そこに座る男は、私の父親だと言った

待って、私この世界には元々いない人間だよ？
親がいるわけないじゃん
でも、なんて説明すれば良いんだろ

「久美、探したぞ」
『…』
「まさか、お前あそこにいるなんてな」
『あの、人違いです！私、この世界の人間じゃないです！』
「…お前は…ちょっとした事故にあって、記憶を失くしたんだ」
『え？嘘』
「突然家を飛び出して行方不明になってた」
『だって、私の戸籍とかこの世界にはなかった』
「お前は…隠して産まれてきた子だ、だから戸籍も何もない」
『なんで…』
「私の娘と言うのは間違いない。だが、私の仕事柄お前を娘として育てるわけにはいかなかった」
『どういうこと？』
「私の仕事は、殺し屋だ」
『は？』
「お前がヤクザの所にいたのも好都合だったな…」
『私…目が覚めたら東城会の会長室に…』
「お前も、殺し屋の訓練を受けていた。忍び込むことなんて訳ない」
『嘘…そんな』
「記憶を失くしても、そういう所は身に染み付いてるんだな」

ちょっと…追いつかない
なんで？
殺し屋？
そんなわけない

「ショックなのはわかる、それに記憶を失くしてる以上もうお前には殺しはさせない」
『…』
「実は、今度の標的は、あの東城会の奴だ」
『え！？』
「俺達は支持に従うだけだ」
『やだ…誰？誰なの？』
「東城会四代目会長桐生一馬」

嘘…は、早く知らせなきゃ！

『やめて！お願い…』
「無理だ、私達は拒否は出来ない」
『やだ、だめ！そんなこと許さない！』
「何故そんなに庇う」
『みんな…あそこの人はみんな大切な人だから…』
「だが、ヤクザなんてもんはアチコチから恨みを買っていつ死んでもおかしくない、それを覚悟の上でやってるんだぞ」

『いやです…死んでほしくない…やだぁ』
『帰して！彼処に帰してよ！』
「やっと見つけたんだ、もう今日からここがお前の家だ」
『いやだ…そんなの』

みんなに…真島さんに…
会いたいよぉ…桐生さんに、知らせなきゃ
私にあったあの記憶は…一体何だったの

「お前が記憶を失くしたときに、アイツらの記憶を植え付けた」
『え…じゃあ、前の世界であの人達のことを知ってたって…』
「お前はずっとこの世界で生きてる、後からアイツらの記憶を入れたんだ。東城会の内情を探るために。そして、お前には大切な役割があった」
『え？』
「完璧にやる必要があったんだ」
『なに…』
「アイツらの隙を作るためだ」
『…』
「見事に、お前が隙を作った。お前が居なくなった今、奴等は血眼で探すだろう」
『…』
「そして、東城会は終わる」
『なんで？そんなわけないじゃない、私一人のために！』
「お前は、ちゃんと任務をやり遂げた」
『違う！そんなんじゃない！本気で…』
「真島吾朗か」
『…っ！』
「アイツも、次の標的だ」
『う…そ…』
「力のある幹部は全て標的になってる」
『いや…やめて！お願い！やめてぇー』

「私達に、支持を出してる奴を…止められなければ無理だ」
『だれ？だれなの？』
「知ってどうする、お前には何も出来ない」

やだ…みんなが、みんなが…

ガチャ

「そんなに殺されたくないのかぁ？」
『…っ！』
『だれ！』
「お前の父親に支持を出してるのは、俺だ」
『…』
「近江連合。若頭沼田宏次朗」
『近江…連合…』
「なかなか良い女だな」

ソイツは、私の顎を持ち上げて

「俺の女になるなら考えても良いぞ」
『何言ってんの？なるわけない』
「なら、指を加えてアイツらが一人一人死んでいくのを見てろ」
『…っ』

どうする…みんなを助けたい
生きていて
それだけでいい
生きていてくれたら

『わかりました、その代わり誰一人殺さないで！』
「フンっ、いいだろう今から、お前は俺の女だ」

真島さん、桐生さん、大吾さん、冴島さん、錦山さん、峯さん…
どうか…生きていて