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#帝國図書館文豪百物語

四.
『消える』


蝉がジーワジーワと鳴いている。
外の日差しはジリジリと焼けるように熱い。
室内だというのに、額から汗が落ちる。

今週の助手当番は芥川であった。

「お疲れ様。片づけ手伝ってくれてありがとうございました」
司書が芥川に声をかける。
司書室の本の整理をするのだという司書を、芥川は手伝っていたのだった。

「ねぇ司書さん、仕事も片付いたことだし、聞いてもいいかな?」
ふと、芥川は言った。

「森先生と坪内先生は今どこに?」

茶を淹れていた司書の手が止まる。

「さぁ?さっき少し話しましたけど、その後どこに向かったかまではわかりません」

ふうん、と芥川は煙草を燻らせて話す。

「さっき資料室に本を置きに行った後、談話室から夏目先生と正岡先生の声がしたんで扉を開けたのだけど...誰もいなかったんだよね」

「それは...不思議ですね」

「司書室に戻るまでの間に、たっちゃんこと坂口くんの声が廊下から聞こえたけど、姿は見えなかった。一瞬、太宰くんのマントが見えたと思ったけど誰もいなくてね、気のせいだったのかな?」

芥川は続ける。

「それから、森先生と坪内先生が司書室に入ったのを見たけれど...その後に僕が司書室に入った時にはいなかったし、出ていくのも見ていない」

「彼らだけじゃない。寛も、他の人たちも、いつの間にかいなくなってしまった」

「みんな、どこにいったのかな?」

司書は黙っている。
沈黙が続く。

芥川は司書を見据えて言った。

「君は、誰だい?」

司書の口がニタリと歪む。
司書室の奥、潜書室への扉が勢いよく開き、ビョオッと風が吹き荒んだ。
芥川は思わず腕で顔を塞ぐ。
風がおさまり芥川が顔を上げると、司書は消えていた。



芥川はエントランスへ向かった。

古びた扉、劣化した階段、誰もいない、静かなホール。

ヒグラシがカナカナカナと鳴いている。
外は夕焼け、逢魔が時。
涼しい風が、秋はもうすぐそこだと言っている。


「ここには、もう、誰もいないのにね」

もうすぐ、夏が終わる。

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