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タタン、タタン、と一定のリズムで走る電車の入り口付近の手すりに身を預ける。見知らぬ人と肩がぶつかり合うほど混み合うこの時間この車輌に乗り始めて以来、毎朝足取りが重かったのだが、今日ばかりはそうではない。
その理由はと言えば、悔しいかな先日のリヴァイ課長との和解(というのかは分からないが)のおかげだろう。私とはもう関係のない人で特別な感情は全くないと強く思っていたのだが、先週とのこの気分の差。どうやら私が思っているよりも私はひどく単純なようだ。
まぁでも、恋愛は抜きにして昔から尊敬していた人物で今後も自分の上司となる人物だ。和解して気分が軽くなって当然だろう。そう、特別な感情ではなく人間として普通の感情だ。うん。
そんなことを考えながら出社したオリヴィアであったが、自分の席に着くなりアチコチから視線を感じた。
「・・・・・・?」
なんだろうと思いながらもペトラさんに先週はありがとうございましたと話しかけたらあからさまに驚いて声を裏返していたし、同期の男に関しては挨拶しても目も合わせずに挙動不審な動きをして去っていったくらいだった。
一体なんだというのだろうか。前世の経験から人の視線には敏感な方だが、それを抜きにしてもあからさまだった。視線を送ってきているのはもれなく若い人たち…つまり飲み会に参加した人たちである。
「あ」
………そういえば、飲み会の途中から記憶がないんだった…。リヴァイ課長の家にいたことですっかり忘れてた。記憶が抜けている間に何かとんでもないことをしでかしてしまったのだろうか…。
入社早々私は一体どんなことをやらかしてしまったのかと胃がキリキリと痛む中、未だ慣れない仕事を進めた。いつも優しく仕事を教えてくれるペトラさんも挙動不審だったせいで私の気分は更に下降していった。そして昼休みに入った瞬間、朝から視線を送ってきていた数人の女性先輩で取り囲まれた。
「あ、あの…」
「カーティスさん!!」
「は、はいっ!」
「お昼!行きましょ!!」
「……はい?」
私の疑問符付きのはいを了承と捉えたのであろう彼女たちは私の周囲をグルリと囲い、そのままあれよあれよという間に社員食堂に連れて行かれ、何故か昼食を奢ってもらい、食堂内の隅の隅、柱で周囲から死角になる席に連れられた。
粗相したことに対する叱責かと思っていたが、奢ってもらったし周囲の彼女たちはそんな様子ではない。先輩たちはみんな何故か異様にテンションが高く、小さくきゃあきゃあと興奮している。一体なんなんだろうかと思っていれば、そのうちの一人であるペトラさん(顔を真っ赤にして明らかに興奮状態だった)(巨人の話をするときのハンジ分隊長みたいだなぁと思ってしまったのも仕方がないと思う)にがっしりと肩を掴まれた。
「ど、どうだったの!?」
「…はい?」
ずいずいとペトラさんが顔を近づけながら問われた言葉は、どうにもオリヴィアには理解のできない大雑把な質問だった。思わず聞き返せば、ペトラさんはちょっと照れくさそうにして質問を重ねてきた。
「つまりその…ねぇ?やだ、言わせないでよっ!もうっ!!だからぁ、リヴァイ課長とさぁ…あの後、その……どっか行ったんでしょ?」
「なっ?!?!」
ペトラさんの口から出てきた人物名に目を丸くする。周囲の彼女たちはみなキラキラ…いや、ギラギラとした目でオリヴィアを見ている。
「な、なんで、それを、え???」
突然出てきたリヴァイの名にあからさまに動揺したオリヴィアは思わずそう答えてしまった。それを聞いた先輩たちは黄色い悲鳴をあげて三者三様の質問をオリヴィアに浴びせかけた。
「やっぱり!そうなのね?!そういうことなのね?!」
「いつの間に!?どうやってこんな短時間で落としたの!?しかも"あの"課長を!!」
「どこ行ったの?ホテル?それとも家?」
「あの人2人きりになるとどんな風なの?!」
「リヴァイ課長ってああ見えて鍛えてて筋肉ヤバいって聞いたんだけど本当??」
矢継ぎ早に繰り広げられる質問にオリヴィアは頭がクラクラしだす。彼女たちの中では私とリヴァイ課長が完全にアハンな関係になっている。
「いやいやいや!ちょ、ちょっと待ってください!何か誤解してますって!!別に私たちそんなんじゃないですし、この間だって送ってもらっただけで」
それらしい嘘を言って否定すると、彼女達は一度顔を見合わせてため息をついた。
「大丈夫、他の人に言ったりしてないし言わないから」
「そうよ、そんな下手くそな嘘つかなくてもいいのよ」
「あんな場面見ちゃったらもう誤魔化されても…ねぇ…」
キャーと再び熱を上げる彼女達を見て、オリヴィアは顔を青くした。
「ちょ、え、あ、あんな場面って何ですか!?!?」
「え?もしかして覚えてないの?」
「あなたを送ろうとしてる新人くんを押しのけてさぁ」
「オレの女に触るな!キリッ!」
「そんでお姫様抱っこでそのまま2人でいなくなったじゃない」
「なっ!?!?!?」
なんじゃそりゃーーーー!!!
大声で叫びたくなる衝動をすんでのところで抑え込み頭を抱えた。そんな事を社内の飲み会で言うだなんてあの人何考えてんの?!
その後もキラキラとした顔で質問攻めしてくる先輩達をどうにかやり過ごしたオリヴィアは、次に会ったら絶対に文句を言ってやろうと意気込んだのだった。
が、その機会はなかなか来なかった。
リヴァイは外出や他部署での業務が多いらしく、文句を言うどころか顔を見る機会もないまま約束の金曜日になった。
時たま向けられる生温い視線に心労は募る上、今週からは実際の業務が始まっていて初めてのことだらけで疲労はピークだった。月曜日の時点ではモリモリにあったリヴァイへの闘争心ももはや疲れてへなへなに萎えまくっていた。
そんなことよりも一刻も早く帰って美味しいものを食べて寝たい。
時刻は早くも終業30分前だがリヴァイ課長は未だに外出先から帰っていない。私の指導係のペトラさんはいつも終業10分前には終わるような作業を指示してくれていて定時が来たら早く帰るよう促してくれる。今日は定時がきたらダッシュで帰ろう。
そんな事を考えていた矢先、扉を開ける音と「お疲れ様です」の言葉が飛び交った。その声に振り返ると、分厚い資料を片手に持ったリヴァイ課長が戻ってきていた。
「っ」
げ、という言葉をギリギリのところで留めたオリヴィア。隣のパトラさんはキラキラした瞳でリヴァイ課長にお疲れ様です!と言っていた。オリヴィアも言わないわけにはいかないので小声で言えば、ニヤニヤと緩んだ視線を隣から感じた。やめてほしい、本当に。
リヴァイはというと部下たちに挨拶を返すとあちこちデスクを回り、ねぎらいの言葉をかけたり仕事の指示を出したりしていた。
オリヴィアはリヴァイの方に視線をやらないし、リヴァイもまたオリヴィアの方を見ない。それになぜかペトラさんがソワソワしているが、それでいいのよ。今日もペトラさんの指示した仕事は定時10分前に終わった。これを確認してもらってあとは片付けてソッコー帰る!!
「ペトラさん、確認よろしくお願いします」
「え?あぁ、はい、ありがとう。少し待ってね」
ペトラさんは緩んだ表情を引き締めて確認作業を始めた。
「うん、バッチリだよ、ありがとうね。じゃあ今日はもうこれで大丈夫だから、片付け始めていいよ。定時来たら帰ってオッケーだからね。今週もお疲れ様」
その言葉にホッと息を吐いた。しかし、直後背後からかけられた声にビクリと身体が揺れる。
「ペトラ、いいか」
その低い声は今デスクを回っていた男のものだ。ペトラさんの会話に集中していて意識から外れてしまっていた。いつの間にこんな近くにいたなんて。
「こないだの件、どうなってる?」
「昨日A社とB社から見積り届きました。ただどちらも少し予算オーバーなので交渉中で、また月曜に再度届く予定です」
「頼んだ」
まぁでも別に私に話しかけてきたわけじゃないし、2人とも忙しそうで仕事まだ終わらなさそうだし。とにかく私は片付けて帰る用意をしよう。うん。
「新人はどうだ?」
「指示したことはきちんと行ってくれるし、覚えもいいです。分からないことはその都度聞いてくれるのでスムーズに進んでますよ」
書類や筆記用具を整理してデスクを整える。そしてPC内のファイルをしっかり保存し整理する。
「ならいい。今日は俺ももう上がるが、何かあるか?」
「いえ、特に大丈夫だと思います。けど、珍しいですね。」
「たまにはな。なにかあれば電話は出れる。それと、」
さぁ、PCの電源を落として、あとは帰るだけ
「コイツももう上がって大丈夫だな?」
なんだけど、グイ、と腕を掴まれてしまった。
「っ!!!!!!」
「!!も、ももも、もちろんです!!」
「ならよかった。行くぞ」
「い、いやいやいや、まだ私、やることが…」
「あ?PCの電源落としといて何言ってる。いいから鞄待て。来い」
「いや、でも、ちょっ」
グダグダと言葉を放つオリヴィアを無視して、リヴァイは周囲に一言挨拶の言葉をかけて出た。オリヴィアの背中にはみんなの視線が痛いほど刺さった。
「ちょっと、リヴァイ課長っ!!」
荷物を持ちオフィスを後にした2人は、会社からすぐ近くの繁華街を歩いていた。リヴァイは未だにオリヴィアの手首を握ったままだ。
「もう、いいかげん離してくれません?」
「離したら逃げるつもりだろ」
「そんっ、な!こと………しませんよ」
図星を突かれてあからさまに目を泳がせたオリヴィアの表情を見て、リヴァイがフッと表情を緩めた。
「別に変なとこ連れ込んだりしねぇよ。ゆっくり飯食うだけだ。予定空けとけって言ってただろ」
「いやそれはそうですけど…ていうか、あんな出方したら目立つじゃないですか!」
「うるせえなあ、昼食えなかったから腹減ってんだよ。ほら、着いたぞ」
「いやでも食事なんて…って、え、こ、ここですかっ!?」
指さされた店の前にはまだ早い時間にもかかわらず既に並んでいる。真新しい装飾のその店は入ったことはないが見覚えがある。
「なんだ知ってんのか?」
「こないだテレビでやってました、超人気で予約取れない店だって。そんな、飛び込みじゃ無理ですよ」
「うるせぇなぁ…予約ならしてある。ほら、さっさと入れ」
「えっ!?う、嘘っ!え、え、え!?」
嘘でも見栄でもなんでもなく、しっかりと席は用意されていた。テレビで見たままの室内はブラウンを基調とした落ち着いた雰囲気でお洒落なBGMが流れていた。
まさかの展開にオリヴィアは先程までとは違いウキウキ心を躍らせていた。だってこの前のテレビめちゃめちゃ美味しそうだったんだもん。
前世に比べて今はご飯がめちゃめちゃ美味しい。おかげでオリヴィアは美味しいものに目がないのだ。
「何が好きだ?」
「なんでも食べますよ、私。わぁ、これ美味しそう。あぁでもこれも…うぅーん、どうしよ」
「なら、このコースにしてそれも追加すればいい」
「そんなに食べられるかなぁ」
「大丈夫だろ。食えない分は食ってやる」
「えぇーでも、うーーーん」
「なんだ、他のがいいか?」
「や、そういうわけじゃないんですけど……」
「遠慮してるならやめろよ。俺が誘ってるんだから、好きなもん好きなだけ食え」
「………それもそうか。じゃあ、このコースと、これで!飲み物は任せます」
食べ物に飢える苦しみは身にしみて感じたことがあるせいか、アレもコレもと贅沢するのは未だに抵抗がある。でも確かに、無理矢理誘われてついてきているのだから、今日くらいはまぁいいかと開き直ってみた。どうせなら美味しいものを好きなだけ食べさせてもらおう。
オリヴィアがリヴァイにそう告げると、満足そうな表情で頷きウェイターを呼んだ。
「ん〜っ!!!」
「うまいか?」
「はいっ!すっっっごく!!」
しばらくして運ばれてきた料理とお酒を口にすると、テレビで見て想像していた以上に美味しくて頬が緩む。食べ物はもちろん、お酒も普段行く居酒屋とは比べものにならないほど美味しい。ついついお酒が進み、気づいた時には視界がフワリフワリと揺れていた。
「私はっ!怒ってるんですよっ!!」
ドンと音を鳴らしながらテーブルにグラスを置く。そのオリヴィアは頬を真っ赤に染めて目が座っていた。リヴァイはそれを面白そうに見ていた。
「何がだ?」
「何がじゃないです!聞きましたからね!この前の飲み会!同期の子が送るって言ってたのに、彼にメンチ切って無理やり私を抱えて帰ったって…。しかも“こいつに手を出すな”とかなんとか言ったみたいじゃないですか!」
「ちげぇ、“俺の女に手を出すな”って言ったんだ」
「余計悪いじゃないですかっ!!!なんでそんなありえない嘘をつくんですか!?」
お酒が回りお腹も満たされてくると、オリヴィアは本来彼に会ったら言ってやろうと思っていたことを思い出した。それを口にしていたら腹を立てた感情まで思い出して、ついにはグチグチと絡みだしたのだった。
「ひでぇ言いようだな………いいか、あの時俺がああしてなかったらお前、あのクソガキにヤられてたぞ」
「は!?そ、そんなわけないじゃないですかっ!みんながみんなあなたと同じじゃありませんから!!」
「いいや、あれはヤる気だった。俺には分かる。大体お前いくら酒飲んだからってだらしねぇ顔しやがって……いいか、あんな顔を見せたら男は誰でもお前を抱きたくなる。二度と他の男の前であんな顔をするな」
予想もしなかったリヴァイの言葉に、オリヴィアは頭を抱える。この人、おかしな方向にめちゃめちゃ拗らせてる。
「…馬鹿じゃないんですか?大体、どうするんですか、噂になってますよ?先輩にアレコレ聞かれるは、変な視線感じるは、同期には避けられるはで大変なんですけど!?」
「そりゃよかった。虫よけになって都合がいい」
「なっ!?……ほんっと、自己中」
はぁー、と大きなため息をついてグラスをクイと傾ける。
「嘘の噂が嫌なら、本当のことにしちまえばいいだろ」
「はい?」
「なあオリヴィア、今の男と別れて俺の女になれ」
茶化すような口調でやりとりしていたのに、急にリヴァイの声色が変わった。それにつられて彼の顔を見れば、真剣な眼差しでこちらを見ていた。その真剣な表情に、先程までのように軽口を叩くことが出来なくなった。
「………リヴァイ課長は………………“昔”の私が好きなだけじゃないですか」
終始余裕そうな表情をしていたリヴァイの表情が歪み、不機嫌そうな声が出た。
「あぁ?」
「睨まないで下さいよ…!別に、仕方ないと思います。顔も、声も、記憶もそのまま持っている昔の恋人ですもんね。でも…今の私と昔の私は、やっぱり違う人間です」
「………」
「私は、確かに彼女の記憶を持って生まれましたし、その記憶にものすごく影響を受けています。でも、それでも今の私は、彼女とは違う人生を歩んできた人間で、性格も多少違います」
「あぁ………“多少”、な」
「そんな人間をですよ?まともに話すこともなく昔の記憶だけで判断して付き合おうっていうのはどうなのかなって…」
「確かに今のお前と昔のお前は違う。再開したばかりで知らねぇことばかりだ。だが、だからこそ今のお前をよく知るために付き合いたいんだろ」
ブルーグレーの瞳が、真剣な眼差しでオリヴィアを捉える。
「でも、私…」
「なんだ?」
だがオリヴィアはその視線を合わせることが出来ない。
「……無理、ですよ。だって……………か、彼氏いるし…」
「だから、そいつと別れて俺を選んでほしい」
「………ムリ」
「そいつとは別れたくないと…?」
「………………そう、です…」
シン…と、言葉が途切れる。ふーと長い息を吐くリヴァイの表情を見ることができずに俯いていたが、パン、と手を叩く音につられて顔をあげた。
「まぁいい、今断られたところで俺は諦めるつもりはない。だが無理強いするつもりはないし、お前の意思で俺を選んでもらえるよう努力しよう」
振られたというのにそうは見えない、清々しい表情で笑っているリヴァイにつられてオリヴィアも笑った。
あぁ、そういうところ、本当に……………
食事を済ませて店を出た後、すぐ隣にあるコーヒーショップでコーヒーを購入した。夜風にあたりながら暖かいコーヒーを飲むと、酔いが少し醒めてくる。
「おいオリヴィア、お前まだ時間大丈夫だろ?二軒目行くぞ」
「え?あぁ…まぁいいですけど―――って…ちょっと」
同じくコーヒーを片手に隣を歩くリヴァイに連れられて歩いて行くと、とある区画に近付いてきた。オリヴィアは自分の頬がピクピクと引き攣るのを感じた。
「………なんだ?」
「なんだじゃないですよっ!!何が二軒目ですか!!思いっきりホテル街じゃないですか!!」
リヴァイの言うままに着いてきたそこはピンクや赤のネオンが眩しい、ザ・ホテル街。
「チッ」
「チッじゃない!ホテル連れ込もうとすんな!!」
「いいだろ、抱かせろ。お前もヤレば気が変わるかもしれん」
「〜最低!!最っ低!!!!!」
オリヴィアは怒りに任せてリヴァイの脛を狙い蹴りをいれたが、何事もなさそうにヒラリと避けられた。それもめちゃめちゃ腹が立つ。
クルリと回れ右して、足速に駅へと向かうオリヴィアの後を今度はリヴァイが追ってきた。
「着いてこないで!変態!!」
「冗談だ、そんなに怒るな」
「そうは思えませんけど!?」
「……半分な」
「……………」
「おい、待て」
「着いてこないでっ!!!」
「そりゃ無理だ。酔ったオリヴィアに一人で夜道を歩かせるわけにはいかん」
「あなたといる方がよっぽど危険です!!」
そうは言ったがリヴァイはずっと離れてくれず、最寄り駅で一緒に降りて家まで送ると頑なに言っていた。こちらも頑なに拒否し続けていればタクシーを呼び止めお札を数枚押しつけられた。
「俺に送らせないならタクシーで帰れ。これならいいだろ」
「別にそこまでしなくても…そんなに遠くも暗い道でもないし歩いても大丈夫ですよ」
「駄目だ」
「はぁ…わかりましたよ。乗ればいいんでしょ乗れば」
オリヴィアがため息をつきながらタクシーに乗り込むと、リヴァイが最後に声を掛けてきた。
「おいオリヴィア、お前来週の金曜も予定空けておけよ」
「絶っ対!いやです!!!」
リヴァイの言葉にニコリと笑いながら答えたオリヴィア。
しかし、なぜかその後もなんだかんだと理由をつけて食事に連れていかれて(主に美味しい食事につられて)、いつの間にか毎週金曜にリヴァイと食事に行くことが恒例となっていたのだった。
その理由はと言えば、悔しいかな先日のリヴァイ課長との和解(というのかは分からないが)のおかげだろう。私とはもう関係のない人で特別な感情は全くないと強く思っていたのだが、先週とのこの気分の差。どうやら私が思っているよりも私はひどく単純なようだ。
まぁでも、恋愛は抜きにして昔から尊敬していた人物で今後も自分の上司となる人物だ。和解して気分が軽くなって当然だろう。そう、特別な感情ではなく人間として普通の感情だ。うん。
そんなことを考えながら出社したオリヴィアであったが、自分の席に着くなりアチコチから視線を感じた。
「・・・・・・?」
なんだろうと思いながらもペトラさんに先週はありがとうございましたと話しかけたらあからさまに驚いて声を裏返していたし、同期の男に関しては挨拶しても目も合わせずに挙動不審な動きをして去っていったくらいだった。
一体なんだというのだろうか。前世の経験から人の視線には敏感な方だが、それを抜きにしてもあからさまだった。視線を送ってきているのはもれなく若い人たち…つまり飲み会に参加した人たちである。
「あ」
………そういえば、飲み会の途中から記憶がないんだった…。リヴァイ課長の家にいたことですっかり忘れてた。記憶が抜けている間に何かとんでもないことをしでかしてしまったのだろうか…。
入社早々私は一体どんなことをやらかしてしまったのかと胃がキリキリと痛む中、未だ慣れない仕事を進めた。いつも優しく仕事を教えてくれるペトラさんも挙動不審だったせいで私の気分は更に下降していった。そして昼休みに入った瞬間、朝から視線を送ってきていた数人の女性先輩で取り囲まれた。
「あ、あの…」
「カーティスさん!!」
「は、はいっ!」
「お昼!行きましょ!!」
「……はい?」
私の疑問符付きのはいを了承と捉えたのであろう彼女たちは私の周囲をグルリと囲い、そのままあれよあれよという間に社員食堂に連れて行かれ、何故か昼食を奢ってもらい、食堂内の隅の隅、柱で周囲から死角になる席に連れられた。
粗相したことに対する叱責かと思っていたが、奢ってもらったし周囲の彼女たちはそんな様子ではない。先輩たちはみんな何故か異様にテンションが高く、小さくきゃあきゃあと興奮している。一体なんなんだろうかと思っていれば、そのうちの一人であるペトラさん(顔を真っ赤にして明らかに興奮状態だった)(巨人の話をするときのハンジ分隊長みたいだなぁと思ってしまったのも仕方がないと思う)にがっしりと肩を掴まれた。
「ど、どうだったの!?」
「…はい?」
ずいずいとペトラさんが顔を近づけながら問われた言葉は、どうにもオリヴィアには理解のできない大雑把な質問だった。思わず聞き返せば、ペトラさんはちょっと照れくさそうにして質問を重ねてきた。
「つまりその…ねぇ?やだ、言わせないでよっ!もうっ!!だからぁ、リヴァイ課長とさぁ…あの後、その……どっか行ったんでしょ?」
「なっ?!?!」
ペトラさんの口から出てきた人物名に目を丸くする。周囲の彼女たちはみなキラキラ…いや、ギラギラとした目でオリヴィアを見ている。
「な、なんで、それを、え???」
突然出てきたリヴァイの名にあからさまに動揺したオリヴィアは思わずそう答えてしまった。それを聞いた先輩たちは黄色い悲鳴をあげて三者三様の質問をオリヴィアに浴びせかけた。
「やっぱり!そうなのね?!そういうことなのね?!」
「いつの間に!?どうやってこんな短時間で落としたの!?しかも"あの"課長を!!」
「どこ行ったの?ホテル?それとも家?」
「あの人2人きりになるとどんな風なの?!」
「リヴァイ課長ってああ見えて鍛えてて筋肉ヤバいって聞いたんだけど本当??」
矢継ぎ早に繰り広げられる質問にオリヴィアは頭がクラクラしだす。彼女たちの中では私とリヴァイ課長が完全にアハンな関係になっている。
「いやいやいや!ちょ、ちょっと待ってください!何か誤解してますって!!別に私たちそんなんじゃないですし、この間だって送ってもらっただけで」
それらしい嘘を言って否定すると、彼女達は一度顔を見合わせてため息をついた。
「大丈夫、他の人に言ったりしてないし言わないから」
「そうよ、そんな下手くそな嘘つかなくてもいいのよ」
「あんな場面見ちゃったらもう誤魔化されても…ねぇ…」
キャーと再び熱を上げる彼女達を見て、オリヴィアは顔を青くした。
「ちょ、え、あ、あんな場面って何ですか!?!?」
「え?もしかして覚えてないの?」
「あなたを送ろうとしてる新人くんを押しのけてさぁ」
「オレの女に触るな!キリッ!」
「そんでお姫様抱っこでそのまま2人でいなくなったじゃない」
「なっ!?!?!?」
なんじゃそりゃーーーー!!!
大声で叫びたくなる衝動をすんでのところで抑え込み頭を抱えた。そんな事を社内の飲み会で言うだなんてあの人何考えてんの?!
その後もキラキラとした顔で質問攻めしてくる先輩達をどうにかやり過ごしたオリヴィアは、次に会ったら絶対に文句を言ってやろうと意気込んだのだった。
が、その機会はなかなか来なかった。
リヴァイは外出や他部署での業務が多いらしく、文句を言うどころか顔を見る機会もないまま約束の金曜日になった。
時たま向けられる生温い視線に心労は募る上、今週からは実際の業務が始まっていて初めてのことだらけで疲労はピークだった。月曜日の時点ではモリモリにあったリヴァイへの闘争心ももはや疲れてへなへなに萎えまくっていた。
そんなことよりも一刻も早く帰って美味しいものを食べて寝たい。
時刻は早くも終業30分前だがリヴァイ課長は未だに外出先から帰っていない。私の指導係のペトラさんはいつも終業10分前には終わるような作業を指示してくれていて定時が来たら早く帰るよう促してくれる。今日は定時がきたらダッシュで帰ろう。
そんな事を考えていた矢先、扉を開ける音と「お疲れ様です」の言葉が飛び交った。その声に振り返ると、分厚い資料を片手に持ったリヴァイ課長が戻ってきていた。
「っ」
げ、という言葉をギリギリのところで留めたオリヴィア。隣のパトラさんはキラキラした瞳でリヴァイ課長にお疲れ様です!と言っていた。オリヴィアも言わないわけにはいかないので小声で言えば、ニヤニヤと緩んだ視線を隣から感じた。やめてほしい、本当に。
リヴァイはというと部下たちに挨拶を返すとあちこちデスクを回り、ねぎらいの言葉をかけたり仕事の指示を出したりしていた。
オリヴィアはリヴァイの方に視線をやらないし、リヴァイもまたオリヴィアの方を見ない。それになぜかペトラさんがソワソワしているが、それでいいのよ。今日もペトラさんの指示した仕事は定時10分前に終わった。これを確認してもらってあとは片付けてソッコー帰る!!
「ペトラさん、確認よろしくお願いします」
「え?あぁ、はい、ありがとう。少し待ってね」
ペトラさんは緩んだ表情を引き締めて確認作業を始めた。
「うん、バッチリだよ、ありがとうね。じゃあ今日はもうこれで大丈夫だから、片付け始めていいよ。定時来たら帰ってオッケーだからね。今週もお疲れ様」
その言葉にホッと息を吐いた。しかし、直後背後からかけられた声にビクリと身体が揺れる。
「ペトラ、いいか」
その低い声は今デスクを回っていた男のものだ。ペトラさんの会話に集中していて意識から外れてしまっていた。いつの間にこんな近くにいたなんて。
「こないだの件、どうなってる?」
「昨日A社とB社から見積り届きました。ただどちらも少し予算オーバーなので交渉中で、また月曜に再度届く予定です」
「頼んだ」
まぁでも別に私に話しかけてきたわけじゃないし、2人とも忙しそうで仕事まだ終わらなさそうだし。とにかく私は片付けて帰る用意をしよう。うん。
「新人はどうだ?」
「指示したことはきちんと行ってくれるし、覚えもいいです。分からないことはその都度聞いてくれるのでスムーズに進んでますよ」
書類や筆記用具を整理してデスクを整える。そしてPC内のファイルをしっかり保存し整理する。
「ならいい。今日は俺ももう上がるが、何かあるか?」
「いえ、特に大丈夫だと思います。けど、珍しいですね。」
「たまにはな。なにかあれば電話は出れる。それと、」
さぁ、PCの電源を落として、あとは帰るだけ
「コイツももう上がって大丈夫だな?」
なんだけど、グイ、と腕を掴まれてしまった。
「っ!!!!!!」
「!!も、ももも、もちろんです!!」
「ならよかった。行くぞ」
「い、いやいやいや、まだ私、やることが…」
「あ?PCの電源落としといて何言ってる。いいから鞄待て。来い」
「いや、でも、ちょっ」
グダグダと言葉を放つオリヴィアを無視して、リヴァイは周囲に一言挨拶の言葉をかけて出た。オリヴィアの背中にはみんなの視線が痛いほど刺さった。
「ちょっと、リヴァイ課長っ!!」
荷物を持ちオフィスを後にした2人は、会社からすぐ近くの繁華街を歩いていた。リヴァイは未だにオリヴィアの手首を握ったままだ。
「もう、いいかげん離してくれません?」
「離したら逃げるつもりだろ」
「そんっ、な!こと………しませんよ」
図星を突かれてあからさまに目を泳がせたオリヴィアの表情を見て、リヴァイがフッと表情を緩めた。
「別に変なとこ連れ込んだりしねぇよ。ゆっくり飯食うだけだ。予定空けとけって言ってただろ」
「いやそれはそうですけど…ていうか、あんな出方したら目立つじゃないですか!」
「うるせえなあ、昼食えなかったから腹減ってんだよ。ほら、着いたぞ」
「いやでも食事なんて…って、え、こ、ここですかっ!?」
指さされた店の前にはまだ早い時間にもかかわらず既に並んでいる。真新しい装飾のその店は入ったことはないが見覚えがある。
「なんだ知ってんのか?」
「こないだテレビでやってました、超人気で予約取れない店だって。そんな、飛び込みじゃ無理ですよ」
「うるせぇなぁ…予約ならしてある。ほら、さっさと入れ」
「えっ!?う、嘘っ!え、え、え!?」
嘘でも見栄でもなんでもなく、しっかりと席は用意されていた。テレビで見たままの室内はブラウンを基調とした落ち着いた雰囲気でお洒落なBGMが流れていた。
まさかの展開にオリヴィアは先程までとは違いウキウキ心を躍らせていた。だってこの前のテレビめちゃめちゃ美味しそうだったんだもん。
前世に比べて今はご飯がめちゃめちゃ美味しい。おかげでオリヴィアは美味しいものに目がないのだ。
「何が好きだ?」
「なんでも食べますよ、私。わぁ、これ美味しそう。あぁでもこれも…うぅーん、どうしよ」
「なら、このコースにしてそれも追加すればいい」
「そんなに食べられるかなぁ」
「大丈夫だろ。食えない分は食ってやる」
「えぇーでも、うーーーん」
「なんだ、他のがいいか?」
「や、そういうわけじゃないんですけど……」
「遠慮してるならやめろよ。俺が誘ってるんだから、好きなもん好きなだけ食え」
「………それもそうか。じゃあ、このコースと、これで!飲み物は任せます」
食べ物に飢える苦しみは身にしみて感じたことがあるせいか、アレもコレもと贅沢するのは未だに抵抗がある。でも確かに、無理矢理誘われてついてきているのだから、今日くらいはまぁいいかと開き直ってみた。どうせなら美味しいものを好きなだけ食べさせてもらおう。
オリヴィアがリヴァイにそう告げると、満足そうな表情で頷きウェイターを呼んだ。
「ん〜っ!!!」
「うまいか?」
「はいっ!すっっっごく!!」
しばらくして運ばれてきた料理とお酒を口にすると、テレビで見て想像していた以上に美味しくて頬が緩む。食べ物はもちろん、お酒も普段行く居酒屋とは比べものにならないほど美味しい。ついついお酒が進み、気づいた時には視界がフワリフワリと揺れていた。
「私はっ!怒ってるんですよっ!!」
ドンと音を鳴らしながらテーブルにグラスを置く。そのオリヴィアは頬を真っ赤に染めて目が座っていた。リヴァイはそれを面白そうに見ていた。
「何がだ?」
「何がじゃないです!聞きましたからね!この前の飲み会!同期の子が送るって言ってたのに、彼にメンチ切って無理やり私を抱えて帰ったって…。しかも“こいつに手を出すな”とかなんとか言ったみたいじゃないですか!」
「ちげぇ、“俺の女に手を出すな”って言ったんだ」
「余計悪いじゃないですかっ!!!なんでそんなありえない嘘をつくんですか!?」
お酒が回りお腹も満たされてくると、オリヴィアは本来彼に会ったら言ってやろうと思っていたことを思い出した。それを口にしていたら腹を立てた感情まで思い出して、ついにはグチグチと絡みだしたのだった。
「ひでぇ言いようだな………いいか、あの時俺がああしてなかったらお前、あのクソガキにヤられてたぞ」
「は!?そ、そんなわけないじゃないですかっ!みんながみんなあなたと同じじゃありませんから!!」
「いいや、あれはヤる気だった。俺には分かる。大体お前いくら酒飲んだからってだらしねぇ顔しやがって……いいか、あんな顔を見せたら男は誰でもお前を抱きたくなる。二度と他の男の前であんな顔をするな」
予想もしなかったリヴァイの言葉に、オリヴィアは頭を抱える。この人、おかしな方向にめちゃめちゃ拗らせてる。
「…馬鹿じゃないんですか?大体、どうするんですか、噂になってますよ?先輩にアレコレ聞かれるは、変な視線感じるは、同期には避けられるはで大変なんですけど!?」
「そりゃよかった。虫よけになって都合がいい」
「なっ!?……ほんっと、自己中」
はぁー、と大きなため息をついてグラスをクイと傾ける。
「嘘の噂が嫌なら、本当のことにしちまえばいいだろ」
「はい?」
「なあオリヴィア、今の男と別れて俺の女になれ」
茶化すような口調でやりとりしていたのに、急にリヴァイの声色が変わった。それにつられて彼の顔を見れば、真剣な眼差しでこちらを見ていた。その真剣な表情に、先程までのように軽口を叩くことが出来なくなった。
「………リヴァイ課長は………………“昔”の私が好きなだけじゃないですか」
終始余裕そうな表情をしていたリヴァイの表情が歪み、不機嫌そうな声が出た。
「あぁ?」
「睨まないで下さいよ…!別に、仕方ないと思います。顔も、声も、記憶もそのまま持っている昔の恋人ですもんね。でも…今の私と昔の私は、やっぱり違う人間です」
「………」
「私は、確かに彼女の記憶を持って生まれましたし、その記憶にものすごく影響を受けています。でも、それでも今の私は、彼女とは違う人生を歩んできた人間で、性格も多少違います」
「あぁ………“多少”、な」
「そんな人間をですよ?まともに話すこともなく昔の記憶だけで判断して付き合おうっていうのはどうなのかなって…」
「確かに今のお前と昔のお前は違う。再開したばかりで知らねぇことばかりだ。だが、だからこそ今のお前をよく知るために付き合いたいんだろ」
ブルーグレーの瞳が、真剣な眼差しでオリヴィアを捉える。
「でも、私…」
「なんだ?」
だがオリヴィアはその視線を合わせることが出来ない。
「……無理、ですよ。だって……………か、彼氏いるし…」
「だから、そいつと別れて俺を選んでほしい」
「………ムリ」
「そいつとは別れたくないと…?」
「………………そう、です…」
シン…と、言葉が途切れる。ふーと長い息を吐くリヴァイの表情を見ることができずに俯いていたが、パン、と手を叩く音につられて顔をあげた。
「まぁいい、今断られたところで俺は諦めるつもりはない。だが無理強いするつもりはないし、お前の意思で俺を選んでもらえるよう努力しよう」
振られたというのにそうは見えない、清々しい表情で笑っているリヴァイにつられてオリヴィアも笑った。
あぁ、そういうところ、本当に……………
食事を済ませて店を出た後、すぐ隣にあるコーヒーショップでコーヒーを購入した。夜風にあたりながら暖かいコーヒーを飲むと、酔いが少し醒めてくる。
「おいオリヴィア、お前まだ時間大丈夫だろ?二軒目行くぞ」
「え?あぁ…まぁいいですけど―――って…ちょっと」
同じくコーヒーを片手に隣を歩くリヴァイに連れられて歩いて行くと、とある区画に近付いてきた。オリヴィアは自分の頬がピクピクと引き攣るのを感じた。
「………なんだ?」
「なんだじゃないですよっ!!何が二軒目ですか!!思いっきりホテル街じゃないですか!!」
リヴァイの言うままに着いてきたそこはピンクや赤のネオンが眩しい、ザ・ホテル街。
「チッ」
「チッじゃない!ホテル連れ込もうとすんな!!」
「いいだろ、抱かせろ。お前もヤレば気が変わるかもしれん」
「〜最低!!最っ低!!!!!」
オリヴィアは怒りに任せてリヴァイの脛を狙い蹴りをいれたが、何事もなさそうにヒラリと避けられた。それもめちゃめちゃ腹が立つ。
クルリと回れ右して、足速に駅へと向かうオリヴィアの後を今度はリヴァイが追ってきた。
「着いてこないで!変態!!」
「冗談だ、そんなに怒るな」
「そうは思えませんけど!?」
「……半分な」
「……………」
「おい、待て」
「着いてこないでっ!!!」
「そりゃ無理だ。酔ったオリヴィアに一人で夜道を歩かせるわけにはいかん」
「あなたといる方がよっぽど危険です!!」
そうは言ったがリヴァイはずっと離れてくれず、最寄り駅で一緒に降りて家まで送ると頑なに言っていた。こちらも頑なに拒否し続けていればタクシーを呼び止めお札を数枚押しつけられた。
「俺に送らせないならタクシーで帰れ。これならいいだろ」
「別にそこまでしなくても…そんなに遠くも暗い道でもないし歩いても大丈夫ですよ」
「駄目だ」
「はぁ…わかりましたよ。乗ればいいんでしょ乗れば」
オリヴィアがため息をつきながらタクシーに乗り込むと、リヴァイが最後に声を掛けてきた。
「おいオリヴィア、お前来週の金曜も予定空けておけよ」
「絶っ対!いやです!!!」
リヴァイの言葉にニコリと笑いながら答えたオリヴィア。
しかし、なぜかその後もなんだかんだと理由をつけて食事に連れていかれて(主に美味しい食事につられて)、いつの間にか毎週金曜にリヴァイと食事に行くことが恒例となっていたのだった。