雑多
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
くしゅん、と先輩が小さく体を震わせる。風邪スか?と聞くと鼻がむずむずしただけだよ、と頭ひとつ近く背の低い彼女は肩をすくめる。
「どこかでわたしの噂でもしてるのかな、それとも悪口?
だとしたら花村かな?バイトのシフト、少なめで出しちゃったからきっとそれかも」
久尾津先輩は、にぃと口の端を上げながらそう溢す。まるでイタズラをした直後の悪ガキみてぇだ。
「そんなことしたんスか?じゃあきっと花村先輩頭抱えてますよ。泣きつかれンじゃねっスか?」
そう言って思い出すのは今年の春にやってきた鳴上先輩の姿。夏休みの中頃ジュネスで臨時バイトをしたんだと、困りつつも楽しげに語ってくれた面持ちは記憶に新しい。その時みたいになるんじゃねえかな。
「つかなんでシフト減らしたんスか?
車の免許取りてーって言ってたじゃないスか」
「え?あー……うん」
久尾津先輩はバツが悪そうに視線を泳がせる。この人との付き合いは半年そこらだが、“本当の姿”を目の当たりにしたからか。意外とわかりやすいクセがあることに気づいた。
例えば今みてえにピアスを弄ったらー……隠し事がある、とか?
「……せーかい。家庭教師の臨時バイトを入れたの、そっちの方が時給いいんだもん。
これ、花村には内緒にしてね、色々言われちゃう。
だめだぁ……自分のシャドウを見られたから?なんだかみんなにはもう隠し事ができない気がするよ」
「考えすぎっしょ。
久尾津先輩がわかりやすいんスよ。オレでもわからぁ!」
へへっ、と力瘤を見せるようにポーズを決めると、久尾津先輩は眉をハの字に下げながら目を細め、参ったなぁと繰り返す。
「……でも、完二くんがわたしのことをよーく見てくれてるっていうのはわかったよ。
参ったなぁ、そんなにわたしのことをじっくり見てくれてたんだ?」
「な?ななな何いって!?」
反射的に「違ぇよ!」と続けそうになったけど、あながち間違ってるわけでもねえし……。
つーか指摘されて改めて「オレって久尾津先輩のことすげぇ見てるんか?」って気づいたし。あれ?
「あはは。完二くん、声おっきい。
夜だし、あんまりうるさくしたら迷惑だよ」
そう言って久尾津先輩はけらけらと笑う。確かに人も車もあんま通らねえ夜の商店街通り。たまに酔っ払いの声がするだけで、それ以外は虫の声が響くだけ。
静寂、とまではいかないにしてもさっきはうるさかったかもしれねぇ。気をつけねーとな。
「先輩がヘンなこと言うからっスよ……ったく……」
「変だった?ふふ、ごめんごめん。
……あ、ここでいいよ。ありがとう完二くん」
久尾津先輩の歩幅が狭くなり、緩やかに立ち止まる。視線を上げるとそこは先輩の家の近くで、こういうのを確か……目と鼻の先って言うんだよな。うん。
「いつも家まで送ってくれてありがとう」
「構わねっスよ。女一人じゃ危ねーし、オレに喧嘩ふっかける奴もいねえだろうしな」
「それでもここから家まで一人でしょ?
気をつけて帰ってね」
「……っス」
夜とはいえ先輩の家から自分ちまでの道なんて何度も歩いてるし。なんなら走って帰ることもあるくれーだし。
確かに途中街灯が少なくて薄暗いとこもあるが、別に怖いとか、んなことはねえし。
大抵の奴らは怖くなんかねえ。柄の悪ぃ奴だってオレに絡んでこねえだろうしな。
それでも、久尾津先輩は優しく。誰に対してもそうするように「気をつけて」と言葉をかけてくれる。
それは年下扱いされているからとか、オレを馬鹿にしてるとかそういうんじゃなく。心からオレの身を案じてくれているんだ。
オレは、こうして久尾津先輩に気にかけてもらえる瞬間が。割と、好きだ。絶対ぇ誰にも言わねえけど。
「それじゃあ完二くん、おやすみなさい」
「はい!じゃあ、また!」
そんな言葉を交わしたのち、久尾津先輩は小走りに駆けてゆき。マンションの玄関口へ入る直前にもう一度こちらを見て、小さく手を振ってくれた。
「また明日、学校でね」
「どこかでわたしの噂でもしてるのかな、それとも悪口?
だとしたら花村かな?バイトのシフト、少なめで出しちゃったからきっとそれかも」
久尾津先輩は、にぃと口の端を上げながらそう溢す。まるでイタズラをした直後の悪ガキみてぇだ。
「そんなことしたんスか?じゃあきっと花村先輩頭抱えてますよ。泣きつかれンじゃねっスか?」
そう言って思い出すのは今年の春にやってきた鳴上先輩の姿。夏休みの中頃ジュネスで臨時バイトをしたんだと、困りつつも楽しげに語ってくれた面持ちは記憶に新しい。その時みたいになるんじゃねえかな。
「つかなんでシフト減らしたんスか?
車の免許取りてーって言ってたじゃないスか」
「え?あー……うん」
久尾津先輩はバツが悪そうに視線を泳がせる。この人との付き合いは半年そこらだが、“本当の姿”を目の当たりにしたからか。意外とわかりやすいクセがあることに気づいた。
例えば今みてえにピアスを弄ったらー……隠し事がある、とか?
「……せーかい。家庭教師の臨時バイトを入れたの、そっちの方が時給いいんだもん。
これ、花村には内緒にしてね、色々言われちゃう。
だめだぁ……自分のシャドウを見られたから?なんだかみんなにはもう隠し事ができない気がするよ」
「考えすぎっしょ。
久尾津先輩がわかりやすいんスよ。オレでもわからぁ!」
へへっ、と力瘤を見せるようにポーズを決めると、久尾津先輩は眉をハの字に下げながら目を細め、参ったなぁと繰り返す。
「……でも、完二くんがわたしのことをよーく見てくれてるっていうのはわかったよ。
参ったなぁ、そんなにわたしのことをじっくり見てくれてたんだ?」
「な?ななな何いって!?」
反射的に「違ぇよ!」と続けそうになったけど、あながち間違ってるわけでもねえし……。
つーか指摘されて改めて「オレって久尾津先輩のことすげぇ見てるんか?」って気づいたし。あれ?
「あはは。完二くん、声おっきい。
夜だし、あんまりうるさくしたら迷惑だよ」
そう言って久尾津先輩はけらけらと笑う。確かに人も車もあんま通らねえ夜の商店街通り。たまに酔っ払いの声がするだけで、それ以外は虫の声が響くだけ。
静寂、とまではいかないにしてもさっきはうるさかったかもしれねぇ。気をつけねーとな。
「先輩がヘンなこと言うからっスよ……ったく……」
「変だった?ふふ、ごめんごめん。
……あ、ここでいいよ。ありがとう完二くん」
久尾津先輩の歩幅が狭くなり、緩やかに立ち止まる。視線を上げるとそこは先輩の家の近くで、こういうのを確か……目と鼻の先って言うんだよな。うん。
「いつも家まで送ってくれてありがとう」
「構わねっスよ。女一人じゃ危ねーし、オレに喧嘩ふっかける奴もいねえだろうしな」
「それでもここから家まで一人でしょ?
気をつけて帰ってね」
「……っス」
夜とはいえ先輩の家から自分ちまでの道なんて何度も歩いてるし。なんなら走って帰ることもあるくれーだし。
確かに途中街灯が少なくて薄暗いとこもあるが、別に怖いとか、んなことはねえし。
大抵の奴らは怖くなんかねえ。柄の悪ぃ奴だってオレに絡んでこねえだろうしな。
それでも、久尾津先輩は優しく。誰に対してもそうするように「気をつけて」と言葉をかけてくれる。
それは年下扱いされているからとか、オレを馬鹿にしてるとかそういうんじゃなく。心からオレの身を案じてくれているんだ。
オレは、こうして久尾津先輩に気にかけてもらえる瞬間が。割と、好きだ。絶対ぇ誰にも言わねえけど。
「それじゃあ完二くん、おやすみなさい」
「はい!じゃあ、また!」
そんな言葉を交わしたのち、久尾津先輩は小走りに駆けてゆき。マンションの玄関口へ入る直前にもう一度こちらを見て、小さく手を振ってくれた。
「また明日、学校でね」
1/10ページ