雑多
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鍛冶屋に頼んでいた武器開発と、新たな術法完成の知らせを同時に受けた我らが皇帝は一度帝都アバロンへ帰る選択をされた。
日に日に戦闘は苛烈になっていく。異形の魔物との戦いはまだ終わりそうもない。
「先代達が戦だけでなく、こういった技術開発のため投資を続けてくれていたから。今、僕たちが助けられているんだよなあ」
丸いサングラスの奥の目を細めながら、私の隣に立つ陛下はぽつりとつぶやく。その言葉はただの独り言にしては随分と重みのあるものに感じた。
長い船旅を終え、久方ぶりに戻った帝都アバロンは賑やかで。街の人々はあたたかく我々を迎えてくれた。笑顔で手を振ってくれる人々を眺め、少なくともここは平和が守られているのだな時改めて実感した。
「陛下、本日はこのまま鍛冶屋に向かうのですか?」
「いいや、明日向かおう。船を乗り継いで戻ったから少し疲れちゃって。
だからみんなもゆっくり休んでね」
少し戯けたような物言いで我々を和ませ、陛下はやってきた文官殿たちと別室へ消えた。
残された我らは「休息も仕事の一つだな」と、目配せをし、各々自由に過ごすこととした。
酒場へ向かう者、アバロンの樹で一息つく者、早々に寝室へ姿を消す者……それぞれだ。
私はというと、戻ってからまだ一度も顔を合わせていない彼女のことが気になってしかたなかった。きょろきょろと周囲を見渡し、城内清掃のため歩き回る一人の侍女を見つけ、声をかける。
返ってきた答えは「買い出しのため市場に向かった」だった。城へ戻る前にぐるりと都を周ったが、彼女らしい姿を見付けることはできなかった。巡り合わせが悪いのだろうか。
仕事中に手を止めてくれた侍女に感謝し、私は再び城下町へ向かう。市場だけでなく路地裏や住宅街と、文字通り隅から隅まで探し歩き、ようやく見覚えある髪色が一房。視界の端で動いた。
見つけた!
そう思うより速く足は動き、駆け出す。足の速さにはそれなりに自信はある上、相手は私と違い動きづらい服装なのだ。
「シオン殿……」
「テッシュウ、様」
帝都アバロンの路地裏。表通りの喧騒は遠く、私と彼女の息遣いがやけに大きく耳に響いた。
「おかえり、なさいませ」
「はい……無事、戻りました」
「……」
一言だけのぎこちない挨拶を交わしたのち、再び沈黙に包まれる。彼女の視線は足元に向けられたまま、私を捕えない。聡い彼女のことだ、私が何を尋ねようとしているか理解しているのだろう。
なぜ、出迎えてくださらなかったのか、という。幼い子どものわがままのような問いかけを。
……なんと、愚かしい。
ふう、と長く息を吐き、気を落ち着かせる。問い詰めたいわけでも、こうして彼女を困らせたいわけでもないはずだ。
「シオン殿、私は貴方にずっと会いたかったのです」
一番伝えたい言葉は単純なもの。私はずっと彼女のことを思っていたのだ。
「だからこうしてまたお会いでき、心から嬉しく思っています」
私は饒舌な質ではない。己の気持ちを細やかに表現する言葉を多く持ち合わせてはいないし、彼女への想いを態度で伝えることもできない。
少ない言葉を紡ぐことしかできないからこそ、ひとつひとつをゆっくりと、言い聞かせるよう声に乗せる。
彼女の瞳が少しずつ上がり、真ん丸の目が私を捉える。やっと、目が合った。
「ただいま戻りました、シオン殿」
日に日に戦闘は苛烈になっていく。異形の魔物との戦いはまだ終わりそうもない。
「先代達が戦だけでなく、こういった技術開発のため投資を続けてくれていたから。今、僕たちが助けられているんだよなあ」
丸いサングラスの奥の目を細めながら、私の隣に立つ陛下はぽつりとつぶやく。その言葉はただの独り言にしては随分と重みのあるものに感じた。
長い船旅を終え、久方ぶりに戻った帝都アバロンは賑やかで。街の人々はあたたかく我々を迎えてくれた。笑顔で手を振ってくれる人々を眺め、少なくともここは平和が守られているのだな時改めて実感した。
「陛下、本日はこのまま鍛冶屋に向かうのですか?」
「いいや、明日向かおう。船を乗り継いで戻ったから少し疲れちゃって。
だからみんなもゆっくり休んでね」
少し戯けたような物言いで我々を和ませ、陛下はやってきた文官殿たちと別室へ消えた。
残された我らは「休息も仕事の一つだな」と、目配せをし、各々自由に過ごすこととした。
酒場へ向かう者、アバロンの樹で一息つく者、早々に寝室へ姿を消す者……それぞれだ。
私はというと、戻ってからまだ一度も顔を合わせていない彼女のことが気になってしかたなかった。きょろきょろと周囲を見渡し、城内清掃のため歩き回る一人の侍女を見つけ、声をかける。
返ってきた答えは「買い出しのため市場に向かった」だった。城へ戻る前にぐるりと都を周ったが、彼女らしい姿を見付けることはできなかった。巡り合わせが悪いのだろうか。
仕事中に手を止めてくれた侍女に感謝し、私は再び城下町へ向かう。市場だけでなく路地裏や住宅街と、文字通り隅から隅まで探し歩き、ようやく見覚えある髪色が一房。視界の端で動いた。
見つけた!
そう思うより速く足は動き、駆け出す。足の速さにはそれなりに自信はある上、相手は私と違い動きづらい服装なのだ。
「シオン殿……」
「テッシュウ、様」
帝都アバロンの路地裏。表通りの喧騒は遠く、私と彼女の息遣いがやけに大きく耳に響いた。
「おかえり、なさいませ」
「はい……無事、戻りました」
「……」
一言だけのぎこちない挨拶を交わしたのち、再び沈黙に包まれる。彼女の視線は足元に向けられたまま、私を捕えない。聡い彼女のことだ、私が何を尋ねようとしているか理解しているのだろう。
なぜ、出迎えてくださらなかったのか、という。幼い子どものわがままのような問いかけを。
……なんと、愚かしい。
ふう、と長く息を吐き、気を落ち着かせる。問い詰めたいわけでも、こうして彼女を困らせたいわけでもないはずだ。
「シオン殿、私は貴方にずっと会いたかったのです」
一番伝えたい言葉は単純なもの。私はずっと彼女のことを思っていたのだ。
「だからこうしてまたお会いでき、心から嬉しく思っています」
私は饒舌な質ではない。己の気持ちを細やかに表現する言葉を多く持ち合わせてはいないし、彼女への想いを態度で伝えることもできない。
少ない言葉を紡ぐことしかできないからこそ、ひとつひとつをゆっくりと、言い聞かせるよう声に乗せる。
彼女の瞳が少しずつ上がり、真ん丸の目が私を捉える。やっと、目が合った。
「ただいま戻りました、シオン殿」
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