雑多
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「なあ。一つ聞いてもいいか?」
そう前置きをして、キッチンに立つ彼女に問いかける。二人分のコーヒーを手際よく用意したのち、俺の隣にちょこんと腰を下ろして「なあに?」と視線で問いかけた。
「俺が仕事で、プロポーズみたいなことするのって……嫌か?」
「……」
何を今更、と呆れたようにシオンは目を細くする。彼女が身にまとう空気からも感情が伝わり、俺は思わずうっ、と怯んでしまう。そんな様子を見てシオンはゆっくりと口を開いた。
「嫌とかそういう次元じゃない、かな。
……どうしてそんな事を言うのか、詳しくは聞かないけど。
アイドルの英雄さんに求められた仕事でしょうし、全力で向き合って欲しいです。
お付き合いしている身としてはそれに尽きます」
こちらの立場を汲み取った上での模範的すぎる回答だ。
俺たちのユニットにブライダル撮影の仕事がやってきた。いくら俺たちが交際しているとはいえ守秘義務がある。何もかも明け透けに話すことはできない。
とはいえ今度の仕事は結婚に関わる演出が多い。となると心穏やかではないのかもしれない……そう思ったんだ。
だが実際はどうだ。眼前の彼女はいつも通りの穏やかな笑みをたたえ、カップを口に運ぶ。ゆったりとした所作からは、動揺も嫉妬も感じ取れなかった。仕事人としてはありがたいが、少しだけ寂しく感じてしまう俺は我儘な男だろうか。
もう一度シオンに視線を向けると、彼女の視線はコーヒーに落としたままマグカップの縁を数度、指でなぞっている。
「……ところで。その、お仕事でのプロポーズ?っていうのは、具体的には、どういうものを想定して……。あ、いえ。せっかくだから少しお伺いしておこうかなと」
話せる程度で構わないんだけど、と少し早口でシオンは言葉を付け足す。そんな彼女を見て、俺は思わず口をあんぐりと開けてしまう。
自分は本当に警察官だったのか?察、の能力が衰えてしまったのではないかと己を恥じた。
「その……ロマンチックな場所で……指輪を出してだな」
「ゆびわ」
「……俺と結婚してください、って伝える、みたいな」
「……そう、ですか」
きゅっとシオンが口を一文字に結び、手にしていたカップをローテーブルに静かに置く。
そして近くにあったクッションに顔を埋めながらしばらく黙り、そして小さくつぶやいた。
「同じ言葉は、使わないでね」
消え入りそうなほどか細い声で搾り出された彼女の本当の気持ち。何に、なんて野暮な質問を投げかける必要はなかった。
「当たり前だ」
俺は彼女を安心させるように優しく撫でる。こんな風に、俺を欲しがってくれることがとにかく嬉しかったんだ。
俺は胸の奥から湧き上がるあたたかな気持ちでいっぱいになった。
そう前置きをして、キッチンに立つ彼女に問いかける。二人分のコーヒーを手際よく用意したのち、俺の隣にちょこんと腰を下ろして「なあに?」と視線で問いかけた。
「俺が仕事で、プロポーズみたいなことするのって……嫌か?」
「……」
何を今更、と呆れたようにシオンは目を細くする。彼女が身にまとう空気からも感情が伝わり、俺は思わずうっ、と怯んでしまう。そんな様子を見てシオンはゆっくりと口を開いた。
「嫌とかそういう次元じゃない、かな。
……どうしてそんな事を言うのか、詳しくは聞かないけど。
アイドルの英雄さんに求められた仕事でしょうし、全力で向き合って欲しいです。
お付き合いしている身としてはそれに尽きます」
こちらの立場を汲み取った上での模範的すぎる回答だ。
俺たちのユニットにブライダル撮影の仕事がやってきた。いくら俺たちが交際しているとはいえ守秘義務がある。何もかも明け透けに話すことはできない。
とはいえ今度の仕事は結婚に関わる演出が多い。となると心穏やかではないのかもしれない……そう思ったんだ。
だが実際はどうだ。眼前の彼女はいつも通りの穏やかな笑みをたたえ、カップを口に運ぶ。ゆったりとした所作からは、動揺も嫉妬も感じ取れなかった。仕事人としてはありがたいが、少しだけ寂しく感じてしまう俺は我儘な男だろうか。
もう一度シオンに視線を向けると、彼女の視線はコーヒーに落としたままマグカップの縁を数度、指でなぞっている。
「……ところで。その、お仕事でのプロポーズ?っていうのは、具体的には、どういうものを想定して……。あ、いえ。せっかくだから少しお伺いしておこうかなと」
話せる程度で構わないんだけど、と少し早口でシオンは言葉を付け足す。そんな彼女を見て、俺は思わず口をあんぐりと開けてしまう。
自分は本当に警察官だったのか?察、の能力が衰えてしまったのではないかと己を恥じた。
「その……ロマンチックな場所で……指輪を出してだな」
「ゆびわ」
「……俺と結婚してください、って伝える、みたいな」
「……そう、ですか」
きゅっとシオンが口を一文字に結び、手にしていたカップをローテーブルに静かに置く。
そして近くにあったクッションに顔を埋めながらしばらく黙り、そして小さくつぶやいた。
「同じ言葉は、使わないでね」
消え入りそうなほどか細い声で搾り出された彼女の本当の気持ち。何に、なんて野暮な質問を投げかける必要はなかった。
「当たり前だ」
俺は彼女を安心させるように優しく撫でる。こんな風に、俺を欲しがってくれることがとにかく嬉しかったんだ。
俺は胸の奥から湧き上がるあたたかな気持ちでいっぱいになった。