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壊しそうな気持ちー短編ー
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その日の夜は組の事務所で鍋パーティーなるものが開かれた
たくさんの鍋の具材にお酒
組長の真島さんも楽しそうに鍋をつついてた
私は昼間の出来事を引き摺ったままで温かい湯気の上がる美味しそうな鍋を真島さんが取り分けてくれたのに箸をつけることもなくお酒ばかり飲むことになっていた
この流れは良くないとわかっているのに
ドス黒いものが胸の中にあって
大人になりきれない自分に腹が立って尚更酒を浴びるという悪循環に陥る
「久美飲み過ぎとちゃうか?ちゃんと食わなアカンで?」
「うん」
楽しそうにしてる真島さんに申し訳ないと言う気持ちも、ただ自分を責め立てる材料にしてしまう
ガマンだ
笑顔になれ
早く
「美味しそうだね」
振り絞った声と笑顔で
小皿に乗った豆腐に箸を入れた
少し私を見つめてた真島さんは、食べ始めた私を見て安心したのかまた皆と話を再開する
箸の上に乗せた白いお豆腐を
無理やり口の中に押し込む
温かくて口の中ですぐに蕩けて無くなっていくのに、大袈裟に喉が飲み込んだのは
お豆腐だけじゃなくて溢れ出しそうな嫉妬の気持ち
そしてまた酒を流し込む
かなりの時間が経って鍋も底をつき始めた
私は、フラフラと事務所の外へ出て非常階段の扉を開いた
階段の手すりに凭れる
外の冷たい空気が気持ちいい
フワフワと視線も定まらない
なんだか何もかもどうでも良くなってくる
考えることも面倒くさい
あんな女に翻弄されるなんて馬鹿みたいだ
そう、こうして少しの間その激情を押さえ込めばだんだん無視出来るようになる
何度もそうしてきた
ふぅ…
タバコを取り出して咥える
こういう時の精神安定剤、頭の中をスッキリさせてくれる
吸い込んで「はぁ…」とため息とともに紫煙を吐き出す
クラクラとして
立っているのが辛くなった
手すりを背にズルズルとしゃがみ込む
空を見上げたらポロリと目尻から涙が零れた
こんな事くらいで泣くなんてみっともない
だけど、もう幾度となく知らない女性に【名前を】呼ばれるのを聞いてるうちにどんどん擁壁を壊されていってた
このままじゃ…
いつか壊してしまうんじゃないのか
そんな事望んでないのに
私の中の押さえ付けてる衝動が
そのうち盛れ出してしまうんじゃないか
仕方ない
わかってるよ
ヤクザの組長だもん
キャバクラなんて行ったらモテモテだよ
それでなくても有名なのにさ
覚悟して好きになったんじゃん
わかってる
わかってる
手の甲で涙を拭って
ポケットから携帯灰皿を出す
ポイっとその中にタバコを入れてギュッと握った
まだ熱いタバコの火種を手のひらの中で感じるけど、その痛みさえ心地よくなるほど気持ちは限界なのかもしれない
戻ろうとドアノブに手をかけた時
ドアが反対側から勢いよく引かれた