短編 落乱
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【見たい】押都長烈
同僚から受けた報告を伝えるため、夜も更けた廊下を押都小頭の自室へ向かう。
戸の隙間から明かりが少し漏れているので、小頭はおそらく起きているだろう。
そういえば小頭は、私が黒鷲隊に入隊した時には既に面をつけて忍務をしていた。
誰か彼の素顔を知っている人物はいるのだろうか?廊下で1人、今更な疑問と思いながらも首を傾げる。
今突然に入室したら、油断していた小頭が面を外している…なんてことは無いだろうか。淡い期待を胸に戸にそっと近づき、バンッと勢いよく開けてみる。
「いきなり戸を開けるんじゃない」
案の定そこには面を着けた小頭がいて、ガッカリする。
「それと、お前も忍者なんだからもっと静かに…」
「だって小頭の素顔見てみたいじゃないですかー。何故自室でも面を付けていらっしゃるのですか」
説教じみた話をする小頭に反抗の意を込めて、大きく耳を塞ぐ動きをしブーたれると、小頭はこの質問はされ慣れているのか「特に意味などない」と即答されてしまった。
「小頭の素顔を知っている方っていらっしゃるんですか」
「私の素顔を知っている人物がいるとしたらどんな人物だと思う?」
めげずに重ねて尋ねてみると、質問に質問で返され、この質問はこのまま流されるなぁ…と諦めつつ、「組頭とか?」と当たり障りなく返す。
「そうだな。他は?」
「…奥様?」
「いや、私に嫁はいない」
思いの外続く会話に拍子抜けしつつ、真剣に考えて答える。
「では、恋仲の方ですか?」
「恋仲の女性もいないな」
「じゃ、床を共にする方とかー?さすがに面を着けたままじゃあ…」
と冗談めかして言ってみると、押都は忍者らしくほとんど音を立てず、名前にスッとにじり寄ってきた。
戸惑いつつ尻を床板につけたまま後ずさるが、壁に近づき逃げ場が無くなる。背が壁についた時、堪らず「こ、こがしら?」と吃りながらも問いかけた。
少しの間の後、小頭の低い落ち着いた声が響く。
「私の顔、見たくないか?」
床に着いた手は、小頭の手にすっかり覆われていて動かすことができない。
気がつけば、自分の吐き出す息が小頭の面に当たる音がしっかりと聞こえていた。他に物音は1つせず、2人の呼吸の音だけが聞こえる。
ここまで近づいていても見えない小頭の表情に不安を感じながらも、心臓の音はどんどん早まっていた。
果たしてこの音は小頭に聞こえていないだろうか焦りながら、まともに動かない頭を必死に働かせてどう反応すべきかを考える。
小頭の面の下は見たい。見たいが、ここで素直に「見たい」と告げるのは負けな気がする…そんなもの何に負けるのだという話だが、私のプライド的に…?いやいや、そんなことより、手!今、私の手は小頭の大きな手に押さえつけられ、それだけで身動きが取れない。顔が近い。
「私の顔、見たくないか?」小頭の声が脳内で再度問いかけてくる。先程の私の言葉に対する問いかけだ。あれ?つまり、そういうことなのか…?今私は小頭に夜のお誘いを受けているのか!?
小頭は私の思考の渦がまとまらない様子に気づいたのか、次の行動があまりにも遅すぎてつまらないと感じたのか。また音もなく私から離れて、元の位置に元の体制で座り込んだ。
まるで、何もなかったかのように。
一度落ち着くため、仰け反っていた体勢を直して一呼吸おく。
小頭に恋仲の女性はいない…と、いうことは小頭の素顔を知っている人間は、もしかして"いない"?
まだ見ぬ奥さま、なんて羨ましい!私だって小頭の素顔を見てみたい!
思考の渦から顔を上げると小頭は「ん?」と首を傾げた。
そうか…まだ懇意にしている女性がいないのなら…
少し膝頭が触れるように寄り添い、その膝に置かれていた左手にゆっくりと触れる。
「小頭…私ずっと小頭のこと…お慕い申しておりました」
押都はただじっとして、なにも言葉を発さない。
あまりに突然のことに驚いているのだろうか。
それとも、急に手のひらを返したように態度を変えた名前の演技が白々しすぎて呆れているのだろうか。
面に隠された顔から真意を読み取ることはできなかった。
面越しに見つめ合う。
名前は重ねた手の指だけを動かして、押都の手の甲を撫ぜた。
それはどれほどの時間だったのか。
長く感じたが、それほどでもなかったかもしれない。
押都は静かに「そうか」と返すと、名前の手を反対の手で優しくどかし、本来の仕事の報告を促してきた。
この話は終わりだという態度に、仕掛けて来たのはそっちなのにと名前は憤然とする。
しかし、職務は職務である。
元々の目的を思い出し、持っていた情報の報告をしながら、何事もなかったかのように仕事を続ける小頭を観察した。
本当に何もなかったかのよう。
面で表情が見えないだけで、こんなにも小頭の気持ちは掴み難い。
それがどうにも悔しくて、報告を終えた私は、小頭の面越しに不意打ちの口付けをした。
そんなに濃く付けていなかった紅だが、口付けたところに色が薄く移っている。
小頭の面は紙に墨で書いたものだから、洗って綺麗にすることはできないだろう。
自分の消えない跡を付けたようで、ちょっとした悦に浸る。
小頭の表情を伺ったところで、結局、面からは何も分からない。
身じろぎ一つしない押都を置いて、逃げるように部屋を去ったのだった。
同僚から受けた報告を伝えるため、夜も更けた廊下を押都小頭の自室へ向かう。
戸の隙間から明かりが少し漏れているので、小頭はおそらく起きているだろう。
そういえば小頭は、私が黒鷲隊に入隊した時には既に面をつけて忍務をしていた。
誰か彼の素顔を知っている人物はいるのだろうか?廊下で1人、今更な疑問と思いながらも首を傾げる。
今突然に入室したら、油断していた小頭が面を外している…なんてことは無いだろうか。淡い期待を胸に戸にそっと近づき、バンッと勢いよく開けてみる。
「いきなり戸を開けるんじゃない」
案の定そこには面を着けた小頭がいて、ガッカリする。
「それと、お前も忍者なんだからもっと静かに…」
「だって小頭の素顔見てみたいじゃないですかー。何故自室でも面を付けていらっしゃるのですか」
説教じみた話をする小頭に反抗の意を込めて、大きく耳を塞ぐ動きをしブーたれると、小頭はこの質問はされ慣れているのか「特に意味などない」と即答されてしまった。
「小頭の素顔を知っている方っていらっしゃるんですか」
「私の素顔を知っている人物がいるとしたらどんな人物だと思う?」
めげずに重ねて尋ねてみると、質問に質問で返され、この質問はこのまま流されるなぁ…と諦めつつ、「組頭とか?」と当たり障りなく返す。
「そうだな。他は?」
「…奥様?」
「いや、私に嫁はいない」
思いの外続く会話に拍子抜けしつつ、真剣に考えて答える。
「では、恋仲の方ですか?」
「恋仲の女性もいないな」
「じゃ、床を共にする方とかー?さすがに面を着けたままじゃあ…」
と冗談めかして言ってみると、押都は忍者らしくほとんど音を立てず、名前にスッとにじり寄ってきた。
戸惑いつつ尻を床板につけたまま後ずさるが、壁に近づき逃げ場が無くなる。背が壁についた時、堪らず「こ、こがしら?」と吃りながらも問いかけた。
少しの間の後、小頭の低い落ち着いた声が響く。
「私の顔、見たくないか?」
床に着いた手は、小頭の手にすっかり覆われていて動かすことができない。
気がつけば、自分の吐き出す息が小頭の面に当たる音がしっかりと聞こえていた。他に物音は1つせず、2人の呼吸の音だけが聞こえる。
ここまで近づいていても見えない小頭の表情に不安を感じながらも、心臓の音はどんどん早まっていた。
果たしてこの音は小頭に聞こえていないだろうか焦りながら、まともに動かない頭を必死に働かせてどう反応すべきかを考える。
小頭の面の下は見たい。見たいが、ここで素直に「見たい」と告げるのは負けな気がする…そんなもの何に負けるのだという話だが、私のプライド的に…?いやいや、そんなことより、手!今、私の手は小頭の大きな手に押さえつけられ、それだけで身動きが取れない。顔が近い。
「私の顔、見たくないか?」小頭の声が脳内で再度問いかけてくる。先程の私の言葉に対する問いかけだ。あれ?つまり、そういうことなのか…?今私は小頭に夜のお誘いを受けているのか!?
小頭は私の思考の渦がまとまらない様子に気づいたのか、次の行動があまりにも遅すぎてつまらないと感じたのか。また音もなく私から離れて、元の位置に元の体制で座り込んだ。
まるで、何もなかったかのように。
一度落ち着くため、仰け反っていた体勢を直して一呼吸おく。
小頭に恋仲の女性はいない…と、いうことは小頭の素顔を知っている人間は、もしかして"いない"?
まだ見ぬ奥さま、なんて羨ましい!私だって小頭の素顔を見てみたい!
思考の渦から顔を上げると小頭は「ん?」と首を傾げた。
そうか…まだ懇意にしている女性がいないのなら…
少し膝頭が触れるように寄り添い、その膝に置かれていた左手にゆっくりと触れる。
「小頭…私ずっと小頭のこと…お慕い申しておりました」
押都はただじっとして、なにも言葉を発さない。
あまりに突然のことに驚いているのだろうか。
それとも、急に手のひらを返したように態度を変えた名前の演技が白々しすぎて呆れているのだろうか。
面に隠された顔から真意を読み取ることはできなかった。
面越しに見つめ合う。
名前は重ねた手の指だけを動かして、押都の手の甲を撫ぜた。
それはどれほどの時間だったのか。
長く感じたが、それほどでもなかったかもしれない。
押都は静かに「そうか」と返すと、名前の手を反対の手で優しくどかし、本来の仕事の報告を促してきた。
この話は終わりだという態度に、仕掛けて来たのはそっちなのにと名前は憤然とする。
しかし、職務は職務である。
元々の目的を思い出し、持っていた情報の報告をしながら、何事もなかったかのように仕事を続ける小頭を観察した。
本当に何もなかったかのよう。
面で表情が見えないだけで、こんなにも小頭の気持ちは掴み難い。
それがどうにも悔しくて、報告を終えた私は、小頭の面越しに不意打ちの口付けをした。
そんなに濃く付けていなかった紅だが、口付けたところに色が薄く移っている。
小頭の面は紙に墨で書いたものだから、洗って綺麗にすることはできないだろう。
自分の消えない跡を付けたようで、ちょっとした悦に浸る。
小頭の表情を伺ったところで、結局、面からは何も分からない。
身じろぎ一つしない押都を置いて、逃げるように部屋を去ったのだった。
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