【置いとくだけ】私の弟は死んだ
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1月ほど前、名前と同い年の半助という男の子がこの寺に新しくやって来た。
お勤めで忙しくしている和尚1人で、子どもたち一人一人のケアなどできるはずもない。半助は、未だに寺の子どもたちに馴染めず、村から来た悪ガキ達には石を投げられたりしていた。
庭の片隅で膝を抱え、時々思い出したように泣いている半助の姿を、名前はよく見かけていたのだった。
「っははうえ…」
寺の木の陰から弱々しく泣く声が聞こえたので覗いてみると、案の定半助が膝を抱えて蹲っている。
名前は半助が何故この寺に来たのかは知らなかったし、聞くつもりもない。ここに来る子どもたちの境遇なんて皆似たり寄ったりで、実の親に二度と会えないような子が大半だ。
「また泣いてんの?」
「…っ」
「いつまで母ちゃん恋しくて泣いてんのよ。」
厳しい名前の声に反応して顔を上げた半助の目は、赤く腫れていた。
名前が隣にドスっと座り込むと、半助は戸惑って逃げるように少し腰を上げる。
「あんた、何すんのが好き?」
泣いているのかと問うた声とは違う、明るいトーンで話し出した名前に、半助は拍子抜けして、視線をさ迷わせた。
「チャンバラが好きだとか木登りが好きだとか、なんかあるでしょ?」
「え⁉︎えっと…」
また少し厳しくなった名前の口調に、半助は困惑するばかりだった。
そもそもこの寺にいる子どもは顔くらいしか認識していない。挨拶以外で話したことのない女子からの問いを理解するまで半助の思考は追い付いていなかった。
「自分の好きなことしてれば、それに夢中になれるから何も考えなくて済むよ。」
半助の方を見ずに独り言のように呟いた名前は、転がっていた木の枝をおもむろに拾い、地面に滑らせた。
「あたしは絵を描くのが好きだった。だからここに来た時はずっとずっと描いてたの。」
そう言って名前は、器用に一つの絵を描き上げた。
「あ…魚だ。上手だね。」
半助はやっと名前の方へ体を向けて話し始めた。その様子に、名前は少し嬉しそうに返す。
「まあね。うちは漁師だったからよく見てたの。で、あんたは?何が好き?」
「わたしは…」
と下を向いて黙り込んだ半助は、自分が何をするのが好きなのか思い出しているようだった。あるいはあまり自分のことを客観的に考えたことがなく、考え直していたのかもしれない。
少し視線をさ迷わせた後、ハッとしたように顔を上げた半助は、勢い込んで話し出した。
「私、本を読むのが好き!お勉強するのが好きだった。」
「へえ!じゃ、書庫に行こ。あたしもここに来てから読むようになったんだ。」
名前はそう言って半助に手招きしながら、寺の裏手にある書庫へと歩き出した。
「この寺はね、たまにヒトヨタケ城の忍者が来て、私たちみたいな孤児を忍者にスカウトして行くの。ついこの間も、あたしに勉強教えてくれてた弥次郎が、忍者になるために出てったのよ!」
自分のことではないのに誇らしげに語る名前に、半助は相槌を打ちながら付いて行く。
「弥次郎がよく言ってたんだけど。将来食いっぱぐれないために、忍者になる勉強をしっかりしろって。だからあたし、いっぱい勉強して、立派な忍者になる!」
「わ、私も頑張ったら忍者になれるかな?」
名前のキラキラした顔に気押されながらもそう言った半助に、名前はさらに目を輝かせて返す。
「今から頑張れば、あたし程じゃないだろうけど優秀な忍者になれるかもね!だから、たくさん勉強しなくっちゃ!」
楽しそうに、名前が書庫の扉を開け、振り返ったところで、半助と名前はやっと目を合わせて笑いあった。
それから2人は、寺にある本を読み耽り、修験道の修行にも参加して鍛錬に励んだ。
*
半助は名前と一緒にいるときはそれなりに饒舌になった。
しかし結局他の子ども達と仲良くなれず、1人で孤立していることが多かった。その割に強情で負けず嫌いな性格だったためか、村の悪ガキたちに喧嘩をふっかけられ、その度、小さな体で抵抗する。
名前が半助を助けて怪我の手当てする、そういう光景が日常になっていた。
「半助、あんたいつになったらアイツらやっつけんのよ。」
「うるさいな。今日だって、名前が来なかったら、俺がアイツら返り討ちにしてたさ。」
「大きな口聞くんじゃないの!」
手当てした腕を軽く叩けば、半助は「痛っ」と言って名前を軽く睨みつける。
「姉貴ぶるなよ、同い年のくせに。」
「手のかかる弟がいると、大変で嫌んなっちゃう。」
嫌味に言った名前も、半助を軽く睨みつけていたが、手当のための布をまく手は緩めない。半助も大人しく怪我した腕を差し出したままだった。
この年頃の子どもは女の方が成長が早い。
名前も半助より体が大きく、強気な性格から半助を引っ張って行動することが多く、周りから2人は姉弟のように揶揄されていた。
半助はそれに対して反抗していたが、この擬似姉弟の関係には実のところ2人とも居心地の良さを覚えていた。
家族のいない子どもたちの集まる寺では、みんな家族のような感覚で過ごしている。
しかしそれぞれ自尊心が高く、やはりどこか個々が独立していて、自分の砦を作っている者は多分に居た。
その中で、年の近い2人はとりわけ親近感を持っていたのかもしれない。
半助は、この寺で暮らすようになって言葉遣いも荒くなったし、周りに遠慮がちだった"わきまえた子供の態度"をしなくなったように名前は思う。
それが良いことなのかどうかは分からないけれど。
忍者になるという共通の夢を胸に、山中を駆けた子ども時代はあっという間に過ぎ去り、半助と名前はヒトヨタケ城の忍者になった。
*
「行ってくる。名前、洗濯物の山に潰されて死なないようにな。」
「死ぬわけないでしょ!洗濯物くらい当たり前のようにやりますー!」
嫌味な言葉を向けてくるこの態度、いったい誰に似たのか。あの寺で育てばひねくれて育つのも当たり前かもしれない。断じて名前のせいではない。
イーッだと返して軽口を交わしていると、半助と一緒に行動する予定の先輩が横から声をかけてきた。
「簡単な忍務だが、なかなか気を抜けないからな。気合い入れていけ、半助。」
「先輩、うちの愚弟がお世話になります。」
「愚弟は余計だ。」
そうやっていつも通り「いってらっしゃい。」と半助の肩を叩いて送り出したのが、三週間前。
ここのところヒトヨタケが直面している戦は膠着状態にあり、先に相手の有益な情報を手に入れるか、強力な味方を付けた方が勝利するだろうという状況だった。
最近今まで以上に力をつけてきているタソガレドキ城。
「遠方ではあるが、味方に付けておけばこの先確実に有利になる」という参謀の言葉に従い、ヒトヨタケ城城主はタソガレドキと手を組むべく動いていた。
このままタソガレドキと手を組むことができれば、こちらの勝利は確実になる。
そんな中、2人が敵国の調査のためにヒトヨタケ領をでたのは、やっとこじつけた黄昏甚兵衛との会談のすぐ後であった。
「任務中、土井半助が矢を射られ、重傷だったため囮としての仕事を任せた。」
そう告げた先輩の辛そうな表情をまじまじと見返す。
理解が追いつかなかった。
「えっ…それは、まさか…」
声が震える。
今回の忍務は敵城の雑兵に潜り込み、あちらの戦況、備蓄を探るというものだった。
よくある忍務で、特に心配する必要もなかったはずなのに…
「相手方の情報は、すでに私からお頭に伝えた。今から土井半助の回収に向かう。」
回収という言葉を使った先輩は、「もしかすると生きて逃げているかもしれない」そういう淡い期待を口にはしなかった。
半助の遺体は見つからず、半助が逃げていたと思われる痕跡も崖から落ちた後は綺麗サッパリ消されていた。本人がしっかりと消してから逃げたのか、敵忍者に捕らえられ連れ去られたのか。
半助の行方は知れぬまま、忍者隊は捜索から手を引くことになった。
「帰るぞ」と告げる先輩の声を聞いて、穏やかな花畑がこんなにも絶望じみて見えたのは、後にも先にもあの時だけだった。
そして、半助の失踪後すぐヒトヨタケは今回の戦に敗れた。
どこから情報が漏れたのかわからないが、ヒトヨタケとタソガレドキの間で会談が行われたこと、その内容までもが露呈していたらしい。相手国はヒトヨタケ以上の条件を黄昏甚兵衛に持ちかけたようだった。
結果としてヒトヨタケとタソガレドキの同盟は不成立。
ヒトヨタケは怒涛のスピードで敗走することになった。
半助の遺体が見つからなかったことから「土井半助が敵に捕まった際に寝返ったのでは…」という声も聞かれたが、半助が相手国へ寝返ったのだとしても敵側の行動が早すぎる。
原因が半助の裏切りとは考えられなかったが、当の本人は未だ見つからず、確認を取るすべはない。
真相は解明されぬままだった。
その後ヒトヨタケ忍者隊は解体され、名前たちは職を失った。
名前は、生死も知れない弟のことが気にかかり、1人であっても探し出すことができればと考えたが、「負けたヒトヨタケ忍者が変な動きをするべきではない」と先輩に止められ、目立った動きをすることはできなかった。
それでも、育った寺を二、三度訪れた。
そこにも連絡は一切ない。
家のない名前には、この寺以外に頼るところはない。仕事がなければ生きることもできない。
一年を目処に寺を訪ねることをやめ、派遣忍者としての仕事に精を入れることにした。
名前の弟、半助は殉職したのだ。
1月ほど前、名前と同い年の半助という男の子がこの寺に新しくやって来た。
お勤めで忙しくしている和尚1人で、子どもたち一人一人のケアなどできるはずもない。半助は、未だに寺の子どもたちに馴染めず、村から来た悪ガキ達には石を投げられたりしていた。
庭の片隅で膝を抱え、時々思い出したように泣いている半助の姿を、名前はよく見かけていたのだった。
「っははうえ…」
寺の木の陰から弱々しく泣く声が聞こえたので覗いてみると、案の定半助が膝を抱えて蹲っている。
名前は半助が何故この寺に来たのかは知らなかったし、聞くつもりもない。ここに来る子どもたちの境遇なんて皆似たり寄ったりで、実の親に二度と会えないような子が大半だ。
「また泣いてんの?」
「…っ」
「いつまで母ちゃん恋しくて泣いてんのよ。」
厳しい名前の声に反応して顔を上げた半助の目は、赤く腫れていた。
名前が隣にドスっと座り込むと、半助は戸惑って逃げるように少し腰を上げる。
「あんた、何すんのが好き?」
泣いているのかと問うた声とは違う、明るいトーンで話し出した名前に、半助は拍子抜けして、視線をさ迷わせた。
「チャンバラが好きだとか木登りが好きだとか、なんかあるでしょ?」
「え⁉︎えっと…」
また少し厳しくなった名前の口調に、半助は困惑するばかりだった。
そもそもこの寺にいる子どもは顔くらいしか認識していない。挨拶以外で話したことのない女子からの問いを理解するまで半助の思考は追い付いていなかった。
「自分の好きなことしてれば、それに夢中になれるから何も考えなくて済むよ。」
半助の方を見ずに独り言のように呟いた名前は、転がっていた木の枝をおもむろに拾い、地面に滑らせた。
「あたしは絵を描くのが好きだった。だからここに来た時はずっとずっと描いてたの。」
そう言って名前は、器用に一つの絵を描き上げた。
「あ…魚だ。上手だね。」
半助はやっと名前の方へ体を向けて話し始めた。その様子に、名前は少し嬉しそうに返す。
「まあね。うちは漁師だったからよく見てたの。で、あんたは?何が好き?」
「わたしは…」
と下を向いて黙り込んだ半助は、自分が何をするのが好きなのか思い出しているようだった。あるいはあまり自分のことを客観的に考えたことがなく、考え直していたのかもしれない。
少し視線をさ迷わせた後、ハッとしたように顔を上げた半助は、勢い込んで話し出した。
「私、本を読むのが好き!お勉強するのが好きだった。」
「へえ!じゃ、書庫に行こ。あたしもここに来てから読むようになったんだ。」
名前はそう言って半助に手招きしながら、寺の裏手にある書庫へと歩き出した。
「この寺はね、たまにヒトヨタケ城の忍者が来て、私たちみたいな孤児を忍者にスカウトして行くの。ついこの間も、あたしに勉強教えてくれてた弥次郎が、忍者になるために出てったのよ!」
自分のことではないのに誇らしげに語る名前に、半助は相槌を打ちながら付いて行く。
「弥次郎がよく言ってたんだけど。将来食いっぱぐれないために、忍者になる勉強をしっかりしろって。だからあたし、いっぱい勉強して、立派な忍者になる!」
「わ、私も頑張ったら忍者になれるかな?」
名前のキラキラした顔に気押されながらもそう言った半助に、名前はさらに目を輝かせて返す。
「今から頑張れば、あたし程じゃないだろうけど優秀な忍者になれるかもね!だから、たくさん勉強しなくっちゃ!」
楽しそうに、名前が書庫の扉を開け、振り返ったところで、半助と名前はやっと目を合わせて笑いあった。
それから2人は、寺にある本を読み耽り、修験道の修行にも参加して鍛錬に励んだ。
*
半助は名前と一緒にいるときはそれなりに饒舌になった。
しかし結局他の子ども達と仲良くなれず、1人で孤立していることが多かった。その割に強情で負けず嫌いな性格だったためか、村の悪ガキたちに喧嘩をふっかけられ、その度、小さな体で抵抗する。
名前が半助を助けて怪我の手当てする、そういう光景が日常になっていた。
「半助、あんたいつになったらアイツらやっつけんのよ。」
「うるさいな。今日だって、名前が来なかったら、俺がアイツら返り討ちにしてたさ。」
「大きな口聞くんじゃないの!」
手当てした腕を軽く叩けば、半助は「痛っ」と言って名前を軽く睨みつける。
「姉貴ぶるなよ、同い年のくせに。」
「手のかかる弟がいると、大変で嫌んなっちゃう。」
嫌味に言った名前も、半助を軽く睨みつけていたが、手当のための布をまく手は緩めない。半助も大人しく怪我した腕を差し出したままだった。
この年頃の子どもは女の方が成長が早い。
名前も半助より体が大きく、強気な性格から半助を引っ張って行動することが多く、周りから2人は姉弟のように揶揄されていた。
半助はそれに対して反抗していたが、この擬似姉弟の関係には実のところ2人とも居心地の良さを覚えていた。
家族のいない子どもたちの集まる寺では、みんな家族のような感覚で過ごしている。
しかしそれぞれ自尊心が高く、やはりどこか個々が独立していて、自分の砦を作っている者は多分に居た。
その中で、年の近い2人はとりわけ親近感を持っていたのかもしれない。
半助は、この寺で暮らすようになって言葉遣いも荒くなったし、周りに遠慮がちだった"わきまえた子供の態度"をしなくなったように名前は思う。
それが良いことなのかどうかは分からないけれど。
忍者になるという共通の夢を胸に、山中を駆けた子ども時代はあっという間に過ぎ去り、半助と名前はヒトヨタケ城の忍者になった。
*
「行ってくる。名前、洗濯物の山に潰されて死なないようにな。」
「死ぬわけないでしょ!洗濯物くらい当たり前のようにやりますー!」
嫌味な言葉を向けてくるこの態度、いったい誰に似たのか。あの寺で育てばひねくれて育つのも当たり前かもしれない。断じて名前のせいではない。
イーッだと返して軽口を交わしていると、半助と一緒に行動する予定の先輩が横から声をかけてきた。
「簡単な忍務だが、なかなか気を抜けないからな。気合い入れていけ、半助。」
「先輩、うちの愚弟がお世話になります。」
「愚弟は余計だ。」
そうやっていつも通り「いってらっしゃい。」と半助の肩を叩いて送り出したのが、三週間前。
ここのところヒトヨタケが直面している戦は膠着状態にあり、先に相手の有益な情報を手に入れるか、強力な味方を付けた方が勝利するだろうという状況だった。
最近今まで以上に力をつけてきているタソガレドキ城。
「遠方ではあるが、味方に付けておけばこの先確実に有利になる」という参謀の言葉に従い、ヒトヨタケ城城主はタソガレドキと手を組むべく動いていた。
このままタソガレドキと手を組むことができれば、こちらの勝利は確実になる。
そんな中、2人が敵国の調査のためにヒトヨタケ領をでたのは、やっとこじつけた黄昏甚兵衛との会談のすぐ後であった。
「任務中、土井半助が矢を射られ、重傷だったため囮としての仕事を任せた。」
そう告げた先輩の辛そうな表情をまじまじと見返す。
理解が追いつかなかった。
「えっ…それは、まさか…」
声が震える。
今回の忍務は敵城の雑兵に潜り込み、あちらの戦況、備蓄を探るというものだった。
よくある忍務で、特に心配する必要もなかったはずなのに…
「相手方の情報は、すでに私からお頭に伝えた。今から土井半助の回収に向かう。」
回収という言葉を使った先輩は、「もしかすると生きて逃げているかもしれない」そういう淡い期待を口にはしなかった。
半助の遺体は見つからず、半助が逃げていたと思われる痕跡も崖から落ちた後は綺麗サッパリ消されていた。本人がしっかりと消してから逃げたのか、敵忍者に捕らえられ連れ去られたのか。
半助の行方は知れぬまま、忍者隊は捜索から手を引くことになった。
「帰るぞ」と告げる先輩の声を聞いて、穏やかな花畑がこんなにも絶望じみて見えたのは、後にも先にもあの時だけだった。
そして、半助の失踪後すぐヒトヨタケは今回の戦に敗れた。
どこから情報が漏れたのかわからないが、ヒトヨタケとタソガレドキの間で会談が行われたこと、その内容までもが露呈していたらしい。相手国はヒトヨタケ以上の条件を黄昏甚兵衛に持ちかけたようだった。
結果としてヒトヨタケとタソガレドキの同盟は不成立。
ヒトヨタケは怒涛のスピードで敗走することになった。
半助の遺体が見つからなかったことから「土井半助が敵に捕まった際に寝返ったのでは…」という声も聞かれたが、半助が相手国へ寝返ったのだとしても敵側の行動が早すぎる。
原因が半助の裏切りとは考えられなかったが、当の本人は未だ見つからず、確認を取るすべはない。
真相は解明されぬままだった。
その後ヒトヨタケ忍者隊は解体され、名前たちは職を失った。
名前は、生死も知れない弟のことが気にかかり、1人であっても探し出すことができればと考えたが、「負けたヒトヨタケ忍者が変な動きをするべきではない」と先輩に止められ、目立った動きをすることはできなかった。
それでも、育った寺を二、三度訪れた。
そこにも連絡は一切ない。
家のない名前には、この寺以外に頼るところはない。仕事がなければ生きることもできない。
一年を目処に寺を訪ねることをやめ、派遣忍者としての仕事に精を入れることにした。
名前の弟、半助は殉職したのだ。
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