雑多
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我が進開学園には文芸部がある。多くの部員は自身で様々な創作に勤しんでいるが、わたしはそれらに属さず。ただ好きな作家の本を手に取り、言葉の旋律を楽しみ。気が向いた時に感想を綴る。意欲的とは程遠い部員である。
なぜわたしがこの部に籍を置いているのか、それは様々な思惑が交錯した結果である。まず前提として、わたしは運動部に入りたかったのだ。
しかし家庭の事情があり、拘束時間の長い部活は除外。参加や帰宅タイミングにそれなりの融通がきく部で考えると必然的に文化部寄りとなり。
ちょうど入部を検討していた時期に「部員が足りないと廃部になるかもしれない」とクラスメイトから懇願されたためである。
入部の経緯は不純だが、読書は昔から好きだったし。何より家で落ち着いて本の世界を楽しむことができないので、わたし個人としては大変満足している。
他の子達と同じように、小説を書いたり詩を作ったりはできないよ、と最初に念を押したことも理由として大きいかもしれない。
その日も文芸部員達は図書室の片隅で各々、次の話はどうしたいだの。こういった展開はありきたりだろうかだの、創作談義に花を咲かせている。
そんな彼女たちを遠目にわたしは本棚に手を伸ばす。文芸部の読書会が間近に迫ったというのに選書を終えていないのはわたしだけなのだ。自分の中の候補を数冊まで絞るところまできたが、ここから中々進まない。
持ち時間は決められている為、わたし一人が長々と語るわけにはいかない。それに本を選んで終わりではない、話す内容だって考えないといけないのだ。この後に控えている工程を思うと、のんびり悩めるのは今日がリミットだろう。
よし。心の中で気合を入れて、やることを整理する。個人的最終候補の本をまず取ろう。その上で比較検討して決めるしかない。
候補の一冊は国語や歴史の授業で取り扱うような作家の短編集。比較的短めの話を多くまとめた一冊なのでそれなりの分厚さがあり、読み応えも中々だ。
「あ……とすこし……」
爪先に力を入れて手を伸ばす。あとほんの数センチの距離だ、もう一度勢いをつければ届く気がする。一度姿勢を戻して軽く屈伸をひとつ。それっと心の中で勢いをつけて伸ばした指は何も触れることはできなくて。
「この本でよかったかい?」
代わりにかけられたのは少し脱力感のある柔らかなテノールボイス。いつの間にか隣にいた人物に視線を向けると、彼はほんの少しだけ口の端を上げて微笑む。紺色の装丁をされた分厚い一冊をこともなく取り出した金髪碧眼の美少年……絵になるな……。
「ありがと、フォールデンくん」
「どういたしまして。それにしても……随分と渋い趣味をしているんだね」
「……はい?」
「いやこの本。僕以外に読んでる人がいるとは思わなくて」
そう言いながらフォールデンくんはわたしに本を手渡す。男の子とは思えないほど綺麗で整った指が一瞬だけ触れ、心臓が大きく跳ねたのは、内緒だ。
「フォールデンくんも読んだんだ、これ。短編とはいえ結構収録作品多いし、文体もクセがあるのに」
「これくらい普通だよ。……いや、クセが強いのは僕も同意するけど」
眉を少し顰めながら彼は話す。それだけで分かった、ちゃんと読んでる人だな、と。学年一人気と言っても差し支えない存在と、同じ作品で言葉を交わせるなんて……しばらくランダム商品は買わない方がいい気がする。
「今度の読書会に君も出るのかい?」
「うん、なかなか本が決まらなくて。今日決めるぞーって気合い入れてたとこ」
「なるほど、さっきの不思議な動きは気合を入れていたんだね」
「え、見てたの?どこから?」
「本棚の前で背伸びしたり、屈伸してた時からかな」
にやり。そんな表現が見える笑みをフォールデンくんは浮かべる。美少年に醜態を晒していたのね、わたしは。その事実に目眩を感じたけれど、楽しそうな様子の彼が見れたからよしとしましょう。目の保養、ありがとうございます。
「……あ、君も、ってことは。フォールデンくんも読書会に参加するの?」
「まあ、そうなるね。本を読むのは好きだから構わないんだけど。ええと……」
しまった、わたしは一方的に彼を知っているけど、彼はそうじゃない。クラスも違うしね。
「順番が変になってごめんね、わたしは……」
体ごとしっかり彼に向き直り、柔らかめの笑顔を浮かべて名を名乗る。覚えてもらえるかどうかはわからないけど、「不思議な動きをする文芸部員」として覚えられることだけは回避しないとね。
後に本人が語ってくれた事だが、結構長い間「本棚の前で変な動きをしながら悩んだ女子」として覚えられていたらしい。なんてこった。
なぜわたしがこの部に籍を置いているのか、それは様々な思惑が交錯した結果である。まず前提として、わたしは運動部に入りたかったのだ。
しかし家庭の事情があり、拘束時間の長い部活は除外。参加や帰宅タイミングにそれなりの融通がきく部で考えると必然的に文化部寄りとなり。
ちょうど入部を検討していた時期に「部員が足りないと廃部になるかもしれない」とクラスメイトから懇願されたためである。
入部の経緯は不純だが、読書は昔から好きだったし。何より家で落ち着いて本の世界を楽しむことができないので、わたし個人としては大変満足している。
他の子達と同じように、小説を書いたり詩を作ったりはできないよ、と最初に念を押したことも理由として大きいかもしれない。
その日も文芸部員達は図書室の片隅で各々、次の話はどうしたいだの。こういった展開はありきたりだろうかだの、創作談義に花を咲かせている。
そんな彼女たちを遠目にわたしは本棚に手を伸ばす。文芸部の読書会が間近に迫ったというのに選書を終えていないのはわたしだけなのだ。自分の中の候補を数冊まで絞るところまできたが、ここから中々進まない。
持ち時間は決められている為、わたし一人が長々と語るわけにはいかない。それに本を選んで終わりではない、話す内容だって考えないといけないのだ。この後に控えている工程を思うと、のんびり悩めるのは今日がリミットだろう。
よし。心の中で気合を入れて、やることを整理する。個人的最終候補の本をまず取ろう。その上で比較検討して決めるしかない。
候補の一冊は国語や歴史の授業で取り扱うような作家の短編集。比較的短めの話を多くまとめた一冊なのでそれなりの分厚さがあり、読み応えも中々だ。
「あ……とすこし……」
爪先に力を入れて手を伸ばす。あとほんの数センチの距離だ、もう一度勢いをつければ届く気がする。一度姿勢を戻して軽く屈伸をひとつ。それっと心の中で勢いをつけて伸ばした指は何も触れることはできなくて。
「この本でよかったかい?」
代わりにかけられたのは少し脱力感のある柔らかなテノールボイス。いつの間にか隣にいた人物に視線を向けると、彼はほんの少しだけ口の端を上げて微笑む。紺色の装丁をされた分厚い一冊をこともなく取り出した金髪碧眼の美少年……絵になるな……。
「ありがと、フォールデンくん」
「どういたしまして。それにしても……随分と渋い趣味をしているんだね」
「……はい?」
「いやこの本。僕以外に読んでる人がいるとは思わなくて」
そう言いながらフォールデンくんはわたしに本を手渡す。男の子とは思えないほど綺麗で整った指が一瞬だけ触れ、心臓が大きく跳ねたのは、内緒だ。
「フォールデンくんも読んだんだ、これ。短編とはいえ結構収録作品多いし、文体もクセがあるのに」
「これくらい普通だよ。……いや、クセが強いのは僕も同意するけど」
眉を少し顰めながら彼は話す。それだけで分かった、ちゃんと読んでる人だな、と。学年一人気と言っても差し支えない存在と、同じ作品で言葉を交わせるなんて……しばらくランダム商品は買わない方がいい気がする。
「今度の読書会に君も出るのかい?」
「うん、なかなか本が決まらなくて。今日決めるぞーって気合い入れてたとこ」
「なるほど、さっきの不思議な動きは気合を入れていたんだね」
「え、見てたの?どこから?」
「本棚の前で背伸びしたり、屈伸してた時からかな」
にやり。そんな表現が見える笑みをフォールデンくんは浮かべる。美少年に醜態を晒していたのね、わたしは。その事実に目眩を感じたけれど、楽しそうな様子の彼が見れたからよしとしましょう。目の保養、ありがとうございます。
「……あ、君も、ってことは。フォールデンくんも読書会に参加するの?」
「まあ、そうなるね。本を読むのは好きだから構わないんだけど。ええと……」
しまった、わたしは一方的に彼を知っているけど、彼はそうじゃない。クラスも違うしね。
「順番が変になってごめんね、わたしは……」
体ごとしっかり彼に向き直り、柔らかめの笑顔を浮かべて名を名乗る。覚えてもらえるかどうかはわからないけど、「不思議な動きをする文芸部員」として覚えられることだけは回避しないとね。
後に本人が語ってくれた事だが、結構長い間「本棚の前で変な動きをしながら悩んだ女子」として覚えられていたらしい。なんてこった。