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day by day

◆眠れない夜に

 消灯時間が過ぎ、非常灯の明かりだけがぼんやりと浮かぶ暗い廊下を一人歩く。しばらく進むと明かりが灯る部屋がひとつ。あそこは談話室だ。そっと扉を開けると、ソファに深く沈み煙草をふかす芥川の姿があった。
「おや、こんな時間に珍しい客人だね」
 芥川はこちらを見やると「どうぞ」と隣に呼ぶ。
「司書さんがこんな時間まで起きているなんて、どうしたの?」
 時計の針はもう0時過ぎを指している。
「なんとなく、眠れなくて」
 芥川の隣に座り、「いつもは眠れるんですけどね」と付け足して司書は答えた。「先生は?」と問う彼女に「僕も似たようなものかな」と芥川は返す。
「少し待っていて」
 と煙草の火を消し、芥川は席を立った。何だろう?と芥川の方を見ると、なにやらコーヒーを入れ始めた。室内に香りが漂う。コポコポと音を立てながらカップに注がれたコーヒーに角砂糖を入れ、最後に芥川はティースプーンで何かを少し垂らした。
「どうぞ」
 と出されたコーヒーからは甘い香りがする。
「ブランデーコーヒーだよ。きっと落ち着くと思う」
「ありがとうございます」
 気を遣ってくれたのだろう。お礼を述べて一口飲む。
「おいしい……」
 体の中がじんわりと温まる。「それはよかった」と芥川はにこりと笑った。
 それから少しの時間、麻雀でまた菊池が負けていただとか、江戸川がまた悪戯をして館長に怒られていただとか、お互いに今日の出来事を語り合う。
「それで、今度は小泉先生が……」
 体が温まり眠くなってきたのだろう、司書は話しながらうとうととし始めた。
「そのまま寝てしまいなよ。後で僕が部屋まで運んであげるから」
「でも……そんな、迷惑……」
「大丈夫。少しは僕を頼ってほしいな」
「ん……ありがとう……ございます……せんせぃ……」
 すぅ、と芥川の肩にもたれかかり寝入ってしまった司書に優しいまなざしを向ける。
「君は、無理をしすぎるからね。僕たちのためだってことはわかっているけれど、もう少し、自分を大切にしてほしいな」
 目の下に隈なんか作っちゃって。誤魔化しているようだけど、本当はちゃんと眠れていないんでしょう?みんな気づいているんだよ?
 明日にでも司書さんの休暇を館長さんに頼んでみようか。きっとみんなも賛同してくれるだろうから。などとぼんやり考えながら芥川はまた煙草をふかすのだった。
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