しかし まわりこまれた!
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2.圧迫面接
高崎さんと連絡先を交換してからというもの、毎日数回は彼からメッセージが来るようになった。内容はなんてことない雑談だったり、たまにラーメンの画像が送られてきたりと様々だったが微笑ましく思いながら返信していた。
(高崎さんってまめに連絡するタイプなのかな?)
そんなある日のこと。いつものように仕事を終え、帰り支度をしていると突然背後から声をかけられた。
「東雲さん、仕事終わり?」
「あ、お疲れ様です宇都宮さん。ちょうど終わったところですよ」
慌てて挨拶をすると彼は軽く頷きながらこちらに歩み寄ってくる。
「お疲れ様。ところで君この後予定とかある?」
「いえ特には……」
私の答えを聞いて、宇都宮さんはさらににこりと笑う。あ、なんだか機嫌がいい。最近は、宇都宮さんの笑顔の裏の感情もわかるようになってきた。……何となくだけど。
「なら良かった。ちょっと付き合ってよ」
相変わらずの有無を言わさない彼の言葉に、私は思わず首を縦に振るしかなかった。
そのまま彼に連れられて行った先は、おしゃれなレストランだった。そこは宇都宮さんがたまに利用するお店らしく、落ち着いた雰囲気で居心地がよさそうだ。
しかしなんでまた私なんかを誘ったんだろう……?疑問は尽きないが、彼に促されるまま席に着いた。
彼はそのまま慣れた様子でメニュー表を開く。
「何にする?」
そう言われて少し悩んだ後、本日のオススメと書かれているパスタを指さした。ここの料理どんな感じなんだろう、楽しみだなぁ。
そんな私をニコニコ見つめながら、頬杖をついた宇都宮さんは口を開く。
「それで本題なんだけど、最近さ……高崎とよく連絡取り合ってるみたいだね」
「はい!よくメッセージをくれますよ」
今日来たメッセージを宇都宮さんに見せる。今日も上越上官に振り回されて大変だ、とか可愛いわんちゃんの写真だとか何気ないメッセージをくれるので毎日楽しみにしている、といった話をすると宇都宮さんは小さく溜息を吐いた。
その表情には呆れが浮かんでいるようで、何かあったのだろうかとと思っているうちに彼は再び口を開いた。
「あいつのことどう思う?」
いきなりの質問に戸惑ってしまい言葉が出てこないでいると彼はさらに続けた。
「高崎はさ、ちょっと抜けてるところもあるけど根はいいやつなんだよ」
確かにそれは同感だ。いつも宇都宮さんとか上越上官に振り回されつつも一生懸命頑張っているところを見ていると応援したくなるし、高崎さんはとってもいい人だと思う。
「ふふ、宇都宮さんは高崎さんのことが大好きなんですね!」
いいなぁ、双子って憧れちゃうなぁと続けるととても微妙な顔をされた。どうして。
「君がそういう子だってことは分かってたよ」
何故か大きな溜息と共にそんな言葉が返ってきた。どういう風に見られてるのか知らないけどきっと褒め言葉のはすだ。そういうことにしておこう。
あ……高崎さんの話をしてたらメッセージがきた。噂をすれば影、というやつだろうか。
私は仕事が終わったので宇都宮さんと一緒にご飯食べてますよ……っと、送信。即座に既読がついた。
レスポンス早いなぁと思うと同時に目の前の宇都宮さんのスマホがものすごい勢いで通知音を鳴らし出した。彼は無言でスマホの電源を切ると私の方へずいっと顔を近づけてきた。綺麗な顔が目の前に来てドキッとするが顔の良さ故ではなく圧が怖いからである。
「……高崎に何か言った?」
「えーと……宇都宮さんとご飯食べてますって送っただけなんですが……」
正直に答えた瞬間今度は私のスマホが震える。彼に一言断りを入れてからスマホを確認すると、画面に表示された名前は案の定高崎さんだった。
『どどどどどどういうこと!?』
文面を見るだけで慌てているのが伝わってくる。どういうことも何も文面の通りなんだけどなぁ……。とりあえず返信しておこうかと思ったのその瞬間、宇都宮さんは私からスマホを奪い取ると素早く電源を切った。
「あいつのことは気にしなくていいよ、それより……」
そこで一旦言葉を区切ると宇都宮さんはじっとこちらを見つめてきた。
「君に色々質問したいんだけど、いいかな?」
にっこりと笑ってはいるが目は笑っていない。これは逆らうべきではないなと判断して大人しく従うことにした。一体何聞かれるんだろう、と考えているうちに料理が来たため一度話は中断されることになった。
「いただきまーす」
パスタを頬張りつつ横目でちらりと宇都宮さんを盗み見る。彼は黙々と食事を進めており、時折何か考え込んでいるように見えた。
何か怒らせるようなことしちゃったかな、と考えたものの全く身に覚えがない。うーん……だめだ分からない、ひとまず目の前のご馳走に集中しよう。それにしてもこのトマトソースパスタすごく美味しい。今度自分で作ってみようかな。
「あの、私に質問って……?」
食事も半ば、恐る恐る聞いてみると彼は持っていたフォークを置いてこちらに向き直った。いつもの感情が読めない笑顔ではなく真剣な表情をしている。なんだか緊張してきた。
「まずは名前を聞かせてもらおうかな」
「えっと、東雲千種です……?」
え、なにこれ。なぜ今更自己紹介をしなければいけないのか。不思議に思っていると更に追求された。
「年齢は……女性に聞くのは失礼だからいいや。職業は?」
「えーと、東北上官の秘書を……って言うかこれなんなんですか?面接ですか!?」
困惑して声を上げると「そうだよ?」としれっと言われてさらに困惑してしまった。そっか、面接なのか。いやなんの面接なんでしょうかこれは。
「僕の質問に答えてくれたら合格だよ」
合格の定義が分からないがとにかく聞かれたことに答えるしかないらしい。付け合わせのサラダを頬張りながら次の質問を待つ。
「好きな食べ物は?」
「甘いものは結構好きかもです、あとお酒も好きですねぇ」
即答する私をなんだか生暖かい目で見てくる宇都宮さんに首を傾げていると次の質問が来た。
「今の仕事楽しい?」
「はい!とってもやりがいがあって楽しいです!最近やっと秘書の仕事にも慣れてきましたから」
笑顔で答えると宇都宮さんもつられて微笑んでくれた。まだまだ東北上官にも宇都宮さんにも迷惑をかけてしまう部分も多いけれど、最近はなんとか様々な業務の補佐ができるようになってきたような気がする。
その後もいくつか質問をされたけれど順調に答えられたように思う。ただずっと見つめられているのでちょっと落ち着かない気分になるけども。一通り質問を終えると宇都宮さんはふっと息を吐いた。
「……なるほど分かった。じゃあ次は恋愛経験について聞こうかな」
「なんでぇ!?急にぶっこみますね!」
驚いて大声を上げるとまたもやにこにこされて誤魔化された。なんなんだこの人こわい。しかしこういう時の彼は絶対に退かないということを私は知っている。
「ほら早く答えなよ。じゃないと帰れなくなっちゃうよ」
「理不尽!!!」
逃げ道を塞がれてしまったので仕方なく答えることにする。うーん……恋愛経験かぁ。そんなこと聞いてどうするつもりなんだろうか?まさか今後の仕事に何か影響があるとか……?
「ないよ」
ないんかい!!というか心読まれてる!?怖すぎるんですけどー!?内心パニックを起こしている私を余所に宇都宮さんは更に質問を重ねていく。
「今まで彼氏いたことある?」
「まぁ……ありますけど」
それを聞いて宇都宮さんの動きが止まったかと思うとすごい勢いで詰め寄られた。何だか今日は詰め寄られてばっかりだなぁ……なんて呑気に考えている場合じゃない。怖い怖い!宇都宮さんめっちゃ怖いんですけど!?
「それ本当?いつの話?相手だれ?」
「えーと……わりと最近……振られたといいますか」
正直あまり思い出したくない話題なので濁しつつ答える。しかし宇都宮さんは許してくれなかった。
「ちゃんと答えて」
有無を言わさぬ圧力、これが東北本線様……もとい宇都宮線……!ここは誤魔化すことはできなさそうなので観念して正直に話す事にした。
「……あはは、なんというか……振られたというか浮気されてたといいますか……」
乾いた笑いが出る。思い出すだけでまだ少し胸が痛むのだ。
色々思い出して微妙な顔をしていたからか、彼は黙り込んでしまった。そ、そんな顔をさせるつもりはなかったんですが……。確かにまだ傷が癒えたわけではないけれど、私的には悲しいというよりあいつやっぱり一発殴っておけばよかったなとかそんな感じなのであまり気に病まないでほしい。
「ごめんなさい!せっかくの美味しいご飯が台無しですね」
慌てて謝ると彼は首を横に振った。そしておもむろに私の手を取りまっすぐな瞳でこちらを見る。
「僕は君の味方だからね」
目の前で何が起こっているのか理解できていない私を尻目に、彼は言葉を続ける。
「大丈夫だよ、すぐ次見つかるから。僕が保証してあげる」
やたら自信満々な発言に思わず笑みが溢れる。根拠なんてない発言のはずなのに妙に説得力があるから不思議だ。
「ありがとうございます、私もっと頑張りますね!」
なんだか励まされてしまったので思わずそう答えてしまったが、別に今は彼氏が欲しいとかはないんだよなぁ……仕事楽しいし。という言葉は飲み込んでおいた。
気を取り直して再び食事を続ける。パスタは相変わらず絶品でほっぺたが落ちそうなくらい美味しかった。
「ごちそうさまでした!」
デザートまでしっかりと平らげた後、私は満足感に浸っていた。あぁ幸せだなぁ。こんなに贅沢していいのだろうか。
「満足したかい?」
いつの間にか会計を済ませていた宇都宮さんが戻ってきた。しかも私の分まで支払ってくれたみたいだ。
「わ、私の分は自分で払いますから!」
慌てて財布を取り出そうとするとやんわりと止められた。
「いいよ、これくらい気にしないで。その代わりと言っては何だけど一つ頼み事を聞いてくれないかな?」
聞いてくれないかな?とお伺いを立てているようで実の所断らせる気はないであろう言葉に身構える。
本線様の言葉に拒否権など存在しないことは明らかなので、こうなったら腹を括ろうではないか!と覚悟を決め大きく息を吸い込み私よりずっと大きい彼を見上げた。
「分かりました!それで、私は何をすればいいんですか?」
「君のその素直なところは美徳でもあるけれど欠点でもあるよね」
褒められているのか貶されているのかわからないがとりあえず喜んでおくことにした。ニコニコしているとちょっと呆れた顔をされたがいつものことなので気にしない。
「なに、簡単なことだよ。高崎のことよろしくね」
何だかよくわからないがよろしくされてしまった。もちろん高崎さんとはもっと仲良くなりたいと思ったので二つ返事で了承した。
「やっぱり宇都宮さんは兄弟想いですね!私、一人っ子なのでちょっと羨ましいです」
いいなぁ兄弟、なんて言いながら店を出ると「君はもうちょっと思慮深くなるべきかな」と言われた後おでこに軽くデコピンをされてしまったのだった。
高崎さんと連絡先を交換してからというもの、毎日数回は彼からメッセージが来るようになった。内容はなんてことない雑談だったり、たまにラーメンの画像が送られてきたりと様々だったが微笑ましく思いながら返信していた。
(高崎さんってまめに連絡するタイプなのかな?)
そんなある日のこと。いつものように仕事を終え、帰り支度をしていると突然背後から声をかけられた。
「東雲さん、仕事終わり?」
「あ、お疲れ様です宇都宮さん。ちょうど終わったところですよ」
慌てて挨拶をすると彼は軽く頷きながらこちらに歩み寄ってくる。
「お疲れ様。ところで君この後予定とかある?」
「いえ特には……」
私の答えを聞いて、宇都宮さんはさらににこりと笑う。あ、なんだか機嫌がいい。最近は、宇都宮さんの笑顔の裏の感情もわかるようになってきた。……何となくだけど。
「なら良かった。ちょっと付き合ってよ」
相変わらずの有無を言わさない彼の言葉に、私は思わず首を縦に振るしかなかった。
そのまま彼に連れられて行った先は、おしゃれなレストランだった。そこは宇都宮さんがたまに利用するお店らしく、落ち着いた雰囲気で居心地がよさそうだ。
しかしなんでまた私なんかを誘ったんだろう……?疑問は尽きないが、彼に促されるまま席に着いた。
彼はそのまま慣れた様子でメニュー表を開く。
「何にする?」
そう言われて少し悩んだ後、本日のオススメと書かれているパスタを指さした。ここの料理どんな感じなんだろう、楽しみだなぁ。
そんな私をニコニコ見つめながら、頬杖をついた宇都宮さんは口を開く。
「それで本題なんだけど、最近さ……高崎とよく連絡取り合ってるみたいだね」
「はい!よくメッセージをくれますよ」
今日来たメッセージを宇都宮さんに見せる。今日も上越上官に振り回されて大変だ、とか可愛いわんちゃんの写真だとか何気ないメッセージをくれるので毎日楽しみにしている、といった話をすると宇都宮さんは小さく溜息を吐いた。
その表情には呆れが浮かんでいるようで、何かあったのだろうかとと思っているうちに彼は再び口を開いた。
「あいつのことどう思う?」
いきなりの質問に戸惑ってしまい言葉が出てこないでいると彼はさらに続けた。
「高崎はさ、ちょっと抜けてるところもあるけど根はいいやつなんだよ」
確かにそれは同感だ。いつも宇都宮さんとか上越上官に振り回されつつも一生懸命頑張っているところを見ていると応援したくなるし、高崎さんはとってもいい人だと思う。
「ふふ、宇都宮さんは高崎さんのことが大好きなんですね!」
いいなぁ、双子って憧れちゃうなぁと続けるととても微妙な顔をされた。どうして。
「君がそういう子だってことは分かってたよ」
何故か大きな溜息と共にそんな言葉が返ってきた。どういう風に見られてるのか知らないけどきっと褒め言葉のはすだ。そういうことにしておこう。
あ……高崎さんの話をしてたらメッセージがきた。噂をすれば影、というやつだろうか。
私は仕事が終わったので宇都宮さんと一緒にご飯食べてますよ……っと、送信。即座に既読がついた。
レスポンス早いなぁと思うと同時に目の前の宇都宮さんのスマホがものすごい勢いで通知音を鳴らし出した。彼は無言でスマホの電源を切ると私の方へずいっと顔を近づけてきた。綺麗な顔が目の前に来てドキッとするが顔の良さ故ではなく圧が怖いからである。
「……高崎に何か言った?」
「えーと……宇都宮さんとご飯食べてますって送っただけなんですが……」
正直に答えた瞬間今度は私のスマホが震える。彼に一言断りを入れてからスマホを確認すると、画面に表示された名前は案の定高崎さんだった。
『どどどどどどういうこと!?』
文面を見るだけで慌てているのが伝わってくる。どういうことも何も文面の通りなんだけどなぁ……。とりあえず返信しておこうかと思ったのその瞬間、宇都宮さんは私からスマホを奪い取ると素早く電源を切った。
「あいつのことは気にしなくていいよ、それより……」
そこで一旦言葉を区切ると宇都宮さんはじっとこちらを見つめてきた。
「君に色々質問したいんだけど、いいかな?」
にっこりと笑ってはいるが目は笑っていない。これは逆らうべきではないなと判断して大人しく従うことにした。一体何聞かれるんだろう、と考えているうちに料理が来たため一度話は中断されることになった。
「いただきまーす」
パスタを頬張りつつ横目でちらりと宇都宮さんを盗み見る。彼は黙々と食事を進めており、時折何か考え込んでいるように見えた。
何か怒らせるようなことしちゃったかな、と考えたものの全く身に覚えがない。うーん……だめだ分からない、ひとまず目の前のご馳走に集中しよう。それにしてもこのトマトソースパスタすごく美味しい。今度自分で作ってみようかな。
「あの、私に質問って……?」
食事も半ば、恐る恐る聞いてみると彼は持っていたフォークを置いてこちらに向き直った。いつもの感情が読めない笑顔ではなく真剣な表情をしている。なんだか緊張してきた。
「まずは名前を聞かせてもらおうかな」
「えっと、東雲千種です……?」
え、なにこれ。なぜ今更自己紹介をしなければいけないのか。不思議に思っていると更に追求された。
「年齢は……女性に聞くのは失礼だからいいや。職業は?」
「えーと、東北上官の秘書を……って言うかこれなんなんですか?面接ですか!?」
困惑して声を上げると「そうだよ?」としれっと言われてさらに困惑してしまった。そっか、面接なのか。いやなんの面接なんでしょうかこれは。
「僕の質問に答えてくれたら合格だよ」
合格の定義が分からないがとにかく聞かれたことに答えるしかないらしい。付け合わせのサラダを頬張りながら次の質問を待つ。
「好きな食べ物は?」
「甘いものは結構好きかもです、あとお酒も好きですねぇ」
即答する私をなんだか生暖かい目で見てくる宇都宮さんに首を傾げていると次の質問が来た。
「今の仕事楽しい?」
「はい!とってもやりがいがあって楽しいです!最近やっと秘書の仕事にも慣れてきましたから」
笑顔で答えると宇都宮さんもつられて微笑んでくれた。まだまだ東北上官にも宇都宮さんにも迷惑をかけてしまう部分も多いけれど、最近はなんとか様々な業務の補佐ができるようになってきたような気がする。
その後もいくつか質問をされたけれど順調に答えられたように思う。ただずっと見つめられているのでちょっと落ち着かない気分になるけども。一通り質問を終えると宇都宮さんはふっと息を吐いた。
「……なるほど分かった。じゃあ次は恋愛経験について聞こうかな」
「なんでぇ!?急にぶっこみますね!」
驚いて大声を上げるとまたもやにこにこされて誤魔化された。なんなんだこの人こわい。しかしこういう時の彼は絶対に退かないということを私は知っている。
「ほら早く答えなよ。じゃないと帰れなくなっちゃうよ」
「理不尽!!!」
逃げ道を塞がれてしまったので仕方なく答えることにする。うーん……恋愛経験かぁ。そんなこと聞いてどうするつもりなんだろうか?まさか今後の仕事に何か影響があるとか……?
「ないよ」
ないんかい!!というか心読まれてる!?怖すぎるんですけどー!?内心パニックを起こしている私を余所に宇都宮さんは更に質問を重ねていく。
「今まで彼氏いたことある?」
「まぁ……ありますけど」
それを聞いて宇都宮さんの動きが止まったかと思うとすごい勢いで詰め寄られた。何だか今日は詰め寄られてばっかりだなぁ……なんて呑気に考えている場合じゃない。怖い怖い!宇都宮さんめっちゃ怖いんですけど!?
「それ本当?いつの話?相手だれ?」
「えーと……わりと最近……振られたといいますか」
正直あまり思い出したくない話題なので濁しつつ答える。しかし宇都宮さんは許してくれなかった。
「ちゃんと答えて」
有無を言わさぬ圧力、これが東北本線様……もとい宇都宮線……!ここは誤魔化すことはできなさそうなので観念して正直に話す事にした。
「……あはは、なんというか……振られたというか浮気されてたといいますか……」
乾いた笑いが出る。思い出すだけでまだ少し胸が痛むのだ。
色々思い出して微妙な顔をしていたからか、彼は黙り込んでしまった。そ、そんな顔をさせるつもりはなかったんですが……。確かにまだ傷が癒えたわけではないけれど、私的には悲しいというよりあいつやっぱり一発殴っておけばよかったなとかそんな感じなのであまり気に病まないでほしい。
「ごめんなさい!せっかくの美味しいご飯が台無しですね」
慌てて謝ると彼は首を横に振った。そしておもむろに私の手を取りまっすぐな瞳でこちらを見る。
「僕は君の味方だからね」
目の前で何が起こっているのか理解できていない私を尻目に、彼は言葉を続ける。
「大丈夫だよ、すぐ次見つかるから。僕が保証してあげる」
やたら自信満々な発言に思わず笑みが溢れる。根拠なんてない発言のはずなのに妙に説得力があるから不思議だ。
「ありがとうございます、私もっと頑張りますね!」
なんだか励まされてしまったので思わずそう答えてしまったが、別に今は彼氏が欲しいとかはないんだよなぁ……仕事楽しいし。という言葉は飲み込んでおいた。
気を取り直して再び食事を続ける。パスタは相変わらず絶品でほっぺたが落ちそうなくらい美味しかった。
「ごちそうさまでした!」
デザートまでしっかりと平らげた後、私は満足感に浸っていた。あぁ幸せだなぁ。こんなに贅沢していいのだろうか。
「満足したかい?」
いつの間にか会計を済ませていた宇都宮さんが戻ってきた。しかも私の分まで支払ってくれたみたいだ。
「わ、私の分は自分で払いますから!」
慌てて財布を取り出そうとするとやんわりと止められた。
「いいよ、これくらい気にしないで。その代わりと言っては何だけど一つ頼み事を聞いてくれないかな?」
聞いてくれないかな?とお伺いを立てているようで実の所断らせる気はないであろう言葉に身構える。
本線様の言葉に拒否権など存在しないことは明らかなので、こうなったら腹を括ろうではないか!と覚悟を決め大きく息を吸い込み私よりずっと大きい彼を見上げた。
「分かりました!それで、私は何をすればいいんですか?」
「君のその素直なところは美徳でもあるけれど欠点でもあるよね」
褒められているのか貶されているのかわからないがとりあえず喜んでおくことにした。ニコニコしているとちょっと呆れた顔をされたがいつものことなので気にしない。
「なに、簡単なことだよ。高崎のことよろしくね」
何だかよくわからないがよろしくされてしまった。もちろん高崎さんとはもっと仲良くなりたいと思ったので二つ返事で了承した。
「やっぱり宇都宮さんは兄弟想いですね!私、一人っ子なのでちょっと羨ましいです」
いいなぁ兄弟、なんて言いながら店を出ると「君はもうちょっと思慮深くなるべきかな」と言われた後おでこに軽くデコピンをされてしまったのだった。
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