【スカリーくんと監督生が麓の街で買い物しているだけ】

休日の午後、麓の街の穏やかな賑わいに包まれながら、スカリーとユウはゆったりと買い物を楽しんでいた。石畳の通りを行き交う人々、道端の露店から漂う香ばしいパンの匂い、遠くで響く楽器の音色が、二人の周りを柔らかく彩る。手に提げた袋の中には、寮で必要な日用品が整然と収められていた。

「これで必要なものは全部揃ったかな？」とユウが軽く確認すると、スカリーは頷きながら「素敵な貴方のおかげで、実に効率的な買い物となりました」と微笑む。その穏やかな声色に、ユウは小さく笑みを浮かべた。

そんな折、スカリーの足が不意に止まった。目の前に現れたのは、ひっそりと佇むアンティークショップ。木製の看板には細やかな装飾が施されており、風化した文字が歴史の重みを感じさせる。窓越しに見える店内には、古びた時計やランプ、味わい深い陶器が所狭しと並んでいる。

「少し立ち寄ってもよろしいですか？」とスカリーが問いかけると、ユウは「いいよ、面白そうだね」と同意した。店内に足を踏み入れると、微かに埃の混じった香りが二人を迎えた。木の床は歩くたびに軋み、小さな窓から差し込む陽光が、ガラスや金属に反射して柔らかな光を放つ。

スカリーの目はすぐに棚の上の古びた道具に吸い寄せられた。彼の指がそっと革張りのノートや繊細な装飾が施されたティーポットに触れる。手袋越しに伝わる滑らかな感触に、わずかな懐かしさを覚えたのだろうか。

ユウはその様子を見て、「スカリーくん、何か気になるものがあった？」と尋ねた。スカリーは少し間を置き、「ただ、こうした古いものには時代を超えた魅力がございますね。我輩は、こういった趣深いものを見ると、つい想像が膨らんでしまうのです」と微笑みを浮かべながら答えた。

ユウはその言葉に頷き、「なんだかスカリーくんらしいね。そういうものに惹かれる気持ち、ちょっと分かる気がする」と言葉を返した。その声には純粋な共感が込められており、スカリーは静かに目を細めた。

ふと、棚の一角に置かれたペンを手に取るスカリーの姿が目に入った。
スカリーはその重みを確かめるように指先で転がした。ペンの金属部分はくすんでいたものの、細やかな装飾が施され、時間を超えてもなお主張する美しさがあった。その気品は、どこかユウの佇まいを彷彿とさせた。

「素敵な貴方には、このペンが相応しいと思いますが、いかがでしょう？」とスカリーが微笑みながら差し出す。ユウは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにそのペンを受け取り、指先でなぞりながらじっと見つめた。冷たい金属の感触が心地よく、どこか懐かしさを感じさせる。

「すごく綺麗だね。でも、これを買うつもりだったの？」ユウが少し遠慮がちに尋ねると、スカリーは「いえ、これは我輩から貴方へのささやかな贈り物にございます」と迷いのない声で答えた。その言葉に、ユウは一瞬戸惑いながらも、目を細めて微笑む。

「ありがとう、スカリーくん。でもいいの？こんなに素敵なものを買ってもらっちゃって」とユウが言うと、スカリーは静かに首を振った。「このペンは、貴方の手で新たな物語を紡ぐにふさわしい道具です。我輩にとって、それを見ることが何よりの喜びなのですから」と穏やかに答えた。

レジで購入を済ませると、スカリーは丁寧に包まれたペンをユウの手に渡しながら「これが貴方に素晴らしいインスピレーションをもたらすことを願っております」と微笑んだ。ユウはその言葉に深く頷き、「スカリーくん、ありがとう。本当に大事にするね」と素直な声で感謝を述べた。

店を出た後も、ユウの手にはしっかりと包みが握られていた。その姿を横目で見つめながら、スカリーは胸の奥に芽生える温かさを感じていた。この贈り物が、彼らの絆をより深く結びつける象徴となることを、スカリーはどこか確信しているようだった。

空は徐々に夕焼けに染まり始めていた。スカリーの表情にはどこか安堵と満足感が浮かんでおり、ユウはそれを微笑ましく見守っていた。その手に持つアンティークペンが、今後の寮での何気ない日々を彩るきっかけになるかもしれない——そんな期待を胸に、二人は街の石畳を再び歩き出した。

*

あのペンを見つけた瞬間、胸の奥に小さな灯火が灯るような感覚がした。我輩の時代でよく使われているペンとそっくりだったからだ。滑らかに磨かれた金属の輝きや、手にしっくりと馴染む重さ。その感触を確かめながら、記憶がふわりとよみがえる。昔、文字を書くことが今以上に重んじられていた我輩の時代――そんな世界をほんの少しでも貴方に感じてもらえたら、と思わずにはいられなかった。

「素敵な貴方なら、このペンをどんな風に使うのだろうか？」と考えた。我輩がそうしてきたように、大切な言葉や気持ちを一文字ずつ丁寧に紡ぐのか。それとも、気まぐれに紙の上に自由な線を描くのか。どちらであっても、言葉を紡ぐ力は、その人自身の心を形にする魔法のようなものだと、我輩は信じている。

このペンが貴方の傍で新しい物語を刻むことになる――ユウがこのペンを手にし、日常の中で使う姿を思い浮かべる。それだけで心が温かくなる。時に手紙を書き、時に落書きをし、気づけばインクが手につく――そんな些細な瞬間にも、我輩の願いがそっと宿っているように思えるのだ。この小さな贈り物が、貴方の未来に何かしらの意味を持つのならば、これ以上の喜びはない。

「愛しい貴方と、お揃いのものを」と口に出しそうになり、我輩はハッと息を飲んだ。危うく、気持ちをそのまま漏らしてしまうところだった。言葉にしてしまえば、ただの買い物が特別な意味を持つことに気づかれてしまうかもしれない。貴方に秘密を悟られるかもしれない。貴方に知られたくない――そして、知ってほしい。この相反する気持ちが、我輩を不思議な緊張とともに包んでいる。

貴方がこれを使う未来の光景を思い浮かべる。そんな些細な日常の中に、このペンが静かに寄り添っているのを想像する。それはささやかで、けれど確かなつながりだ。我輩の胸の奥にある伝えられない想いの代わりに、この贈り物が貴方の手元で長く愛されるよう願うばかりだ。