ライドカメンズ
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「…………はっ!?ゆ、夢……?」
がばりと勢い良く起き上がり、額に流れる変な汗を拭う。寝汗はびっしょりだし、心臓の動悸が止まらない。胸元を押さえて、深呼吸を何度も繰り返す。
最近妙に夢見が悪い。得体の知れないものに追いかけられる夢、交通事故に遭う夢、何者かに首を締め上げられて殺されかける夢……などと様々である。
最近はこの夢見のせいもありだいぶ寝不足気味だし、眠る前はなんだか落ち着かなくて精神的にもかなり参ってしまっている。
レオンもかなり心配していて、リラックスするというハーブティーを淹れてくれたり、アロマを焚いてくれたり、マッサージをしてくれたりと色々気遣ってくれていて、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
とはいえ、エージェントとしての仕事を休むわけには行かないし、神威さんと調査の約束をしていたこともあり、レオンの心配を押し切って調査に出かけた。
神威さんの画材選びに付き合ったり、彼に命じられるまま写真を撮ったりとほとんどカオストーン探しをしていなかったような気がするけれど、どうにか有力な情報を手に入れることができたところですっかり日も暮れてしまった。そしてそのまま近くのレストランで食事を取ることになったのだけれど……。
……さっきから神威さんからの視線が痛い。私何かしてしまったのだろうか。食後の紅茶を楽しんでいる間ずっとこんな感じなのだ。
なんとなく居心地の悪さを感じていると、今度はずいっと顔を近づけてまじまじと私の顔を見つめるものだからひっくり返りそうになる。相変わらず彼の端正な顔が間近にあると心臓に悪い!
思わずぎゅっと目を瞑ってしまうと、「何を期待している?」といつも通りのトーンで言われてしまい、かあっと頬が熱くなる。
その反応を気にした様子もなく彼は優雅に笑うと、私の頬に触れてきた。
「肌が荒れている、目の下にクマがある、唇の色もくすんでいてあまり良くないな……。それに顔色も悪いぞ、クロ」
神威さんは私の頬に手を当てたまま、親指で目の下を優しくなぞる。その触れ方がとても優しくて、思わず胸がどきんと高鳴ってしまう。彼はそんな私の様子など気に留めた様子もなく、そのまま目の下を指の腹で撫で続けた。彼の細くて長い指の感触が心地よくて、このままずっとこうしていたいと思ってしまう。
「俺という美の化身の隣を歩くというのに、美しくない姿を晒すなど許さん。だいたいお前はいつも……」
なんだかお説教が始まってしまった。でも、神威さんは私のために言ってくれているので決して悪い気はしない。自分にしか興味のない彼が、ほんの少しでも私に意識を割いてくれているというだけでとても嬉しかった。神威さんの言葉を聞きながらも、彼の長い指先に意識が集中してしまうのを止められない。
「聞いているのか、クロ?」
不意に神威さんが私の顎を掴んで上を向かせる。至近距離にある神威さんと目が合うと心臓が大きく跳ね上がる。
「あ……は、はいっ!」
思わず声が上ずってしまった。神威さんの瞳は相変わらず綺麗で吸い込まれてしまいそうになる。くらくらしている私を余所に、彼は小さく溜息を吐いてから言葉を続けた。
「まったく、俺の話をちゃんと聞け」
呆れたような顔をしつつ私の顎から手を離すと、そのまま私の頬を軽くつねった。痛い! でも、神威さんの冷たい指の感触が心地良かった。その反応に満足気に笑うと、今度は優しく頭を撫でてくれた。
「まぁいい。……で? お前は何に怯えている?」
神威さんは私の目を覗き込むようにして問いかけてきた。その鋭い眼差しは私の心を見透かすかのようだ。思わず視線を逸らすと、小さく呟いた。
「……最近、変な夢を見て……それでちょっと寝不足と言いますか」
苦笑しつつ答えると、神威さんは興味なさげに鼻を鳴らした。
「ふん、下らん。夢など所詮は脳の情報処理にすぎない。そんなものを気に病むとは、お前も存外繊細なところがあるものだな」
神威さんはつまらなそうに言うと、私の頬から手を離し、再びカップを手にとった。
神威さんらしいと言えば神威さんらしいけれど、夢に怯えるなんて馬鹿馬鹿しいと一蹴されてしまって少し悲しい。でも、確かに彼の言う通りだとも思う。
「でも……気になりますもん。なんだかすごく嫌な予感がして、それのせいで怖くて眠れなくて……」
消え入りそうな声でそう言うと神威さんはこちらを横目で見やり、また小さくため息をついた。そのまま私をじっと見つめ、やがてゆっくりと口を開く。
「ふむ……、ならば一ついい考えがある」
神威さんはカップをテーブルに置くと、席を立ち上がり私の元へと歩み寄ってきた。私の傍まで来るとそのままテーブル越しに腕を引いて立ち上がらせられる。彼の赤い双眸に見つめられると、胸の奥が甘く痛む感覚を覚える。
その圧倒的な美貌を前にすると心臓がドキドキして上手く言葉を交わすことができず固まってしまうのだ。
神威さんはそんな私の様子を気に掛ける様子も無く言葉を続ける。
「行くぞ」
「へ?どこへ……?」
私の問いには答えずにずんずんと歩いていってしまう。慌ててお会計を済ませた後、彼の後を追いかけた。神威さんの足は止まることがなく、気がつけばホテルレインボーに来ていた。
「は?え?」
困惑する私をよそにフロントへ進んでいく神威さんの後を追う。そういえばここは、いつぞやに神威さんがスランプからの脱却ということで宿泊して作品を制作していた(そして私に宿泊費を支払わせた)ホテルである。なんでここに……?
訳がわからないまま立ち尽くしているうちにどうやらチェックインは終わったらしく、部屋のカードキーを手にした神威さんが私の様子を一瞥し、言い放つ。
「クロ、着いてこい」
そのままエレベーターに乗り込むなり宿泊階へのボタンを押した彼は再び黙り込んでしまう。私が困惑しつつ彼を見つめていればややあって神威さんは口を開いた。
「この俺がお前のために一肌脱いでやろうというんだ。大人しくついてこい」
神威さんはそれだけ言ってまた黙ったので、私はやむなく従うことにするしかなかったのだった。
部屋に着くなり神威さんは勝手知ったる様子でさっさとソファに向かってしまう。相変わらず自分のペースを貫く人なので、振り回されることもしょっちゅうだが、そんなところも含めて好きになっているのだから重症だ。とはいえ、今回の行動は突拍子もなさすぎて意図が全く読めない。
「あの、神威さん。これは一体……?」
恐る恐る問いかけると彼はこちらを一瞥してから答えた。
「お前が悪夢を見るというなら、それを上書きするしかあるまい」
「上書き……?」
一体どういうことだろう。彼の言葉の意図を理解しきれず首を傾げる。しかしそんな私の様子などお構いなしに、彼はスケッチブックを取り出すと絵を描き始めた。えぇ……?
「さっさと入浴を済ませてこい」
神威さんは私を見ずに言う。どうやら拒否権はないようだ。
仕方なく私はバスルームへと向かったのだった。
シャワーを浴びて部屋へ戻ると、様々なスキンケア用品を並べた神威さんが手招きをしている。とりあえず言われるがまま近寄ってみると、あれよあれよという間にソファに座らされて髪の手入れやら体の手入れやらをされてしまうことになった。
化粧水を染み込ませたコットンで目元を押さえられながら私は困惑していた。というか何故神威さんが当たり前のようにこんな行動を取っているのかが全くもって理解できない。
答えを求めるように視線を投げかけてみるものの、彼はこちらを一瞥すらせず黙々と作業を続けているばかりだったので諦めた。
風呂上がりにボディローションを体に刷り込まれるのは流石に恥ずかしいのだけれども、涼しい顔をしている彼に文句を言うわけにもいかないので大人しくされるがままになっていることにした。
しばらく無言の時間が続いた後、彼はやっと口を開いた。
「よし」
満足気に呟くと神威さんは私から離れ、今度はバスルームへと消えていった。なんだか手持ち無沙汰になってしまったので、ベッドに横になりごろごろと寝返りをうって時間を潰すことにする。
……それにしても一体神威さんは何がしたいのだろうか。そんなことを考えながらぼんやりと天井を見つめていると、やがて神威さんが戻ってきた。
「おい」
不機嫌そうな声に思わず飛び起きる。慌てて姿勢を正して向き直れば、そこにはバスローブ姿の彼がいた。普段よりもラフで無防備な姿にドキドキしてしまう。
「あ、はい、なんでしょうか!」
緊張して上ずった声で返すと、神威さんはフンっと鼻で笑った。
「何を緊張している。……ほら、早く寝ろ」
そう言って彼はベッドの反対側に潜り込んだ。どうやら一緒に寝るつもりらしい。
「え」
「なんだ、不満か?」
私が戸惑っているのを感じ取ったのか、神威さんがこちらをじとりと見ている。私は慌てて首を振りながら答えた。
「あ、いえ!まさか……いやでもなんで……?」
聞きたい事は山程あったけども、何をどう聞けばいいのかわからない。目を白黒させている私を他所に神威さんは淡々と言葉を続けた。
「お前は最近、夢見が悪くて寝不足なのだろう? ならば、俺が添い寝をすることで悪夢を上書きしてやろうという俺の心遣いだ」
神威さんは得意気に胸を張る。いやよくわかんないんですがと言いたいところだけども、口に出しては言えないのが現実。何故なら神威さんの瞳が「ここは大人しく従っておけ」と圧をかけてくるからだ。
「あ、えっと、はい……。ありがとうございます……?」
「わかれば良い」
神威さんは満足げに頷くと、私の肩を押してベッドに横になるよう促してきた。言われるままに横になると、彼もまた私の隣に寝転んだ。
神威さんは私を抱き寄せるようにして背中に手を回すと、おでこを私のそれとくっつけてくる。息のかかる距離に彼の顔があって心臓がばくばくと騒ぎ始めるけども、彼は構わずに話し始めた。
「俺がお前の夢に出てやろう。俺が出てくる夢に悪夢などあり得ないからな!!!!」
自信満々に言う彼に私は思わず苦笑してしまう。でも、神威さんが傍にいてくれるのなら安心できるかもしれない。
「じゃあ、よろしくお願いします」
私が言うと神威さんは満足げに笑って、頭を撫でてくれた。それが心地よくて目を細める。彼の体温を感じながら目を閉じるとすぐに眠気がやってきた。うとうとしていると囁く声が聞こえる。
「おやすみ、いい夢を」
その声を最後に私は深い眠りに落ちていったのだった。
その夜に見た夢は、会う人全てが神威さんの顔になっている夢だった。これ悪夢一歩手前なのでは?
がばりと勢い良く起き上がり、額に流れる変な汗を拭う。寝汗はびっしょりだし、心臓の動悸が止まらない。胸元を押さえて、深呼吸を何度も繰り返す。
最近妙に夢見が悪い。得体の知れないものに追いかけられる夢、交通事故に遭う夢、何者かに首を締め上げられて殺されかける夢……などと様々である。
最近はこの夢見のせいもありだいぶ寝不足気味だし、眠る前はなんだか落ち着かなくて精神的にもかなり参ってしまっている。
レオンもかなり心配していて、リラックスするというハーブティーを淹れてくれたり、アロマを焚いてくれたり、マッサージをしてくれたりと色々気遣ってくれていて、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
とはいえ、エージェントとしての仕事を休むわけには行かないし、神威さんと調査の約束をしていたこともあり、レオンの心配を押し切って調査に出かけた。
神威さんの画材選びに付き合ったり、彼に命じられるまま写真を撮ったりとほとんどカオストーン探しをしていなかったような気がするけれど、どうにか有力な情報を手に入れることができたところですっかり日も暮れてしまった。そしてそのまま近くのレストランで食事を取ることになったのだけれど……。
……さっきから神威さんからの視線が痛い。私何かしてしまったのだろうか。食後の紅茶を楽しんでいる間ずっとこんな感じなのだ。
なんとなく居心地の悪さを感じていると、今度はずいっと顔を近づけてまじまじと私の顔を見つめるものだからひっくり返りそうになる。相変わらず彼の端正な顔が間近にあると心臓に悪い!
思わずぎゅっと目を瞑ってしまうと、「何を期待している?」といつも通りのトーンで言われてしまい、かあっと頬が熱くなる。
その反応を気にした様子もなく彼は優雅に笑うと、私の頬に触れてきた。
「肌が荒れている、目の下にクマがある、唇の色もくすんでいてあまり良くないな……。それに顔色も悪いぞ、クロ」
神威さんは私の頬に手を当てたまま、親指で目の下を優しくなぞる。その触れ方がとても優しくて、思わず胸がどきんと高鳴ってしまう。彼はそんな私の様子など気に留めた様子もなく、そのまま目の下を指の腹で撫で続けた。彼の細くて長い指の感触が心地よくて、このままずっとこうしていたいと思ってしまう。
「俺という美の化身の隣を歩くというのに、美しくない姿を晒すなど許さん。だいたいお前はいつも……」
なんだかお説教が始まってしまった。でも、神威さんは私のために言ってくれているので決して悪い気はしない。自分にしか興味のない彼が、ほんの少しでも私に意識を割いてくれているというだけでとても嬉しかった。神威さんの言葉を聞きながらも、彼の長い指先に意識が集中してしまうのを止められない。
「聞いているのか、クロ?」
不意に神威さんが私の顎を掴んで上を向かせる。至近距離にある神威さんと目が合うと心臓が大きく跳ね上がる。
「あ……は、はいっ!」
思わず声が上ずってしまった。神威さんの瞳は相変わらず綺麗で吸い込まれてしまいそうになる。くらくらしている私を余所に、彼は小さく溜息を吐いてから言葉を続けた。
「まったく、俺の話をちゃんと聞け」
呆れたような顔をしつつ私の顎から手を離すと、そのまま私の頬を軽くつねった。痛い! でも、神威さんの冷たい指の感触が心地良かった。その反応に満足気に笑うと、今度は優しく頭を撫でてくれた。
「まぁいい。……で? お前は何に怯えている?」
神威さんは私の目を覗き込むようにして問いかけてきた。その鋭い眼差しは私の心を見透かすかのようだ。思わず視線を逸らすと、小さく呟いた。
「……最近、変な夢を見て……それでちょっと寝不足と言いますか」
苦笑しつつ答えると、神威さんは興味なさげに鼻を鳴らした。
「ふん、下らん。夢など所詮は脳の情報処理にすぎない。そんなものを気に病むとは、お前も存外繊細なところがあるものだな」
神威さんはつまらなそうに言うと、私の頬から手を離し、再びカップを手にとった。
神威さんらしいと言えば神威さんらしいけれど、夢に怯えるなんて馬鹿馬鹿しいと一蹴されてしまって少し悲しい。でも、確かに彼の言う通りだとも思う。
「でも……気になりますもん。なんだかすごく嫌な予感がして、それのせいで怖くて眠れなくて……」
消え入りそうな声でそう言うと神威さんはこちらを横目で見やり、また小さくため息をついた。そのまま私をじっと見つめ、やがてゆっくりと口を開く。
「ふむ……、ならば一ついい考えがある」
神威さんはカップをテーブルに置くと、席を立ち上がり私の元へと歩み寄ってきた。私の傍まで来るとそのままテーブル越しに腕を引いて立ち上がらせられる。彼の赤い双眸に見つめられると、胸の奥が甘く痛む感覚を覚える。
その圧倒的な美貌を前にすると心臓がドキドキして上手く言葉を交わすことができず固まってしまうのだ。
神威さんはそんな私の様子を気に掛ける様子も無く言葉を続ける。
「行くぞ」
「へ?どこへ……?」
私の問いには答えずにずんずんと歩いていってしまう。慌ててお会計を済ませた後、彼の後を追いかけた。神威さんの足は止まることがなく、気がつけばホテルレインボーに来ていた。
「は?え?」
困惑する私をよそにフロントへ進んでいく神威さんの後を追う。そういえばここは、いつぞやに神威さんがスランプからの脱却ということで宿泊して作品を制作していた(そして私に宿泊費を支払わせた)ホテルである。なんでここに……?
訳がわからないまま立ち尽くしているうちにどうやらチェックインは終わったらしく、部屋のカードキーを手にした神威さんが私の様子を一瞥し、言い放つ。
「クロ、着いてこい」
そのままエレベーターに乗り込むなり宿泊階へのボタンを押した彼は再び黙り込んでしまう。私が困惑しつつ彼を見つめていればややあって神威さんは口を開いた。
「この俺がお前のために一肌脱いでやろうというんだ。大人しくついてこい」
神威さんはそれだけ言ってまた黙ったので、私はやむなく従うことにするしかなかったのだった。
部屋に着くなり神威さんは勝手知ったる様子でさっさとソファに向かってしまう。相変わらず自分のペースを貫く人なので、振り回されることもしょっちゅうだが、そんなところも含めて好きになっているのだから重症だ。とはいえ、今回の行動は突拍子もなさすぎて意図が全く読めない。
「あの、神威さん。これは一体……?」
恐る恐る問いかけると彼はこちらを一瞥してから答えた。
「お前が悪夢を見るというなら、それを上書きするしかあるまい」
「上書き……?」
一体どういうことだろう。彼の言葉の意図を理解しきれず首を傾げる。しかしそんな私の様子などお構いなしに、彼はスケッチブックを取り出すと絵を描き始めた。えぇ……?
「さっさと入浴を済ませてこい」
神威さんは私を見ずに言う。どうやら拒否権はないようだ。
仕方なく私はバスルームへと向かったのだった。
シャワーを浴びて部屋へ戻ると、様々なスキンケア用品を並べた神威さんが手招きをしている。とりあえず言われるがまま近寄ってみると、あれよあれよという間にソファに座らされて髪の手入れやら体の手入れやらをされてしまうことになった。
化粧水を染み込ませたコットンで目元を押さえられながら私は困惑していた。というか何故神威さんが当たり前のようにこんな行動を取っているのかが全くもって理解できない。
答えを求めるように視線を投げかけてみるものの、彼はこちらを一瞥すらせず黙々と作業を続けているばかりだったので諦めた。
風呂上がりにボディローションを体に刷り込まれるのは流石に恥ずかしいのだけれども、涼しい顔をしている彼に文句を言うわけにもいかないので大人しくされるがままになっていることにした。
しばらく無言の時間が続いた後、彼はやっと口を開いた。
「よし」
満足気に呟くと神威さんは私から離れ、今度はバスルームへと消えていった。なんだか手持ち無沙汰になってしまったので、ベッドに横になりごろごろと寝返りをうって時間を潰すことにする。
……それにしても一体神威さんは何がしたいのだろうか。そんなことを考えながらぼんやりと天井を見つめていると、やがて神威さんが戻ってきた。
「おい」
不機嫌そうな声に思わず飛び起きる。慌てて姿勢を正して向き直れば、そこにはバスローブ姿の彼がいた。普段よりもラフで無防備な姿にドキドキしてしまう。
「あ、はい、なんでしょうか!」
緊張して上ずった声で返すと、神威さんはフンっと鼻で笑った。
「何を緊張している。……ほら、早く寝ろ」
そう言って彼はベッドの反対側に潜り込んだ。どうやら一緒に寝るつもりらしい。
「え」
「なんだ、不満か?」
私が戸惑っているのを感じ取ったのか、神威さんがこちらをじとりと見ている。私は慌てて首を振りながら答えた。
「あ、いえ!まさか……いやでもなんで……?」
聞きたい事は山程あったけども、何をどう聞けばいいのかわからない。目を白黒させている私を他所に神威さんは淡々と言葉を続けた。
「お前は最近、夢見が悪くて寝不足なのだろう? ならば、俺が添い寝をすることで悪夢を上書きしてやろうという俺の心遣いだ」
神威さんは得意気に胸を張る。いやよくわかんないんですがと言いたいところだけども、口に出しては言えないのが現実。何故なら神威さんの瞳が「ここは大人しく従っておけ」と圧をかけてくるからだ。
「あ、えっと、はい……。ありがとうございます……?」
「わかれば良い」
神威さんは満足げに頷くと、私の肩を押してベッドに横になるよう促してきた。言われるままに横になると、彼もまた私の隣に寝転んだ。
神威さんは私を抱き寄せるようにして背中に手を回すと、おでこを私のそれとくっつけてくる。息のかかる距離に彼の顔があって心臓がばくばくと騒ぎ始めるけども、彼は構わずに話し始めた。
「俺がお前の夢に出てやろう。俺が出てくる夢に悪夢などあり得ないからな!!!!」
自信満々に言う彼に私は思わず苦笑してしまう。でも、神威さんが傍にいてくれるのなら安心できるかもしれない。
「じゃあ、よろしくお願いします」
私が言うと神威さんは満足げに笑って、頭を撫でてくれた。それが心地よくて目を細める。彼の体温を感じながら目を閉じるとすぐに眠気がやってきた。うとうとしていると囁く声が聞こえる。
「おやすみ、いい夢を」
その声を最後に私は深い眠りに落ちていったのだった。
その夜に見た夢は、会う人全てが神威さんの顔になっている夢だった。これ悪夢一歩手前なのでは?