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溺愛―短編ー
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PM11:15
小さなBARでもうすぐ無くなる黄金色の液体の入ったロックグラスを手の中で弄んでいた
傾ける度に、カランカランと寂しげに鳴るその音が静かな店内に響く
一口一口、無くなって欲しくなさそうにチビチビとそれに口をつける彼
『フフッ』
「なんや」
『そんなにチビチビ飲んで、らしくないね』
ムッとした顔で私のことを睨む
喧嘩の時の本気の睨みとは違って、なんだか可愛い
「フンッ」
私がチラッとスマホの画面をタップして時間を確認しようとしたらその手をガシッと掴む
『なに?』
「時間見るなや」
『だって、終電』
「車で送ってくわ」
『悪いよ、組の人に』
「…」
『なによ』
「ええやん、俺、組長やもん」
『プライベートまで悪いでしょ?』
「ヤクザにプライベートもクソもあるかい!」
『わがまま組長さんだね』
弄んでいたグラスを置き
掴んだままの手を両手で包み込みながら
私の手の甲を親指で優しく撫でる
『どしたの?』
「あんな…車で送ってくから…せやから、まだ帰んなや」
『どうしようっかな』
「おまえ…」
頬杖をつきながら、少し上目遣いでその隻眼を見つめてみる
「やめや」
『え?』
あれ?怒らせちゃったかな
「行き先変更や」
『は?』
掴んだままの手を引っ張って「行くで」
と無理やり立たされ、私のバックを引っつかむ
カウンターに札を置いて
「マスター、また来るわ」
とそのまま店を出た
繋いだ手を引かれながら、ああ…違うスイッチ入れちゃったかなと少し後悔
ただいつも翻弄されっぱなしだから仕返しをしてみたかっただけ
『ねぇ、どこ行くの?』
「朝まで一緒に居れるとこ」
参ったな
明日も仕事なのに
『ねぇ―』
「うっさいわ、もう帰さん」
『ちょっ―』
タクシー乗り場まで引っ張ってこられて
え?ホテルじゃないの?
と思ったけど、真島さんが運転手に告げた行き先は彼のマンション
『え?あの、ちょっと!』
そのまま、一言も何も言わないけど
しっかりと手は繋いだまま
マンションに着いてエレベーターで昇る間も
真島さんは目も合わせない
なんなのよ、もう
部屋に着いて扉を閉めた途端に
ガバッと抱きつかれた
『真島さん?』
「帰したくないねん」
『…』
「毎回毎回…時計見る久美見たくないんや」
『そっか…ごめんね?』
『…私も寂しいよ?バイバイする時、もっと一緒に居たいもん』
「ホンマか?」
『うん』
「んなら、今からここに住めや」
『え!?今?』
まさか、そう来るとは…
「久美の全部、そろそろ俺にくれや」
『…』
「もう離れたないし、誰にも見せとうない」
『ちょっと、それじゃまるで監禁じゃん』
「監禁してもええ?」
くっ付いていた身体を離し
少し屈んで私の目を覗き込む
『じょ、冗談!』
「大本気やで?」
ゾワゾワっと寒いものが身体を駆け抜けた
こういう時のこの人は、冗談なのか本気なのかわかりずらい
その強い視線を逸らせないまま
熱い唇が重なった
絡まってくる舌と甘い味が思考を停止させる
唇がゆっくり離れると
優しく優しく大きな手が頬を撫でる
「俺だけのもんやで…久美」
ああ
それもいいかも
この人の大きな海の中で
ただ漂うだけの残りの私の人生も
なかなか幸せかもな
そのまま、ヒョイっと抱えられて部屋の奥へ連れていかれる
このまま、溺れてしまうのも
悪くないかもしれない
「久美…ずーっと愛しとる」
耳元で低く囁かれた言葉が
私を深海へ引きずり込んでいく
真島吾朗という海
二度と上がって来れない海の底へ
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