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壊しそうな気持ちー短編ー
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「こんなとこに居った」
『あ…』
高い位置から見下ろすその右眼が
すぐさま拭ったばかりの目尻に向けられた
この人はいつもこういう事には敏感で
隠せないという事を知ってるのにしくじったなとすぐさま後悔が過ぎる
「なんで泣いとるん」
優しいけどいつもより低い声でかけられた言葉は、また隠し事してるなとその後の言葉を隠していた
『なんでもないよ、欠伸!』
「嘘は嫌いやで?」
『嘘じゃないって、飲みすぎて眠くなっちゃって』
「ん〜?」
『な、なに?』
「なんであんなに飲んどったん?あんな飲み方せんやろいつも」
絶対言うまで尋問する気だなこの人
こうなると逆に怒らせる事になってしまう
『昼間に…』
「昼間に?」
ここまで言うともう堰を切ったように言葉が溢れ出した
『西田さんと歩いてたら、キャバ嬢さんに話しかけられて』
「て?」
『また来てくださいねって』
「ほぉん」
『名前…』
「名前?」
『呼び捨てにした』
「はあ?」
『吾朗も連れてきてねだって』
「ハッ!」
吐き捨てるように笑う
『私だって呼んでないのに…』
小さく小さく呟いた
「そんな事で泣いとったん?」
わかってない
たかが名前、だけどそれを許してる事に傷ついたんだ
そんな事…で片付ける真島さんに少しイラついて目だけで見上げたそれはきっと感情が隠しきれてなかったんだと思う
「なんや、言いたいことあるなら言えや」
『言っても仕方ない』
「ああ?」
真島さんもイラついてきてる
それにも腹が立った
まずい流れだとわかってるのに止められない
『別に』
「おい」
顎を掴まれて目線を合わせられる
一瞬かち合った右眼は怒りの色になってるのを確認させるためか
そうやってなんでも真島さんの思った通りになるのが癪で
一度逸らした視線をまたその鋭い右眼に戻し
『別に、どうでもいいことなので!』
と言って、顎を掴んでいる手を払い除けた
ドアを押して出ようとすると
物凄い力で手首を掴まれた
『いッ!』
そのまま強く引っ張られて壁にドンッと押し付けられた
『…』
少し屈んで顔を覗き込みながら
「ワシに隠し事は許さんで?」
ヤクザのソレで凄んでくる
『…』
私を壁に押し付けながら、脚の間に膝をねじ込んでくる
鼻が触れそうなくらい近くでジッと目の奥を覗こうとしてくる
『ふ…』
ずっと息を止めていて耐えきれず息を少し吐く
少し開いた唇を見逃さなかった真島さんが
噛み付くように唇を奪いに来た
なんでこの人はこんな雰囲気の時にこんなに甘いキスをしてくるのか
まだ息を吸えてなかった私は苦しくてその肩を押す
それでもやめようとしない真島さんは、私の両手を纏めて頭上で拘束する
『んんッ!』
顔を横に逸らしキスから逃れようとすると
もう片方の手で顎を押さえつけられまた噛み付いてくる
『ん〜ッ!!』
意識が薄れそうで腰から力が抜けていく
顎から手が離れ崩れそうな腰をガシッと掴まれた
やっとキスから解放されて酸素を求めて大きく吸い込もうとするとギュッと強く抱きしめられた
『うッ…く、苦しい…』
「アカンな…」
「殺してしまいそうや…」
『ッ!』
「ヒヒッ、ホンマに殺したりせんわ、こんなに愛しとるのに」
『真島…さ…ん』
ここで私の記憶は途切れた
目が覚めた時は事務所のソファに寝かされていた
頭がガンガンする
「目ぇ覚めたんか?」
『…私…』
「飲みすぎなんや、お前」
『え?』
「いきなりガクッと意識無くすから焦ったで」
え?
あれ?
夢?
「お前、寝言でめっちゃ怒ってたわ」
『寝言…』
「せや、なんであんな女が吾朗って呼んでんだ!とか、私だって名前で呼んでないのに!とか、後な―」
『も、もういい!』
「ヤキモチのやけ酒だったんか?」
『…』
「久美には吾朗って呼べって何回も言っとるやろが」
『そうだけど…恥ずかしいんだもん』
「それに、他所の女に吾朗なんて呼ばせてへんで?」
『だって!』
「揶揄われたんやろ」
『そんな…私だけ馬鹿みたいじゃん』
「ヒヒッ、吾朗って呼んでええのはお前だけやで?」
『あ、さっきのって夢?』
「なんやさっきのって」
『非常階段の』
「夢やないけど?」
『えぇ〜!?』
『酷い!』
「ああでもしないと素直にならんやろ久美」
「まあ、素直にする前に気を失ったけどな」
『死ぬかと思った…』
「俺と居るの怖なったか?」
さっきの凄みはなく
ちょっと意地悪な顔
『面白くなりました』
「ヒヒッ」
「お前が怒っとって一生懸命それ出さんようにしとるのもずーっとわかっとったで?」
『え?なんで!』
ニヤっと右の口角が上がる
「ワシが知らん事はないんや」
後日、西田さんが真島さんにチクったことが判明
そして、あの非常階段での事
怒ってるように見えた真島さんは、ただ単に興奮してたんだって…
「ヤキモチ妬いて泣いとる久美見たら、めっちゃ可愛くて興奮してもうたんやヒヒッ」
と…
そんな事があっても
これからも妬いちゃうと思う
「何度でも安心させたるから妬いたら言えや?まあ、その度に襲ってまうけどな」
そして、私はまだ【吾朗】とは呼べずにいる
だって…恥ずかしいんだもん…
「で、サキちゃんが【吾郎も連れてきてね】なんて言って…」
「ああ?」
「いや、親父、吾郎なんて呼ばせてましたっけ」
「んなもん呼ばせるわけ無いやろ」
「ですよね〜」
「おおかた、久美に嫌がらせしたかったんやろ」
「女って怖いですね」
「フンッ」
「てか、サキって誰や」
「え!?この前行ったキャバクラの娘ですよ、ずっと親父にくっついてた」
「あ?そんなのおったかいな」
ま…まあ、親父はキャバ嬢にモテるからどの娘のことかわからないか…ハハ
「でも、あんなこと言われて挑発されたのに姐さんビシッとしててカッコよかったですよ!流石親父の女だな〜と思いました」
「フンッ当たり前やろ」
帰ってきた西田がコソッと俺に話してきた話
久美を見ても特に変わったところはないと
その時は気付かなかった
ま、実際は可愛らしく泣いとったけどな…
「ワシ、お前らに付き合って飲み行っとったけどな〜もう行かん」
「え〜!親父が来てくれないと!」
「なんでワシがお前らの下心の為に行かなアカンのや!アホンだら!」
「あ、はは…そうですよね…」
久美の泣き顔とどす黒いオーラ出しとるのもたまには可愛ええけど
やっぱり笑っとる顔が好きや
…てか、早う吾郎って呼んでくれんかのぅ…
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