短編 落乱
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【私たちの煙硝蔵】久々知兵助
私は今、同級生で同じ委員会の久々知兵助との関係について考えあぐねている。
「え。私てっきり名前ちゃんと久々知兵助って、付き合ってるのかと思ってた!」
クラスメイトのその言葉に、ため息を漏らす。
私もそう思いたいのだが、いかんせん兵助の方からは決定的なアプローチが何もないのだ。
*
夏真っ盛り、煙硝蔵での火薬の定期点検を終える。今回は夏休みに入ったばかりで、下級生たちはほとんど家に帰っていた。
学園に残っているのは一部の先生か自主練をする上級生のみ。
名前たち火薬委員会をはじめ生物委員会や用具委員会など日頃の継続した管理が必要な委員会は、残っている上級生が通常どおり活動をしている。
「おしまい!おつかれ〜」
名前が床に腰を下ろし、足を伸ばして天井を見上げると兵助も同じようにその隣に座りこんで天井を見上げた。
床についた手の平とお尻から身体がスゥーと冷えて行く感覚に、ふぅと息を吐く。
「外絶対暑いよ…出たくない…」
「ああ。」
上の空に相槌を打つ兵助の声をぼうっと聞き流す。
今日はもう時間を気にしなくていい。
外の茹だるような暑さを思いながら、外に出たら何をしようかと考える。
この暑さでは、机に向かってする宿題はやりたくない。
いっそのこと汗をたらふくかく鍛錬をするか、もしくは水遁の術の練習と称して水練池で揺蕩うか。
友人たちを誘って、裏山の川まで遊びに行くのもいいけれど、それだと先生から外出届を貰わなければならないから面倒だな…
「そろそろ行くか」
「うーん…そうだね。そろそろ行くかー」
立ち上がった兵助を見上げる。
兵助の言葉に同意を示しながらも、重たい腰がなかなか上がらない。
そんな名前の様子を見た兵助は、考えるようにゆっくりと口を開いた。
「なぁ、今日の活動報告書は土井先生に提出するが、学園の皆には、仕事が終わったこと黙っておかないか?」
煙硝蔵の使用率は夏休みに入って格段に減る。
火薬の点検も、大きな使用がない限りあと3週間はしないでいいだろう。
つまり、煙硝蔵に来る口実が無くなるということだ。
学園で煙硝蔵ほど涼しい場所を私は知らない。
「ここに来れるのは火薬委員会の特権。」
ニヤリと笑いながら返すと、久々知もニヤリと笑う。
一応、鍵の管理は火薬委員会顧問である土井先生に許可を取らなければならないが、そこはそれ、幸い私たちは先生からの信頼も厚い成績優秀な生徒だから、あまりにも酷い悪さをしなければ、許されるだろう。
「明日も来るか?」
「もちろん!」
明日からもひどく暑い日中を、この涼しい煙硝蔵で過ごすことが出来る。
悪戯っぽく笑う兵助に元気よく返事をし、彼が差し出した手をしっかりと握って名前は立ち上がった。
*
回想から意識を戻す。
今は冬休みも終わった、まだまだ火薬委員会の活動に甘酒が恋しくなる季節。手の感覚がほとんど無くなって、なかなかしっかり動かない。
「よし。今日はこれでいいだろう。」
今日の活動は一先ずこれでおしまいにしよう。と兵助が皆の方へ振り返る。
「じゃ!僕は、は組の連中が待ってるんで!」
頰と鼻を真っ赤にした伊助が「中庭でサッカーする約束してるんです!」と笑顔で言う。
「ふふん、一年は組は遊んでばかりだな。僕はみんなと宿題をするつもりなので、失礼しまーす。」
「ああっ!三郎次先輩ってば、そんなこれ見よがしに!なーんかイヤミなんだよなぁ。先輩たちだって、よく駆けっこやだるまさんかころんだで遊んでる癖に。」
「まったく…三郎次は相変わらず一言多いんだから。」
困った顔で笑う兵助にタカ丸と共に苦笑いをする。
「ありがとうございましたー!」と礼を告げて去る伊助と三郎次に「ありがとう。楽しんでね。」と返しながら見送った。
「僕は、今日はくの一教室に髪結いするために呼ばれてるんだ。」
転入当初、町のカリスマ髪結いの息子ということで、くの一教室の生徒たちに追いかけ回されていたタカ丸は、今では定期的にくの一教室を訪れることになっている。
「そうしたら毎日逃げなくて良くなった…」と語ったタカ丸の顔は、追いかけられていた時のことを思い出したのかゲッソリとしていた。お気の毒。
かく言う名前も同級生たちと一緒になって追いかけ回していた口なのだが、定期的に髪を結ってくれるのだったら文句はない。
最近では予約や整理券の制度も出来て、簡単な出張髪結い処だ。それだもまだ人気が高いため、名前の予約は次回だった。
「追いかけられるのはごめんだけど、女の子を綺麗にしてあげるのは楽しいからね〜」
ゲッソリとした雰囲気とは一転、ルンルンとしながらくの一教室に向かうタカ丸を、手を振って送り出す。
髪結いと忍たまを両立させるのも大変ね。
気がつくと、兵助の冷たい手の甲が名前が振っているのと反対の手に触れていた。
「冷たすぎて、触れられてるのわかんなかった。」
「ずっと作業してて乾燥してるしなあ」
互いの手を擦り合わせて笑う。
そのままどちらともなく手を繋いで、煙硝蔵のカギを閉めた。
「これだけ冷えてしまったし。食堂に行って、おばちゃんに温かいおうどんでも作ってもらおう。」
「さんせーい!」
白い息を吐きながら言う兵助に同意して、名前は食堂へ足を向けた。
兵助とは夏から急に距離が縮まって、何度か手も繋いでいる。
だが名前は、手をつないでいる間の兵助の顔をまともに見れないでいた。
彼は一体どういうつもりなんだろう…
*
今日はたまたま兵助と名前の2人で、委員会活動をしていた。
「名前。」
振り返ると兵助がこちらを向いている。
火気厳禁の煙硝蔵では、入り口の戸を開けたままにしていても、奥の方に来れば明かりはほとんど届かない。
長時間の作業によって暗闇に慣れた目でも薄っすらとしか見えない兵助の影を見返した。
「何?どうしたの。」
「うん…」
名前の返答に相槌を打った後、無言になった兵助は一言も発さないまま一歩一歩近づいてきた。
緊張感を持って名前は後退する。
壁際に追い詰められて止まると、兵助はその顔のすぐ横に拳を軽くつき、肘を壁につける動きに合わせてゆっくりと顔を近づけてきた。
名前はその顔から目が離せないまま固まった。
拘束されてる訳ではないのに体が動かない。
互いの額が付くか付かないかという時に、名前は逃げるように壁伝いにへたり込んだ。
兵助はそれに少し遅れて屈んでくる。
明かりのない煙硝蔵では、顔を近くしないと表情は読み辛い。この距離なら兵助の真剣な顔がよく見えた。
兵助の温かい息が鼻先に当たる。
必死に目を瞬いていると、そっと触れるだけのキスをされた。
兵助の唇が離れ、息の当たる距離に戻る。
兵助の顔が近づいた時から無意識に息を止めていたらしい。名前は一気に息を吐き出して、吸った。
バクバクと脈打つ胸に手を当てて、また一呼吸つく。
「ふふ…ふふふ…あはは…面白い顔。」
面白そうに拳で口元を抑え、目前でずっとクスクスと笑い続ける兵助に、ムカーッとして名前は頰を膨らませた。
それに気づいた兵助は1つ大きめの咳払いをし、「ごめん」と眉を下げて笑う。
そしてまたゆっくりと顔を近づけてきた兵助の頬を名前はギュムッと両手で挟んだ。
「兵助。私は、兵助のこと好きだと思う。」
「え?…あ…うん。俺も名前のこと好きだよ。」
名前は兵助の頬から手を離して、今度こそゆっくりと目を閉じた。
私は今、同級生で同じ委員会の久々知兵助との関係について考えあぐねている。
「え。私てっきり名前ちゃんと久々知兵助って、付き合ってるのかと思ってた!」
クラスメイトのその言葉に、ため息を漏らす。
私もそう思いたいのだが、いかんせん兵助の方からは決定的なアプローチが何もないのだ。
*
夏真っ盛り、煙硝蔵での火薬の定期点検を終える。今回は夏休みに入ったばかりで、下級生たちはほとんど家に帰っていた。
学園に残っているのは一部の先生か自主練をする上級生のみ。
名前たち火薬委員会をはじめ生物委員会や用具委員会など日頃の継続した管理が必要な委員会は、残っている上級生が通常どおり活動をしている。
「おしまい!おつかれ〜」
名前が床に腰を下ろし、足を伸ばして天井を見上げると兵助も同じようにその隣に座りこんで天井を見上げた。
床についた手の平とお尻から身体がスゥーと冷えて行く感覚に、ふぅと息を吐く。
「外絶対暑いよ…出たくない…」
「ああ。」
上の空に相槌を打つ兵助の声をぼうっと聞き流す。
今日はもう時間を気にしなくていい。
外の茹だるような暑さを思いながら、外に出たら何をしようかと考える。
この暑さでは、机に向かってする宿題はやりたくない。
いっそのこと汗をたらふくかく鍛錬をするか、もしくは水遁の術の練習と称して水練池で揺蕩うか。
友人たちを誘って、裏山の川まで遊びに行くのもいいけれど、それだと先生から外出届を貰わなければならないから面倒だな…
「そろそろ行くか」
「うーん…そうだね。そろそろ行くかー」
立ち上がった兵助を見上げる。
兵助の言葉に同意を示しながらも、重たい腰がなかなか上がらない。
そんな名前の様子を見た兵助は、考えるようにゆっくりと口を開いた。
「なぁ、今日の活動報告書は土井先生に提出するが、学園の皆には、仕事が終わったこと黙っておかないか?」
煙硝蔵の使用率は夏休みに入って格段に減る。
火薬の点検も、大きな使用がない限りあと3週間はしないでいいだろう。
つまり、煙硝蔵に来る口実が無くなるということだ。
学園で煙硝蔵ほど涼しい場所を私は知らない。
「ここに来れるのは火薬委員会の特権。」
ニヤリと笑いながら返すと、久々知もニヤリと笑う。
一応、鍵の管理は火薬委員会顧問である土井先生に許可を取らなければならないが、そこはそれ、幸い私たちは先生からの信頼も厚い成績優秀な生徒だから、あまりにも酷い悪さをしなければ、許されるだろう。
「明日も来るか?」
「もちろん!」
明日からもひどく暑い日中を、この涼しい煙硝蔵で過ごすことが出来る。
悪戯っぽく笑う兵助に元気よく返事をし、彼が差し出した手をしっかりと握って名前は立ち上がった。
*
回想から意識を戻す。
今は冬休みも終わった、まだまだ火薬委員会の活動に甘酒が恋しくなる季節。手の感覚がほとんど無くなって、なかなかしっかり動かない。
「よし。今日はこれでいいだろう。」
今日の活動は一先ずこれでおしまいにしよう。と兵助が皆の方へ振り返る。
「じゃ!僕は、は組の連中が待ってるんで!」
頰と鼻を真っ赤にした伊助が「中庭でサッカーする約束してるんです!」と笑顔で言う。
「ふふん、一年は組は遊んでばかりだな。僕はみんなと宿題をするつもりなので、失礼しまーす。」
「ああっ!三郎次先輩ってば、そんなこれ見よがしに!なーんかイヤミなんだよなぁ。先輩たちだって、よく駆けっこやだるまさんかころんだで遊んでる癖に。」
「まったく…三郎次は相変わらず一言多いんだから。」
困った顔で笑う兵助にタカ丸と共に苦笑いをする。
「ありがとうございましたー!」と礼を告げて去る伊助と三郎次に「ありがとう。楽しんでね。」と返しながら見送った。
「僕は、今日はくの一教室に髪結いするために呼ばれてるんだ。」
転入当初、町のカリスマ髪結いの息子ということで、くの一教室の生徒たちに追いかけ回されていたタカ丸は、今では定期的にくの一教室を訪れることになっている。
「そうしたら毎日逃げなくて良くなった…」と語ったタカ丸の顔は、追いかけられていた時のことを思い出したのかゲッソリとしていた。お気の毒。
かく言う名前も同級生たちと一緒になって追いかけ回していた口なのだが、定期的に髪を結ってくれるのだったら文句はない。
最近では予約や整理券の制度も出来て、簡単な出張髪結い処だ。それだもまだ人気が高いため、名前の予約は次回だった。
「追いかけられるのはごめんだけど、女の子を綺麗にしてあげるのは楽しいからね〜」
ゲッソリとした雰囲気とは一転、ルンルンとしながらくの一教室に向かうタカ丸を、手を振って送り出す。
髪結いと忍たまを両立させるのも大変ね。
気がつくと、兵助の冷たい手の甲が名前が振っているのと反対の手に触れていた。
「冷たすぎて、触れられてるのわかんなかった。」
「ずっと作業してて乾燥してるしなあ」
互いの手を擦り合わせて笑う。
そのままどちらともなく手を繋いで、煙硝蔵のカギを閉めた。
「これだけ冷えてしまったし。食堂に行って、おばちゃんに温かいおうどんでも作ってもらおう。」
「さんせーい!」
白い息を吐きながら言う兵助に同意して、名前は食堂へ足を向けた。
兵助とは夏から急に距離が縮まって、何度か手も繋いでいる。
だが名前は、手をつないでいる間の兵助の顔をまともに見れないでいた。
彼は一体どういうつもりなんだろう…
*
今日はたまたま兵助と名前の2人で、委員会活動をしていた。
「名前。」
振り返ると兵助がこちらを向いている。
火気厳禁の煙硝蔵では、入り口の戸を開けたままにしていても、奥の方に来れば明かりはほとんど届かない。
長時間の作業によって暗闇に慣れた目でも薄っすらとしか見えない兵助の影を見返した。
「何?どうしたの。」
「うん…」
名前の返答に相槌を打った後、無言になった兵助は一言も発さないまま一歩一歩近づいてきた。
緊張感を持って名前は後退する。
壁際に追い詰められて止まると、兵助はその顔のすぐ横に拳を軽くつき、肘を壁につける動きに合わせてゆっくりと顔を近づけてきた。
名前はその顔から目が離せないまま固まった。
拘束されてる訳ではないのに体が動かない。
互いの額が付くか付かないかという時に、名前は逃げるように壁伝いにへたり込んだ。
兵助はそれに少し遅れて屈んでくる。
明かりのない煙硝蔵では、顔を近くしないと表情は読み辛い。この距離なら兵助の真剣な顔がよく見えた。
兵助の温かい息が鼻先に当たる。
必死に目を瞬いていると、そっと触れるだけのキスをされた。
兵助の唇が離れ、息の当たる距離に戻る。
兵助の顔が近づいた時から無意識に息を止めていたらしい。名前は一気に息を吐き出して、吸った。
バクバクと脈打つ胸に手を当てて、また一呼吸つく。
「ふふ…ふふふ…あはは…面白い顔。」
面白そうに拳で口元を抑え、目前でずっとクスクスと笑い続ける兵助に、ムカーッとして名前は頰を膨らませた。
それに気づいた兵助は1つ大きめの咳払いをし、「ごめん」と眉を下げて笑う。
そしてまたゆっくりと顔を近づけてきた兵助の頬を名前はギュムッと両手で挟んだ。
「兵助。私は、兵助のこと好きだと思う。」
「え?…あ…うん。俺も名前のこと好きだよ。」
名前は兵助の頬から手を離して、今度こそゆっくりと目を閉じた。
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