ライドカメンズ
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「プラネタリウムのチケット?」
「はい!カフェの常連の方からいただきまして……。ぜひクロ様にと思って」
カフェのランチタイムも終わりレオンとのんびり休憩していたところ、プラネタリウムのペアチケットを手渡された。
「これ私が貰っちゃっていいの?レオンが行ったらいいのに」
「クロ様は最近エージェントとしての仕事に励んでおられるので、息抜きにどうかと思いまして……」
私の執事は本当によく気が回る。その気遣いに感謝しながらありがたくチケットを受け取ることにした。
「じゃあ一緒に行く?」
「そんな恐れ多い!それよりも誘うべき方がいらっしゃるでしょう?」
このこの、とレオンが肘で軽くつついてくる。誘うべき人、と言われて思い浮かんだのは一人しかいない。……いないのだけれど。
「……荒鬼くんってさ、プラネタリウムに興味あると思う?」
この前マッドガイの3人と流星群の話をしていた時も「星なんか見て、何が楽しいんだ?」って言ってたような。荒鬼くんの性格上、じっとしてプラネタリウム見るとか無理そう。
でも誘ったら一緒に来てくれるだろうか。いや、多分断られるな……。でも誘うだけならタダだしな……。
チケットを見つめながら考え込む私を見かねたのかレオンが身をかがめて耳打ちをしてきた。
「クロ様が誘えば、きっと来てくれると思いますよ?」
「えぇ?そうかなぁ……」
「はい、間違いありません!」
自信満々な顔で断言されてしまい逆に不安になる。でもまあ、とりあえず誘ってみようかな。どうせなら一緒に行きたいし、最近デートも出来てないし。
頑張るぞ、と意気込んだところでレオンがカフェオレを淹れてくれた。
「クロ様、お砂糖は2つでよろしかったでしょうか?」
私は少し考え込んでから、「……今日は3つにしとく」と答え、カップを受け取った。
甘いカフェオレを一口飲んで、荒鬼くんと行くプラネタリウムデートを想像する。いいなぁ、ロマンチックだなぁ……と妄想を広げているところでカフェの扉が開いた。
「腹減った!カレー大盛り……お、クロじゃねェか」
元気いっぱいのわんこみたいに目を輝かせ、荒鬼くんが現れた。バイトが終わったのかな?
「お、おつかれさまです……」
私は思わずカフェオレを吹き出しそうになったのを堪えて挨拶した。まさか都合よく彼から来てくれるなんて。タイミング悪すぎ……いやむしろ好都合?いやいや、とりあえず店員としての仕事をしなければ。
「VIPルームでいいかな?こちらへどうぞー」
そう言いながら立ち上がって荒鬼くんを先導し、席を案内した。
彼はVIPルームに到着するなり仮面を取り、ソファに座る。
「カレー大盛りに、トンカツも付けてくれ!」
「はいはい、わかりました」
注文を復唱した後、それを厨房に注文を伝える。どうやらかなりお腹が空いている様子なので早く料理を出してあげないと。
厨房を手伝いに行こうかと足を向けると、荒鬼くんに引き止められた。ちょいちょいと手招きして私を呼ぶと、手でソファの端を叩いて横に座るよう促してくる。
「どうしたの?」
首を傾げつつ彼の隣に腰を下ろす。するとぐいっと身を寄せてきて、そのまま軽く寄り掛かられてしまった。
「ちょ、ちょっと荒鬼くん!?」
いきなりの行動に驚いて声を上げる。彼は無言で私の肩に頭を乗せ、そのままぐりぐりと押し付けてくる。まるで甘えるような仕草だ。
「最近こーやってお前とゆっくりする時間がなかっただろ?」
確かに最近は荒鬼くんはバイトが忙しくてなかなか一緒にいられなかったし、私も私でエージェントの仕事が立て込んでたから、こうやって二人でまったり過ごす時間が取れなかった。荒鬼くんもさみしいと思ってくれてたんだ……。
「そ、そうだね」
ちょっと照れくさいけれど同じように彼に寄りかかってみる。大きな腕に抱き寄せられ、ぴったりくっ付くような体勢になった。
彼は私を愛おしそうに見つめながら頭をぽんぽんと軽く撫でる。それだけでこんなに満たされるのはきっと彼のことが大好きだからなのだろう。
そうして、しばらく何も言わずに抱き締められて幸せなひと時に浸っていると、ぐぅ〜という大きなお腹の音が鳴った。
「腹減った!」
「ふふっ、もうちょっと待ってね」
苦笑しながら彼の腕の拘束を解き、立ち上がって厨房へ向かう。丁度料理が完成されたところだったので、それを受け取って荒鬼くんの待つVIPルームへと戻った。
「おまたせー、ご注文のカツカレー大盛りです」
テーブルに置いたと同時に荒鬼くんはがっつき始める。大きな口に目一杯頬張って、美味しそうに食べている姿を見ているとこっちまで幸せな気持ちになってくる。
「うまい!」
無邪気な笑顔でそう言われるとこっちも嬉しくなっちゃうな。にこにこしながら彼を眺めていると、こちらを向いてお皿を差し出してきたので苦笑しながらご飯をよそいに行く。
「荒鬼くんはいっぱい食べるねぇ」
「そりゃあ最強だからな!」
得意気に言う彼に、まだまだ成長期だもんね。と返しながらお皿を渡した。口いっぱいにカレーを頬張る彼を見ていると頬が緩む。かわいいなぁ。と思いながら食べている姿をしばし見つめていた。
荒鬼くんは、私が見ていることにも気づかずに黙々と食べ続ける。そんな彼を微笑ましく思いながら眺めていたが、ふとあることを思い出した。
そういえば、プラネタリウムのチケット貰ったんだったな……。せっかくだし今デートに誘ってしまおうか。少し緊張しながら鞄からチケットを取り出し、テーブルの上に置いた。
ソファに座り直しつつそういえば、と前置きして彼に尋ねる。
「荒鬼くんってプラネタリウム興味ある?」
急になんだと驚いた顔をしてじっと見返される。あまりにもじーっと見られているので私は少したじろぎながら答えた。
「いや、レオンからプラネタリウムのペアチケットを貰ってね。最近デートもしてなかったしどうかなって」
頬杖をついてジトッと見つめてくる彼に、お願いと拝んでみる。彼ははぁとこれ見よがしにため息を零してから頭をかいた。
「でっでも、荒鬼くんは興味ないかな?ごめんね急に……」
「まぁ、興味はねェが、クロが行きたいなら行く。それに……お前とならどこ行っても楽しいだろうしな」
そう言って照れくさそうに視線を外す彼に思わずきゅんとした。
そういうところ本当にずるいんだよなぁ……、とりあえず感謝を伝えるため、彼の手を握った。
「ありがと!荒鬼くん大好き!」
ぎゅむぎゅむと彼の手を握っていると、メシ食ってるから後でな、と軽く手を払われた。つれないなぁ……でも彼の言う通りなので大人しく手を離した。
荒鬼くんがカツを頬張る姿を眺めながら、私はこれからのデートに思いを馳せる。初めてのプラネタリウムデート、楽しみだな。
期待を胸に、私はただ黙々と食べている荒鬼くんを見ていた。
「おまたせ!ごめん待った?」
念願のプラネタリウムデートの日、気合いを入れに入れてメイクや服装ををいつもと少し変えた。……神威さんにちょっと相談したことは荒鬼くんには絶対に秘密である。
「いや、俺も今来たところだ」
荒鬼くんに手を取られ、そのまま歩き出す。彼は私の歩幅に合わせるようにゆっくり歩いてくれたので置いていかれる心配は無さそうだ。
「楽しみだなー!プラネタリウム!」
「俺は行ったことねェな」
そう言う荒鬼くんはどこかソワソワしているように見える。もしかして楽しみにしてたりする?思わず緩みそうになる頬を引き締め、彼にバレないように平静を保つ。
そうして他愛もない話をしながらプラネタリウムに到着すると受付を済ませ、席に着いた。
今回の席はふかふかのベッドのような感じになっていて寝転がりながら見るタイプになっているようだ。
「わぁ……ふわふわだ〜」
備え付けのクッションも手触りがとてもいい。つい夢中になって触ってしまうくらいふわふわのもちもちで気持ちいい。
しばらくクッションを堪能したあと、靴を脱ぎベッドに上がって寝転がった。うーん最高。こんないいもの初めてだ。あまりの心地良さにうとうとしていると声をかけられた。
「クロ、そろそろ始まるぞ」
いつの間にか荒鬼くんも隣に寝転がっていて、準備万端といった様子だ。2人で楽しみだね、なんて言いながら開始を待つ。
ブザー音が鳴り響き、辺りが暗くなる。暗闇に包まれた空間の中、アナウンスが流れ始めた。
天井に映し出された満天の星はとても綺麗だった。きらきらと輝くそれはまるで宝石のようで、ひとつひとつの輝きが眩しく感じられる。
ちらりと隣の荒鬼くんを見やれば彼も真剣に映像を見つめていた。彼の紫色の瞳に反射する星が本物よりも煌めいて見えるのは何故だろう。
しばらく黙って眺めていると次第に瞼が重くなってきた。心地よいBGMも相まってだんだんと眠気に襲われていく。だめだと思いつつも睡魔には勝てず瞼を閉じようとした時、不意に右手に温もりを感じた。
何事かと右に視線をずらすと荒鬼くんの手が重ねられていた。びっくりして固まっていたら、そのままぎゅっと強く握りしめられる。思わず声を出しそうになったが慌てて口を閉じた。
(こ、これはとてつもなくデートっぽいのでは……?)
デートっぽいも何もこれは純然たるデートなのだけれど、思考がめちゃくちゃになるくらい驚いたのだから仕方ないだろう。プラネタリウムデート最高、チケットをくれた常連の人とレオンには感謝しかない。
私も負けじと、さりげなく彼の方へ寄りつつそっと指を絡めた。荒鬼くんは一瞬ピクリと反応したけど特に何も言わず握り返してきたのでさらに密着度を上げるべく身体をくっつけてみたりする。
彼は何も言わずされるがままになっているだけだったけど、いつもより高い体温が彼の心情を表している気がした。
荒鬼くんのことで頭いっぱいになっている間に時間は過ぎ、気がつけば投影が終了したようだった。ぼんやりと照明がついて周りが見えるようになると、慌てて繋いでいた手を離す。名残惜しい気もするがさすがにこれ以上はちょっと恥ずかしいのでやめた。
荒鬼くんは何事も無かったかのように立ち上がり伸びをする。その顔はいつも通り涼しげで余裕そうだ。私だけ意識してしまっているのが少し悔しかったけど、そういう態度の荒鬼くんも好きだったりするので問題はない。
「面白かったね」
本当は後半の内容なんてほとんど覚えてないけれど、とにかく荒鬼くんと一緒に過ごせたことだけで満足である。
「だな」
満足げに返事をしてくれる彼もまた楽しめたようだったで何よりだ。
帰り道はゆっくり歩きながら雑談をして歩く。久しぶりに二人っきりになれたので会話は尽きない。
「荒鬼くん、さっき手握ってきてくれたよね」
「あー、あれは……無意識というか、なんつーか……」
歯切れ悪く答える彼に自然と笑みが浮かぶ。彼のそんなところも大好きで、もう少し困らせてみたいだなんて思ってしまうのだ。
「嬉しかったんだよ?だからお礼しないとって思って……」
意味が分からないと言った様子で首を傾げる彼を横目に距離を詰め、不意打ちのようにキスをした。身長差が結構あるのでギリギリ軽く触れるだけのキスだったが効果は抜群だったようだ。彼の顔を見ると真っ赤に染まっていた。
「なッ、何すんだ馬鹿野郎!!」
怒ってるように見えるけどただの照れ隠しなのはバレバレである。「嫌だった?」なんてわざと少し眉を下げて聞けば言葉に詰まったあとに視線を逸らした。
「嫌じゃねェけど、突然されると驚くだろうが!」
照れ隠しからか早口でまくし立てる姿が可愛くて愛おしい。
「じゃあ今度はする前にちゃんと聞くね?」
「そういう問題じゃねぇ!」
背中をバシッと叩かれてしまったがかなり手加減されているようで全く痛くない。痛いふりをしてけらけらと笑っていると今度は脇腹を突かれた。
2人でふざけ合って笑い合うこの時間が幸せだなんて、ありきたりな事を考えてしまうくらいに満ち足りた1日だった。