スカリーくんと監督生のなんでもない一日【完結】
監督生さん、素敵な貴方のお名前は?
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【スカリーくんと監督生が写真を撮っているだけ】
オンボロ寮の静かな夜、ユウは自室で持ち物の整理をしていた。冬の冷たい風が窓の隙間から微かに忍び込み、空気をひんやりとさせる中、小さな机の上にはいくつかの写真やアルバムが並べられていた。
ふと棚から引っ張り出したアルバムを開くと、ページの間から数枚の写真が滑り落ちた。「あ、こんなところに……」ユウは写真を拾い上げながら、軽く埃を払う。写真の紙が指先に滑らかに触れ、微かなインクの匂いが漂う。その中に、一枚だけ特に目を引く写真があった。
「これ……スカリーくんを撮ったやつだ。」
ナイトレイブンカレッジの制服を着たスカリーがオンボロ寮の前で微笑んでいる写真。「そういえば、こんな写真も撮ったなぁ」と軽く笑い、写真をじっと見つめた。
スカリーの姿にはまだ少し緊張感が残っており、それが今の彼との違いを感じさせた。「編入したての頃だよね、なんだか懐かしいなあ……」そう呟いたその瞬間、写真がふわりと光り始めた。
「えっ?」
眩しい光に、ユウは思わず目を細める。光は暖かく、肌に優しく触れるように広がり、次第に形を成していく。目を開けた時、そこには写真の中のスカリーが実体化し、立っていた。
「ユウさん、この良き出会いに、キスを。」
スカリーは優雅な笑みを浮かべながら、軽く頭を下げると、そっとユウの手を取った。冷たく滑らかな手の感触に、ユウは一瞬驚く。
「スカリーくん……!? え、本当に出てきちゃったの!?」
驚きつつも、ユウは慌てる様子はなく、ゴーストカメラの仕組みを思い出して自然と笑みを浮かべた。「こんなこともあるんだ。あ、でもすごく元気そうだね、メモリースカリーくん!」
メモリー・スカリーはその言葉にさらに微笑みを深める。「もちろんですとも。ユウさんの写真に込められた想いが我輩をここに呼び寄せたのですから。」彼の声は甘く、心地よい響きを持っていた。
ユウが返事をしようとしたその時――部屋の扉が唐突に開いた。
「ユウさん、少々お邪魔を――!」
いつもの穏やかな声と共に現れた本物のスカリーが、部屋の中の異様な光景に硬直した。
スカリーの瞳が僅かに見開かれ、額に寄った皺が困惑を物語っている。
「スカリーくん、落ち着いて!」ユウが慌てて間に割って入ろうとするも、スカリーはすぐさまユニーク魔法「10月31日 」を発動する。
「怪しげな存在よ、ユウさんから離れろ!」
鋭い風の音と共に、スカリーの魔力がメモリー・スカリーへ向かって放たれる。しかし、メモリー・スカリーは動じることなく同じ魔法をぶつけ、互いの力が空中でぶつかり合い、霧のように散った。
「まぁまぁ、本物の我輩よ。」メモリー・スカリーは手を胸に当て、穏やかな声で応じる。「ユウさんの前で取り乱すとは、はしたない。」
ユウは両手を広げて二人を制しようとする。「だから!スカリーくん、これはゴーストカメラの魔法で……メモリー・スカリーくんは、写真から出てきた思い出の一部なの!」
「写真からの思い出、ですか……」スカリーは冷たい目を細め、メモリー・スカリーをじっと睨む。「だとしても、その振る舞いは如何なものでしょうか。我輩のようであって、我輩ではない貴方が――ユウさんに触れるとは。少々過ぎたるものではないですか?」
一方、メモリー・スカリーはユウの手を優雅に取り、その上にそっと唇を寄せる。「ユウさんの手は本当に温かいですね。これが我輩をここに呼び戻した力だと思うと、感慨深い。」
「わっ、ちょっと、メモリースカリーくん!」ユウは慌てて手を引こうとする。
「ユウさん!」本物のスカリーが一歩前に出る。「それ以上は……許しがたい。」
「許しがたい、とは?」メモリー・スカリーが眉を上げ、挑発するような微笑みを浮かべる。「我輩の言動は、ユウさんへの感謝と好意に基づいたものですよ。本物の我輩も、それを否定はしないでしょう?」
スカリーは言葉を詰まらせ、一瞬目を逸らした。その間、ユウは二人の間に立ち、苦笑を浮かべながら深呼吸をする。
「もう、二人とも落ち着いて。争う必要なんてないでしょ?」
ユウはそう言いながら、メモリー・スカリーの手を優しく押し返す。「ありがとう。でも、もうキスは遠慮しておくね。」
その言葉に、メモリー・スカリーは小さく肩をすくめ、「そうおっしゃるなら。」と手を下ろす。
一方、本物のスカリーはユウの手をじっと見つめる。その瞳には彼の自制心と内なる感情が滲んでいた。
ユウは写真を持ちながら首を傾げる。「おかしいな……普通、メモリーはすぐにメモリーカードに戻るはずなのに。」
「ふむ……確かに長く居座りすぎですね。」本物のスカリーが小さく唸る。
「それだけ、ユウさんと我輩の絆が深いということでしょう。」メモリー・スカリーが誇らしげに言い、本物のスカリーは静かに目を細めた。
「その絆の深さとやらが、本物の我輩とユウさんを困らせる原因になっていることに気づいていただきたいものです。」
ユウは苦笑しながら、「もう、どっちも喧嘩しないでね」と優しく微笑む。その声に二人のスカリーが同時に頷き、妙な空気のまま会話は続いていく。
*
オンボロ寮のユウの部屋には、張り詰めた空気が漂っていた。冬の冷たい風が窓の隙間から微かに入り込み、肌に触れるたびに静けさを強調する。その中で、二人のスカリーが対峙していた。
「ユウさんとの時間を、もっと心から楽しむべきだと思いますよ。」
メモリー・スカリーが微笑みを浮かべながら言う。その瞳には、自信と親しみが滲んでいる。「本物の我輩も、そのために存在しているのでは?」
本物のスカリーの眉間に皺が寄り、冷えた声が部屋に響く。「楽しむことと、無遠慮に触れることは別問題です。我輩は慎ましさを重んじるのです。」
「慎ましさばかりでは、肝心な想いが伝わらないのでは?」
メモリー・スカリーは肩をすくめ、少し挑発的な笑みを浮かべた。「ユウさんが我輩をここに留めてくださっているのも、そういう想いがあってのことかと。」
「勝手な解釈はやめていただきたい。」本物のスカリーの声が低くなる。「ユウさんの気持ちを盾に、居座る理由にするとは、言語道断です!」
ユウは二人の間に手を広げて、少し焦り気味に声を上げた。「ストーップ! スカリーくんたち、これ以上はやめて!」
しかし、その言葉をよそに、メモリー・スカリーがユウの手を取り、柔らかな微笑みを浮かべる。
「ご安心ください、ユウさん。我輩は貴方の願いを最優先に考えていますから。」
その手の感触は冷たく、けれどどこか優雅な動きが暖かさを感じさせるようだった。
「……それで、ユウさんの手を握る必要性は?」
本物のスカリーの瞳が鋭く細まり、冷えた声が再び響いた。
ユウは困惑しながら、二人を見回す。「ねぇ、二人とも……ちょっと落ち着こうよ。」ユウの声は震えていないが、その中には明らかに戸惑いが含まれていた。
メモリー・スカリーはユウの肩にそっと手を置く。その手の感触は冷たくも滑らかで、彼の仕草は優雅だった。
「ユウさん、この肩こり……お疲れではありませんか? 我輩が癒して差し上げます。」
その手が肩を軽く揉む動きに、ユウはぎこちなく笑いながら、「えっ、いや、大丈夫だから!」と声を上げたが、その前に本物のスカリーが立ち上がった。
「やめたまえ、貴方がすべきことではない!」
その声はいつもより低く、部屋の空気をさらに冷たくする。
「ただの肩もみですよ。」メモリー・スカリーは肩をすくめ、さらにユウの手を取り、指先をそっと覆った。「それに、指先も冷えているではありませんか。我輩が温めましょう。」
その瞬間、本物のスカリーは声を荒げた。「貴方という存在は本当に――!」
「スカリーくん!だめだって!」ユウはすぐさま二人の間に割って入り、必死に制止する。その声がかろうじて本物のスカリーの動きを止めた。
オンボロ寮の部屋は、かつてないほどの緊張感に包まれていた。冬の夜の冷気が窓の隙間から忍び込む中、室内には二人のスカリーが向かい合い、睨み合うようにして立っていた。古びた時計の秒針が逆回転を始め、机に置かれた本がふわりと宙に浮いてはゆっくりと床に落ちる。その光景は、現実と幻想の境界が曖昧になる瞬間を思わせた。
ユウはその異変に気づき、目を見開いた。「なにこれ!?部屋がおかしくなってる……!」
その声には戸惑いと不安がにじみ、冷たい空気の中にかすかに震えるように響いた。
本物のスカリーがすぐに分析を始める。いつもの冷静な声だが、その中に緊張感が含まれている。「これは……我輩とメモリーの魔力が干渉し合っているのでは?長く衝突を続ければ、部屋そのものが壊れかねません!」
ユウはその言葉に驚き、「部屋が壊れたら本当に困るよー!?」と慌てて声を上げた。その声がかき消されるように、部屋の中の空間がわずかに歪み、窓ガラスには蜘蛛の巣状のひび模様が広がっていく。
メモリー・スカリーは眉をひそめ、少し落ち着いた声で言った。「……ユウさんにこれ以上ご迷惑をかけるのは本意ではありません。」その瞳には真剣さが宿り、彼もまた事態を重く受け止めている様子だった。
「ではどうぞ本物さん、用が無ければお帰りくださいませ。」メモリー・スカリーは優雅に微笑みながら、あくまで余裕を見せる。
本物のスカリーはその言葉に顔を曇らせ、冷たい声で応じた。「なぜ我輩が?この空間の安定のためにも、貴方がカードに戻るべきでは?」
メモリー・スカリーは肩をすくめ、軽い調子で答える。「我輩をここに呼び留めたのは、ユウさんの心ですよ。本物の我輩にその気持ちを理解するだけの柔軟性があれば、争いは無用なのですが。」
「貴方は言葉を[[rb:弄 > ろう]]しているが、行動には節度が足りません。」本物のスカリーの声が低く響く。その視線には怒りと困惑が交じり合い、ユウへの配慮が見え隠れしていた。
ユウは二人を見比べ、額に手を当てて小さくため息をついた。「うーん、だめだこれ……。」
*
ユウがぽつりと呟いた。
「……このままだと、スカリーくんたちのこと、ちょっと嫌いになっちゃうかも……。」
その一言に、二人のスカリーが同時に声を上げた。「えっ!?」
二人の驚きは、互いに相手を意識し合っていた険悪な空気を一瞬でかき消した。本物のスカリーもメモリー・スカリーも、目を見開き、言葉の意味を探ろうとするようにユウを見つめる。
「「そんなぁ!!」」
ユウは二人の息の合った反応に、一瞬だけ笑いそうになったが、すぐに顔を伏せた。その姿を見たメモリー・スカリーが、ゆっくりと一歩後ろに下がり、静かに口を開いた。
「仕方ありません……。今回は我輩が身を引きましょう。」
その声は穏やかだったが、心の奥に名残惜しさを秘めているのがわかる。彼の表情は微笑を浮かべていたが、その瞳には一抹の寂しさが宿っていた。
ユウは俯いたまま、少し震える声で言葉を続けた。「ごめん。嫌いになるのは嘘。……君の写真を撮った時、スカリーくんとの思い出をもっと作りたいと思ったんだ。」
その言葉に、部屋の冷たい空気がふっと柔らかくなるようだった。ユウの手は小さく握られ、その指先にはほんのりと赤みが差している。ユウは言葉を紡ぐたび、目線を床から上げ、二人のスカリーに向ける。
「その時の私の想いが……ちょっと強すぎちゃったのかも。」
メモリー・スカリーはその言葉を聞くと、優しい笑みを浮かべて一歩前に進んだ。「ユウさんのせいだけではございません。想いの強さなら、我輩も負けてはおりませんので。」
その声はどこまでも柔らかく、彼の表情にはどこか満足げな色が浮かんでいた。本物のスカリーは、少し視線を逸らしながらも、口を引き結んでその場を見守っている。
メモリー・スカリーが写真に戻る準備を始めると、室内に漂う緊張感が徐々に解けていく。彼はユウの方を向き、静かに一礼した。
「短い間でしたが、貴方と過ごしたこの時間はかけがえのない思い出です。」
ユウは、彼のその言葉に心がじんわりと温まるような感覚を覚えた。ユウの瞳には、名残惜しさがほんのりと浮かんでいる。
メモリー・スカリーは続けて、静かに微笑んだ。「どうか本物の我輩を、今後ともよろしくお願い申し上げます。それに、またすぐにお目にかかれるでしょう。」
彼はそう言いながら、そっとユウの額に口づけた。その感触は羽のように軽く、ユウの額に微かな温もりを残していく。彼が退くと、まるでその温もりが余韻となって部屋に漂うようだった。
その一部始終を見届けた本物のスカリーは、微妙に顔を赤らめながら一歩前に出る。そして、静かに写真を手に取ると、抑えた声で呟いた。「貴方に言われなくとも。」
その声にはわずかな苛立ちが混ざっていたが、どこか照れた様子も感じられる。彼は写真を見つめたまま、ふと小さくため息をついた。
「……もう出てこないで頂きたい。」
その言葉は冷静に聞こえるものの、どこか安堵と照れくささを含んでいるようだった。
ユウはそんな彼の横顔を見つめ、少しだけ微笑む。「……ありがとう、スカリーくん。これからもよろしくね。」
その言葉に、本物のスカリーは顔をわずかに赤らめ、ほんのりとした笑みを浮かべながら頷いた。
オンボロ寮の部屋に漂う夜の静けさの中で、ユウはソファに腰掛け、手にした写真を見つめていた。先ほどまでこの場に存在していた「メモリー・スカリー」を思い返しながら、ユウの指先は写真の表面をそっとなぞる。革張りのソファの肌触りと、冬の冷たい空気が同時に感じられ、その対比が妙に心地よかった。
スカリーはユウの隣に座りながらも、その目は写真に釘付けになっていた。微かに眉をひそめたその表情からは、言葉にしがたい複雑な感情が見え隠れしていた。
「それにしても、あれが我輩だなんて認められません。」
スカリーの声には、少しばかり拗ねた響きが混じっている。その低く抑えられたトーンに、ユウは小さく笑みを浮かべた。
「本物のあなたにソックリってわけじゃないんだよ。」ユウはそう言いながら写真をスカリーに差し出す。写真の中の「メモリー・スカリー」は優雅に微笑んでおり、その表情にはどこか本物の彼よりも情熱的な雰囲気が漂っていた。
ユウは言葉を選びながら、頬を少し赤らめた。「メモリーカードの皆って、薄っすらだったり、出たり入ったりすることが多いんだけどね。あんなにハッキリとした実体を持ったのは、制服スカリーくんが初めてだったよ。私の思い出と、あなたの魂の一部が混ざり合って、別人みたいになるらしいんだけど。だから、気にしないでね……。」
その言葉を聞きながら、スカリーの瞳に嫉妬の色が浮かんだ。彼は自分の胸に湧き上がる感情を抑えようとしながらも、わずかに顔をしかめた。「……メモリーカードの皆さんとは…?他にも出てくる方がいらっしゃるのですか!?」
その問いには、どこか焦りが滲んでいた。自分の分身にすら嫉妬心を覚えてしまう自分に戸惑いながらも、その感情を隠しきれないスカリー。
ユウは少し困ったような表情を浮かべながら、「時々ね。でも、あんなにハッキリとしたのは初めて。スカリーくんが……特別に仲良し、だから、かなぁ……。」
その言葉に、スカリーはぱっと顔を明るくした。「……そうですか!」彼の声はどこか晴れやかで、その表情には安心感と誇らしさが浮かんでいた。
*
翌日の朝、スカリーは冬の冷たい風が吹く中、ユウを外に連れ出した。雪の積もる地面が足元で軽く軋む音が響く。凛とした冷気が頬を刺すようだったが、空気には清々しい爽やかさが漂っていた。
「今度は二人で撮りましょう。」スカリーは、ゴーストカメラを手にして微笑む。その瞳には、まるで新たな思い出を作ることに胸を躍らせているかのような輝きが宿っていた。
ユウは少し驚いたようにスカリーを見上げ、「え?二人で?」と尋ねる。その言葉には、少しだけ戸惑いながらも嬉しさを隠しきれない響きがあった。
スカリーは、頬に微かな赤みを浮かべながらも堂々と頷いた。「ええ。我輩もユウさんともっと思い出を作りたいのです。あの写真のように――ですが、今度は本物の我輩として。」
ユウは彼のその言葉に、ふっと柔らかな笑みを浮かべた。「……じゃあ、撮ろうか。」
ユウはゴーストカメラを手に取り、スカリーの隣に並んだ。雪の白さが背景に広がる中、二人の間には自然な温もりが生まれていた。スカリーの肩がほんの少し触れるたび、ユウはその感触に心が少しだけ高鳴るのを感じた。
カメラのシャッターが切られる音が響き、瞬間の光が二人を包み込む。その写真には、ユウに優しく寄り添うスカリーの穏やかな表情と、ユウの照れたような笑顔が収められていた。
その写真を手に取ったユウは、小さく笑いながら呟いた。「……いい写真だね。」
スカリーも写真を覗き込みながら、満足げに頷いた。「ええ、これでまた新たな思い出ができました。」
彼の言葉には、未来に対する期待とユウへの感謝が込められているようだった。写真には新たな「メモリー」が蓄えられ、またいつか不思議な物語を紡ぐ可能性を秘めていることを、二人はまだ知らなかった。
新たな思い出が写真の中に刻まれ、冬の空気に溶け込んでいった。冷たい風が吹く中でも、二人の心には確かな温もりが宿っているのだった。
オンボロ寮の静かな夜、ユウは自室で持ち物の整理をしていた。冬の冷たい風が窓の隙間から微かに忍び込み、空気をひんやりとさせる中、小さな机の上にはいくつかの写真やアルバムが並べられていた。
ふと棚から引っ張り出したアルバムを開くと、ページの間から数枚の写真が滑り落ちた。「あ、こんなところに……」ユウは写真を拾い上げながら、軽く埃を払う。写真の紙が指先に滑らかに触れ、微かなインクの匂いが漂う。その中に、一枚だけ特に目を引く写真があった。
「これ……スカリーくんを撮ったやつだ。」
ナイトレイブンカレッジの制服を着たスカリーがオンボロ寮の前で微笑んでいる写真。「そういえば、こんな写真も撮ったなぁ」と軽く笑い、写真をじっと見つめた。
スカリーの姿にはまだ少し緊張感が残っており、それが今の彼との違いを感じさせた。「編入したての頃だよね、なんだか懐かしいなあ……」そう呟いたその瞬間、写真がふわりと光り始めた。
「えっ?」
眩しい光に、ユウは思わず目を細める。光は暖かく、肌に優しく触れるように広がり、次第に形を成していく。目を開けた時、そこには写真の中のスカリーが実体化し、立っていた。
「ユウさん、この良き出会いに、キスを。」
スカリーは優雅な笑みを浮かべながら、軽く頭を下げると、そっとユウの手を取った。冷たく滑らかな手の感触に、ユウは一瞬驚く。
「スカリーくん……!? え、本当に出てきちゃったの!?」
驚きつつも、ユウは慌てる様子はなく、ゴーストカメラの仕組みを思い出して自然と笑みを浮かべた。「こんなこともあるんだ。あ、でもすごく元気そうだね、メモリースカリーくん!」
メモリー・スカリーはその言葉にさらに微笑みを深める。「もちろんですとも。ユウさんの写真に込められた想いが我輩をここに呼び寄せたのですから。」彼の声は甘く、心地よい響きを持っていた。
ユウが返事をしようとしたその時――部屋の扉が唐突に開いた。
「ユウさん、少々お邪魔を――!」
いつもの穏やかな声と共に現れた本物のスカリーが、部屋の中の異様な光景に硬直した。
スカリーの瞳が僅かに見開かれ、額に寄った皺が困惑を物語っている。
「スカリーくん、落ち着いて!」ユウが慌てて間に割って入ろうとするも、スカリーはすぐさまユニーク魔法「
「怪しげな存在よ、ユウさんから離れろ!」
鋭い風の音と共に、スカリーの魔力がメモリー・スカリーへ向かって放たれる。しかし、メモリー・スカリーは動じることなく同じ魔法をぶつけ、互いの力が空中でぶつかり合い、霧のように散った。
「まぁまぁ、本物の我輩よ。」メモリー・スカリーは手を胸に当て、穏やかな声で応じる。「ユウさんの前で取り乱すとは、はしたない。」
ユウは両手を広げて二人を制しようとする。「だから!スカリーくん、これはゴーストカメラの魔法で……メモリー・スカリーくんは、写真から出てきた思い出の一部なの!」
「写真からの思い出、ですか……」スカリーは冷たい目を細め、メモリー・スカリーをじっと睨む。「だとしても、その振る舞いは如何なものでしょうか。我輩のようであって、我輩ではない貴方が――ユウさんに触れるとは。少々過ぎたるものではないですか?」
一方、メモリー・スカリーはユウの手を優雅に取り、その上にそっと唇を寄せる。「ユウさんの手は本当に温かいですね。これが我輩をここに呼び戻した力だと思うと、感慨深い。」
「わっ、ちょっと、メモリースカリーくん!」ユウは慌てて手を引こうとする。
「ユウさん!」本物のスカリーが一歩前に出る。「それ以上は……許しがたい。」
「許しがたい、とは?」メモリー・スカリーが眉を上げ、挑発するような微笑みを浮かべる。「我輩の言動は、ユウさんへの感謝と好意に基づいたものですよ。本物の我輩も、それを否定はしないでしょう?」
スカリーは言葉を詰まらせ、一瞬目を逸らした。その間、ユウは二人の間に立ち、苦笑を浮かべながら深呼吸をする。
「もう、二人とも落ち着いて。争う必要なんてないでしょ?」
ユウはそう言いながら、メモリー・スカリーの手を優しく押し返す。「ありがとう。でも、もうキスは遠慮しておくね。」
その言葉に、メモリー・スカリーは小さく肩をすくめ、「そうおっしゃるなら。」と手を下ろす。
一方、本物のスカリーはユウの手をじっと見つめる。その瞳には彼の自制心と内なる感情が滲んでいた。
ユウは写真を持ちながら首を傾げる。「おかしいな……普通、メモリーはすぐにメモリーカードに戻るはずなのに。」
「ふむ……確かに長く居座りすぎですね。」本物のスカリーが小さく唸る。
「それだけ、ユウさんと我輩の絆が深いということでしょう。」メモリー・スカリーが誇らしげに言い、本物のスカリーは静かに目を細めた。
「その絆の深さとやらが、本物の我輩とユウさんを困らせる原因になっていることに気づいていただきたいものです。」
ユウは苦笑しながら、「もう、どっちも喧嘩しないでね」と優しく微笑む。その声に二人のスカリーが同時に頷き、妙な空気のまま会話は続いていく。
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オンボロ寮のユウの部屋には、張り詰めた空気が漂っていた。冬の冷たい風が窓の隙間から微かに入り込み、肌に触れるたびに静けさを強調する。その中で、二人のスカリーが対峙していた。
「ユウさんとの時間を、もっと心から楽しむべきだと思いますよ。」
メモリー・スカリーが微笑みを浮かべながら言う。その瞳には、自信と親しみが滲んでいる。「本物の我輩も、そのために存在しているのでは?」
本物のスカリーの眉間に皺が寄り、冷えた声が部屋に響く。「楽しむことと、無遠慮に触れることは別問題です。我輩は慎ましさを重んじるのです。」
「慎ましさばかりでは、肝心な想いが伝わらないのでは?」
メモリー・スカリーは肩をすくめ、少し挑発的な笑みを浮かべた。「ユウさんが我輩をここに留めてくださっているのも、そういう想いがあってのことかと。」
「勝手な解釈はやめていただきたい。」本物のスカリーの声が低くなる。「ユウさんの気持ちを盾に、居座る理由にするとは、言語道断です!」
ユウは二人の間に手を広げて、少し焦り気味に声を上げた。「ストーップ! スカリーくんたち、これ以上はやめて!」
しかし、その言葉をよそに、メモリー・スカリーがユウの手を取り、柔らかな微笑みを浮かべる。
「ご安心ください、ユウさん。我輩は貴方の願いを最優先に考えていますから。」
その手の感触は冷たく、けれどどこか優雅な動きが暖かさを感じさせるようだった。
「……それで、ユウさんの手を握る必要性は?」
本物のスカリーの瞳が鋭く細まり、冷えた声が再び響いた。
ユウは困惑しながら、二人を見回す。「ねぇ、二人とも……ちょっと落ち着こうよ。」ユウの声は震えていないが、その中には明らかに戸惑いが含まれていた。
メモリー・スカリーはユウの肩にそっと手を置く。その手の感触は冷たくも滑らかで、彼の仕草は優雅だった。
「ユウさん、この肩こり……お疲れではありませんか? 我輩が癒して差し上げます。」
その手が肩を軽く揉む動きに、ユウはぎこちなく笑いながら、「えっ、いや、大丈夫だから!」と声を上げたが、その前に本物のスカリーが立ち上がった。
「やめたまえ、貴方がすべきことではない!」
その声はいつもより低く、部屋の空気をさらに冷たくする。
「ただの肩もみですよ。」メモリー・スカリーは肩をすくめ、さらにユウの手を取り、指先をそっと覆った。「それに、指先も冷えているではありませんか。我輩が温めましょう。」
その瞬間、本物のスカリーは声を荒げた。「貴方という存在は本当に――!」
「スカリーくん!だめだって!」ユウはすぐさま二人の間に割って入り、必死に制止する。その声がかろうじて本物のスカリーの動きを止めた。
オンボロ寮の部屋は、かつてないほどの緊張感に包まれていた。冬の夜の冷気が窓の隙間から忍び込む中、室内には二人のスカリーが向かい合い、睨み合うようにして立っていた。古びた時計の秒針が逆回転を始め、机に置かれた本がふわりと宙に浮いてはゆっくりと床に落ちる。その光景は、現実と幻想の境界が曖昧になる瞬間を思わせた。
ユウはその異変に気づき、目を見開いた。「なにこれ!?部屋がおかしくなってる……!」
その声には戸惑いと不安がにじみ、冷たい空気の中にかすかに震えるように響いた。
本物のスカリーがすぐに分析を始める。いつもの冷静な声だが、その中に緊張感が含まれている。「これは……我輩とメモリーの魔力が干渉し合っているのでは?長く衝突を続ければ、部屋そのものが壊れかねません!」
ユウはその言葉に驚き、「部屋が壊れたら本当に困るよー!?」と慌てて声を上げた。その声がかき消されるように、部屋の中の空間がわずかに歪み、窓ガラスには蜘蛛の巣状のひび模様が広がっていく。
メモリー・スカリーは眉をひそめ、少し落ち着いた声で言った。「……ユウさんにこれ以上ご迷惑をかけるのは本意ではありません。」その瞳には真剣さが宿り、彼もまた事態を重く受け止めている様子だった。
「ではどうぞ本物さん、用が無ければお帰りくださいませ。」メモリー・スカリーは優雅に微笑みながら、あくまで余裕を見せる。
本物のスカリーはその言葉に顔を曇らせ、冷たい声で応じた。「なぜ我輩が?この空間の安定のためにも、貴方がカードに戻るべきでは?」
メモリー・スカリーは肩をすくめ、軽い調子で答える。「我輩をここに呼び留めたのは、ユウさんの心ですよ。本物の我輩にその気持ちを理解するだけの柔軟性があれば、争いは無用なのですが。」
「貴方は言葉を[[rb:弄 > ろう]]しているが、行動には節度が足りません。」本物のスカリーの声が低く響く。その視線には怒りと困惑が交じり合い、ユウへの配慮が見え隠れしていた。
ユウは二人を見比べ、額に手を当てて小さくため息をついた。「うーん、だめだこれ……。」
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ユウがぽつりと呟いた。
「……このままだと、スカリーくんたちのこと、ちょっと嫌いになっちゃうかも……。」
その一言に、二人のスカリーが同時に声を上げた。「えっ!?」
二人の驚きは、互いに相手を意識し合っていた険悪な空気を一瞬でかき消した。本物のスカリーもメモリー・スカリーも、目を見開き、言葉の意味を探ろうとするようにユウを見つめる。
「「そんなぁ!!」」
ユウは二人の息の合った反応に、一瞬だけ笑いそうになったが、すぐに顔を伏せた。その姿を見たメモリー・スカリーが、ゆっくりと一歩後ろに下がり、静かに口を開いた。
「仕方ありません……。今回は我輩が身を引きましょう。」
その声は穏やかだったが、心の奥に名残惜しさを秘めているのがわかる。彼の表情は微笑を浮かべていたが、その瞳には一抹の寂しさが宿っていた。
ユウは俯いたまま、少し震える声で言葉を続けた。「ごめん。嫌いになるのは嘘。……君の写真を撮った時、スカリーくんとの思い出をもっと作りたいと思ったんだ。」
その言葉に、部屋の冷たい空気がふっと柔らかくなるようだった。ユウの手は小さく握られ、その指先にはほんのりと赤みが差している。ユウは言葉を紡ぐたび、目線を床から上げ、二人のスカリーに向ける。
「その時の私の想いが……ちょっと強すぎちゃったのかも。」
メモリー・スカリーはその言葉を聞くと、優しい笑みを浮かべて一歩前に進んだ。「ユウさんのせいだけではございません。想いの強さなら、我輩も負けてはおりませんので。」
その声はどこまでも柔らかく、彼の表情にはどこか満足げな色が浮かんでいた。本物のスカリーは、少し視線を逸らしながらも、口を引き結んでその場を見守っている。
メモリー・スカリーが写真に戻る準備を始めると、室内に漂う緊張感が徐々に解けていく。彼はユウの方を向き、静かに一礼した。
「短い間でしたが、貴方と過ごしたこの時間はかけがえのない思い出です。」
ユウは、彼のその言葉に心がじんわりと温まるような感覚を覚えた。ユウの瞳には、名残惜しさがほんのりと浮かんでいる。
メモリー・スカリーは続けて、静かに微笑んだ。「どうか本物の我輩を、今後ともよろしくお願い申し上げます。それに、またすぐにお目にかかれるでしょう。」
彼はそう言いながら、そっとユウの額に口づけた。その感触は羽のように軽く、ユウの額に微かな温もりを残していく。彼が退くと、まるでその温もりが余韻となって部屋に漂うようだった。
その一部始終を見届けた本物のスカリーは、微妙に顔を赤らめながら一歩前に出る。そして、静かに写真を手に取ると、抑えた声で呟いた。「貴方に言われなくとも。」
その声にはわずかな苛立ちが混ざっていたが、どこか照れた様子も感じられる。彼は写真を見つめたまま、ふと小さくため息をついた。
「……もう出てこないで頂きたい。」
その言葉は冷静に聞こえるものの、どこか安堵と照れくささを含んでいるようだった。
ユウはそんな彼の横顔を見つめ、少しだけ微笑む。「……ありがとう、スカリーくん。これからもよろしくね。」
その言葉に、本物のスカリーは顔をわずかに赤らめ、ほんのりとした笑みを浮かべながら頷いた。
オンボロ寮の部屋に漂う夜の静けさの中で、ユウはソファに腰掛け、手にした写真を見つめていた。先ほどまでこの場に存在していた「メモリー・スカリー」を思い返しながら、ユウの指先は写真の表面をそっとなぞる。革張りのソファの肌触りと、冬の冷たい空気が同時に感じられ、その対比が妙に心地よかった。
スカリーはユウの隣に座りながらも、その目は写真に釘付けになっていた。微かに眉をひそめたその表情からは、言葉にしがたい複雑な感情が見え隠れしていた。
「それにしても、あれが我輩だなんて認められません。」
スカリーの声には、少しばかり拗ねた響きが混じっている。その低く抑えられたトーンに、ユウは小さく笑みを浮かべた。
「本物のあなたにソックリってわけじゃないんだよ。」ユウはそう言いながら写真をスカリーに差し出す。写真の中の「メモリー・スカリー」は優雅に微笑んでおり、その表情にはどこか本物の彼よりも情熱的な雰囲気が漂っていた。
ユウは言葉を選びながら、頬を少し赤らめた。「メモリーカードの皆って、薄っすらだったり、出たり入ったりすることが多いんだけどね。あんなにハッキリとした実体を持ったのは、制服スカリーくんが初めてだったよ。私の思い出と、あなたの魂の一部が混ざり合って、別人みたいになるらしいんだけど。だから、気にしないでね……。」
その言葉を聞きながら、スカリーの瞳に嫉妬の色が浮かんだ。彼は自分の胸に湧き上がる感情を抑えようとしながらも、わずかに顔をしかめた。「……メモリーカードの皆さんとは…?他にも出てくる方がいらっしゃるのですか!?」
その問いには、どこか焦りが滲んでいた。自分の分身にすら嫉妬心を覚えてしまう自分に戸惑いながらも、その感情を隠しきれないスカリー。
ユウは少し困ったような表情を浮かべながら、「時々ね。でも、あんなにハッキリとしたのは初めて。スカリーくんが……特別に仲良し、だから、かなぁ……。」
その言葉に、スカリーはぱっと顔を明るくした。「……そうですか!」彼の声はどこか晴れやかで、その表情には安心感と誇らしさが浮かんでいた。
*
翌日の朝、スカリーは冬の冷たい風が吹く中、ユウを外に連れ出した。雪の積もる地面が足元で軽く軋む音が響く。凛とした冷気が頬を刺すようだったが、空気には清々しい爽やかさが漂っていた。
「今度は二人で撮りましょう。」スカリーは、ゴーストカメラを手にして微笑む。その瞳には、まるで新たな思い出を作ることに胸を躍らせているかのような輝きが宿っていた。
ユウは少し驚いたようにスカリーを見上げ、「え?二人で?」と尋ねる。その言葉には、少しだけ戸惑いながらも嬉しさを隠しきれない響きがあった。
スカリーは、頬に微かな赤みを浮かべながらも堂々と頷いた。「ええ。我輩もユウさんともっと思い出を作りたいのです。あの写真のように――ですが、今度は本物の我輩として。」
ユウは彼のその言葉に、ふっと柔らかな笑みを浮かべた。「……じゃあ、撮ろうか。」
ユウはゴーストカメラを手に取り、スカリーの隣に並んだ。雪の白さが背景に広がる中、二人の間には自然な温もりが生まれていた。スカリーの肩がほんの少し触れるたび、ユウはその感触に心が少しだけ高鳴るのを感じた。
カメラのシャッターが切られる音が響き、瞬間の光が二人を包み込む。その写真には、ユウに優しく寄り添うスカリーの穏やかな表情と、ユウの照れたような笑顔が収められていた。
その写真を手に取ったユウは、小さく笑いながら呟いた。「……いい写真だね。」
スカリーも写真を覗き込みながら、満足げに頷いた。「ええ、これでまた新たな思い出ができました。」
彼の言葉には、未来に対する期待とユウへの感謝が込められているようだった。写真には新たな「メモリー」が蓄えられ、またいつか不思議な物語を紡ぐ可能性を秘めていることを、二人はまだ知らなかった。
新たな思い出が写真の中に刻まれ、冬の空気に溶け込んでいった。冷たい風が吹く中でも、二人の心には確かな温もりが宿っているのだった。