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day by day

◆雪の舞う日に

 いつの日にも増して寒い日だった。朝早くからちらちらと雪が降り始め、昼頃には地面が白くなっていた。医務室の机に向かいカルテを作成していた森は、外から聞こえるはしゃぐ石川や正岡たちの声に、これは怪我人が出そうだなと薬棚から消毒液を取り出した。と、ふと窓の外に動くものを感じ、そちらに視線を向ける。中庭の片隅で司書が歩いていた。時折、踊るようにくるくると廻っている。踊り子のようなその姿に森は一瞬目を奪われた。そして彼女が羽織もマフラーもしていないことに気づく。咄嗟に白衣を翻し外套を抱えて森は外に向かったのだった。

 今日は珍しく雪が降った。石川や正岡、新美たちは積もる雪を見て雪合戦だなんだと皆で遊んでいる。司書はひとり、静かな場所で雪の中を歩いていた。この世界を感じたくて着の身着のまま外に出てきてしまった。司書にとっても雪は珍しいのだ。冷たさを感じながら白い世界に心を躍らせくるりと廻ってみる。
 真っ白で冷たいけれど優しい雪が、まるであの人のようで。
 ふと立ち止まり、舞う雪の下、空に両手を伸ばす。
 その瞬間、腕を引かれ彼女の上に影がつくられた。
「体に障る」
 森が外套で司書を包み込んだのだった。
「森先生」
「何か羽織るかしてくれないか。こちらの肝が冷える」
「冷たさも肌で感じたいと思って」
「風邪をひかれたら困る」
 渋い顔をする森に、ふふっと司書は小さく笑い「心配性なんですから」と答えた。「貴方という人は……」と呆れた様子の声が頭上から聞こえる。二人はそのままゆっくりと図書館へ歩き出した。
 雪がちらちらと、ひらひらと舞っている。
「綺麗ですね」
「……ああ」
「雪は好きです……先生みたいだから」
「……」
 返事がないことに不思議に思い司書が顔を上げると、咄嗟に顔を逸らしたのだろう森の耳が赤く染まっていた。
(まったく……貴方という人は……)
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