【置いとくだけ】私の弟は死んだ
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城勤めでなくなってから、5年ーーー。
本日名前は、町外れの団子屋で山田利吉とお茶を飲んでいた。
利吉は派遣忍者の仕事で知り合ったフリーの売れっ子忍者で、何度か仕事を共にしている仲だ。
今回も共に仕事を済ませた後、「折り入って相談がある」と名前が利吉を呼び止めたのだった。
「それで?改まって相談なんて、どうしたんですか。」
出されたお茶を一口飲み、一呼吸置くと利吉は早々に尋ねてきた。
「うん。年下の利吉くんに、こんな事頼むのもお恥ずかしい話なんだけどね…」
「年齢なんて気にしないでください。」
手を振る利吉は、やはり年下としての可愛らしさを持ちつつ、しっかりしているなぁと感心する。
「ありがとう。早速なんだけど、実はそろそろ派遣忍者を辞めて、安定した職に就きたいと思ってて…、どこかいい就職先を紹介してもらえないかな?」
「ええ!?名前さん、忍者やめちゃうんですか!」
驚いた様子で声を大きくした利吉に、今度は名前の方が慌てる。
急いで声を抑えるように言うと、利吉の方でも「しまった」と口を噤む。名前は話を続けた。
「そ、そんなに意外?」
「いえ、名前さんはとても優秀な忍者ですから、その若さで今忍者界から引退されてしまうのは勿体無いと思って…」
「あはは お世辞なんか言っても、ここのお団子代くらいしかでないぞ?」
「そんなつもりじゃありませんよ!」
もともとお代は出すつもりだったが、名前はお姉さんに任せなさいと言いたくなった。
本当にこの子は年上から可愛がられるタイプのよいこだ。
「まあ、生きるための成り行きで忍者になるって決めた人間だからね。特に忍者であることに拘りは無いのよ。この経験を活かせるならそれも良いけど、それこそ特に何がやりたいという訳でもなし。」
「そうですか…」
残念そうに呟く利吉を横目で見て、くすぐったい気持ちになる。
お茶を一口含み、その照れ臭さを落ち着けてから続けた。
「でも。利吉くんみたいな若くて優秀な忍者に勿体無いと言ってもらえるだなんて、私も捨てたもんじゃないわね〜。忍者としての仕事続けるのも悪くはないかもって思えてきた!」
「単純でしょ?」と名前が笑顔を向けると、利吉はその顔を見て「そうですね。」とおかしそうにくすくすと笑った。
一通り笑った後、んー…と一度言い淀んだ利吉は、「ひとつ、心当たりがあります。」と慎重に切り出した。
「忍者としての経験を大いに活かす事ができて、今ほど危険な仕事はない、すごくアットホームな職場ですよ。お給料も安定しているので、その点も自信を持ってお勧めできます。ただ、あちら側に採用の都合を聞いてみないことには何とも言えませんが…」
売れっ子の山田利吉ならば、しっかりとした就職先を紹介してもらえるはずだ。
就職口の紹介など、あまり乗り気になってくれないだろうとダメ元で持ちかけた相談が、思いの外良い反応が返ってきたことで、私は心の中で大きなガッツポーズをしたのだった。
*
「利吉くんの紹介じゃから、あんまり心配しておらんが。とりあえず教育実習生として勉強してもらおうかの。よろしく、苗字先生。」
「はい。教育に関しては初めての経験なので至らない点は多々あるかと思いますが、何卒よろしくお願い致します。」
というわけで、名前は今日から一ヶ月間、忍術学園で教育実習生として過ごすことになった。この期間で適性を見て、採用か不採用か、もし採用ならばどの学年で何を担当するかなどを決めていただけるらしい。
名前の場合、城勤であった期間も短く、後輩指導はまともにやったことはない。
寺でも同年代の中では少々浮いていたため、年少の子らの面倒を見るのは他の子に任せていた。教育という点では不明な事ばかりなため、正直実習生という立場はとても助かる。
「教育実習生だって!」
「利吉さんの紹介だって!」
「強いのかな?」
「ナメクジさん好きかなー」
「くの一みたいだけど、いくつだろ?
「実はすんごいばーちゃんだったりして!」
庵の外が騒がしい。
コソコソとしているようだが興奮気味な声が丸聞こえで、名前は苦笑してしまう。
「どこのクラスで実習するんだろう。」という冷静な一言とともに外は再び、シーンと静かになった。
「ところで、私はどのクラスになるのでしょうか。」
その疑問の声に応えるべく名前が尋ねると、学園長は外に聞こえるよう声高らかに宣言した。
「ぶぉっほっほ…そうじゃな、何人も教え子を持っている山田先生の一年は組にいってもらおうかの!」
「教育実習生を受け持った経験もあるし安心じゃ」という学園長の言葉に重なるように、戸がスパーンっと開いて、井桁模様の制服を着た子どもたちが飛び込んできた。
「先生!一年は組に来るんですかー!」
声を揃えて言った後、各々が好き勝手に話し出す。急に賑やかになった庵にタジタジしながらも、「どこでなんの仕事をしていたのか」というような質問と「ナメクジは好きですかー!」という元気な声だけ聞き取れた。
「ある城で数年勤めた後、ここ5年ほどはフリーの忍者として、色んな仕事をしてました。あと、ナメクジは特に好きではないです。」
「はにゃあ…じゃあナメクジさんの事、これから好きになってくださいねぇ」
と少し残念そうに口をすぼめた男の子に、子どもたちの視線が集中する。
「喜三太ぁ、それは今する質問じゃないだろ〜」
自分の質問に返答されなかった子たちが、「ぶーぶー!」と字の通りに文句を言っていた。全員の言葉を聞き取れなくて申し訳ない。
「で、君たちは?」
「一年は組のよい子たちでーす!」
またまた声を揃えて、大きな声で答える男の子たち。
果たして自分はこんなに元気のいい子どもたちをまとめることができるのだろうか、と名前はどこか他人事のように思った。
そこにカーンッと鐘の音が大きく鳴る。
よい子たちは慌てて「授業が始まっちゃう!」とバタバタと立ち上がり始めた。
「これ、お前たち。午後は山田先生の実技の授業じゃろう。苗字先生を連れて行ってあげなさい。」
「はーい!」
学園長先生にお礼を告げて、は組のよい子たちに続いて庵を退室する。
よい子たちは、そのままグランドまで案内してくれた。
「本日から教育実習生としてお世話になります、苗字名前です。よろしくお願い致します。」
「おー!お待ちしておりました。息子の利吉が、いつもお世話になってます。」
「いえこちらこそ、大変お世話になって…」
実は山田伝蔵のことは、利吉から聞いて知っている。忍術学園を紹介してくれる時、「父の勤め先なんです。」と話してくれた利吉のくすぐったいような笑顔を思い出す。
それまで「父がぜんぜん帰省しない」とか「洗濯物には困らされている」といった利吉が愚痴を言うのをたくさん聞いていたが、そんなことは抜きにして、とても尊敬しているんだなとわかる表情だった。
あの利吉を育てたのが、実際どんな方なのか名前は正直とても気になっていた。
失礼にならない程度に観察させていただく。
顔の造形はそっくりと言うわけではないが、目元が似ている。表情もどことなく似ているような気がして、なんとなく親しみを覚えた。
「この時間はまず、見学していてください。あとで色々と詳しく説明しましょう。」
もう少し授業の流れやクラスの様子などを知っておきたかったが、授業はもう始まっている。挨拶もそこそこに、今日は見学させていただくことになった。
「学園長先生も、挨拶と打ち合わせの時間くらいまともに用意してくれりゃあいいものを…」
グチグチと言いながら、「後程挨拶もじっくりと。」と困り顔でこちらを向いた山田先生は、その後キリッと生徒たちへと向き直り、授業を開始した。
メリハリをつけてキビキビと授業を進める姿に、なるほどこれはかっこいい…と名前は半ばミーハーのような気持ちになりながら、気になった点などのメモをどんどん進めたのだった。
本日名前は、町外れの団子屋で山田利吉とお茶を飲んでいた。
利吉は派遣忍者の仕事で知り合ったフリーの売れっ子忍者で、何度か仕事を共にしている仲だ。
今回も共に仕事を済ませた後、「折り入って相談がある」と名前が利吉を呼び止めたのだった。
「それで?改まって相談なんて、どうしたんですか。」
出されたお茶を一口飲み、一呼吸置くと利吉は早々に尋ねてきた。
「うん。年下の利吉くんに、こんな事頼むのもお恥ずかしい話なんだけどね…」
「年齢なんて気にしないでください。」
手を振る利吉は、やはり年下としての可愛らしさを持ちつつ、しっかりしているなぁと感心する。
「ありがとう。早速なんだけど、実はそろそろ派遣忍者を辞めて、安定した職に就きたいと思ってて…、どこかいい就職先を紹介してもらえないかな?」
「ええ!?名前さん、忍者やめちゃうんですか!」
驚いた様子で声を大きくした利吉に、今度は名前の方が慌てる。
急いで声を抑えるように言うと、利吉の方でも「しまった」と口を噤む。名前は話を続けた。
「そ、そんなに意外?」
「いえ、名前さんはとても優秀な忍者ですから、その若さで今忍者界から引退されてしまうのは勿体無いと思って…」
「あはは お世辞なんか言っても、ここのお団子代くらいしかでないぞ?」
「そんなつもりじゃありませんよ!」
もともとお代は出すつもりだったが、名前はお姉さんに任せなさいと言いたくなった。
本当にこの子は年上から可愛がられるタイプのよいこだ。
「まあ、生きるための成り行きで忍者になるって決めた人間だからね。特に忍者であることに拘りは無いのよ。この経験を活かせるならそれも良いけど、それこそ特に何がやりたいという訳でもなし。」
「そうですか…」
残念そうに呟く利吉を横目で見て、くすぐったい気持ちになる。
お茶を一口含み、その照れ臭さを落ち着けてから続けた。
「でも。利吉くんみたいな若くて優秀な忍者に勿体無いと言ってもらえるだなんて、私も捨てたもんじゃないわね〜。忍者としての仕事続けるのも悪くはないかもって思えてきた!」
「単純でしょ?」と名前が笑顔を向けると、利吉はその顔を見て「そうですね。」とおかしそうにくすくすと笑った。
一通り笑った後、んー…と一度言い淀んだ利吉は、「ひとつ、心当たりがあります。」と慎重に切り出した。
「忍者としての経験を大いに活かす事ができて、今ほど危険な仕事はない、すごくアットホームな職場ですよ。お給料も安定しているので、その点も自信を持ってお勧めできます。ただ、あちら側に採用の都合を聞いてみないことには何とも言えませんが…」
売れっ子の山田利吉ならば、しっかりとした就職先を紹介してもらえるはずだ。
就職口の紹介など、あまり乗り気になってくれないだろうとダメ元で持ちかけた相談が、思いの外良い反応が返ってきたことで、私は心の中で大きなガッツポーズをしたのだった。
*
「利吉くんの紹介じゃから、あんまり心配しておらんが。とりあえず教育実習生として勉強してもらおうかの。よろしく、苗字先生。」
「はい。教育に関しては初めての経験なので至らない点は多々あるかと思いますが、何卒よろしくお願い致します。」
というわけで、名前は今日から一ヶ月間、忍術学園で教育実習生として過ごすことになった。この期間で適性を見て、採用か不採用か、もし採用ならばどの学年で何を担当するかなどを決めていただけるらしい。
名前の場合、城勤であった期間も短く、後輩指導はまともにやったことはない。
寺でも同年代の中では少々浮いていたため、年少の子らの面倒を見るのは他の子に任せていた。教育という点では不明な事ばかりなため、正直実習生という立場はとても助かる。
「教育実習生だって!」
「利吉さんの紹介だって!」
「強いのかな?」
「ナメクジさん好きかなー」
「くの一みたいだけど、いくつだろ?
「実はすんごいばーちゃんだったりして!」
庵の外が騒がしい。
コソコソとしているようだが興奮気味な声が丸聞こえで、名前は苦笑してしまう。
「どこのクラスで実習するんだろう。」という冷静な一言とともに外は再び、シーンと静かになった。
「ところで、私はどのクラスになるのでしょうか。」
その疑問の声に応えるべく名前が尋ねると、学園長は外に聞こえるよう声高らかに宣言した。
「ぶぉっほっほ…そうじゃな、何人も教え子を持っている山田先生の一年は組にいってもらおうかの!」
「教育実習生を受け持った経験もあるし安心じゃ」という学園長の言葉に重なるように、戸がスパーンっと開いて、井桁模様の制服を着た子どもたちが飛び込んできた。
「先生!一年は組に来るんですかー!」
声を揃えて言った後、各々が好き勝手に話し出す。急に賑やかになった庵にタジタジしながらも、「どこでなんの仕事をしていたのか」というような質問と「ナメクジは好きですかー!」という元気な声だけ聞き取れた。
「ある城で数年勤めた後、ここ5年ほどはフリーの忍者として、色んな仕事をしてました。あと、ナメクジは特に好きではないです。」
「はにゃあ…じゃあナメクジさんの事、これから好きになってくださいねぇ」
と少し残念そうに口をすぼめた男の子に、子どもたちの視線が集中する。
「喜三太ぁ、それは今する質問じゃないだろ〜」
自分の質問に返答されなかった子たちが、「ぶーぶー!」と字の通りに文句を言っていた。全員の言葉を聞き取れなくて申し訳ない。
「で、君たちは?」
「一年は組のよい子たちでーす!」
またまた声を揃えて、大きな声で答える男の子たち。
果たして自分はこんなに元気のいい子どもたちをまとめることができるのだろうか、と名前はどこか他人事のように思った。
そこにカーンッと鐘の音が大きく鳴る。
よい子たちは慌てて「授業が始まっちゃう!」とバタバタと立ち上がり始めた。
「これ、お前たち。午後は山田先生の実技の授業じゃろう。苗字先生を連れて行ってあげなさい。」
「はーい!」
学園長先生にお礼を告げて、は組のよい子たちに続いて庵を退室する。
よい子たちは、そのままグランドまで案内してくれた。
「本日から教育実習生としてお世話になります、苗字名前です。よろしくお願い致します。」
「おー!お待ちしておりました。息子の利吉が、いつもお世話になってます。」
「いえこちらこそ、大変お世話になって…」
実は山田伝蔵のことは、利吉から聞いて知っている。忍術学園を紹介してくれる時、「父の勤め先なんです。」と話してくれた利吉のくすぐったいような笑顔を思い出す。
それまで「父がぜんぜん帰省しない」とか「洗濯物には困らされている」といった利吉が愚痴を言うのをたくさん聞いていたが、そんなことは抜きにして、とても尊敬しているんだなとわかる表情だった。
あの利吉を育てたのが、実際どんな方なのか名前は正直とても気になっていた。
失礼にならない程度に観察させていただく。
顔の造形はそっくりと言うわけではないが、目元が似ている。表情もどことなく似ているような気がして、なんとなく親しみを覚えた。
「この時間はまず、見学していてください。あとで色々と詳しく説明しましょう。」
もう少し授業の流れやクラスの様子などを知っておきたかったが、授業はもう始まっている。挨拶もそこそこに、今日は見学させていただくことになった。
「学園長先生も、挨拶と打ち合わせの時間くらいまともに用意してくれりゃあいいものを…」
グチグチと言いながら、「後程挨拶もじっくりと。」と困り顔でこちらを向いた山田先生は、その後キリッと生徒たちへと向き直り、授業を開始した。
メリハリをつけてキビキビと授業を進める姿に、なるほどこれはかっこいい…と名前は半ばミーハーのような気持ちになりながら、気になった点などのメモをどんどん進めたのだった。
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