
彼にとって「異性」はアイドルのきらりちゃんや、玲子姉さん。わたしは家族……妹どまりなのだろう。
だってあの距離の取り方をわたしは知っている。あれは彼が飛翔くんの妹・つばさちゃんに対してとっているものとよく似ていたからだ。
「……困ったなあ」
こんなの、好きになってもらう土俵にすら立てていないってことでしょう?
それを思い知らされたわたしはその場にしゃがみこみ、両手で視界を覆った。