短編 落乱
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【大人になった僕ら】諸泉尊奈門
「2人でお使いかい?偉いねえ。そんなにたくさん持てる?」
「半分こで持つからヘーキ!な、名前」
「うん。尊奈門はそっち持って。」
「せーの!」
まだ手で年齢を数えられた頃の遠い過去を思い出す。
何故、今更私が尊奈門と夕食の買い出しに…。
尊奈門1人で行ってくれればいいのに!と私は憮然とした態度で街への道を歩いていた。
今日の買い出し当番は米を買わなければわならない日なのに、先日荷車が壊れたせいで村の子どもだけではお使いが事足りなかった。
そこで、狼隊からジャンケンによって選出された尊奈門と、黒鷲隊からはアミダくじで選ばれた私が2人で買い出しに駆り出されたのだ。
はぁ…
出たため息の分だけ息を吸い込む。
まあ、今日は天気もいいし、良しとしよう。
私の先を歩いていた尊奈門も最初は何やらぐちぐち言っていたが、その愚痴も一区切りついたようで、振り返って「ちゃっちゃと済ませて帰るぞ」と言った。
尊奈門の背を眺め、開いてしまった距離に私も少しスピードをあげる。
ふと視界に入ったオナモミ、所謂くっつき虫にいたずら心が芽生えた。
尊奈門に声をかけず軽く立ち止まって、たくさん生ったオナモミをいくつか摘みとり袂に入れた。
立ち止まったことでまた少し開いた距離。
尊奈門の背中にしっかりと照準を定め、袂から出したオナモミを投げつける。
一つ目は力が弱すぎたのか的にはくっつかなかった。
次は強すぎて跳ね返った。
振り返って怪訝そうにする彼に「何でもない」と返す。
力加減が難しい。
前に向き直った尊奈門にチャンスと思い、もう一度投げつける。
やはりおかしいと思ったのか尊奈門がまた振り返った。私がアッと思った時にはもう遅い。
「ちょっと離れすぎじゃ…」ないか?と続く尊奈門の言葉を、振り返った拍子に胸元にくっついたオナモミが止める。
「ハーイ当たったー!油断大敵火がボーボー!諸泉、手裏剣により重症!」
「苗字!」
私が敵忍者で、今投げたのがオナモミではなく手裏剣だったら尊奈門は死んでいたかもしれないのだ。
しかして、その標的はまだ生きていてこちらに気づいてしまった。逃げきらなければ今度は私の命がない。
怒る尊奈門を近くの木に飛び上がって追い抜かし、街の方角へ走り抜けた。
私の名前を怒鳴りながら追いかけてくる尊奈門から、大笑いして逃げる。
実際にプロ忍になって幾多の修羅場をくぐった後だと、幼い頃にした忍者ごっことは実感が違うなと思う。ごっこ遊びのような追いかけっこがどうしようもなく楽しかった。
街の入り口に着いた頃には2人とも息も切れ切れで、先に呼吸を落ち着けた私は尊奈門におつかれと声をかける。
顔を上げた尊奈門は、無言で私の背をポンと叩いて街に入っていった。
「あっ!アンタ今背中に付けたな!?」
「油断した苗字が悪い~」
振り返っていたずらを成功させた子どものような笑顔でアカンベーをする尊奈門。背中に付けられたオナモミを取って背後に捨て、私はまた彼の背中を追いかけた。
最後に米を買って、さて帰るぞと歩き出したところで尊奈門がある店の前で立ち止まった。
「苗字、ちょっとこれ持っててくれ」
はいはい、と返事をして買った買い物袋を一度預かり、アルバイトらしき店員に煎餅を一袋頼んだ尊奈門の後ろから店を覗く。
「お?2人でくるのは久しぶりだねぇ」
顔馴染みの煎餅屋の主人がニコニコしながら話しかけてきた。
焼きたて煎餅の良い香りが鼻をくすぐる。「お使いの帰りにいつも来てましたからね」「ここのお煎餅大好き」といくつかやりとりをする。
「今食べる用のも買ってよ!もちろん諸泉の奢りで。」
冗談めかして頼むと「なんでだよ…」と文句を言いながらもすでに出したお勘定に2枚分の煎餅の代金をプラスしてくれた。
ニコニコ顔のおじさんが煎餅に仕上げの焦げをつけ、ひっくり返す。
「君たち、兄妹じゃなかったんだね」
醤油をつけて手渡された煎餅を受け取りながら、私たちはキョトンとした。
「名前だよ、名前。よく一緒に家族分のお使い袋持って来るし、仲がいいから兄妹だと思ってたんだが…。今は苗字で呼び合ってるんだなぁ」
2人とも大人になったか…と言われ、照れ臭くなって2人して頰を掻いた。
いつ頃から互いを姓で呼ぶようになったんだっけ。示し合わせたわけではないが、仕事をするようになってから意識的に呼び変えていたような気がする。
おじさんの言ったように、私たちは『2人とも大人になった』のだろうか。
街までの道中を思い出すと、私たちは大人になったようには思えなかった。おそらく高坂先輩とかが見たら呆れて無視されるか小馬鹿にしたように笑うレベルだろう。
前を歩く尊奈門の背中を見る。
身体は大きくなったよな…尊奈門の小さな背中を思い出そうとして、私は一瞬戸惑った。尊奈門の小さい背中なんて、あまり記憶に残っていない。
そういえば昔は、風呂敷を1人一つずつ背負って、大きな風呂敷は2人で一緒に持っていた。
小さい頃の私は、尊奈門の背中をじっくりと眺めながら歩くことなんてなかったんだ。
今、私の手には大きめの風呂敷包みが2つ。
尊奈門は右肩に米を担ぎ、もう片方の手で私と同じくらいの風呂敷を2つ持っていた。
横並びで歩こうとしたが、歩幅が違う。
私は自然と早歩きになった。
目線だって歩幅だって、昔はだいたい同じだった。だから、よく1つの荷物を一緒に持って歩いていたのだ。
「…名前」
尊奈門は、やっと私との歩くペースの違いに気づいたようで、少しスピードを落としてくれた。
「休日くらい、名前で呼んでもいいかな…」
そっぽを向きながら言う尊奈門の指は風呂敷の結び目を落ち着きなく撫でていた。
私も自分の足元を見ながら、風呂敷を掴む手に力を込める。
「いいんじゃないかな…」
「尊奈門、照れてるの〜?」
「名前こそ!」
今こうやって互いの名前を呼ぶことがこんなにもこそばゆくなるとは、昔の私たちは想像もしなかったろう。
「2人でお使いかい?偉いねえ。そんなにたくさん持てる?」
「半分こで持つからヘーキ!な、名前」
「うん。尊奈門はそっち持って。」
「せーの!」
まだ手で年齢を数えられた頃の遠い過去を思い出す。
何故、今更私が尊奈門と夕食の買い出しに…。
尊奈門1人で行ってくれればいいのに!と私は憮然とした態度で街への道を歩いていた。
今日の買い出し当番は米を買わなければわならない日なのに、先日荷車が壊れたせいで村の子どもだけではお使いが事足りなかった。
そこで、狼隊からジャンケンによって選出された尊奈門と、黒鷲隊からはアミダくじで選ばれた私が2人で買い出しに駆り出されたのだ。
はぁ…
出たため息の分だけ息を吸い込む。
まあ、今日は天気もいいし、良しとしよう。
私の先を歩いていた尊奈門も最初は何やらぐちぐち言っていたが、その愚痴も一区切りついたようで、振り返って「ちゃっちゃと済ませて帰るぞ」と言った。
尊奈門の背を眺め、開いてしまった距離に私も少しスピードをあげる。
ふと視界に入ったオナモミ、所謂くっつき虫にいたずら心が芽生えた。
尊奈門に声をかけず軽く立ち止まって、たくさん生ったオナモミをいくつか摘みとり袂に入れた。
立ち止まったことでまた少し開いた距離。
尊奈門の背中にしっかりと照準を定め、袂から出したオナモミを投げつける。
一つ目は力が弱すぎたのか的にはくっつかなかった。
次は強すぎて跳ね返った。
振り返って怪訝そうにする彼に「何でもない」と返す。
力加減が難しい。
前に向き直った尊奈門にチャンスと思い、もう一度投げつける。
やはりおかしいと思ったのか尊奈門がまた振り返った。私がアッと思った時にはもう遅い。
「ちょっと離れすぎじゃ…」ないか?と続く尊奈門の言葉を、振り返った拍子に胸元にくっついたオナモミが止める。
「ハーイ当たったー!油断大敵火がボーボー!諸泉、手裏剣により重症!」
「苗字!」
私が敵忍者で、今投げたのがオナモミではなく手裏剣だったら尊奈門は死んでいたかもしれないのだ。
しかして、その標的はまだ生きていてこちらに気づいてしまった。逃げきらなければ今度は私の命がない。
怒る尊奈門を近くの木に飛び上がって追い抜かし、街の方角へ走り抜けた。
私の名前を怒鳴りながら追いかけてくる尊奈門から、大笑いして逃げる。
実際にプロ忍になって幾多の修羅場をくぐった後だと、幼い頃にした忍者ごっことは実感が違うなと思う。ごっこ遊びのような追いかけっこがどうしようもなく楽しかった。
街の入り口に着いた頃には2人とも息も切れ切れで、先に呼吸を落ち着けた私は尊奈門におつかれと声をかける。
顔を上げた尊奈門は、無言で私の背をポンと叩いて街に入っていった。
「あっ!アンタ今背中に付けたな!?」
「油断した苗字が悪い~」
振り返っていたずらを成功させた子どものような笑顔でアカンベーをする尊奈門。背中に付けられたオナモミを取って背後に捨て、私はまた彼の背中を追いかけた。
最後に米を買って、さて帰るぞと歩き出したところで尊奈門がある店の前で立ち止まった。
「苗字、ちょっとこれ持っててくれ」
はいはい、と返事をして買った買い物袋を一度預かり、アルバイトらしき店員に煎餅を一袋頼んだ尊奈門の後ろから店を覗く。
「お?2人でくるのは久しぶりだねぇ」
顔馴染みの煎餅屋の主人がニコニコしながら話しかけてきた。
焼きたて煎餅の良い香りが鼻をくすぐる。「お使いの帰りにいつも来てましたからね」「ここのお煎餅大好き」といくつかやりとりをする。
「今食べる用のも買ってよ!もちろん諸泉の奢りで。」
冗談めかして頼むと「なんでだよ…」と文句を言いながらもすでに出したお勘定に2枚分の煎餅の代金をプラスしてくれた。
ニコニコ顔のおじさんが煎餅に仕上げの焦げをつけ、ひっくり返す。
「君たち、兄妹じゃなかったんだね」
醤油をつけて手渡された煎餅を受け取りながら、私たちはキョトンとした。
「名前だよ、名前。よく一緒に家族分のお使い袋持って来るし、仲がいいから兄妹だと思ってたんだが…。今は苗字で呼び合ってるんだなぁ」
2人とも大人になったか…と言われ、照れ臭くなって2人して頰を掻いた。
いつ頃から互いを姓で呼ぶようになったんだっけ。示し合わせたわけではないが、仕事をするようになってから意識的に呼び変えていたような気がする。
おじさんの言ったように、私たちは『2人とも大人になった』のだろうか。
街までの道中を思い出すと、私たちは大人になったようには思えなかった。おそらく高坂先輩とかが見たら呆れて無視されるか小馬鹿にしたように笑うレベルだろう。
前を歩く尊奈門の背中を見る。
身体は大きくなったよな…尊奈門の小さな背中を思い出そうとして、私は一瞬戸惑った。尊奈門の小さい背中なんて、あまり記憶に残っていない。
そういえば昔は、風呂敷を1人一つずつ背負って、大きな風呂敷は2人で一緒に持っていた。
小さい頃の私は、尊奈門の背中をじっくりと眺めながら歩くことなんてなかったんだ。
今、私の手には大きめの風呂敷包みが2つ。
尊奈門は右肩に米を担ぎ、もう片方の手で私と同じくらいの風呂敷を2つ持っていた。
横並びで歩こうとしたが、歩幅が違う。
私は自然と早歩きになった。
目線だって歩幅だって、昔はだいたい同じだった。だから、よく1つの荷物を一緒に持って歩いていたのだ。
「…名前」
尊奈門は、やっと私との歩くペースの違いに気づいたようで、少しスピードを落としてくれた。
「休日くらい、名前で呼んでもいいかな…」
そっぽを向きながら言う尊奈門の指は風呂敷の結び目を落ち着きなく撫でていた。
私も自分の足元を見ながら、風呂敷を掴む手に力を込める。
「いいんじゃないかな…」
「尊奈門、照れてるの〜?」
「名前こそ!」
今こうやって互いの名前を呼ぶことがこんなにもこそばゆくなるとは、昔の私たちは想像もしなかったろう。
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