「神宮寺くん、コーヒーのおかわりはいかが？」

「あぁ、もらおう」

　背後から声をかけられ、男はスッとカップを差し出す。それを受け取った女は慣れた手つきで新しいコーヒーをいれ、どうぞ、とソーサーへ戻す。

男・神宮寺力は湯気の立ちあがるそれの香りを楽しみ、ゆっくりと口をつける。


「……いつもと違う、か？」
「あら、よくわかりましたね。さすがミスター神宮寺といったところかしら？」


　女は「ふふふ」と上品に微笑み、神宮寺の向かいに腰を下ろした。
コープランダー隊のパイロットとムトロポリスの研究員。そんな間柄の二人はこうして休憩室でコーヒーを楽しむ仲であった。


「……寝てないのか？」
「なぁに？」
「目元、隈ができてるぞ」
「ほんとう？」

　そういって彼女は手鏡で確認する。化粧をしてはいるものの、やはり連日連夜の研究・作業による疲労は蓄積されているのだろう。うっすら青く変色したその箇所を確認し、困ったように息を吐く。

「なんだか恥ずかしいわ、神宮寺くんに指摘されると」
　同性ならまだしも、異性からの指摘だ。自分のそんなところまで見られていた事に何とも言えない気恥ずかしさを覚えて彼女は頬を赤らめる。


「何を恥ずかしがるんだ。俺とお前の仲だろう」


　表情を一つも変えることなく神宮寺はさらりと言ってのける。
彼の言葉の真意をつかむ事が出来ず、女はぽかんと口を開き数秒固まってしまう。

茶飲み友達なのだから気にすることはない。そういう意味なのだろうと彼女は理解しようとした。しかし頭で理解しようとしても感情はそう簡単に受け入れてくれず。


「ミスターはそんな言葉を誰にでもかけるのかしら？罪な人」


　揺さぶられた感情をそんな言葉でごまかして、少し意地悪をするだけが精いっぱいだった。だがそれは意外と功を奏したようで。神宮寺はフイ、と顔をそらし小さな声で呟く。

「お前以外に言えるわけないだろう」、と。