短編 落乱
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【トリップして雑渡昆奈門に拾ってもらった】
趣味は旅行、お買い物。ドライブも好きだし割とアウトドアも楽しむタイプ。
だけどお家で漫画やアニメを見る時間も大事。
月曜日から金曜日、10分間の忍たま乱太郎の録画を見るのが私のルーティーン。
そんな普通に社会人がんばっている私は今日、森林浴に来ています。
この公園は平日の昼間だと、人はほとんど居ない。
何かに邪魔されず、好きなことだけを考えられるこの時間が好きだ。
腕を伸ばしながらボーッとスロープを歩いていると、行く先の木の根に誰かが座り込んでいるのが見えた。
具合でも悪いのか?と思ったが、地味な色の服で汚い身なりをしていたため、知らないふりをして通り過ぎようとする。
男は私の足音に気づいたのか顔を上げて「ねえ、君。使わない布を持ってたりしない?」と話しかけてきた。
話しかけられたことでつい顔をしっかりと向けてしまったが、そこにいたのは顔や腕に包帯をぐるぐると巻いた男だった。
やばい人と関わってしまった!と顔が引きつりそうになる。
出来る限り目を合わせないように軽く観察をすると、男は腕に怪我をしているらしい。
急いでバッグの中を探し、ハンカチを手渡した。男は「ありがとう」と簡単に礼を言って自分の腕にそのハンカチを巻き始めたが、腕の太さに対して長さが少し足りないようだった。
確かポーチに安全ピンを入れていた筈と、バッグをガサゴソと漁る手元に視線を感じた。整理できていないのは重々承知である。あんまり中身をじっくり見ないで欲しい。
見つけ出した安全ピンを「どうぞ」と差し出すが、手が伸びてこない。片手で留めるのは難しいかと思い直し、代わりに留めてやった。
「へえ…」と呟いて止められた安全ピンを眺める男の姿を見ると、なんか…既視感?
私はこの男を知っている気がする。この声も、この独特な話し方の間も。
嫌な予感がしてパッと周りを見渡すと、先ほどまで背後にあったとはずの人工的な木の柵とスロープが見当たらなくなっていた。
「ありがとう、助かったよ」と言って立ち上がった男。思っていた以上に高い位置にある顔を見上げる。
背中を嫌な汗が流れた。
頭によぎったのは、私の愛してやまない作品の登場人物。タソガレドキ忍軍100人の忍者をまとめ上げる、雑渡昆奈門という男。
男を見上げながら立ちあがろうとした為に、少しバランスを崩して尻餅をついてしまった。
「おっと。大丈夫かい?」
差し出された手に感謝を述べながら、立ち上がる。
お尻に付いた土をゆっくりと払う間、頭をフル回転させた。
私が今手を握ったこの男は、私の予想通り本当に雑渡昆奈門なのか?でかくない?イベントのパネルに会いに行った時も思ったけど…そういう事じゃなくて…え?夢か?手の平がすごく大きかった…いやそうじゃなくて!
こんな夢小説みたいな事が現実に、自分の身に起こり得る事なのか!?
この展開は危ない。
私はたくさんトリップ小説を読んだんだぞ。ヒロイン補正が無い私が迂闊なことを言ってしまえば、バッドエンドまっしぐら、頭と体がサヨウナラだ。
落乱の世界観ならばあるいは、ギャグ路線で乗り切れるだろうか。それはあくまで乱太郎たち主人公の手腕の成せる技である可能性が高い。
だが、トリップ?前に何か予兆やお告げやら神の声的な何かを聞いてもないのに、あるかないか分からない自分のヒロイン補正を信じる事なんて出来ない。そんな事よりもこのぅん年間鍛えた自分の落乱ファンとしての魂、ギャグ力を出し尽くす方が余程良いだろう。
この男…もう雑渡さんと仮定して心の中ではそう呼んでしまおう。この雑渡さんを自分の味方につけるには…敵に回さないためには…冷静になれ…冷静になるんだ…私がすべき事は、えっと…そう、いかに自分の素性を隠しつつ身の安全を確保するか…、どうやって屋根のある家を確保するか…食べ物…お金…こんなにも非現実的な光景が目前に叩きつけられているというのに、冷静に考えると結局生きるためのリアルに直面するのか。
最後締め括りに、脳内の一年は組のよい子たちが「名前ちゃんたら冷静ね」と声を揃えて唱えてくれたお陰で勝手に勇気を持つことができた。
意識が浮上して目の前に立つ雑渡さんを改めて見る。
いつまでも足元を見つめながら、尻を叩き続ける私はさぞ滑稽だったろう。無感情にも見える雑渡さんの右目が、ただただこちらを見つめていた。
一呼吸置いて、ゆっくりと話し出す。
「あの、つかぬ事をお伺いしますが…」
「何?」
「忍術学園という名前の学校をご存知ですか!?」
若干声が裏返ってしまった。雑渡さんは一瞬目を大きく見開く。考えるように目を細めて、こちらを見つめてくる彼の瞳が怖い。その場に緊張が走る。
「知ってるよ」
静かに告げた男。
やっぱりそうだ。私が今いるのは忍たまたちのいる世界。
そして私の前に立つこの男はきっと、あの雑渡昆奈門。
一体どうして…何が原因でこんな状況に…?
「それで?君はどこから来た、何者なの?」
訝しげな様子をあまり隠そうとしない雑渡さん。先程のバッグに対する視線にも合点がいった。こんなウソヤデーバッグとポーチをいきなり目の前に広げられたらびっくりして凝視するだろう。
自分には敵意がないこと非力なことを示すため必死に「いやぁ…あははは…」などと笑いながら頭を掻く。
「実は…あの私…忍術学園に入学したいと思ってまして、当分の資金と入学金を持って学園に向かっていたのです、でもそのお金を入れた袋を道中のどこかで無くしてしまいまして、ずっと探していたんですけど見つからず、遠路はるばる来たこの身ではこのまま家に帰ることもままならず途方に暮れていた所でして!」
一息で言い切った。喋り過ぎた。聞かれてもないことまでベラベラと、わざとらし過ぎたのでは!?冷静な名前ちゃんは一体どこ!?
少し前のめりになりながら雑渡の様子を伺う。
盛大に、コケた。
本場だ!という謎の感動を覚える。
起き上がった雑渡さんが、間抜けだなとでも言いたげな顔で眉根を寄せる様に、苦笑いで目を逸らす。
とりあえず、この場の緊張感だけは打破できた。
「えっとぉ…」と間を持たせながら、また頭をフル回転させる。とりあえず衣食住、生活資金の確保!
「だからあのっ!どこかアルバイトできる場所を紹介してもらえませんか!?」
どうだ!?なかなかいい言い訳だろう!と自分の即興の言い訳に若干の自信を持ち、雑渡さんと見つめ合う。
胸元で握った拳に力が入った。
先ほどのような疑う眼差しを無くした雑渡さんは、表情の読めない顔でこちらを観察しながら無言で思案した。この沈黙が怖い。
「君にはこの布の恩があるしね。いいよ、どこかいい場所を紹介してあげよう。」
ありがとう私のギャグ魂…。
こうして私の忍たま乱太郎の世界での生活が始まったのだった。
趣味は旅行、お買い物。ドライブも好きだし割とアウトドアも楽しむタイプ。
だけどお家で漫画やアニメを見る時間も大事。
月曜日から金曜日、10分間の忍たま乱太郎の録画を見るのが私のルーティーン。
そんな普通に社会人がんばっている私は今日、森林浴に来ています。
この公園は平日の昼間だと、人はほとんど居ない。
何かに邪魔されず、好きなことだけを考えられるこの時間が好きだ。
腕を伸ばしながらボーッとスロープを歩いていると、行く先の木の根に誰かが座り込んでいるのが見えた。
具合でも悪いのか?と思ったが、地味な色の服で汚い身なりをしていたため、知らないふりをして通り過ぎようとする。
男は私の足音に気づいたのか顔を上げて「ねえ、君。使わない布を持ってたりしない?」と話しかけてきた。
話しかけられたことでつい顔をしっかりと向けてしまったが、そこにいたのは顔や腕に包帯をぐるぐると巻いた男だった。
やばい人と関わってしまった!と顔が引きつりそうになる。
出来る限り目を合わせないように軽く観察をすると、男は腕に怪我をしているらしい。
急いでバッグの中を探し、ハンカチを手渡した。男は「ありがとう」と簡単に礼を言って自分の腕にそのハンカチを巻き始めたが、腕の太さに対して長さが少し足りないようだった。
確かポーチに安全ピンを入れていた筈と、バッグをガサゴソと漁る手元に視線を感じた。整理できていないのは重々承知である。あんまり中身をじっくり見ないで欲しい。
見つけ出した安全ピンを「どうぞ」と差し出すが、手が伸びてこない。片手で留めるのは難しいかと思い直し、代わりに留めてやった。
「へえ…」と呟いて止められた安全ピンを眺める男の姿を見ると、なんか…既視感?
私はこの男を知っている気がする。この声も、この独特な話し方の間も。
嫌な予感がしてパッと周りを見渡すと、先ほどまで背後にあったとはずの人工的な木の柵とスロープが見当たらなくなっていた。
「ありがとう、助かったよ」と言って立ち上がった男。思っていた以上に高い位置にある顔を見上げる。
背中を嫌な汗が流れた。
頭によぎったのは、私の愛してやまない作品の登場人物。タソガレドキ忍軍100人の忍者をまとめ上げる、雑渡昆奈門という男。
男を見上げながら立ちあがろうとした為に、少しバランスを崩して尻餅をついてしまった。
「おっと。大丈夫かい?」
差し出された手に感謝を述べながら、立ち上がる。
お尻に付いた土をゆっくりと払う間、頭をフル回転させた。
私が今手を握ったこの男は、私の予想通り本当に雑渡昆奈門なのか?でかくない?イベントのパネルに会いに行った時も思ったけど…そういう事じゃなくて…え?夢か?手の平がすごく大きかった…いやそうじゃなくて!
こんな夢小説みたいな事が現実に、自分の身に起こり得る事なのか!?
この展開は危ない。
私はたくさんトリップ小説を読んだんだぞ。ヒロイン補正が無い私が迂闊なことを言ってしまえば、バッドエンドまっしぐら、頭と体がサヨウナラだ。
落乱の世界観ならばあるいは、ギャグ路線で乗り切れるだろうか。それはあくまで乱太郎たち主人公の手腕の成せる技である可能性が高い。
だが、トリップ?前に何か予兆やお告げやら神の声的な何かを聞いてもないのに、あるかないか分からない自分のヒロイン補正を信じる事なんて出来ない。そんな事よりもこのぅん年間鍛えた自分の落乱ファンとしての魂、ギャグ力を出し尽くす方が余程良いだろう。
この男…もう雑渡さんと仮定して心の中ではそう呼んでしまおう。この雑渡さんを自分の味方につけるには…敵に回さないためには…冷静になれ…冷静になるんだ…私がすべき事は、えっと…そう、いかに自分の素性を隠しつつ身の安全を確保するか…、どうやって屋根のある家を確保するか…食べ物…お金…こんなにも非現実的な光景が目前に叩きつけられているというのに、冷静に考えると結局生きるためのリアルに直面するのか。
最後締め括りに、脳内の一年は組のよい子たちが「名前ちゃんたら冷静ね」と声を揃えて唱えてくれたお陰で勝手に勇気を持つことができた。
意識が浮上して目の前に立つ雑渡さんを改めて見る。
いつまでも足元を見つめながら、尻を叩き続ける私はさぞ滑稽だったろう。無感情にも見える雑渡さんの右目が、ただただこちらを見つめていた。
一呼吸置いて、ゆっくりと話し出す。
「あの、つかぬ事をお伺いしますが…」
「何?」
「忍術学園という名前の学校をご存知ですか!?」
若干声が裏返ってしまった。雑渡さんは一瞬目を大きく見開く。考えるように目を細めて、こちらを見つめてくる彼の瞳が怖い。その場に緊張が走る。
「知ってるよ」
静かに告げた男。
やっぱりそうだ。私が今いるのは忍たまたちのいる世界。
そして私の前に立つこの男はきっと、あの雑渡昆奈門。
一体どうして…何が原因でこんな状況に…?
「それで?君はどこから来た、何者なの?」
訝しげな様子をあまり隠そうとしない雑渡さん。先程のバッグに対する視線にも合点がいった。こんなウソヤデーバッグとポーチをいきなり目の前に広げられたらびっくりして凝視するだろう。
自分には敵意がないこと非力なことを示すため必死に「いやぁ…あははは…」などと笑いながら頭を掻く。
「実は…あの私…忍術学園に入学したいと思ってまして、当分の資金と入学金を持って学園に向かっていたのです、でもそのお金を入れた袋を道中のどこかで無くしてしまいまして、ずっと探していたんですけど見つからず、遠路はるばる来たこの身ではこのまま家に帰ることもままならず途方に暮れていた所でして!」
一息で言い切った。喋り過ぎた。聞かれてもないことまでベラベラと、わざとらし過ぎたのでは!?冷静な名前ちゃんは一体どこ!?
少し前のめりになりながら雑渡の様子を伺う。
盛大に、コケた。
本場だ!という謎の感動を覚える。
起き上がった雑渡さんが、間抜けだなとでも言いたげな顔で眉根を寄せる様に、苦笑いで目を逸らす。
とりあえず、この場の緊張感だけは打破できた。
「えっとぉ…」と間を持たせながら、また頭をフル回転させる。とりあえず衣食住、生活資金の確保!
「だからあのっ!どこかアルバイトできる場所を紹介してもらえませんか!?」
どうだ!?なかなかいい言い訳だろう!と自分の即興の言い訳に若干の自信を持ち、雑渡さんと見つめ合う。
胸元で握った拳に力が入った。
先ほどのような疑う眼差しを無くした雑渡さんは、表情の読めない顔でこちらを観察しながら無言で思案した。この沈黙が怖い。
「君にはこの布の恩があるしね。いいよ、どこかいい場所を紹介してあげよう。」
ありがとう私のギャグ魂…。
こうして私の忍たま乱太郎の世界での生活が始まったのだった。
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