【スカリーくんと監督生が名前を呼びあうだけ】

学園の廊下は、夕陽が冷たい石の床を温かく染めていた。窓越しに見える雪は静かに舞い、冬の冷気が肌を微かに撫でる。そんな中、スカリーとユウは並んで歩いていた。

「ユウさん、ずっと気になっていたことがあるのですが……」
スカリーの低く柔らかな声が静かな廊下に響いた。

「何？」
ユウが小首をかしげると、スカリーは一瞬視線を逸らしたが、すぐに真剣な目で見つめ直した。

「エースさんやデュースさん、グリムさんなど、貴方が呼び捨てにしているのをよく耳にします。それなのに、我輩のことは『スカリーくん』と呼ぶのですね。」

ユウは驚いたように目を丸くした。「え、ダメかな？『スカリーくん』って呼びやすくて……。」

「いえ、決して咎めているわけではございません。ただ、我輩だけなぜ呼び捨てではないのかと。」
スカリーは微かに顔を赤らめたが、その表情は真剣そのものだった。夕陽の光が彼の白い髪と端正な横顔を優しく包んでいた。

ユウは少し戸惑いながらも「ス、スカリー……？」と試しに呼んでみた。その響きはぎこちなく、どこか頼りない。普段と違う呼び方をした自分に照れくささが込み上げ、ユウは息を詰めるように唇を引き結んだ。

「……やっぱりなんか違うかも！」
そう言って慌てて口を押さえるユウの姿に、スカリーの瞳が微かに揺れた。その目には驚きや戸惑いを超えた、愛おしさが静かに宿っていた。

「何が違うのでしょう？」
スカリーの問いかけに、ユウは考え込みながら小声で答えた。「うーん……なんか、スカリーくんを呼び捨てにするのは……上手く説明できない。」

「『スカリーくん』って呼ぶと、なんかしっくりくるんだよね。他の人は呼び捨てにしても普通なんだけど、スカリーくんだけは、そうじゃないと落ち着かないっていうか……。」

その言葉を聞いたスカリーの目が微かに見開かれ、口元に穏やかな笑みが浮かんだ。「なるほど……つまり、我輩だけが特別だと？」

「あ、あんまり深く考えないで！」
ユウは照れ隠しに手を軽く振り、視線を逸らした。その頬には赤みが差し、服の裾を無意識につまむ仕草が戸惑いを物語っていた。

スカリーはユウのその動作を目に留め、微かに目を細めた。その瞳にはからかいではなく、愛おしむような温かさが宿っていた。「では、貴方が『スカリーくん』と呼ぶのを気に入っているのなら、我輩もその呼び方を喜びましょう。」

ユウはほっとしたように息をつき、小さく笑った。「……ありがとう。スカリーくん。」

「それにさ、スカリーくんもみんなを“さん付け”で呼んでるよね？私のことも、『ユウさん』って。」
ユウはくすっと笑いながら続ける。「スカリーくんも呼び捨てにするの、苦手なの？」

スカリーは顎に手を当てて考え込む。「それは我輩の礼儀であり、敬意を表しているのです。素敵な貴方には、礼を尽くすべきではありませんか？」

「ほらね、スカリーくんも私と同じだよ。結局お互い様じゃない。」
ユウの言葉に、スカリーは肩をすくめ、少し照れたように苦笑した。「確かに、言われてみればその通りですね。ただ、いつかは……。」

「じゃあ、今まで通りでいいかな。」
ユウが柔らかく言うと、スカリーは小さく頷いた。「……ええ、貴方がそう望むのならば。」

廊下は夕陽の光に満たされ、二人の足音だけが静かに響いた。雪が降り続ける窓の外には、冬の冷たい空気が澄み渡っている。

「でもさ、スカリーくん……もし私が呼び捨てで呼べるようになったら、どうする？」
ユウが冗談めかして問いかける。

「その日が来たなら、それは我輩にとって非常に喜ばしい日となるでしょう。しかし、今は貴方が『スカリーくん』と呼んでくださるその言葉こそ、我輩にとって何よりも大切な贈り物なのです。」

ユウはその答えに満足げに微笑み返し、廊下に二人だけの時間が流れていった。