青春鉄道
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残業が連日続いたことや、最近の猛暑の影響なのかく眠れない日々が続いている。体は疲れているはずなのにうまく寝付けず、浅い眠りを積み重ねているだけなのだ。
そのせいで仕事中に眠気がやってくるわ、夏バテも併発したのか食欲が湧かないわで悪循環と化している気がする。
「あつい……ねむい……しぬ……」
そんなうわ言を発しながら廊下を徘徊していると都営浅草さんとすれ違った。
「お疲れ様です……」
「ああ、なまえちゃんお疲れー……ってなんかゾンビみたいな顔色してない!?」
「大丈夫……だといいですね……はは」
失礼なことを言われた気がするが、正直それすらも気にしている余裕がなかった。実際のところ今の私はゾンビ同然だ。
「ちょっと、本当に大丈夫?顔色悪いよ?」
「はい……なんとか」
そう答えながら私はふらふらとした足取りでその場を後にしたのだった。
とりあえずカフェインを取れば多少は頭が働くだろうと、コーヒーを求めて自販機コーナーへと向かう。ずらりと並ぶ自販機の中から適当なものを選び小銭を入れた。
「えーと、ブラックコーヒーは……」
購入ボタンを押そうとしたところで横からにゅっと腕が伸びてきて、お目当てのコーヒーではないボタンが押された。
「は……え……?」
今起きたことが理解できずフリーズしてしまった。慌てて振り向くと浅草さんがそこにいた。どうやら彼は私のことを追いかけてきたらしい。
「コーヒーばっかり飲んでたら体に良くないよ?はいこれ」
彼から渡された缶には『ふって飲むゼリー』と書かれていた。……なにこれ。
「私のお金なんですけど……」
「まぁまぁ、細かいことは気にしない!」
バシバシと人の背中を叩くのはやめて欲しい。そしてこのおじさん、相変わらずとてつもなく元気である。というかこれ、美味しいのかな……?
手の中の缶ジュースをぼんやり見つめていると、浅草さんは私の顔を見て何かを察したのか口を開いた。
「なんか最近元気ないね?」
「……まあ、ちょっと最近仕事忙しかったのと、寝不足と夏バテが一気に来ているというか何というか」
「それだけじゃ無さそうだけど?」
ドキリとした。確かに私がゾンビになった(なってない)原因は、夏バテや仕事の疲れのせいだけではないのだ。
「……最近三田さんに会えてないんですよぉ!!!」
要するに三田さん不足なのだ。ここしばらくは、私も三田さんも仕事が立て込んでいてまともにデートする時間すら無いのだ。うぅ……公務員しんどい……。
「ほうほう、みーたんに会えなくて辛い、と」
「辛いです!超寂しいです!今すぐ会いたいしぎゅってされたいんですよ!!」
仕事モードとオフモードの境界がかなりあやふやになっている気がする。普段こそきっちり真面目に仕事をしている私だが、三田さんの事を考えると思考がどんどんアホになるのがわかる。
それくらい好きなのだから仕方ないのだけど、三田さんのことになるとどうも自制が効かなくなってしまう。
「あー……最近みーたんも忙しそうだもんね」
慰めるように浅草さんがぽんぽんと軽く肩を叩いてきた。どうでもいいがすごく子ども扱いされている気がする。
「……はぁ、三田さんに会いたい」
缶を振ってプルタブを開ける。ぷしゅ、と炭酸のはじける音が耳に心地よい。そのままゼリーを口に放り込むと、舌にひんやりとした感触が広がった。
「あっま」
「あ、普通に美味しそうに飲んでる」
「うるさいやい」
茶化す浅草さんにべーっと舌を出してから、自分の思考回路が若干、いやだいぶ溶けているのを感じ取った。これは思った以上に重症らしい。
「せめて寝不足だけでも何とかなればなぁ……」
何度目かのため息をこぼし、缶をぐいっとひとあおりした。浅草さんはその様子を隣で見ていて、哀れみと心配が半分ずつ入り混じった表情をしていた。
「そんな目で私を見ないでください……」
「いや……その……まあ、うん。なんかごめん」
浅草さんが申し訳なさそうに謝る。別に謝らせるつもりはなかったんだけど……寝不足すぎてちょっと周りに攻撃的になってるかもしれない。
「あ、仮眠室でちょっと寝たら?君の上司には俺から言っておいてあげるからさ」
「え、いやそこまでは」
さすがにそこまでしてもらうのは悪い気がする。ぶんぶんと両手を振って遠慮します、と意思表示をするが浅草さんは聞く耳を持たない。
「遠慮しないで!ほら、行くよ!」
そのまま腕を引っ張られてずるずると引き摺られていく。抵抗しようにもうまく力が入らずされるがままになってしまう。おじさんとはこうも押しが強いものなのか。
ああもう……なんでこんな時に限って力が出ないんだ……! 結局浅草さんの押しに負けて仮眠室まで来てしまった。
「はい布団入ってー」
ぐいぐい押されて布団に押し込まれた。もうここまできたら大人しく従うしかない。浅草さんはというと、私が横になったのを確認してから何かスマホを操作をしていた。
「浅草さん?何してるんですか?」
「まーまー気にしないで」
そう言って彼はスマホをポケットにしまい込んだ。
「よし、これでオッケー」
何がオッケーなのかさっぱり分からないが、布団に入った途端眠気がどっと襲ってきた。思わず目を瞑ってしまいそうになるのを堪えながら、必死に意識を保つ。
「あの、浅草さん……本当にありがとうございます」
とりあえずもう一度だけお礼を言っておかないと、と感謝の言葉を口に出す。しかし、既に意識がほとんど落ちかけていたせいか、うまく言葉にならなかったようだ。
それでも彼は何を言ったのか察してくれたようで優しい笑みを浮かべながら私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「はいはいどういたしましてー……いつもお疲れ様」
そのまま二度、三度と頭を撫でてくれた。それがくすぐったくて気持ちいい。ああもうだめだ、そろそろ限界だ。
どんどん意識が遠のいていく中、ひらひらと手を振っている浅草さんが見えた。
……ん?なんか、あったかいな……?あと嗅ぎ慣れたタバコの匂いがする。誰かに抱きしめられている感覚に驚いて目を開けると、青いラインカラーの入ったシャツが目に入った。え?ええ!?
まだ半分夢の中にいる頭でも、それが何を意味するのかなんてすぐにわかる。
「み、三田さん!?」
ガバッと勢いよく体を起こすと、その反動で思いっきり三田さんに頭突きをかましてしまった。
「ゔっ!……大丈夫か?」
三田さんは若干苦悶の表情を浮かべながらこちらを向いた。彼の方が痛かっただろうに、まずはこっちの心配をしてくれるところが彼らしい。
「わー!?すいませんすいません!!」
急いで彼からから体を離そうとするも、手を掴まれてそれも適わなかった。どうしたらいいのか分からずオロオロしていると「とりあえず落ち着け」と言われ、腕を差し出された。どうやら腕枕をしてくれるらしい。
大人しく彼の腕に頭を乗せて横になると、三田さんは私の頭を優しく撫でてくれた。それが嬉しくてつい笑みがこぼれる。ああもう……私って本当に単純だな……と自嘲しつつ彼に問いかけた。
「あ、あの三田さん?どうしてここに?」
「……浅草が、なまえがゾンビみたいになってるから何とかしてくれって、言うから……」
照れたような顔でぼそぼそと答える三田さんを見てピンときた。なるほど、浅草さんが何かスマホいじってたのは彼をここに呼んでいたからだったのか。
「で?よく眠れたか?」
「は、はい!おかげさまでぐっすりです」
体の倦怠感や頭が働かない感じはいつの間にか消え去っていた。むしろいつもよりも調子がいいくらいだ。三田さんはその言葉を聞いて安心したように小さく息を吐いた。
「そうか……ならいい」
無愛想な言い方だけど、そこに込められた優しさに気づく度に胸の奥がきゅっと苦しくなるような感覚が襲う。三田さんはほんと人がいいというかなんというか……彼のこういうところが大好きだ。
「えーっと、あの……ありがとうございます」
「礼なら浅草に言え」
そう言ってまた頭を撫でてくれた。三田さんの手、大きくてあったかいな。もっとこうしていたいけど、そろそろ戻らないといけない時間だ。名残惜しいけれどゆっくりと起き上がる。彼も私に習いすぐに起き上がったものの、少し顔をしかめた。
「三田さん?」
「……いや、何でもない」
何でもないにしては少し様子がおかしい気がする。じーっとサングラスの奥の瞳を見つめると気まずそうに逸らされた。
「あの、三田さん」
「なんだ?」
「もしかして、腕めちゃくちゃ痺れてません?」
恐る恐る聞いてみると、彼は誤魔化すようにまた視線を逸らした。その反応を見るに、あながち間違いではなかったらしい。
「す……すいませんほんとに!腕枕って腕の負担すごいですもんね。本当にすいません申し訳ないです!!」
三田さんの腕はぷるぷると震えていて、相当無理をしていたのが見て取れた。ああもう本当にごめんなさい……。内心泣きそうになっている私をよそに、三田さんは溜め息をついて立ち上がった。
「別に謝らなくてもいいから、そろそろ戻っとけ」
そう言って彼はさっさと仮眠室を出ていってしまった。私は慌ててその背中を追いかけ、隣に並ぶ。
「三田さん、本当にありがとうございます」
改めて感謝の言葉を伝えると、彼は少し照れたように視線を逸らして小さくああ、とだけ言った。サングラスの奥の眼差しは穏やかで、つい嬉しくなってしまった。
仮眠室から出ると、先程まで感じていた睡魔が綺麗さっぱり消えていた。まるで憑き物が取れたようだ。
「三田さん、私今なら何でも出来そうなくらい元気ですよ!」
ぐっと拳を握ってガッツポーズを取ると、三田さんは小さく笑ってくれた。
「そりゃ良かったな」
そのまま彼は私の頭にぽん、と手を置いてから仕事に戻っていった。その背中を見送りつつ、浅草さんにお礼を言うべく歩き出すのだった。
そのせいで仕事中に眠気がやってくるわ、夏バテも併発したのか食欲が湧かないわで悪循環と化している気がする。
「あつい……ねむい……しぬ……」
そんなうわ言を発しながら廊下を徘徊していると都営浅草さんとすれ違った。
「お疲れ様です……」
「ああ、なまえちゃんお疲れー……ってなんかゾンビみたいな顔色してない!?」
「大丈夫……だといいですね……はは」
失礼なことを言われた気がするが、正直それすらも気にしている余裕がなかった。実際のところ今の私はゾンビ同然だ。
「ちょっと、本当に大丈夫?顔色悪いよ?」
「はい……なんとか」
そう答えながら私はふらふらとした足取りでその場を後にしたのだった。
とりあえずカフェインを取れば多少は頭が働くだろうと、コーヒーを求めて自販機コーナーへと向かう。ずらりと並ぶ自販機の中から適当なものを選び小銭を入れた。
「えーと、ブラックコーヒーは……」
購入ボタンを押そうとしたところで横からにゅっと腕が伸びてきて、お目当てのコーヒーではないボタンが押された。
「は……え……?」
今起きたことが理解できずフリーズしてしまった。慌てて振り向くと浅草さんがそこにいた。どうやら彼は私のことを追いかけてきたらしい。
「コーヒーばっかり飲んでたら体に良くないよ?はいこれ」
彼から渡された缶には『ふって飲むゼリー』と書かれていた。……なにこれ。
「私のお金なんですけど……」
「まぁまぁ、細かいことは気にしない!」
バシバシと人の背中を叩くのはやめて欲しい。そしてこのおじさん、相変わらずとてつもなく元気である。というかこれ、美味しいのかな……?
手の中の缶ジュースをぼんやり見つめていると、浅草さんは私の顔を見て何かを察したのか口を開いた。
「なんか最近元気ないね?」
「……まあ、ちょっと最近仕事忙しかったのと、寝不足と夏バテが一気に来ているというか何というか」
「それだけじゃ無さそうだけど?」
ドキリとした。確かに私がゾンビになった(なってない)原因は、夏バテや仕事の疲れのせいだけではないのだ。
「……最近三田さんに会えてないんですよぉ!!!」
要するに三田さん不足なのだ。ここしばらくは、私も三田さんも仕事が立て込んでいてまともにデートする時間すら無いのだ。うぅ……公務員しんどい……。
「ほうほう、みーたんに会えなくて辛い、と」
「辛いです!超寂しいです!今すぐ会いたいしぎゅってされたいんですよ!!」
仕事モードとオフモードの境界がかなりあやふやになっている気がする。普段こそきっちり真面目に仕事をしている私だが、三田さんの事を考えると思考がどんどんアホになるのがわかる。
それくらい好きなのだから仕方ないのだけど、三田さんのことになるとどうも自制が効かなくなってしまう。
「あー……最近みーたんも忙しそうだもんね」
慰めるように浅草さんがぽんぽんと軽く肩を叩いてきた。どうでもいいがすごく子ども扱いされている気がする。
「……はぁ、三田さんに会いたい」
缶を振ってプルタブを開ける。ぷしゅ、と炭酸のはじける音が耳に心地よい。そのままゼリーを口に放り込むと、舌にひんやりとした感触が広がった。
「あっま」
「あ、普通に美味しそうに飲んでる」
「うるさいやい」
茶化す浅草さんにべーっと舌を出してから、自分の思考回路が若干、いやだいぶ溶けているのを感じ取った。これは思った以上に重症らしい。
「せめて寝不足だけでも何とかなればなぁ……」
何度目かのため息をこぼし、缶をぐいっとひとあおりした。浅草さんはその様子を隣で見ていて、哀れみと心配が半分ずつ入り混じった表情をしていた。
「そんな目で私を見ないでください……」
「いや……その……まあ、うん。なんかごめん」
浅草さんが申し訳なさそうに謝る。別に謝らせるつもりはなかったんだけど……寝不足すぎてちょっと周りに攻撃的になってるかもしれない。
「あ、仮眠室でちょっと寝たら?君の上司には俺から言っておいてあげるからさ」
「え、いやそこまでは」
さすがにそこまでしてもらうのは悪い気がする。ぶんぶんと両手を振って遠慮します、と意思表示をするが浅草さんは聞く耳を持たない。
「遠慮しないで!ほら、行くよ!」
そのまま腕を引っ張られてずるずると引き摺られていく。抵抗しようにもうまく力が入らずされるがままになってしまう。おじさんとはこうも押しが強いものなのか。
ああもう……なんでこんな時に限って力が出ないんだ……! 結局浅草さんの押しに負けて仮眠室まで来てしまった。
「はい布団入ってー」
ぐいぐい押されて布団に押し込まれた。もうここまできたら大人しく従うしかない。浅草さんはというと、私が横になったのを確認してから何かスマホを操作をしていた。
「浅草さん?何してるんですか?」
「まーまー気にしないで」
そう言って彼はスマホをポケットにしまい込んだ。
「よし、これでオッケー」
何がオッケーなのかさっぱり分からないが、布団に入った途端眠気がどっと襲ってきた。思わず目を瞑ってしまいそうになるのを堪えながら、必死に意識を保つ。
「あの、浅草さん……本当にありがとうございます」
とりあえずもう一度だけお礼を言っておかないと、と感謝の言葉を口に出す。しかし、既に意識がほとんど落ちかけていたせいか、うまく言葉にならなかったようだ。
それでも彼は何を言ったのか察してくれたようで優しい笑みを浮かべながら私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「はいはいどういたしましてー……いつもお疲れ様」
そのまま二度、三度と頭を撫でてくれた。それがくすぐったくて気持ちいい。ああもうだめだ、そろそろ限界だ。
どんどん意識が遠のいていく中、ひらひらと手を振っている浅草さんが見えた。
……ん?なんか、あったかいな……?あと嗅ぎ慣れたタバコの匂いがする。誰かに抱きしめられている感覚に驚いて目を開けると、青いラインカラーの入ったシャツが目に入った。え?ええ!?
まだ半分夢の中にいる頭でも、それが何を意味するのかなんてすぐにわかる。
「み、三田さん!?」
ガバッと勢いよく体を起こすと、その反動で思いっきり三田さんに頭突きをかましてしまった。
「ゔっ!……大丈夫か?」
三田さんは若干苦悶の表情を浮かべながらこちらを向いた。彼の方が痛かっただろうに、まずはこっちの心配をしてくれるところが彼らしい。
「わー!?すいませんすいません!!」
急いで彼からから体を離そうとするも、手を掴まれてそれも適わなかった。どうしたらいいのか分からずオロオロしていると「とりあえず落ち着け」と言われ、腕を差し出された。どうやら腕枕をしてくれるらしい。
大人しく彼の腕に頭を乗せて横になると、三田さんは私の頭を優しく撫でてくれた。それが嬉しくてつい笑みがこぼれる。ああもう……私って本当に単純だな……と自嘲しつつ彼に問いかけた。
「あ、あの三田さん?どうしてここに?」
「……浅草が、なまえがゾンビみたいになってるから何とかしてくれって、言うから……」
照れたような顔でぼそぼそと答える三田さんを見てピンときた。なるほど、浅草さんが何かスマホいじってたのは彼をここに呼んでいたからだったのか。
「で?よく眠れたか?」
「は、はい!おかげさまでぐっすりです」
体の倦怠感や頭が働かない感じはいつの間にか消え去っていた。むしろいつもよりも調子がいいくらいだ。三田さんはその言葉を聞いて安心したように小さく息を吐いた。
「そうか……ならいい」
無愛想な言い方だけど、そこに込められた優しさに気づく度に胸の奥がきゅっと苦しくなるような感覚が襲う。三田さんはほんと人がいいというかなんというか……彼のこういうところが大好きだ。
「えーっと、あの……ありがとうございます」
「礼なら浅草に言え」
そう言ってまた頭を撫でてくれた。三田さんの手、大きくてあったかいな。もっとこうしていたいけど、そろそろ戻らないといけない時間だ。名残惜しいけれどゆっくりと起き上がる。彼も私に習いすぐに起き上がったものの、少し顔をしかめた。
「三田さん?」
「……いや、何でもない」
何でもないにしては少し様子がおかしい気がする。じーっとサングラスの奥の瞳を見つめると気まずそうに逸らされた。
「あの、三田さん」
「なんだ?」
「もしかして、腕めちゃくちゃ痺れてません?」
恐る恐る聞いてみると、彼は誤魔化すようにまた視線を逸らした。その反応を見るに、あながち間違いではなかったらしい。
「す……すいませんほんとに!腕枕って腕の負担すごいですもんね。本当にすいません申し訳ないです!!」
三田さんの腕はぷるぷると震えていて、相当無理をしていたのが見て取れた。ああもう本当にごめんなさい……。内心泣きそうになっている私をよそに、三田さんは溜め息をついて立ち上がった。
「別に謝らなくてもいいから、そろそろ戻っとけ」
そう言って彼はさっさと仮眠室を出ていってしまった。私は慌ててその背中を追いかけ、隣に並ぶ。
「三田さん、本当にありがとうございます」
改めて感謝の言葉を伝えると、彼は少し照れたように視線を逸らして小さくああ、とだけ言った。サングラスの奥の眼差しは穏やかで、つい嬉しくなってしまった。
仮眠室から出ると、先程まで感じていた睡魔が綺麗さっぱり消えていた。まるで憑き物が取れたようだ。
「三田さん、私今なら何でも出来そうなくらい元気ですよ!」
ぐっと拳を握ってガッツポーズを取ると、三田さんは小さく笑ってくれた。
「そりゃ良かったな」
そのまま彼は私の頭にぽん、と手を置いてから仕事に戻っていった。その背中を見送りつつ、浅草さんにお礼を言うべく歩き出すのだった。
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