木漏れ日の中庭でスカリーとユウはベンチに座り、二人で作ったお弁当を広げていた。早朝、寮の簡素なキッチンで一緒に手を動かした記憶が鮮明に蘇る。スカリーの几帳面な性格が反映された丁寧な手順と、ユウの自由な発想が融合したその弁当は、見た目も味も二人らしい仕上がりになっていた。

「ねえ、卵焼きもう少し甘くてもよかったかな？」ユウがふと尋ねる。ユウの手には、黄色くふっくらとした卵焼きが乗った箸がある。少し日差しに透けたようなその色合いが、ユウの柔らかい声と相まって穏やかな雰囲気を作り出していた。

スカリーは口元に微笑みを浮かべ、手にした箸を持ち上げながら言った。「いえ、これこそが貴方の味です。我輩にとって、それは何にも代え難い特別なものです。」

彼がそう言いながら卵焼きを口に運ぶと、ほのかな甘さと優しい出汁の香りが口いっぱいに広がる。舌の上でとろけるようなその感触に、思わず目を閉じて満足げに頷いた。

「うまく焼けてたみたいだね。」ユウが嬉しそうに笑い、スカリーの表情を観察する。彼の白い髪が風に揺れ、そのオレンジ色の瞳が木漏れ日の反射を受けてキラキラと輝いていた。

「貴方と一緒に作ったからこそ、このお弁当には特別な価値があります。」スカリーは真剣な眼差しでそう付け加える。ユウはその言葉に一瞬戸惑いを見せたが、次の瞬間には頬を緩ませた。

「ありがとう。でも、スカリーくんが手際よくやってくれたから、失敗せずに済んだんだよ。」ユウの笑顔は木漏れ日のように柔らかく、スカリーの胸の奥をじんわりと温める。

二人の間に短い沈黙が流れる。その沈黙は気まずいものではなく、互いの存在を穏やかに確かめ合うような、心地よいものだった。風が少し強くなり、木の葉がさらさらと音を立てる。その音に混じって、遠くで小鳥がさえずっているのが聞こえる。

「そういえば、朝のオムライスのケチャップアート、結構上手かったでしょ？」ユウが唐突に思い出したように話を振ると、スカリーはくすっと笑った。

「ええ、素晴らしい出来でした。あのハートマークは少し歪んでいましたが、それがまた愛らしい。」

「え、歪んでた！？ 完璧だと思ったのに！」ユウが少しムキになって反論する。その様子があまりにも可愛らしく、スカリーはつい微笑みを深めてしまう。

「いえいえ、それもまた完璧さの一部なのです。貴方が描いたものならば、どんな形でも我輩には最高のものですから。」

その一言にユウは少し頬を赤らめ、「褒めすぎだよ」と照れくさそうに目をそらす。その瞬間、ユウの膝の上に座っていたグリムが声を上げた。「オレ様、食べ終わったから先に行くんだゾ！」

ユウの腕からするりと降りたグリムは、小さな足で中庭を駆けていく。その背中が見えなくなるまで二人は見送り、再び静寂が戻る。

「グリム、いつも自由だね。」ユウが笑いながら呟く。

「ええ、実に気ままなものです。」スカリーはその言葉に頷きながらも、隣にいるユウが自分にとってどれほど特別な存在であるかを、改めて感じずにはいられなかった。

弁当箱はすでに空になり、穏やかな満足感が二人を包んでいる。風が柔らかく頬をなで、木々の間を鳥のさえずりが行き交う。二人はしばらく会話もせず、ただ心地よい静けさを共有していた。

ふと、ユウが弁当箱を閉じながら口を開く。「ねえ、スカリーくん。あの卵焼き、本当にふわふわで美味しかったよ。もしかして、秘密のレシピがあるんじゃない？」

スカリーは優雅に肩をすくめ、「我輩がただ古い調理法を参考にしただけでございます。特別な技術など何も…」と謙遜する。

「でも、あれだけ完璧な形に巻ける人、なかなかいないと思うよ？」ユウは目を輝かせてスカリーを見つめる。その視線に少し気圧されたスカリーは、手袋をした手で軽く口元を押さえながら微笑む。

「ふむ、それほどまでにお褒めいただけるとは、光栄の至りです。完璧といえば貴方も、あの野菜の飾り切り、なかなかの出来栄えでございましたよ。」

ユウは顔をほんのり赤らめ、「あれ？そんなに上手くなかったけど…」と控えめに答える。けれど、スカリーが真剣に褒めていることはユウにも伝わった。

その流れで、ユウはふと思いつき、「ねえ、スカリーくん。卵焼きといえばさ、次に一緒に作るとき、立体的な形に挑戦してみない？」

「立体的な形？」スカリーは首をかしげた。

「そう、カボチャ型とかさ。きっとスカリーくんならきれいに作れると思うよ。」ユウはにやりと笑い、冗談めかした口調で提案した。

スカリーは一瞬きょとんとしたあと、控えめな咳払いをひとつ。「カボチャ型とは、なかなか大胆なご提案ですね。我輩が挑戦するのも面白いかもしれませんが、貴方がそれを望むならば全力を尽くします。」少し照れたようなその声色に、ユウは思わず吹き出す。

「そんなに真剣にならなくても！ただの冗談だよ。」ユウは笑いながら、軽くスカリーの肩を叩く。その笑顔を見たスカリーも、つられるようにくすくすと笑い出した。

風が再び木々を揺らし、葉の擦れる音が耳をくすぐる。二人の笑い声は、その静かな中庭に溶け込んでいく。スカリーはふと、目の前のユウの笑顔を見つめる。その何気ないひとときが、なぜこんなにも心地よく、特別に感じられるのか。それはスカリー自身、まだ言葉にできないでいた。