短編 others
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【拝啓 親愛なる魔王陛下】渋谷勝利
「兄弟?5つ下の弟が1人。野球馬鹿の中坊だよ。」
私は気がついてしまった。
たまに一緒にゲームをしたりオタトークで盛り上がる男友達。この男の名前は渋谷勝利、恵比寿便利…はい、ふざけましたごめんなさい。私の曖昧な記憶だと、彼のお母様がそんなちょっとお茶目なことを言っていたような気がして口が滑りました。
ハマのジェニファーこと美子さん。会ったことはないけれど、心の中で勝手に呼ばせていただいている。
彼本人の口から家族の話を聞いたことはあまりないけれど、実は私、彼の家族構成や幼い頃のエピソードをいくつか知っているのだ。
きっと私が今生きているここは、ある小説の世界。
勝利の弟にも会った事はないけれど、きっとどこかの世界で魔王を務めることになる男の子だ。
私には幼い頃から前世の記憶があるが、彼と会話をするまではまさか自分が異世界に転生していたなんて全く気がつかなかった。
私が勝利と仲良くなって一年したかしないかくらいで、なんとなく点と点が繋がっていって、あれ…知ってる気がする…とその事実に気がついたのだ。勝利とクラスメイトになった時には全くピンと来なかった。
文字通り"生前"私が暮らしていた場所は、ここと同じ地球で、日本で、世の中で起こる事件や若者の間で流行るものも同じ。まるマの地球と前世の地球は差異なんてほとんどないのだから、分からなくても当然といえば当然だった。
なんか似たような時代に生まれてしまったな、これは人生イージーモードですわ〜とか舐めてかかっていたが、まさかこの世界に魔族が存在するとは…しかも渋谷有利の物語と同じ時間を共有しているとは…
余談だが、私の両親は職場結婚をしていて、その職場が日本ではよく知られている大きめの銀行だ。
もしかして私にも魔族の血が流れているのではないかとか希望を持ってしまったのは、オタクとして私は悪くないと思う。この淡い期待を裏切られるのが怖いので、確認はしていない。
原作の感じだと自分が魔族だと知らずにこれまでの過ごしてきた可能性もある。両親からのカミングアウトも受けていないのに娘の私が突然魔族がどうこう言い出したら不自然だし、そのままでいいかと真相は聞かずに過ごしている。
地球産魔族は特別大きな魔術を使えるわけではないため、知ったところで何も変わらないしね。
*
それも四年前の話。そういえば勝利と出会ったのは高校一年生の春だったから、かの魔王陛下があちら側に飛ばされるのと同じ年の頃だったのか。あの頃はこんなにテンション爆上げ世界に自分が身を置いているだなんて全く考えていなかった…。
大学デビューで髪を茶髪に染めようか?なんて考えたりもしたけれど、ここがまるマの世界なら、大事な双黒の容姿を保っていてもいいんじゃないかと思いとどまり、私はこの日本人特有の重たい黒色の髪を保っている。
万に一つも私自身があちらの世界に関わることはないだろうから、もしもの時のカモフラージュのため髪色を染めなければならないなんて心配もない。
オタクだからアルバイト代を推しに貢いでいたら、優先順位狂ってしまったしね!
そして、この世界の少しの秘密を知った私はさらに気がついてしまった。
ここはオタクの私にとっては大変ありがたい、推しに直接貢げる世界だ!
どこの誰の計らいかは存じませんが、本当にありがとうございます。神様ですか?仏様ですか?それとも観音様か眞王様?
もし眞王様の謀略によるものだと言うのなら、非力な私の本音としては、事件には巻き込まれたくないので勘弁してください。
残念なことに実際に見たい触ってみたい、友達になりたい多くのメインキャラクターはこの世界にはいないのだが、私の心の中の眞魔国民魂が疼く!!!第27代魔王陛下に直接貢物ができる!!!
恐らくあちら側に転生していたら、陛下に贈り物をすることなんか出来なかったろう。ありがとう運命。地球万歳。
と、彼が好きな西武ライオンズの公式グッズを様々チェックし、年頃の男子が喜んでくれそうな、あちらの世界でも重宝しそうなものを探して購入したはいいものの、いかんせん私と陛下の距離は近いようで遠かった。
現在地球で中学生をしている渋谷有利少年からすれば、私は「兄のお友達」だ。
それもその兄勝利が、わざわざ家族の前で女友達の話などしているとも思えない。
彼の母親の性格からして、もし私の存在を知っていたならば、「絶対に家に連れてこい」と言うだろうし、連れてこない息子にしびれを切らして文化祭の時にでも彼女の方から私にアタックがかかりそうなものだ。
私と勝利の繋がりというと、自宅でネットを繋いでするゲームくらい。班活動をしろと言われれば、余ったので他のオタ友と連れ立ってグループを作る、そういう間柄。
私は漫研に入っていたし、お互い通う塾は違うしで、実はあまり接点がなかった。
しかし、趣味嗜好は違うが近しいものがあったので話が弾む。
勝利との個人的な仲は深まっていたし、今でもなんだかんだSNS上で連絡を取り続けているような関係なのだが、お宅訪問の機会は勿論、家族とお知り合いになる機会も一切なかった。卒業式の日にはしゃぐジェニファーさんとそれを見てニコニコするカチウマさんの姿を遠目から見たくらいだ。
陛下とは全然出会えない。
嗚呼陛下、貴方はどうして陛下なの?というようなお家問題や身分の差が生じているわけでもないのに。この距離感は如何ともしがたい。
ああ、どうして私は陛下の同級生ではなく、陛下の兄のキモオタと同級生になってしまったの?
1人で嘆いていても仕方がない。そろそろ件の有利くんが眞魔国への初スターツアーズに旅立ってしまう。
*
お前の力が必要だ!クエスト攻略手伝ってくれ!と某ファーストフード店に勝利を呼び出すと勝利は二つ返事で了承して、その日のうちに来てくれた。
もちろん本来の目的は温めに温め過ぎた魔王陛下への供物…言い方が禍々しいな…プレゼントを渡すためだが。
「おいビクさんよぉ、アンタ暇なのかい?大学で友達作らないのかい?それとも友達作れないのかい?」
因みに私が出会った頃の勝利のHNが名前そのまま"ビクトリー"だったため、今では省略して"ビクさん"に落ち着いている。
「うるさいな、俺には『お兄ちゃん大好きぃ❤️』って言ってくれる超絶かわいい妹がいるからいいんだよ」
「うっわキッショ!二次元と現実を混同しないでください〜!っていうか声音変えて絶妙にキモ可愛いのが更にキショイやめて〜」
「キモ可愛いとか失礼だな!」
「ま。かく言う私も、まだキャンパス内に落ち着く場所見つけられてないけどな!」
ふははははと笑いながら言うと「人のこと言えないじゃないか」と呆れた声で言われた。「しからば、こんな所に貴殿を呼び出してなどおらぬわ」
その間私たちの指は忙しなくPSPのボタンの上を高速で移動していた。
「弟くんもう高校生でしょ?入学祝いにコレあげる。よろしく伝えてね」
小さめの紙袋を差し出す。
テーブルの上に置いたゲームの画面にはQuest clearの文字。
なかなか違和感なく渡せたのではないか!と思ったが、そんなことはなかったらしい。勝利は眉根を寄せながらこちらを見てきた。
「何だよ、気持ち悪いな。いくら男に飢えてるからってうちのキャワイイ弟に手ェ出すんじゃないぞ?」
「キャワイイのは知ってるけど、実の弟をキャワイイと表現すんな…」
オタクキモチワルイ。言葉の言い回しが気持ち悪いんだよな、あ、これ自虐ね?
「安心して。あんたみたいなロリコンと違って、私はおじ専よ」
紙袋を受け取ろうとしないので、勝利の目の前に置く。
「へえへえそうでしたね〜」
「あと、私は別に男に飢えてなんかいません〜。私には『名前、愛してる』って甘ぁく囁いてくれるおじさまがいます〜」
「うっわぁ〜…!二次元と現実を混同しないでくださ〜い」
「でもイケメン紹介してくれても良いんだよ〜」
「どっちなんだよ」
「どっちも本音だよ」
「そもそもお前、うちの弟と面識あったか?」
訝しげに紙袋を眺めた後中身を覗く勝利に、当たり前のような顔をして「ないけど?」と返すと、間髪入れずに「はぁ!?」と裏返った声が返ってきた。
「じゃあなんで?」と問う勝利に首をすくめてみせる。
「ふっ…『君はこの地球に生まれた普通の日本人だ。日本人としての誇りを持って自信を持って生きろよ』って伝えといて」
名前ちゃん渾身のドヤ顔を喰らえ。
「突然なんだよ、ホントに気持ち悪いな…」
とりあえず、私の四年越しの想いは果たされた。有利陛下、喜んでくれるといいな。そろそろ呼び出される頃だと思うのだけど、私の知っている世界線と同じなら、彼はまだ名付け親との再会を済ませてはいないだろう。
さて。私が親愛なる魔王陛下に御目通りできるのは、一体いつの日になるのか。
*
帰宅して、弟の部屋のドアを開ける。
「ぅわっ!勝利かよ。他人の部屋に入るならノックぐらいしろよな」
ベッドに寝転がって雑誌を開いていたらしい弟が振り返った。
「邪魔されて困るようなことしてなかっただろ、お前に限って勉強してる訳でもあるまいし。」
「なんだよ喧嘩売りにきたのか?」と雑誌を置いて胡座をかいた弟に「お兄様はそんなに暇じゃぁ、あっりませ〜ん」と告げて、先程名前から受け取った紙袋を弟に向かって投げた。
うわわっと言いながら投げられた紙袋をキャッチする弟に、壁に寄りかかりながら声をかける。
「有難い事に、お兄様の御友人様からゆーちゃんに高校入学祝いだ。」
「は?勝利の友達?俺の知ってる人?」
「いや、知らない人」
「はぁ!?」と持っている紙袋を眺める弟に、そうだよな、普通そういう反応になるよな?と思う。
そもそも長年友人をやっている俺にすら、誕生日にコンビニで買った菓子をレジ袋ごと渡してくるくらいだというのに、その弟の高校祝いに綺麗にラッピングされた紙袋を渡すとはどういう事だ名前。
「なんでも『お前はただの平々凡々な日本人だから分を弁えて生きろよ』との事だ。」
「え、俺その人になんかした?」
不安そうな顔を見せながらも、「とりあえず、」と受けった紙袋をごそごそと開ける弟の顔が、中身を取り出した一瞬で明るくなった。
「えぇ!?ライオンズのミニバッグじゃん!しかも二、三年前のデザイン!今は完売してるんだよコレ!え!?貰っていいの!?本当に!?」
三年前のデザイン?今は完売?
一体彼女はいつからこのプレゼントを用意していたというのだ。それともどこかのフリマで偶然見つけたとかだろうか。
いや見た感じ包装紙の様子からも新品のものを用意したように見える。
「ありがとう勝利!勝利には勿体無いいい友達だよ!へぇ〜!一体どうやって手に入れたんだろうな。早速明日から使うわコレ。ありがとうございますってちゃんと伝えといてくれよ」
キラキラと輝く弟の笑顔。おいいつぶりだこの笑顔を俺に向けてくれたのは。先ほどの紙袋を眺めていた険しい顔とは全然違う、ひどい手の平の返しようだ。
「あ、これ防水だ。雨の日でも使える!」
それにしても。弟が野球好きだという話はいつだかにしたかもしれないが、西武ライオンズが好きだということまで俺はアイツに話していただろうか。
「兄弟?5つ下の弟が1人。野球馬鹿の中坊だよ。」
私は気がついてしまった。
たまに一緒にゲームをしたりオタトークで盛り上がる男友達。この男の名前は渋谷勝利、恵比寿便利…はい、ふざけましたごめんなさい。私の曖昧な記憶だと、彼のお母様がそんなちょっとお茶目なことを言っていたような気がして口が滑りました。
ハマのジェニファーこと美子さん。会ったことはないけれど、心の中で勝手に呼ばせていただいている。
彼本人の口から家族の話を聞いたことはあまりないけれど、実は私、彼の家族構成や幼い頃のエピソードをいくつか知っているのだ。
きっと私が今生きているここは、ある小説の世界。
勝利の弟にも会った事はないけれど、きっとどこかの世界で魔王を務めることになる男の子だ。
私には幼い頃から前世の記憶があるが、彼と会話をするまではまさか自分が異世界に転生していたなんて全く気がつかなかった。
私が勝利と仲良くなって一年したかしないかくらいで、なんとなく点と点が繋がっていって、あれ…知ってる気がする…とその事実に気がついたのだ。勝利とクラスメイトになった時には全くピンと来なかった。
文字通り"生前"私が暮らしていた場所は、ここと同じ地球で、日本で、世の中で起こる事件や若者の間で流行るものも同じ。まるマの地球と前世の地球は差異なんてほとんどないのだから、分からなくても当然といえば当然だった。
なんか似たような時代に生まれてしまったな、これは人生イージーモードですわ〜とか舐めてかかっていたが、まさかこの世界に魔族が存在するとは…しかも渋谷有利の物語と同じ時間を共有しているとは…
余談だが、私の両親は職場結婚をしていて、その職場が日本ではよく知られている大きめの銀行だ。
もしかして私にも魔族の血が流れているのではないかとか希望を持ってしまったのは、オタクとして私は悪くないと思う。この淡い期待を裏切られるのが怖いので、確認はしていない。
原作の感じだと自分が魔族だと知らずにこれまでの過ごしてきた可能性もある。両親からのカミングアウトも受けていないのに娘の私が突然魔族がどうこう言い出したら不自然だし、そのままでいいかと真相は聞かずに過ごしている。
地球産魔族は特別大きな魔術を使えるわけではないため、知ったところで何も変わらないしね。
*
それも四年前の話。そういえば勝利と出会ったのは高校一年生の春だったから、かの魔王陛下があちら側に飛ばされるのと同じ年の頃だったのか。あの頃はこんなにテンション爆上げ世界に自分が身を置いているだなんて全く考えていなかった…。
大学デビューで髪を茶髪に染めようか?なんて考えたりもしたけれど、ここがまるマの世界なら、大事な双黒の容姿を保っていてもいいんじゃないかと思いとどまり、私はこの日本人特有の重たい黒色の髪を保っている。
万に一つも私自身があちらの世界に関わることはないだろうから、もしもの時のカモフラージュのため髪色を染めなければならないなんて心配もない。
オタクだからアルバイト代を推しに貢いでいたら、優先順位狂ってしまったしね!
そして、この世界の少しの秘密を知った私はさらに気がついてしまった。
ここはオタクの私にとっては大変ありがたい、推しに直接貢げる世界だ!
どこの誰の計らいかは存じませんが、本当にありがとうございます。神様ですか?仏様ですか?それとも観音様か眞王様?
もし眞王様の謀略によるものだと言うのなら、非力な私の本音としては、事件には巻き込まれたくないので勘弁してください。
残念なことに実際に見たい触ってみたい、友達になりたい多くのメインキャラクターはこの世界にはいないのだが、私の心の中の眞魔国民魂が疼く!!!第27代魔王陛下に直接貢物ができる!!!
恐らくあちら側に転生していたら、陛下に贈り物をすることなんか出来なかったろう。ありがとう運命。地球万歳。
と、彼が好きな西武ライオンズの公式グッズを様々チェックし、年頃の男子が喜んでくれそうな、あちらの世界でも重宝しそうなものを探して購入したはいいものの、いかんせん私と陛下の距離は近いようで遠かった。
現在地球で中学生をしている渋谷有利少年からすれば、私は「兄のお友達」だ。
それもその兄勝利が、わざわざ家族の前で女友達の話などしているとも思えない。
彼の母親の性格からして、もし私の存在を知っていたならば、「絶対に家に連れてこい」と言うだろうし、連れてこない息子にしびれを切らして文化祭の時にでも彼女の方から私にアタックがかかりそうなものだ。
私と勝利の繋がりというと、自宅でネットを繋いでするゲームくらい。班活動をしろと言われれば、余ったので他のオタ友と連れ立ってグループを作る、そういう間柄。
私は漫研に入っていたし、お互い通う塾は違うしで、実はあまり接点がなかった。
しかし、趣味嗜好は違うが近しいものがあったので話が弾む。
勝利との個人的な仲は深まっていたし、今でもなんだかんだSNS上で連絡を取り続けているような関係なのだが、お宅訪問の機会は勿論、家族とお知り合いになる機会も一切なかった。卒業式の日にはしゃぐジェニファーさんとそれを見てニコニコするカチウマさんの姿を遠目から見たくらいだ。
陛下とは全然出会えない。
嗚呼陛下、貴方はどうして陛下なの?というようなお家問題や身分の差が生じているわけでもないのに。この距離感は如何ともしがたい。
ああ、どうして私は陛下の同級生ではなく、陛下の兄のキモオタと同級生になってしまったの?
1人で嘆いていても仕方がない。そろそろ件の有利くんが眞魔国への初スターツアーズに旅立ってしまう。
*
お前の力が必要だ!クエスト攻略手伝ってくれ!と某ファーストフード店に勝利を呼び出すと勝利は二つ返事で了承して、その日のうちに来てくれた。
もちろん本来の目的は温めに温め過ぎた魔王陛下への供物…言い方が禍々しいな…プレゼントを渡すためだが。
「おいビクさんよぉ、アンタ暇なのかい?大学で友達作らないのかい?それとも友達作れないのかい?」
因みに私が出会った頃の勝利のHNが名前そのまま"ビクトリー"だったため、今では省略して"ビクさん"に落ち着いている。
「うるさいな、俺には『お兄ちゃん大好きぃ❤️』って言ってくれる超絶かわいい妹がいるからいいんだよ」
「うっわキッショ!二次元と現実を混同しないでください〜!っていうか声音変えて絶妙にキモ可愛いのが更にキショイやめて〜」
「キモ可愛いとか失礼だな!」
「ま。かく言う私も、まだキャンパス内に落ち着く場所見つけられてないけどな!」
ふははははと笑いながら言うと「人のこと言えないじゃないか」と呆れた声で言われた。「しからば、こんな所に貴殿を呼び出してなどおらぬわ」
その間私たちの指は忙しなくPSPのボタンの上を高速で移動していた。
「弟くんもう高校生でしょ?入学祝いにコレあげる。よろしく伝えてね」
小さめの紙袋を差し出す。
テーブルの上に置いたゲームの画面にはQuest clearの文字。
なかなか違和感なく渡せたのではないか!と思ったが、そんなことはなかったらしい。勝利は眉根を寄せながらこちらを見てきた。
「何だよ、気持ち悪いな。いくら男に飢えてるからってうちのキャワイイ弟に手ェ出すんじゃないぞ?」
「キャワイイのは知ってるけど、実の弟をキャワイイと表現すんな…」
オタクキモチワルイ。言葉の言い回しが気持ち悪いんだよな、あ、これ自虐ね?
「安心して。あんたみたいなロリコンと違って、私はおじ専よ」
紙袋を受け取ろうとしないので、勝利の目の前に置く。
「へえへえそうでしたね〜」
「あと、私は別に男に飢えてなんかいません〜。私には『名前、愛してる』って甘ぁく囁いてくれるおじさまがいます〜」
「うっわぁ〜…!二次元と現実を混同しないでくださ〜い」
「でもイケメン紹介してくれても良いんだよ〜」
「どっちなんだよ」
「どっちも本音だよ」
「そもそもお前、うちの弟と面識あったか?」
訝しげに紙袋を眺めた後中身を覗く勝利に、当たり前のような顔をして「ないけど?」と返すと、間髪入れずに「はぁ!?」と裏返った声が返ってきた。
「じゃあなんで?」と問う勝利に首をすくめてみせる。
「ふっ…『君はこの地球に生まれた普通の日本人だ。日本人としての誇りを持って自信を持って生きろよ』って伝えといて」
名前ちゃん渾身のドヤ顔を喰らえ。
「突然なんだよ、ホントに気持ち悪いな…」
とりあえず、私の四年越しの想いは果たされた。有利陛下、喜んでくれるといいな。そろそろ呼び出される頃だと思うのだけど、私の知っている世界線と同じなら、彼はまだ名付け親との再会を済ませてはいないだろう。
さて。私が親愛なる魔王陛下に御目通りできるのは、一体いつの日になるのか。
*
帰宅して、弟の部屋のドアを開ける。
「ぅわっ!勝利かよ。他人の部屋に入るならノックぐらいしろよな」
ベッドに寝転がって雑誌を開いていたらしい弟が振り返った。
「邪魔されて困るようなことしてなかっただろ、お前に限って勉強してる訳でもあるまいし。」
「なんだよ喧嘩売りにきたのか?」と雑誌を置いて胡座をかいた弟に「お兄様はそんなに暇じゃぁ、あっりませ〜ん」と告げて、先程名前から受け取った紙袋を弟に向かって投げた。
うわわっと言いながら投げられた紙袋をキャッチする弟に、壁に寄りかかりながら声をかける。
「有難い事に、お兄様の御友人様からゆーちゃんに高校入学祝いだ。」
「は?勝利の友達?俺の知ってる人?」
「いや、知らない人」
「はぁ!?」と持っている紙袋を眺める弟に、そうだよな、普通そういう反応になるよな?と思う。
そもそも長年友人をやっている俺にすら、誕生日にコンビニで買った菓子をレジ袋ごと渡してくるくらいだというのに、その弟の高校祝いに綺麗にラッピングされた紙袋を渡すとはどういう事だ名前。
「なんでも『お前はただの平々凡々な日本人だから分を弁えて生きろよ』との事だ。」
「え、俺その人になんかした?」
不安そうな顔を見せながらも、「とりあえず、」と受けった紙袋をごそごそと開ける弟の顔が、中身を取り出した一瞬で明るくなった。
「えぇ!?ライオンズのミニバッグじゃん!しかも二、三年前のデザイン!今は完売してるんだよコレ!え!?貰っていいの!?本当に!?」
三年前のデザイン?今は完売?
一体彼女はいつからこのプレゼントを用意していたというのだ。それともどこかのフリマで偶然見つけたとかだろうか。
いや見た感じ包装紙の様子からも新品のものを用意したように見える。
「ありがとう勝利!勝利には勿体無いいい友達だよ!へぇ〜!一体どうやって手に入れたんだろうな。早速明日から使うわコレ。ありがとうございますってちゃんと伝えといてくれよ」
キラキラと輝く弟の笑顔。おいいつぶりだこの笑顔を俺に向けてくれたのは。先ほどの紙袋を眺めていた険しい顔とは全然違う、ひどい手の平の返しようだ。
「あ、これ防水だ。雨の日でも使える!」
それにしても。弟が野球好きだという話はいつだかにしたかもしれないが、西武ライオンズが好きだということまで俺はアイツに話していただろうか。
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