【スカリーくんが監督生への手紙を書くだけ】

我輩は部屋の片隅に佇むデスクに向かい、静かに椅子を引いた。古びた木材がわずかにきしむ音を立て、夜の静寂を小さく裂いた。その音が妙に響くほど、この空間には誰の気配もない。ランタンの揺れる炎だけが薄い光を投げかけ、壁に映る我輩の影を揺らめかせていた。ロウが焦げる独特の匂いが微かに漂い、温かな光がデスク上の紙とペンを優しく包み込んでいる。

指先を羊皮紙に滑らせ、そのざらつきを確かめる。この紙は購買で特別に取り寄せたもので、この時代ではほとんど使われなくなったものだ。だが、我輩には馴染み深い素材であり、手に取るたびに記憶の奥底から懐かしい感覚が蘇る。羊皮紙のしっかりとした重みが、これから記す言葉の重さを支えてくれるように思えた。

インク瓶にペンを浸し、その黒い液体が羊皮紙へと流れ出す瞬間をじっと待つ。この行為そのものが、胸の内に燻る思いを少しずつ解き放つための儀式のようだった。

最初の一文を記す。「最愛なるユウ様へ。」
ペン先が紙を滑る微かな音が静寂を切り裂き、そのたびに手首に伝わる抵抗感が心地よい。紙のざらつきがペンに絡み、筆跡がゆっくりと浮かび上がる。この瞬間、我輩の意識はすべてこの言葉を書く行為に集中していた。

「この手紙が貴方の手に届く頃、我輩はすでに貴方の傍を離れていることでしょう。」
続く一文を記しながら、ふと視線がランタンの揺れる炎に引き寄せられる。その光は頼りなく揺れ、どこか儚さを帯びていたが、不思議と温かさを感じさせる。その不安定さはまるで我輩と貴方との関係そのものを映し出しているようで、胸の奥がきゅっと締め付けられた。

この手紙を貴方に託す日が来たなら、それはおそらく我輩が最後に貴方に触れる機会となるだろう。その考えが脳裏をかすめるたび、心が冷たい手で握られるような感覚に囚われる。それでも筆を止めることはない。たとえ言葉が追いつかなくとも、書き続けることでこの想いを形に残せる気がしてならなかった。

誰かが言った、手紙とは心の贈り物であると。我輩もまた、その通りだと信じている。ペンを走らせながら、貴方の面影が自然と浮かぶ。優しく微笑むその表情、困った時に少し口を尖らせる仕草――すべてが我輩にとっては無二の宝だ。

指先に触れる紙のざらつき、インクが乾く微かな匂い、そのすべてがこの瞬間に深い意味を与えていた。ランタンの灯りの中、我輩は静かに心を込めて書き続けた。この一文字一文字が、貴方への愛と敬意の証であり、我輩の胸に宿る永遠の思いそのものだった。



最愛なるユウ様へ

この手紙が貴方の手に届く頃、我輩はすでに貴方の傍を離れていることでしょう。それでもなお、このように言葉をしたためずにはいられないのは、我輩の胸中に溢れる思いを抑える術を持たぬからに他なりません。愛しき貴方よ、どうかこの声なき叫びを受け止めてくださいませ。

この言葉が貴方の心にどれほど響くのか、あるいは軽々しく感じられてしまうのか――その恐れを抱きつつ、それでも記さずにはおれません。我輩が抱える想いを全て綴るには、何百枚もの紙を費やしても足りぬでしょう。

我輩は、貴方を愛しております。心の底から、そして命尽きるその瞬間まで。そして願わくば、同じ墓標の下で永遠の眠りを分かち合うことができれば、我輩の魂はどれほど満たされることでしょう。

しかし、それは叶わぬ夢だと、我輩は悟っております。背負うべき使命があり、それに従う限り、貴方と共に歩むことは叶わぬ運命にございます。たとえ胸がどれほど悲鳴を上げようとも、この宿命から逃れることは許されず、ましてやその重荷を貴方に背負わせることなど断じてあってはなりません。

それでも、愛しい貴方をこの手で連れ去りたい――誰の目にも触れぬ場所へ、恐怖と悪夢の深淵に貴方と共に身を沈めたい。その衝動は、ハロウィンの闇に踊る影のごとく、我輩の胸中を支配しております。貴方は我輩にとって永遠そのもの――眩い光であり、恐怖であり、憧れであり、そして甘美なる悪夢そのものです。

貴方と共に過ごしたひとときは、すべてがかけがえのないものでした。その思い出は、我輩の心を潤しながらも、離れることを赦さぬ鎖ともなりました。もし許されるなら、我輩は貴方にこの胸中の全てを伝え尽くしたい。しかし、それすらも我輩のわがままに過ぎません。

この告白が貴方に届かぬかもしれない、あるいは受け入れられぬかもしれないことは承知しております。それでも、どうしてもお伝えせずにはいられないのです――貴方との出会いがいかに我輩の世界を変えたのか、貴方がどれほど我輩にとって唯一無二の存在であるのかを。

どうか、この想いだけは忘れないでください。我輩が貴方をこの上なく愛していたことを。そして、いつの日か――ハロウィンの夜、月光が照らす丘で再びお会いできるその日が訪れることを夢見ております。それが我輩の最後の願いでございます。

貴方の未来が、幸福と希望に満ちたものでありますように――

貴方の光に魅せられた哀れなる者より
スカリー・J・グレイブス

*

最後の一文を記し終えた時、我輩はそっとペンを置いた。机に軽く響く音が、静まり返った部屋の中に一瞬だけ響く。指先にぬるりとした感触が残り、それがインクによるものだと気づくと、手元に置いた布で丁寧に拭い取った。その行為さえも、どこか儀式めいて感じられる。

書き上げた手紙をじっと見つめる。その言葉たちには、我輩がこれまで口に出すことのできなかったすべてが詰まっている。紙の表面に残るインクの艶やかさが、まるで我輩の胸の奥から滲み出た感情そのもののように思えた。心の中に閉じ込めていたものを、こうして解き放ったという安堵が、わずかに重かった胸を軽くする。

だが、同時に静かな悲しみも湧き上がる。この手紙を貴方に渡すという行為は、運命の避けられぬ一瞬を迎えることを意味するからだ。その覚悟が胸を締めつけ、わずかな熱を持って内側に広がっていく。

書き上げた手紙をそっと折り畳む。羊皮紙が柔らかい音を立てるたび、指先にそのざらつきが伝わる。それを封筒に収めたものの、まだ封を閉じることはしなかった。その封筒をデスクの端に静かに置くと、わずかなため息が漏れる。これが必要となる日が来るだろう。しかし、その時がいつであるにせよ、今はこうして言葉にすることで一つの区切りをつけられた気がした。

揺らめくランタンの灯りが、封筒を温かく包み込む。その光はわずかにオレンジがかっており、夜の冷たさとは対照的な穏やかさを帯びている。我輩は静かに息を吐き、椅子に背を預けた。木製の椅子のひんやりとした背もたれが、疲れた体を支える感触が心地よい。

夜の闇がさらに深まっていくのを感じる。しかし、胸の中には不思議な穏やかさが広がっていた。まるで、貴方への想いが形を得たことで、この静かな夜が少しだけ特別なものになったかのように。目を閉じ、しばしその余韻に浸る我輩の耳に、微かな風の音が届いた。それは、この手紙が未来へと運ばれる希望のように感じられた。