ライドカメンズ
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ウィズダムの皇紀さんから、お店で出す新メニューの試食をして欲しいという実にありがたいお話があったので、夜ご飯も兼ねてウキウキでラウンジに向かった。
「皇紀さん!きました!」
「……相変わらずうるせえな」
いつも通りのつれない皇紀さんにも慣れたものだ。私としてはかえってこのくらいの方が接しやすいから助かるのだけど。
もうこれでもかというくらいにご飯を楽しみにしてきましたオーラを出している私をちらりと見て、彼は厨房へと戻っていった。もうお腹ペコペコなので早く料理が食べたいなぁ。
うーん、それにしても皇紀さんは料理の腕もさながら本当に顔がいい。まつ毛長いし黙っていればモデルばりの美形だ。その無愛想な態度がなければ引く手あまただろうに。勿体ないなあ。
そんなものすごく失礼なことを考えながらカウンター席に座る。他のライダーのみなさんがこっちに来ないあたり、皇紀さんの客として認識されているということだろう。
気を遣わなくていいから楽だなーなんて考えているうちにどんどん料理がテーブルに並べられていく。なんと手際がいいことか。
「ほらよ」
皇紀さんが不愛想にお皿を差し出してくる。それを待ってましたとばかりに皿を受け取り早速一口。うーん、やっぱり皇紀さんの料理は何食べても美味しいなー!もちろん一番はレオンの料理だけど、それに負けずとも劣らない美味しさである。
もぐもぐ頬張っている私を見て皇紀さんが少しだけ表情を緩めた気がした。あ、珍しく笑ってる?と思ったけどすぐに元の仏頂面に戻ってしまった。気のせいだったのかな?まあいいや。私は食欲を満たすことに専念しよっと。
「んーおいしいです!」
心からの声を伝えるとまた小さく笑われたような気がした。相変わらずわかりにくい人だなと思いつつも次の料理に手を伸ばしたのだった。
気がつけば皇紀さんは奥に引っ込んでいた。どうやら次の料理に取りかかっているようだ。こんなに美味しい料理がたくさん食べられるなんて役得役得、エージェントでよかったなあ。
食休みがてら辺りを見渡すと、お客さんたちが各々に談笑している姿が見える。ふと入口に目をやると宗雲さんがお客さんを出迎えてるの様子が見えた。
(支配人って大変なんだなぁ……。ん?何か話し込んでる…………ってはぁ!?!?!?)
私の視線の先には神威さんいた。いや彼がいるだけなら別にいいのだけど、問題はそこじゃない。
彼の隣には謎の美女がいる。見間違いかと何度も瞬きして目を擦ってみたが、やっぱりあれは本物の神威さんだし、2人はなんか仲良さげに見える。えっどういうこと!?まさか浮気ってやつですか!!!
ずんずんと彼の前に出て暴れてやろうかと思ったが、寸前のところで思いとどまる。流石に人様のお店を修羅場にするわけには……。(仮面カフェならやってたかもしれない)
どうやら神威さんを連れた謎の美女は宗雲さんを指名したようで、そのまま席へと案内されていった。
私の席は彼らから死角になっているようなので、これ幸いとばかりに神威さん側へと意識を集中させる。何やら3人で話しているようだが残念ながら内容までは聞き取れない。
(うぐぐ……気になって仕方ない。……ああだめだ!気になってご飯の味わかんないよ!!!)
美味しくいただいていたはずのディナーの味は全部どこかへ吹っ飛んでいった。頭の中がぐるぐるしてどうにかなりそうだ。
冷静に考えると、別に2人で一緒にいるだけで浮気と決めつけるのは早計すぎるのだが、それはそれとして嫉妬心を抑えきれなかったのである。
私だって付き合い始めたばっかりだし、まだまだラブラブしていたい時期なのだ。それなのに、ちょっと目を離したらあんな美人と一緒に……。悔しいやら悲しいやらでも好きだという気持ちの方が勝ってしまっているのがなんだか情けないというか。とにかくもやもやとした気持ちでいっぱいだ。
「おい」
いつの間に現れたのか、顔を上げるとそこには不機嫌そうに立っている皇紀さんがいた。おっといけない、食事に集中しないと。なるべくいつも通りを装って返事をする。しかし皇紀さんにはバレバレだったらしい。
「何をそんなに百面相してやがるんだ」
「な、なんでもないです!次の料理はなんですか?」
私の言葉に答えるように美味しそうな肉料理が目の前に並べられた。じろりとこちらを見下ろす瞳に怯みそうになるけれど我慢だ。
とりあえず食べることで誤魔化してみることにする。もぐもぐ、うん美味しい。もうこうなったらやけ食いだ、とことん食べて神威さんのことなんか忘れてしまおうではないか。
「皇紀さん!今日はとにかく食べたい気分なのでどんどん持ってきてください!」
そう言うと皇紀さんは呆れた表情を浮かべながらも新しい料理を盛り付けてくれた。
それを黙々と食べている間もあの光景が頭の中でぐるぐると回っている。皇紀さんも何も言わないからなおさら考えてしまう。
神威さんに誰よその女と言ってやりたい気持ちでいっぱいだ。神威さんがとにかくモテるのは知ってるし、そもそも私が彼と付き合えていること自体が奇跡みたいなものな気がする。でも神威さんのことが好きで好きで仕方がないのだ。できることならずっと一緒にいたいし独り占めしたい。
あーもー皇紀さんの料理は美味しいなぁ!!でも虚しいなぁ!!!色々考えてたらまたお腹が空いてきたのでムカムカしながらひたすら口を動かし続けたのだった。
「あーあ、今日の日ほどお酒飲めたらなぁって思うことなんてなかったですよ!」
ヤケクソ気味にそう叫んだ私に皇紀さんがぴくりと反応したような気がしたが今はそんなの気にしていられない。どうせ今の私は酔っ払い同然のテンションなんだから関係ないのだ。
運ばれた料理を黙々と食べていく私に気を良くしたのか、皇紀さんはどんどん追加してくれるようになった。それを次々胃の中に収めていく私。もはやヤケ食いでしかないけれど、脳内にそんなこと考えているキャパシティはない。
そうこうしているうちにようやくお腹が満たされてきたのかだんだんと荒ぶる脳内も幾分か落ち着いてきた気がする。美味しいもの食べると心が落ち着くよね、いやほんと。
「満足したか」
「はい!とっても美味しかったです!!」
満足げに笑う私を見た皇紀さんは心なしか上機嫌だ。なんだかんだ面倒見のいい人なんだよなぁ。本人に言ったら絶対否定されるだろうけどね。
神威さんのことを考えていたはずなのにいつの間にか思考の中心からは外れてしまっていたような気がする。なんかもう考えることも疲れた……。あとお腹いっぱいになったので純粋に眠い。さっきまであんなにイライラしていたのが嘘みたいに晴れやかな気分だ。
「じゃあ私はそろそろお暇しますね、とっても料理美味しかったですご馳走様でした!」
「おう」
いつも通りのやりとりをして店を出る準備をする。今日はレオン呼ばないで歩いて帰ろうかなぁ……頭冷えるだろうし。なんて考えている間に帰り支度を済ませたので店の玄関へ向かうその時だった。背後からぐいっと腕を引っ張られ、何事かと思い振り向くとそこにいたのは。
「なんだ、もう帰るのか。俺が送っていってやろう」
神威さんがそこにいたのである。私がずっとこの場にいたことをわかっているような口ぶりで、さも当たり前のように私の手を取って軽く引き寄せるものだから思わずときめいてしまいそうになったがそういう問題ではない。
「いやあの、あそこの方はいいんですか?一緒に来たんじゃ……」
「ああ、もう用は済んだからな」
さらっとそう言ってのけるが正直全く意味がわからない。よくわからないけど、何故か彼の機嫌が良さそうなことだけはわかる。
「クロ、行くぞ」
彼はエスコートするように手を引く。有無を言わさぬ様子に逆らえるはずもなく大人しく着いていくしか選択肢はなかった。
2人だけの帰り道、ふと神威さんが口を開いた。
「何か言いたいことがあるんだろう?」
ぎくりとして肩が跳ねる。この人はエスパーか何かなのだろうか。じっとこちらを見るその視線から逃れるように目を逸らすことしかできない。
「あのですね、えっと……」
うまく言葉が出てこない。何と言えばいいのか考えを巡らせる。
沈黙がやけに長く感じられるが、このまま黙っているわけにもいかない。何度か深呼吸を繰り返してから、意を決して私よりもずっと高い位置にある彼の顔をじっと見つめた。
「……今日一緒に来てた方とはどういう関係なんですか?」
勇気を出して問いただせば、彼はきょとんとした表情を浮かべてこちらを見る。なんだそんなことかと言わんばかりだ。
「あれは俺の作品を見たという美術商だ。少し話がしたいというから聞いてやっただけだ」
そんなわけないでしょうと言いたくなったが、神威さんが嘘をついているような様子はない。よかったあ……とため息をつけば怪訝な顔をされた。
「なんだその反応は」
そう言われても何も言えない。ただ複雑な心境であることには変わりがないわけで。
神威さんかっこいいし、彼の絵は素敵だし、他の女の人から声かけられてるのもよく見るし。嫉妬なんてしてもキリがないってわかってるんだけどさ。それでもモヤモヤするものはするのだ、だって神威さんのこと大好きだもん!!!
きっと彼には今の私の心情を読み取ることなど容易だろう。その証拠に先ほどからずっとニヤニヤされている。
腹が立つので足を踏もうとしたら華麗に避けられてしまった。悔しかったので今度は思い切り体当たりしてやった。
わりと思いっきりやってやったと思ったのにそれを軽々受け止められ、そのまま抱きしめられる。
人前だし、いつもなら離せと暴れているところだけど、今日はこのままでいたい気分だった。
「ふっ、拗ねているのか」
図星過ぎて何も言い返せない。でも素直に認めるのも癪なので頭突きしたあとぐりぐりおでこを押し付けてみる。
「お前のその行動は全く小動物と変わらないな」
などと言いつつも頭を撫でてくれるので悪い気はしない。むしろもっとやれと言わんばかりに頭を押し付けてやった。
「まったくどうしようもないやつだな」
呆れたように言う割にその声は優しい響きを持っている。
「神威さんに言われたくないです」
自分でもびっくりするほどのふくれっ面でそう言えばさらにくつくつと笑う声が聞こえる。完全に子ども扱いされているじゃないか恥ずかしい。
「それよりお前はあそこにはよく行くのか?」
急に真面目なトーンになったかと思うと、私のほおを撫でながらそんなことを聞いてきた。くすぐったいから程々にして欲しい。
「まぁそれなりには……?今日みたいに皇紀さんの料理を食べにいったり、宗雲さんとカオストーンの情報を共有したりとかで」
なるほどと言いながら考え込む仕草を見せる。一体どうしたのだろうか。
「え、どうかされました?」
「……いや、何でもない。ただの興味本位だ」
明らかに何かあるであろう態度だったがこれ以上追求しても答えてくれなさそうな雰囲気だったので、諦めて彼から離れた。
「それにしてもあの量は食べすぎだろう。太っても知らんぞ」
「私はいくら食べても大丈夫なんで問題ないです~」
あっかんべーと舌を出せば行儀が悪いと叱られる。子供扱いされるのは好きではないが、彼にこうやって構ってもらえるなら悪くはないかもしれない、
握り直されたその手からはなんとなく私への愛情が伝わってきたので、今日のところは許してあげることにしよう。
「皇紀さん!きました!」
「……相変わらずうるせえな」
いつも通りのつれない皇紀さんにも慣れたものだ。私としてはかえってこのくらいの方が接しやすいから助かるのだけど。
もうこれでもかというくらいにご飯を楽しみにしてきましたオーラを出している私をちらりと見て、彼は厨房へと戻っていった。もうお腹ペコペコなので早く料理が食べたいなぁ。
うーん、それにしても皇紀さんは料理の腕もさながら本当に顔がいい。まつ毛長いし黙っていればモデルばりの美形だ。その無愛想な態度がなければ引く手あまただろうに。勿体ないなあ。
そんなものすごく失礼なことを考えながらカウンター席に座る。他のライダーのみなさんがこっちに来ないあたり、皇紀さんの客として認識されているということだろう。
気を遣わなくていいから楽だなーなんて考えているうちにどんどん料理がテーブルに並べられていく。なんと手際がいいことか。
「ほらよ」
皇紀さんが不愛想にお皿を差し出してくる。それを待ってましたとばかりに皿を受け取り早速一口。うーん、やっぱり皇紀さんの料理は何食べても美味しいなー!もちろん一番はレオンの料理だけど、それに負けずとも劣らない美味しさである。
もぐもぐ頬張っている私を見て皇紀さんが少しだけ表情を緩めた気がした。あ、珍しく笑ってる?と思ったけどすぐに元の仏頂面に戻ってしまった。気のせいだったのかな?まあいいや。私は食欲を満たすことに専念しよっと。
「んーおいしいです!」
心からの声を伝えるとまた小さく笑われたような気がした。相変わらずわかりにくい人だなと思いつつも次の料理に手を伸ばしたのだった。
気がつけば皇紀さんは奥に引っ込んでいた。どうやら次の料理に取りかかっているようだ。こんなに美味しい料理がたくさん食べられるなんて役得役得、エージェントでよかったなあ。
食休みがてら辺りを見渡すと、お客さんたちが各々に談笑している姿が見える。ふと入口に目をやると宗雲さんがお客さんを出迎えてるの様子が見えた。
(支配人って大変なんだなぁ……。ん?何か話し込んでる…………ってはぁ!?!?!?)
私の視線の先には神威さんいた。いや彼がいるだけなら別にいいのだけど、問題はそこじゃない。
彼の隣には謎の美女がいる。見間違いかと何度も瞬きして目を擦ってみたが、やっぱりあれは本物の神威さんだし、2人はなんか仲良さげに見える。えっどういうこと!?まさか浮気ってやつですか!!!
ずんずんと彼の前に出て暴れてやろうかと思ったが、寸前のところで思いとどまる。流石に人様のお店を修羅場にするわけには……。(仮面カフェならやってたかもしれない)
どうやら神威さんを連れた謎の美女は宗雲さんを指名したようで、そのまま席へと案内されていった。
私の席は彼らから死角になっているようなので、これ幸いとばかりに神威さん側へと意識を集中させる。何やら3人で話しているようだが残念ながら内容までは聞き取れない。
(うぐぐ……気になって仕方ない。……ああだめだ!気になってご飯の味わかんないよ!!!)
美味しくいただいていたはずのディナーの味は全部どこかへ吹っ飛んでいった。頭の中がぐるぐるしてどうにかなりそうだ。
冷静に考えると、別に2人で一緒にいるだけで浮気と決めつけるのは早計すぎるのだが、それはそれとして嫉妬心を抑えきれなかったのである。
私だって付き合い始めたばっかりだし、まだまだラブラブしていたい時期なのだ。それなのに、ちょっと目を離したらあんな美人と一緒に……。悔しいやら悲しいやらでも好きだという気持ちの方が勝ってしまっているのがなんだか情けないというか。とにかくもやもやとした気持ちでいっぱいだ。
「おい」
いつの間に現れたのか、顔を上げるとそこには不機嫌そうに立っている皇紀さんがいた。おっといけない、食事に集中しないと。なるべくいつも通りを装って返事をする。しかし皇紀さんにはバレバレだったらしい。
「何をそんなに百面相してやがるんだ」
「な、なんでもないです!次の料理はなんですか?」
私の言葉に答えるように美味しそうな肉料理が目の前に並べられた。じろりとこちらを見下ろす瞳に怯みそうになるけれど我慢だ。
とりあえず食べることで誤魔化してみることにする。もぐもぐ、うん美味しい。もうこうなったらやけ食いだ、とことん食べて神威さんのことなんか忘れてしまおうではないか。
「皇紀さん!今日はとにかく食べたい気分なのでどんどん持ってきてください!」
そう言うと皇紀さんは呆れた表情を浮かべながらも新しい料理を盛り付けてくれた。
それを黙々と食べている間もあの光景が頭の中でぐるぐると回っている。皇紀さんも何も言わないからなおさら考えてしまう。
神威さんに誰よその女と言ってやりたい気持ちでいっぱいだ。神威さんがとにかくモテるのは知ってるし、そもそも私が彼と付き合えていること自体が奇跡みたいなものな気がする。でも神威さんのことが好きで好きで仕方がないのだ。できることならずっと一緒にいたいし独り占めしたい。
あーもー皇紀さんの料理は美味しいなぁ!!でも虚しいなぁ!!!色々考えてたらまたお腹が空いてきたのでムカムカしながらひたすら口を動かし続けたのだった。
「あーあ、今日の日ほどお酒飲めたらなぁって思うことなんてなかったですよ!」
ヤケクソ気味にそう叫んだ私に皇紀さんがぴくりと反応したような気がしたが今はそんなの気にしていられない。どうせ今の私は酔っ払い同然のテンションなんだから関係ないのだ。
運ばれた料理を黙々と食べていく私に気を良くしたのか、皇紀さんはどんどん追加してくれるようになった。それを次々胃の中に収めていく私。もはやヤケ食いでしかないけれど、脳内にそんなこと考えているキャパシティはない。
そうこうしているうちにようやくお腹が満たされてきたのかだんだんと荒ぶる脳内も幾分か落ち着いてきた気がする。美味しいもの食べると心が落ち着くよね、いやほんと。
「満足したか」
「はい!とっても美味しかったです!!」
満足げに笑う私を見た皇紀さんは心なしか上機嫌だ。なんだかんだ面倒見のいい人なんだよなぁ。本人に言ったら絶対否定されるだろうけどね。
神威さんのことを考えていたはずなのにいつの間にか思考の中心からは外れてしまっていたような気がする。なんかもう考えることも疲れた……。あとお腹いっぱいになったので純粋に眠い。さっきまであんなにイライラしていたのが嘘みたいに晴れやかな気分だ。
「じゃあ私はそろそろお暇しますね、とっても料理美味しかったですご馳走様でした!」
「おう」
いつも通りのやりとりをして店を出る準備をする。今日はレオン呼ばないで歩いて帰ろうかなぁ……頭冷えるだろうし。なんて考えている間に帰り支度を済ませたので店の玄関へ向かうその時だった。背後からぐいっと腕を引っ張られ、何事かと思い振り向くとそこにいたのは。
「なんだ、もう帰るのか。俺が送っていってやろう」
神威さんがそこにいたのである。私がずっとこの場にいたことをわかっているような口ぶりで、さも当たり前のように私の手を取って軽く引き寄せるものだから思わずときめいてしまいそうになったがそういう問題ではない。
「いやあの、あそこの方はいいんですか?一緒に来たんじゃ……」
「ああ、もう用は済んだからな」
さらっとそう言ってのけるが正直全く意味がわからない。よくわからないけど、何故か彼の機嫌が良さそうなことだけはわかる。
「クロ、行くぞ」
彼はエスコートするように手を引く。有無を言わさぬ様子に逆らえるはずもなく大人しく着いていくしか選択肢はなかった。
2人だけの帰り道、ふと神威さんが口を開いた。
「何か言いたいことがあるんだろう?」
ぎくりとして肩が跳ねる。この人はエスパーか何かなのだろうか。じっとこちらを見るその視線から逃れるように目を逸らすことしかできない。
「あのですね、えっと……」
うまく言葉が出てこない。何と言えばいいのか考えを巡らせる。
沈黙がやけに長く感じられるが、このまま黙っているわけにもいかない。何度か深呼吸を繰り返してから、意を決して私よりもずっと高い位置にある彼の顔をじっと見つめた。
「……今日一緒に来てた方とはどういう関係なんですか?」
勇気を出して問いただせば、彼はきょとんとした表情を浮かべてこちらを見る。なんだそんなことかと言わんばかりだ。
「あれは俺の作品を見たという美術商だ。少し話がしたいというから聞いてやっただけだ」
そんなわけないでしょうと言いたくなったが、神威さんが嘘をついているような様子はない。よかったあ……とため息をつけば怪訝な顔をされた。
「なんだその反応は」
そう言われても何も言えない。ただ複雑な心境であることには変わりがないわけで。
神威さんかっこいいし、彼の絵は素敵だし、他の女の人から声かけられてるのもよく見るし。嫉妬なんてしてもキリがないってわかってるんだけどさ。それでもモヤモヤするものはするのだ、だって神威さんのこと大好きだもん!!!
きっと彼には今の私の心情を読み取ることなど容易だろう。その証拠に先ほどからずっとニヤニヤされている。
腹が立つので足を踏もうとしたら華麗に避けられてしまった。悔しかったので今度は思い切り体当たりしてやった。
わりと思いっきりやってやったと思ったのにそれを軽々受け止められ、そのまま抱きしめられる。
人前だし、いつもなら離せと暴れているところだけど、今日はこのままでいたい気分だった。
「ふっ、拗ねているのか」
図星過ぎて何も言い返せない。でも素直に認めるのも癪なので頭突きしたあとぐりぐりおでこを押し付けてみる。
「お前のその行動は全く小動物と変わらないな」
などと言いつつも頭を撫でてくれるので悪い気はしない。むしろもっとやれと言わんばかりに頭を押し付けてやった。
「まったくどうしようもないやつだな」
呆れたように言う割にその声は優しい響きを持っている。
「神威さんに言われたくないです」
自分でもびっくりするほどのふくれっ面でそう言えばさらにくつくつと笑う声が聞こえる。完全に子ども扱いされているじゃないか恥ずかしい。
「それよりお前はあそこにはよく行くのか?」
急に真面目なトーンになったかと思うと、私のほおを撫でながらそんなことを聞いてきた。くすぐったいから程々にして欲しい。
「まぁそれなりには……?今日みたいに皇紀さんの料理を食べにいったり、宗雲さんとカオストーンの情報を共有したりとかで」
なるほどと言いながら考え込む仕草を見せる。一体どうしたのだろうか。
「え、どうかされました?」
「……いや、何でもない。ただの興味本位だ」
明らかに何かあるであろう態度だったがこれ以上追求しても答えてくれなさそうな雰囲気だったので、諦めて彼から離れた。
「それにしてもあの量は食べすぎだろう。太っても知らんぞ」
「私はいくら食べても大丈夫なんで問題ないです~」
あっかんべーと舌を出せば行儀が悪いと叱られる。子供扱いされるのは好きではないが、彼にこうやって構ってもらえるなら悪くはないかもしれない、
握り直されたその手からはなんとなく私への愛情が伝わってきたので、今日のところは許してあげることにしよう。