BK短編集


「アルコール依存症三十路男の功罪」



むかしむかし、オレが生後2ヶ月位だったある日。

ダディはオレを皆にお披露目・・・・いや、単に『仲間内で1番最初に生まれた息子を見せびらかしたい』が為に、旧アイドル超人軍団の面々を家に招くと言い出した。
だが、誕生を祝いに来いとはさすがに言いにくかったようで、
『久々に我が家でホームパーティーをしないか?』
と、誘ったのだとか・・・・


この話は最近マミィから聞いた。
赤子のオレに当時の記憶など当然あるわけがない。


その『ホームパーティー』・・・・

『思い立ったが吉日だ』と、その日のうちにダディは皆へ直々に電話をかけた。

『・・・・というわけで、来週末に集まってもらいたい!』

その口調は招待するというより、半強制的な召集のようだったらしい。

電話を受けた皆は(本音は判らないが)快くOKした。が、たった一人だけ『面倒くさい。俺はパス』と断った者がいた。
そいつの名はブロッケンJr.・・・・・今はオレのダーリンであるブロだ。


当時のブロは三十代。超人レスラーとしてビッグタイトルに手が届かぬまま早々と引退していた。新しい夢と希望にその力を使いたいというのが引退理由だった。
しかし、その夢や希望はブロにとって虚しい結果に終わり、己の非力さを嘆き失意のドン底に落ちた彼は毎日酒浸りの生活を送り始めた。
そして年月は流れ、いわゆる『アルコール依存症』の末期的な状態になっていた。

泥酔していたのか寝ていたのか、ダディからのコールになかなか応答しなかったらしい。

ようやく電話が繋がったその日も、真っ昼間から酔い潰れていた上に、しつこいコールへのに苛立ちも加わっていたのか、ダディの誘いに対し、
『面倒くさい。俺はパスする』
と、呂律の回らぬ口調とはいえキッパリ断ったという。
『ブロッケン、たまには気分転換も必要だぞ。アリサも皆もおまえに会いたがっている』
とか何とか、ダディが説得を始めるや否や、
『おいおい英国の英雄さんよォ。寝言は寝てから言うもんだ。この俺がわざわざ英国まで赤ん坊なんか見に行くわけねーだろ。まあ、せいぜいマトモなガキに育てろや。もう電話するなよ、あばよ!』
・・・・そう言ってガチャ切りされたというのは、ダディから何年も後に聞かされた。
どこまで本当だかは知らないが、ブロの言い分には一理あるような気もする。
オレも、仮に見知った相手にガキが生まれたとして、他国まで見に来いと言われたらマジで断ると思う。


そういうわけでブロだけは諦めたダディに、マミィが『独りだけ仲間外れはいけないわ』と言い、次はマミィがブロに電話したそうだ。
10回かけて出なければ速達で手紙を送ると決め、数時間おきに根気よく鳴らしたその電話のラスト10回目・・・・寝ぼけた声が応答した。
マミィは『息子』という単語は使わず、

『あのね、実は美味しいお酒が沢山あって困っているの。だからロビン達と一緒に飲んで頂きたくて・・・・帰りのお土産もお酒で良ければ、好きなだけ持って行って下さらないかしら?』

ブロは断らなかったどころか、皆より3日も早く英国入りして朝から晩まで浴びるように酒を飲んでいた。
オレなど眼中にない様子だったらしいが、マミィに抱かれたオレを見るたび『アリサさんに似て美人になりそうだな』と毎回言ったとか・・・・で、ダディには知らんぷりを貫いたらしい。


そして皆が揃う日の早朝、マミィの悲鳴が屋敷中に響き渡った。

深夜2時に確認したはずのベビーベッドにオレが居らず、使用人たちも巻き込んで大騒ぎになり・・・・数十人で邸内と庭を探し回っても見つからなかった。
超人とはいえまだ赤子、自力でベビーベッドから降りることは勿論、子供部屋を出ることさえ不可能に近い。
『これは誘拐されたに違いない!』と慌てたダディが警察に電話をかけようとした時。
ブロが客用寝室のある二階から降りてきた。
大騒ぎは絶対に聞こえるはずだが、彼の眠りは中断されることなく9時近くまで寝ていたようで。
そして。
やたら陽気に『おはよう!今日もいい朝だな』等と爽やかに挨拶しながら、酒樽を1つ抱えてマミィ達の前に現れた。

何と暢気な!と怒ろうとしたダディは、次の瞬間、手にしていた受話器を落とし、マミィは顎が外れそうなくらい大きく口を開けたという。

ブロが抱えていたのは酒樽ではなく、毛布にくるまれたオレだった――――どうやら夜中に酒が足りなくなり、酔っ払いながら酒を探していたブロが、たまたま開けた部屋で寝ていたオレを、何を思ってか連れ去ったらしい。

ブロ曰く『目がさめたらコレを抱えていた。よくわからないが一緒に寝ていたようだ』

その場に居た者は、ダディもマミィも含め、安堵はしたものの何のリアクションも出来なかった。
それはブロの次の言葉のせいでもある。

『この子が初めて共に寝た他人が俺なら責任を取って嫁にもらう。成人するまで、バツ無し独身で俺は待っている』

何やら勝手に皆の前で誓いを立て、ポカンとしているダディたちの目の前でオレにキスをしたそうだ・・・しかも唇に。

その後、他の超人たちが集まる時刻を待たず、まるで逃げるように帰ってしまったそうだ。
酒は忘れずに持てるだけ持って・・・


この話でオレのファーストキスの相手はブロだったと判明。
同時に両親の前で結婚を誓った。
つまり最初からこうなる運命だったのだ。


ブロはこの時のことを全く何も覚えていない。
だからまだ詳しく話していない。
赤子のオレを女児だと思い込んでいた件は、いつか笑いのタネにしてやりたいと思っている。
今のブロならオレが男でも女でも『おまえがおまえであれば性別なんかどうでも良い』と言ってくれそうだ。

決して自惚れではなく・・・




・・・END・・・

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