HRH
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「髪、バッサリ切ろっかなー」
毛先をいじりながらぽつりとエイダが言った。
秋に相応しい色合いが指先の動きに合わせて揺れている。周囲の木々は瑞々しさ溢れる緑から赤や黄へと染まってきた頃合いで、隣を歩く赤髪は一足先に紅葉のピークを迎えたようにも見えた。
あと一週間も経てばこの並木道も紅葉しきってさぞ見応えのある光景となるのだろう。
「そんな事言い出すなんて珍しいね」
「これから着込んだり襟に巻いたりするじゃん?まとめてないと襟周りがもっさりしてねぇ」
「そんなに気になる事なの?」
「首回りにボリュームありすぎるとバランス悪く見えるしさ、ヒーローとしては見た目の印象にも気を使わないと」
確かに秋から冬へ移り変わる時期には彼女達が似たようなことを言っているような気がする。なんでも可愛くまとまらないだとか、まとめても崩れず保つのが難しいだとか。
フェイスにとっては縁のない悩みなのでおかしな事で悩むと思っていたけれど、どうやら女性なら多かれ少なかれ抱く悩みのようだ。
エイダの場合、ロングヘアを下ろしている事が多いので尚更かもしれない。
「なるほどねぇ」
「ショートなら乾かすのも早くなるしサッパリしていいかな」
元々活発な印象が強いエイダの事だ。短くしてもよく似合うだろう。
そう思いつつひと房手に取り、癖のない滑らかな手触りを楽しむ。
口に出した事は少ないがフェイスはエイダの長髪を気に入っている。風や動きに合わせてなびくと自然と目で追ってしまうし、陽光で鮮やかな色合いへと変わる様子は心惹かれる。友人のものとはいえ短くなってしまうのはもったいないと思う程度には愛着があるのだ。
「俺、エイダの長い髪好きなんだけどな」
「そうだったんだ?でも大丈夫。また伸びるよ」
大抵の女の子はこう言うと顔を赤らめたり慌てふためきながら考えを改めるのだが、今回のエイダは意に介した様子もない。もう少しひねりのあるセリフでないと効果がないようだ。
フェイスは少し考える様子を見せてから「でも却下」と口にした。
怪訝そうに眉を寄せたエイダが目線をフェイスへと移す。
「ほう、理由を聞こうか」
「もこもこし始めるエイダの首周り見て季節感感じてるからダメ」
きょとんとしていた表情がみるみるうちに可笑しくてたまらないと言わんばかりの破顔に変わった。
「あっははは!なにそれ?」
「そんなにおかしい?」
「そんな理由初めて聞いたよ!」
しれっとしたフェイスの様子が更なるツボに入ったのか、目尻を拭うようなそぶりまで見せていた。そこまで面白い事を言ったつもりはなかったが、それだけお気に召したのなら先ほどよりは期待できるだろう。
フェイスの思惑通り、ひとしきり笑って気が済んだのかふぅ……と息をついたエイダは腕組みをしてなんだか自慢げな表情をしてみせた。
「でもまあ、季節感を提供していたなら仕方ないな。このままで見苦しくならないよう頑張ってみるか」
「そうそう。俺から季節感奪わないでね」
「面白かったからアリって事にしとくけど、もっと他の事で季節感じなよ」
「身近にいるから感じやすいんだよ」
「そーですか」
「それに髪切ると首周りが冷えるからこの先堪えるんじゃない?」
「それもあるな。そうなると切るタイミング考えちゃう、……っ」
一際強い風が吹き、二人は揃って身を縮こまらせた。制服の上から支給されているブルゾンを羽織っているものの隙間から入り込む冷気はじわりじわりと身に染みる。顔や手はさらけ出されているので尚更だ。
日に日に冷たさが増していく空気は冬の訪れを予感させる。
「これからもっと寒くなるからパトロールしんどくなるぞー」
「きっつ……。あーあ、そろそろホットショコラが出始まるから嫌いじゃなかったのに。早朝パトロールとか考えるだけでしんど……」
「ほんと好きだねぇ。あ、行く時は声かけてよ」
「いいけどホットショコラ好きだったっけ?」
「寒くなってくると誰かさんがいつも飲んでるからつられて飲みたくなってくるの」
「ふーん?随分とその誰かさんの影響受けてるんだね?」
「そのくらい身近にいる人だからね。よっし、行くまでに今年のメニュー見ておこうっと」
いつだったかのスパイシーホットショコラもよかったなーと呟くエイダの足取りは髪を切ろうか悩んでいた時よりも心なしか軽く見える。ちょっとした憂鬱の種よりも少し先に据えた楽しみの方が上回ったのだろう。
ホント単純、と思いながらつられて自分も頭に浮かんだレコードのメロディーを口ずさむ。昔流行っていたポップスに影響を受けて作られた、洗練されているのにどこか懐かしいナンバーだ。エイダも鼻歌に合わせて小さく体を揺らしながら歩いている。ああ、悪くないなと思う。
言葉にしがたいけれど、フェイスにとってこういった過ごし方は好ましいものだった。
少しずつ深まっていく秋を感じながら二人は並木道を進む。ゆったりと、時間を楽しむように。
毛先をいじりながらぽつりとエイダが言った。
秋に相応しい色合いが指先の動きに合わせて揺れている。周囲の木々は瑞々しさ溢れる緑から赤や黄へと染まってきた頃合いで、隣を歩く赤髪は一足先に紅葉のピークを迎えたようにも見えた。
あと一週間も経てばこの並木道も紅葉しきってさぞ見応えのある光景となるのだろう。
「そんな事言い出すなんて珍しいね」
「これから着込んだり襟に巻いたりするじゃん?まとめてないと襟周りがもっさりしてねぇ」
「そんなに気になる事なの?」
「首回りにボリュームありすぎるとバランス悪く見えるしさ、ヒーローとしては見た目の印象にも気を使わないと」
確かに秋から冬へ移り変わる時期には彼女達が似たようなことを言っているような気がする。なんでも可愛くまとまらないだとか、まとめても崩れず保つのが難しいだとか。
フェイスにとっては縁のない悩みなのでおかしな事で悩むと思っていたけれど、どうやら女性なら多かれ少なかれ抱く悩みのようだ。
エイダの場合、ロングヘアを下ろしている事が多いので尚更かもしれない。
「なるほどねぇ」
「ショートなら乾かすのも早くなるしサッパリしていいかな」
元々活発な印象が強いエイダの事だ。短くしてもよく似合うだろう。
そう思いつつひと房手に取り、癖のない滑らかな手触りを楽しむ。
口に出した事は少ないがフェイスはエイダの長髪を気に入っている。風や動きに合わせてなびくと自然と目で追ってしまうし、陽光で鮮やかな色合いへと変わる様子は心惹かれる。友人のものとはいえ短くなってしまうのはもったいないと思う程度には愛着があるのだ。
「俺、エイダの長い髪好きなんだけどな」
「そうだったんだ?でも大丈夫。また伸びるよ」
大抵の女の子はこう言うと顔を赤らめたり慌てふためきながら考えを改めるのだが、今回のエイダは意に介した様子もない。もう少しひねりのあるセリフでないと効果がないようだ。
フェイスは少し考える様子を見せてから「でも却下」と口にした。
怪訝そうに眉を寄せたエイダが目線をフェイスへと移す。
「ほう、理由を聞こうか」
「もこもこし始めるエイダの首周り見て季節感感じてるからダメ」
きょとんとしていた表情がみるみるうちに可笑しくてたまらないと言わんばかりの破顔に変わった。
「あっははは!なにそれ?」
「そんなにおかしい?」
「そんな理由初めて聞いたよ!」
しれっとしたフェイスの様子が更なるツボに入ったのか、目尻を拭うようなそぶりまで見せていた。そこまで面白い事を言ったつもりはなかったが、それだけお気に召したのなら先ほどよりは期待できるだろう。
フェイスの思惑通り、ひとしきり笑って気が済んだのかふぅ……と息をついたエイダは腕組みをしてなんだか自慢げな表情をしてみせた。
「でもまあ、季節感を提供していたなら仕方ないな。このままで見苦しくならないよう頑張ってみるか」
「そうそう。俺から季節感奪わないでね」
「面白かったからアリって事にしとくけど、もっと他の事で季節感じなよ」
「身近にいるから感じやすいんだよ」
「そーですか」
「それに髪切ると首周りが冷えるからこの先堪えるんじゃない?」
「それもあるな。そうなると切るタイミング考えちゃう、……っ」
一際強い風が吹き、二人は揃って身を縮こまらせた。制服の上から支給されているブルゾンを羽織っているものの隙間から入り込む冷気はじわりじわりと身に染みる。顔や手はさらけ出されているので尚更だ。
日に日に冷たさが増していく空気は冬の訪れを予感させる。
「これからもっと寒くなるからパトロールしんどくなるぞー」
「きっつ……。あーあ、そろそろホットショコラが出始まるから嫌いじゃなかったのに。早朝パトロールとか考えるだけでしんど……」
「ほんと好きだねぇ。あ、行く時は声かけてよ」
「いいけどホットショコラ好きだったっけ?」
「寒くなってくると誰かさんがいつも飲んでるからつられて飲みたくなってくるの」
「ふーん?随分とその誰かさんの影響受けてるんだね?」
「そのくらい身近にいる人だからね。よっし、行くまでに今年のメニュー見ておこうっと」
いつだったかのスパイシーホットショコラもよかったなーと呟くエイダの足取りは髪を切ろうか悩んでいた時よりも心なしか軽く見える。ちょっとした憂鬱の種よりも少し先に据えた楽しみの方が上回ったのだろう。
ホント単純、と思いながらつられて自分も頭に浮かんだレコードのメロディーを口ずさむ。昔流行っていたポップスに影響を受けて作られた、洗練されているのにどこか懐かしいナンバーだ。エイダも鼻歌に合わせて小さく体を揺らしながら歩いている。ああ、悪くないなと思う。
言葉にしがたいけれど、フェイスにとってこういった過ごし方は好ましいものだった。
少しずつ深まっていく秋を感じながら二人は並木道を進む。ゆったりと、時間を楽しむように。
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