mha短編
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「ねーねー、バクゴーって童貞だよね?」
「ァア゛??舐めてんのか殺すぞゴラ」
深夜。喉の渇きに目を覚まし寮のキッチンに降りた俺は、たまたま居合わせたクラスメイトにそうドストレートに聞かれて流れるように罵倒した。
いつだって俺がキレることには正当性があるが、今のは正当性以外の何物でもねェ。大して話した事もねェ異性のクラスメイトに、夜中出会い頭に聞くような内容では無い。しかも「だよね?」ってナンだよ。ほぼ自分の中で断定してるじゃねェか、クソが。
細腕で女子っぽい容姿で喋り方もボケッとしていかにも馬鹿っぽいこの女、花咲さくらは、見た目に反してパワー系の個性を持っていて、単純な腕力では俺よりも上という癪に触る女だ。しかも身体能力も中々高く、入学して間もない頃訓練でコイツに投げ飛ばされたことは今でもたまに夢に見るほど腹が立つ。まぁ当然、それ以降の訓練ではバッチリ投げ返してやっているのだが。
ちなみに俺は童貞ではない。中2でバッチリ卒業済である。しかし女は俺の反応を照れ隠しの逆ギレだと思ったようだった。
「そォだよね、童貞だよねぇ。こんなキレてばっかの爆豪が女の子とエッチ出来るわけないよねぇ」
「寝ぼけてんのかゴリラビッチ。さっさと部屋戻ってオネンネしとけや」
「ビッチじゃないってぇ。実は私も処女なんだけどさぁ」
「お、」
なんだコイツ、まじで何を言い出すんだ、と思わず声が詰まり目を丸くした。コイツが雄英に入ってから何人か男がいたことは、黒目や透明女たちが教室でデケェ声で話してたから知っている。クラスメイトでそういう話題は唯一だった為か峰田も興奮しててキモかった。
セックスしたいお年頃の男と複数回付き合っていて、ソレなのに処女とは一体どういう事か。そんなことありえんのか?つーかエッチとか言うなや。
「爆豪ってさぁ……性欲、ある?」
「………………は?」
「やっぱり……無いんでしょ!潔癖そうだもんね!」
馬鹿かこいつ。あるに決まってんだろ。ありありだわ、男子高校生舐めんな。しかし、そう言ってやるのはあまりにも癪で言葉を噤めば、やはりまたも勘違いしたようだ。
しかしコイツ、酷すぎる。馬鹿っぽい女という認識を改めよう、コイツは馬鹿だ。しかも頭に超が着く。
「実はね、私も性欲が全然無いの。知らないと思うけど、私雄英入ってから何度か普通科とかの男の子と付き合った事もあるんだけど、その」
「オイ、テメェのくだらねぇお喋りに付き合う気はねェぞ。俺ァ寝る」
「ええ〜、そんな事言わないで。こんな事みんなには相談出来ないよぉ。性欲無い同士じゃん、おねが〜い」
「知るか」
爆豪がドン引きしている事など全く意に介さない様子で口を開く花咲。長々と喋り出しそうな雰囲気を察して、爆豪は会話を切り上げその場から去ろうとする。女は未だに諦め切れないようで懇願してくるが、やがて諦めたようにため息をついた。
「えぇーもぉ、いいよ。じゃあ他の性欲なさそうな…………緑谷か轟に相談してみるもん」
「ァア゛!?ザッケンナ!!ほんっっっきでアホだなテメェは!!なんでアイツらなんだよ!!デクはぜってぇムッツリだし、舐めプヤローだってあぁいうのが1番エロいんだよ!!」
「えぇ!?嘘ッ!そぉなの?」
「当たりまえだろ!!!!」
顔に手を当てて「信じられな〜い」と言っている花咲に、自分の顔がピクピクと歪んでいくのが分かる。マジかコイツ。本気で言ってんのか?そんな事も分かんねェのか?分かんねぇんだろぉな、だから俺にこんなアホな事言えるんだもんな。マジで引く。
なんでよりによってデクと舐めプ野郎なんだ、ソレなら俺のが全然マシだわ。当たり前だろうが。
「えぇ〜、じゃあやっぱり爆豪に相談するしかないよぉ。ねぇ聞いてよ、お願〜い」
「チッ…………手短に話せよ。ねみぃんだわ」
「わっ!ありがとーバクゴー!
えーっと、付き合った人ね。そんなに好きとかじゃなかったんだけど、告白してくれたし、なんかいいかなって感じで付き合った人が3人いるの。
けど付き合ってたらやっぱりソウイウコトする流れになるじゃん?でも私全然そういう気分にならなくて、それで、その…思わず私…」
「個性発動して、ゴリラ具合にドン引かれて、別れ話とかか?」
「えっ!スゴイ!なんで分かるの爆豪!?」
適当に予想してやれば的中したようで、目を丸くして大きな声を上げる女。呆れるほど馬鹿だ。
「分かりやすすぎるわ。そもそも普段から感情が昂ると直ぐに個性出てんだろ。もっとコントロール訓練しろや」
「わっ!それ相澤先生にいつも言われる!!」
「ヤバーい爆豪エスパー?」と言っているお前の頭のほうがやばい。大体お前と俺は同じクラスで、事件の8割は授業中や教室内、寮内で起こっているのだから、当然把握している。
セクハラしてくる峰田の頭を思わずカチ割りかけたのも、素手で女子全員を一度に抱き上げたのも、砂藤と腕相撲が互角だったことも、寮の共有スペースで寝ていたのを起こそうとした上鳴に驚きガラスを破り庭まで突き飛ばしたことも、当然把握している。
なんせコイツの起こす騒動はうるせぇんだ。その場に居合わせれば嫌でも聞こえてくる。
「なんで皆はソウイウ気分になるのに、私はならないんだろ…。やっぱり、運命の人じゃないとソウイウ気分にならないのかなぁ?」
「んなのいるわきゃねェだろ、小学生かよ」
「んもぉっ!そんな言い方しないでよ!じゃあ私はどうしたらいいの?一生このままなの?」
花咲は生意気にも俺を睨み付けてきやがった。こんな夜中に、乗りたくもねェ相談に乗ってやっているというのに。マジで疲れた。どうしたらいいとか、知らねェよ。そもそも俺は水を飲みに来ただけなのに。
しかしここまで振り回されていると、心の中に小さな悪戯心が芽生えた。コイツがどこまでアホなのか、試してみてやろう。
「じゃあ試してみっか?」
「ためす?」
「ほんとにソウイウ気分にならねぇか、俺と」
「…………爆豪と?」
「あぁ、お前の言うとおり俺もソウイウ気分になったことねぇんだ。けど、いざという時、それじゃ男として格好悪ぃだろ」
「そうなの?」
「そういうもんだ」
もちろん嘘だった。100%嘘だ。ソウイウ場面ではめちゃめちゃソウイウ気分になる。しかしソレを言ってしまえばこの話は即おしまいだし、コイツは少しくらい痛い目を見て男を学ぶべきだ。本当にする気はないし、ちょっとからかうくらいなら許されるだろう。
しかしまぁ、流石の大馬鹿女であろうとも、こんな事を受け入れるとは到底思えないが……
「うぅーん、じゃあ、やってみよう、かな?」
大馬鹿女が。コイツ、チョロすぎるだろ。さっき付き合ったきっかけもなんか告白されたからって適当に付き合った感じだし、押しに弱すぎる。よくそれで処女でいられたもんだ。いや、ゴリラ女だからか。親に感謝しやがれ。
「でも、どうやって?」
「まぁ、まずはキスじゃねェの?」
「え、きす……?」
「そらそうだろ」
「でも、キスでソウイウ気分にならないでしょ?私、キスは何回もしたことあるから、自信あるよ!」
「オマ…………まぁ、やってみようぜ」
何故か自慢げに胸を張る女に、ため息が出そうになる。キスでソウイウ気分にならねぇで、いつソウイウ気分になるんだよ。
まぁいい、それはもう本気でどうでもいい。ほんの少しからかって困らせて、男に妙な事を言うなと言ってやって、そして寝る。
そう、手を伸ばした時だ。
「んー、分かった。でも爆豪したことないよね?私からするね?」
「は?おい、ちょ」
女の方からガッツリと肩を掴まれ、どんどん顔が近付いてくる。生意気すぎるし本当にする気もないので、引き剥がしてやろうと思ったのに、どうにも手が退けられない。コイツ、個性使ってやがる。アホか、アホなのか。こんな時に個性使うなよ。普段から迷いが少ない行動が良くも悪くも目立っていたが、今は完全に悪い方だろ。アホかよ。
どうにか抵抗しているがマジでこの女馬鹿力すぎる。そのうちに肩を掴まれたままドン、と壁に身体を押し付けられた。逃げ場を無くした俺に背伸びをした花咲の顔がどんどん近付いてきて、石鹸の香りが鼻腔を刺激した、その瞬間
ちゅ、ちゅ、と唇が触れた。
触れるだけのキスを2回重ねた後、顔を離した女は俺の肩を掴んだまま笑いかけてきやがった。ナメてんのか、馬鹿にしてんのか。自分より小せぇ女からのキスを避けられず無様に受け入れることしかできなかったこの俺を。
「ふふふっ」
「んだよコラ。馬鹿にしてんのか?」
イライラを隠す事なく不機嫌そうに言えば、花咲は更にヘラリと笑った。ほんのり頬が桜色に染まっていた。
「ちがうよぉ。爆豪とちゅうしちゃったなって……へへ、ちょっと照れるね」
「カッ」
かわいい
そう出かけた声を、気合いで押し止めた。なんせ今は恋人同士のそういう時ではないし、何より自分のキャラじゃない。は??いやいやいや、落ち着け。つーかなんだよ、そもそもこんな女可愛くねェわ。アホか俺は。は???
しかし、一度思ってしまうと思考は止まらなくなる。元々面は良いと思っていたが、ちょっと恥ずかしそうに微笑む顔はヤバい。あれ、コイツ元々こんな可愛かったか?なんかすげぇ可愛くねぇか?いやいや落ち着け、違う、可愛くない。いや、顔は可愛いが。いや、違う。そうじゃない。
落ち着けや、いっぺんキスしたからって可愛いとか。童貞か俺は。
「ね?キスって大したこと無いでしょ?」
「あ?まぁ……そォだな。あと、お前のしたことあるのって、ナニ?」
「え?えっと…胸、は触られたことあるけど……でも、全然よくなくて……そしたらそんなの変だって先輩に言われて、つい…………殴っちゃった」
「は?なんだそいつ、殴って正解だろそんなゴミクズ野郎」
「そ、そぉなのかな?」
「そォだわ。ゴミだからな、捨てて正解だ」
反吐が出る野郎だな、と言い捨ててやれば、女はポカンと目と口を開けたまま驚いていた。
「ふふ、ありがと。爆豪って意外といい奴だったんだね」
「意外とってなんだよ」
少し困ったように笑う顔も、可愛い。認めるしかねぇ、可愛い。
もう一度キスしたい。どうせならファーストキスをもらいたかったが、今更仕方のない事だ。それに大した事ないキスしかした事がないなら、もっと気持ちいいキスを教えてやりたい。快感を感じたことがないというこの女がそれを感じた時、どんな顔を見せるのか……知りたい。
「ディープキスはしたことあんのか」
「でぃーぷ?」
「ベロとベロ合わせるキス」
「べろ!?」
「ねェんかよ」
答えを聞かずとも分かる。この反応は無い。
マジか。絶対ェヤルことヤッてると思ってたのに思っていた以上に何も知らない女に、思わず喉が鳴る。
ヤベェちんこ勃ってきた。キスしたい。胸を揉みたいし、セックスもしたい。自分の中の汚ねぇ欲望がドンドン膨らんでいくのが分かる。駄目だヤバい、もう部屋に戻った方がいい。適当に会話を切り上げて、部屋でシコりゃいい。オカズにするくらいなら許されるだろう。
「うん、無い……あ、待って、そういえば、ベロ入れられた。でも、気持ち悪くて……それで……」
「殴ったんか」
「ちがうよ!ちょっと離れてほしくて押したら、飛んでっちゃっただけ!」
「ふーん」
もう辞めなければと思っていたのに、女の言葉にドス黒い感情が湧いてくる。なんだコリャ。分かんねぇが、腹が立つ。もういい、キスはもうしちまったんだ。もう1度するくらい、大した違いはねェだろう。ちょっと舌は入れるが、大した違いは……ねェだろう。
「じゃあ、次はディープキスするぞ。押したり殴ったりすんなよ」
「う、き、気をつける……。でも、上手にできるかな……やったことないからな……」
「いい。今度は俺からする」
「え?でも、爆豪したことないでしょ?」
「お前もしたことないなら、どっちがしても同じだろ。それに、いざという時スルのは男からだから、俺もやっておきたい」
「そっか、そぉだね。…………じゃあ、私は……どうしたらいいの?」
「別に。余計な事考えずに、キスに集中しとけ。なんかあればその都度言うから、言う通りにしろ。したくなくなったら口で言え、個性は使うなよ」
「わ、わかった」
「じゃあ、スルぞ」
女が小さく頷いたのを確認してからグルン、と体勢を入れ替えて今度は女を壁際に寄せてやる。やられた事はやり返してやらねェと気が済まないんだ、俺は。
スルリ、と頰に触れる。柔らかな肌は自分とは違う、女のものだ。自分よりチビだとは思ってはいたが、近付くと思っていたよりも更にチビだし、顔も俺の両手で覆い隠せそうなほどの大きさだ。一捻りすればどうとでも出来てしまいそうな錯覚に陥りそうだが、実際はゴリラ並みのパワーなのでそうはいかねぇ。
童貞では無いと言っても、入学以来そういったことを気にかける暇は全くなかったので女の肌に触れるのは随分久しぶりだ。その感触が心地よくて何度か繰り返し撫でていると、何故か顔がどんどんと俯いていく。
コイツほんとに馬鹿だな、それじゃキス出来ねェだろ。両手で顔を包み込んで自分の方に向ければ、先程までと違い頬を真っ赤に染め上げ眉尻を下げた表情が見えて、グッと喉が渇くような妙な感覚が襲う。
はあ?なんだその顔。彼女の見せる表情は、女が「ソウイウ気分」になった時に見せるものとよく似ていて、爆豪は自分の下腹に熱が集まるのを感じた。堪らなくなり、爆豪は彼女の唇に自分のソレをそっと重ねた。
何度か角度を変えながら触れるだけのキスを重ねた後、はむはむと啄む様にして柔らかな唇を喰む。そうしていると、女は閉じた瞼をギューっと硬くし身体をどんどん強張らせていく。勿論唇も硬く閉ざしていて全然気持ちよくねェ。まだ舌も入れてねェのに力みすぎだろ、ヘッタクソだなコイツ。
「んッ!?!?」
力んで硬い唇に舌を這わせると、女は驚いたように瞼を上げて目を丸く開いた。なんだその面、ディープキスするって言っとったろォが。そのまま何度か彼女の唇に舌を這わせるが、ガチガチに固まった唇には簡単には舌を入れる事は出来ない。無理矢理捩じ込むことも出来るが、コイツに噛まれたら舌が無くなるかもしれねぇ。ソレは流石に勘弁なので、一旦唇を離した。
「おい、力入りすぎ。口開けろや」
「へ、ぁ……え……?」
「舌入れらんねぇだろ。ほら、あー」
「……ぁー?」
「よし、絶対ェ噛むんじゃねェぞ」
控えめに開かれた唇から真っ赤な舌が覗いていいて、ゾクゾクと欲望が刺激される。コクリと喉を鳴らし再び唇を合わせると、今度は柔らかな感触がした。
何度か啄むように唇を合わせて、それから舌を差し込めば今度は抵抗なく口内に入った。先程チラリと見えていた真っ赤な舌に自分のソレを絡ませてやれば、ぬるりと生暖かい感触が心地よくて堪らない。一瞬ぴくりと身体を硬くした花咲も、暫く舌を絡ませている内にどんどんと力が抜けていっているようだ。
「ん……ッ、ふ、ぁっ」
舌を絡ませる合間に鼻から抜けるような吐息が女から漏れると、下腹部がズンと重くなるような感覚が襲う。堪んねぇ、気持ちいい。もっともっとと欲望のままに舌を絡ませて、口内の隅々まで舐め上げて。随分と長い間、夢中になってキスをしていた。
ようやく唇を離した頃には、2人とも肩で息をして顔を真っ赤に染め上げ、熱っぽい表情でお互いを見つめ合っていた。花咲の唇は2人の唾液でグズグズに濡れていて、普通なら汚ねぇと思う筈なのに堪らなくて、指でグッと拭ってやると女の瞳がグラグラと揺れた。
まるで、もっとと強請るかのようなソレを見たら、自分でも気付かないうちに花咲の肩を掴み壁に押し付けて再び唇を合わせていた。駄目だ、止まんねぇ、ヤベェ、気持ちいい、可愛い、ヤベェ。
「はぁっ、んぅっ…………ば、くごぉ」
「ハァッ、ハッ」
もう1度唇を離す頃には、女は全身から力が抜けて立っていられないようだったので、脚の間に自らの膝を差し込んで支えてやった。真っ赤に染まった頬と涙で潤んだ瞳が、めちゃくちゃ唆る。再びその唇に吸い寄せられそうになったのを、女が「ふふ」と笑い声を上げてピタリと止めた。
「なに笑っとんだ」
「……なんか……す、すごかった、ね」
「あ?」
「今までしたキスと、全然違った」
「アッソ。…………気持ち良かったかよ」
「えっと、どぉ、かな。よく、分かんないけど、でも、なんか頭の中真っ白になって、なんか、すごかった……」
「そりゃ、気持ち良かったって事だろ」
「そうなのかな?」
「そうだろ」
そっか…と呟きながら自らの頬に手を当てる女の髪を、指にくるりと巻き付けて遊ばせてみる。自分の硬い髪と違い柔らかなソレは、数回巻きつけるとスルリと指を離れていった。
「ば、爆豪は……?気持ちよかった?」
「さぁな。どうだと思う?」
「えぇ、そんなの分かんないよ。でも、あの、爆豪さ……さっきから、なんか、エッチな顔してる、よ?」
言われた言葉に思わず目を見開いた。「そりゃお前の方だろ」と思わず返してやると女もまた驚いた顔をしていた。どうやらお互いエロい顔をしていて、自分では無自覚だったようだ。
「まぁソウイウ気分になってっからな、エロい顔にもなんだろ」
「え?」
「あ?」
「え、ば、爆豪は、ソウイウ気分になってる……の??」
「は?なるだろ、そりゃ…………は?お前はなってねェんかよ」
「うーん、分かんないんだもん」
女の言葉に呆れて声も出ない。
キスで腰砕けてる上にそんなエロい顔してて、ソウイウ気分になってないってどういうことだよ。分かってねェだけだろそれ。そうだ、アホなんだったコイツは。はっきり言わねぇと分かんねぇし、押しに弱い。
「俺はもっとキスしてぇし、その先もしてぇと思ってるけどな」
「な、なに……言ってんの、爆豪」
「花咲が分かんねぇならもっかいシようぜ、キス」
顔を覗き込みながら普段よりも低い声でそう言えば、女の瞳がグラグラと揺れ動く。あぁ、キスしてぇな、この目をもっとぐちゃぐちゃのドロドロにしてやりてぇ。
「イヤか?」
「そ……そおいう、わけじゃ、無い……けど……でも……」
でも、だって、と小さく繰り返す唇に指を這わせてやると、女は顔を真っ赤にして口を噤んだ。あー、もう無理だ、我慢できねェ。「嫌なら殴れ」と一言だけ告げて再び唇を奪った。
女の柔らかな舌に自分のソレを絡ませても、女から拳が飛んでくる事はなく、むしろ彼女も自分から舌を絡め合わせてきた。女は嫌がる素振りは全く見せずに、トロリと潤んだ瞳をうっとりとさせながらキスに応えている。漏れ出る吐息が最高に唆る。
「ぁっ、ふぅ……ッ。〜〜〜ハ、ん」
口腔内を隅々まで舌で犯し、舌を絡ませ歯列をなぞりながら、履いている意味が分からないくらいに短いショートパンツから伸びる太腿に手を置き撫で上げる。滑らかで、吸い付くような肌だ。撫でてるだけなのになんでこんな気持ちいいんだ。ヤベェ。
舌をヂュッと吸い上げて唇を離せば、名残りを惜しむように2人の唇を銀の糸が繋いだ。女の顔は真っ赤になって、瞳は瞬きをすればこぼれ落ちそうなほど涙を蓄えている。めちゃくちゃソウイウ表情にしか見えない。
「どうだよ、ソウイウ気分、なってっか?」
「ん、わ、わかんないっ、けど、なんか……おなかの奥あつくて、じんじんして、くるしいっ」
「は、」
なんッッッじゃソレ。なんだそのAVみてぇな台詞は。クッソエロい。本当に無意識なんか。分かって言ってんじゃねェのか。クッソエロい。セックスしてぇ。ヤベェちんこ痛ぇ。なんだこいつ可愛すぎる。
は、待てよコイツ、さっきの言い方。もしかしてまんこ濡れてんのか?
気付いてしまった事に、ゴクリ、と思わず生唾を飲み込んだ。足の付け根までしか無いショートパンツから伸びる白い脚に、どうやったって目がいく。しかも問題の付け根部分には自分の膝があって、眩暈がしそうだ。
いや、落ち着け、処女だろコイツ。AVじゃねェんだ、処女がそう簡単に濡れる筈がない。しかし、目が離せない。触って確かめてぇ。いや、流石に駄目だろそりゃ。けど、濡れてんだったら触ってやらねぇ方が可哀想なんじゃねェのか?いや、それは無いか。無いか?どうなんだ?駄目だもう分かんねェ。
この女に触りたい。抱きたい。キスしたい。泣かせたい。セックスしたい。
太腿に置いた手がスルスルと脚の付け根の方へと登っていく。しかし、女の身体が怯えたようにビクリと跳ねたように感じ、グッと拳を握った。
駄目だ。お前は誰だ、爆豪勝己。将来オールマイトをも超えるナンバーワンヒーローになる男だろう。こんな所で色恋にうつつを抜かしてる暇なんて1秒もない。そんな暇があれば筋トレをするべきだ。しかも相手はこれから3年間、いやもしかするとプロになってからも多少の縁はあるであろう、共にヒーローを目指すクラスメイト。論外だ。そんな相手とこんな事をするべきでは無い。一時の感情に身を任せるな。
そうだ、駄目だ。落ち着け、落ち着け、俺。
言え、言うんだ。男に下手な事を言うなと。夜中に無防備な格好で外を出歩くなと。これに懲りたら考えを改めろと。さぁ、言え。言うんだ、爆豪勝己。
女の細い手首を掴み、目を覗き込み、俺は口を開いた。
「ーーー俺の部屋、来いよ」
女の細い手首を弱く掴むと、少し迷ったように視線を彷徨かせたあと、俺の目を見て小さく頷いた。それをしっかりと見届けて手を引けば、なんの抵抗もなく俺の後をついて来た。それから男子棟の寮へと繋がるエレベーターに乗り込み4階のボタンを押した。それから部屋に着くまで2人とも無言で、真っ赤な顔のまま連れ立った。
長いようで短い道程を終えて自らの部屋のドアを開けた。それから、再度女の顔を覗き様子を伺う。女の顔は未だ火照っていて熱っぽい視線が返ってきた。
パタンという音を立ててドアが閉まった。薄暗い廊下に、人陰は残っていない。
「ァア゛??舐めてんのか殺すぞゴラ」
深夜。喉の渇きに目を覚まし寮のキッチンに降りた俺は、たまたま居合わせたクラスメイトにそうドストレートに聞かれて流れるように罵倒した。
いつだって俺がキレることには正当性があるが、今のは正当性以外の何物でもねェ。大して話した事もねェ異性のクラスメイトに、夜中出会い頭に聞くような内容では無い。しかも「だよね?」ってナンだよ。ほぼ自分の中で断定してるじゃねェか、クソが。
細腕で女子っぽい容姿で喋り方もボケッとしていかにも馬鹿っぽいこの女、花咲さくらは、見た目に反してパワー系の個性を持っていて、単純な腕力では俺よりも上という癪に触る女だ。しかも身体能力も中々高く、入学して間もない頃訓練でコイツに投げ飛ばされたことは今でもたまに夢に見るほど腹が立つ。まぁ当然、それ以降の訓練ではバッチリ投げ返してやっているのだが。
ちなみに俺は童貞ではない。中2でバッチリ卒業済である。しかし女は俺の反応を照れ隠しの逆ギレだと思ったようだった。
「そォだよね、童貞だよねぇ。こんなキレてばっかの爆豪が女の子とエッチ出来るわけないよねぇ」
「寝ぼけてんのかゴリラビッチ。さっさと部屋戻ってオネンネしとけや」
「ビッチじゃないってぇ。実は私も処女なんだけどさぁ」
「お、」
なんだコイツ、まじで何を言い出すんだ、と思わず声が詰まり目を丸くした。コイツが雄英に入ってから何人か男がいたことは、黒目や透明女たちが教室でデケェ声で話してたから知っている。クラスメイトでそういう話題は唯一だった為か峰田も興奮しててキモかった。
セックスしたいお年頃の男と複数回付き合っていて、ソレなのに処女とは一体どういう事か。そんなことありえんのか?つーかエッチとか言うなや。
「爆豪ってさぁ……性欲、ある?」
「………………は?」
「やっぱり……無いんでしょ!潔癖そうだもんね!」
馬鹿かこいつ。あるに決まってんだろ。ありありだわ、男子高校生舐めんな。しかし、そう言ってやるのはあまりにも癪で言葉を噤めば、やはりまたも勘違いしたようだ。
しかしコイツ、酷すぎる。馬鹿っぽい女という認識を改めよう、コイツは馬鹿だ。しかも頭に超が着く。
「実はね、私も性欲が全然無いの。知らないと思うけど、私雄英入ってから何度か普通科とかの男の子と付き合った事もあるんだけど、その」
「オイ、テメェのくだらねぇお喋りに付き合う気はねェぞ。俺ァ寝る」
「ええ〜、そんな事言わないで。こんな事みんなには相談出来ないよぉ。性欲無い同士じゃん、おねが〜い」
「知るか」
爆豪がドン引きしている事など全く意に介さない様子で口を開く花咲。長々と喋り出しそうな雰囲気を察して、爆豪は会話を切り上げその場から去ろうとする。女は未だに諦め切れないようで懇願してくるが、やがて諦めたようにため息をついた。
「えぇーもぉ、いいよ。じゃあ他の性欲なさそうな…………緑谷か轟に相談してみるもん」
「ァア゛!?ザッケンナ!!ほんっっっきでアホだなテメェは!!なんでアイツらなんだよ!!デクはぜってぇムッツリだし、舐めプヤローだってあぁいうのが1番エロいんだよ!!」
「えぇ!?嘘ッ!そぉなの?」
「当たりまえだろ!!!!」
顔に手を当てて「信じられな〜い」と言っている花咲に、自分の顔がピクピクと歪んでいくのが分かる。マジかコイツ。本気で言ってんのか?そんな事も分かんねェのか?分かんねぇんだろぉな、だから俺にこんなアホな事言えるんだもんな。マジで引く。
なんでよりによってデクと舐めプ野郎なんだ、ソレなら俺のが全然マシだわ。当たり前だろうが。
「えぇ〜、じゃあやっぱり爆豪に相談するしかないよぉ。ねぇ聞いてよ、お願〜い」
「チッ…………手短に話せよ。ねみぃんだわ」
「わっ!ありがとーバクゴー!
えーっと、付き合った人ね。そんなに好きとかじゃなかったんだけど、告白してくれたし、なんかいいかなって感じで付き合った人が3人いるの。
けど付き合ってたらやっぱりソウイウコトする流れになるじゃん?でも私全然そういう気分にならなくて、それで、その…思わず私…」
「個性発動して、ゴリラ具合にドン引かれて、別れ話とかか?」
「えっ!スゴイ!なんで分かるの爆豪!?」
適当に予想してやれば的中したようで、目を丸くして大きな声を上げる女。呆れるほど馬鹿だ。
「分かりやすすぎるわ。そもそも普段から感情が昂ると直ぐに個性出てんだろ。もっとコントロール訓練しろや」
「わっ!それ相澤先生にいつも言われる!!」
「ヤバーい爆豪エスパー?」と言っているお前の頭のほうがやばい。大体お前と俺は同じクラスで、事件の8割は授業中や教室内、寮内で起こっているのだから、当然把握している。
セクハラしてくる峰田の頭を思わずカチ割りかけたのも、素手で女子全員を一度に抱き上げたのも、砂藤と腕相撲が互角だったことも、寮の共有スペースで寝ていたのを起こそうとした上鳴に驚きガラスを破り庭まで突き飛ばしたことも、当然把握している。
なんせコイツの起こす騒動はうるせぇんだ。その場に居合わせれば嫌でも聞こえてくる。
「なんで皆はソウイウ気分になるのに、私はならないんだろ…。やっぱり、運命の人じゃないとソウイウ気分にならないのかなぁ?」
「んなのいるわきゃねェだろ、小学生かよ」
「んもぉっ!そんな言い方しないでよ!じゃあ私はどうしたらいいの?一生このままなの?」
花咲は生意気にも俺を睨み付けてきやがった。こんな夜中に、乗りたくもねェ相談に乗ってやっているというのに。マジで疲れた。どうしたらいいとか、知らねェよ。そもそも俺は水を飲みに来ただけなのに。
しかしここまで振り回されていると、心の中に小さな悪戯心が芽生えた。コイツがどこまでアホなのか、試してみてやろう。
「じゃあ試してみっか?」
「ためす?」
「ほんとにソウイウ気分にならねぇか、俺と」
「…………爆豪と?」
「あぁ、お前の言うとおり俺もソウイウ気分になったことねぇんだ。けど、いざという時、それじゃ男として格好悪ぃだろ」
「そうなの?」
「そういうもんだ」
もちろん嘘だった。100%嘘だ。ソウイウ場面ではめちゃめちゃソウイウ気分になる。しかしソレを言ってしまえばこの話は即おしまいだし、コイツは少しくらい痛い目を見て男を学ぶべきだ。本当にする気はないし、ちょっとからかうくらいなら許されるだろう。
しかしまぁ、流石の大馬鹿女であろうとも、こんな事を受け入れるとは到底思えないが……
「うぅーん、じゃあ、やってみよう、かな?」
大馬鹿女が。コイツ、チョロすぎるだろ。さっき付き合ったきっかけもなんか告白されたからって適当に付き合った感じだし、押しに弱すぎる。よくそれで処女でいられたもんだ。いや、ゴリラ女だからか。親に感謝しやがれ。
「でも、どうやって?」
「まぁ、まずはキスじゃねェの?」
「え、きす……?」
「そらそうだろ」
「でも、キスでソウイウ気分にならないでしょ?私、キスは何回もしたことあるから、自信あるよ!」
「オマ…………まぁ、やってみようぜ」
何故か自慢げに胸を張る女に、ため息が出そうになる。キスでソウイウ気分にならねぇで、いつソウイウ気分になるんだよ。
まぁいい、それはもう本気でどうでもいい。ほんの少しからかって困らせて、男に妙な事を言うなと言ってやって、そして寝る。
そう、手を伸ばした時だ。
「んー、分かった。でも爆豪したことないよね?私からするね?」
「は?おい、ちょ」
女の方からガッツリと肩を掴まれ、どんどん顔が近付いてくる。生意気すぎるし本当にする気もないので、引き剥がしてやろうと思ったのに、どうにも手が退けられない。コイツ、個性使ってやがる。アホか、アホなのか。こんな時に個性使うなよ。普段から迷いが少ない行動が良くも悪くも目立っていたが、今は完全に悪い方だろ。アホかよ。
どうにか抵抗しているがマジでこの女馬鹿力すぎる。そのうちに肩を掴まれたままドン、と壁に身体を押し付けられた。逃げ場を無くした俺に背伸びをした花咲の顔がどんどん近付いてきて、石鹸の香りが鼻腔を刺激した、その瞬間
ちゅ、ちゅ、と唇が触れた。
触れるだけのキスを2回重ねた後、顔を離した女は俺の肩を掴んだまま笑いかけてきやがった。ナメてんのか、馬鹿にしてんのか。自分より小せぇ女からのキスを避けられず無様に受け入れることしかできなかったこの俺を。
「ふふふっ」
「んだよコラ。馬鹿にしてんのか?」
イライラを隠す事なく不機嫌そうに言えば、花咲は更にヘラリと笑った。ほんのり頬が桜色に染まっていた。
「ちがうよぉ。爆豪とちゅうしちゃったなって……へへ、ちょっと照れるね」
「カッ」
かわいい
そう出かけた声を、気合いで押し止めた。なんせ今は恋人同士のそういう時ではないし、何より自分のキャラじゃない。は??いやいやいや、落ち着け。つーかなんだよ、そもそもこんな女可愛くねェわ。アホか俺は。は???
しかし、一度思ってしまうと思考は止まらなくなる。元々面は良いと思っていたが、ちょっと恥ずかしそうに微笑む顔はヤバい。あれ、コイツ元々こんな可愛かったか?なんかすげぇ可愛くねぇか?いやいや落ち着け、違う、可愛くない。いや、顔は可愛いが。いや、違う。そうじゃない。
落ち着けや、いっぺんキスしたからって可愛いとか。童貞か俺は。
「ね?キスって大したこと無いでしょ?」
「あ?まぁ……そォだな。あと、お前のしたことあるのって、ナニ?」
「え?えっと…胸、は触られたことあるけど……でも、全然よくなくて……そしたらそんなの変だって先輩に言われて、つい…………殴っちゃった」
「は?なんだそいつ、殴って正解だろそんなゴミクズ野郎」
「そ、そぉなのかな?」
「そォだわ。ゴミだからな、捨てて正解だ」
反吐が出る野郎だな、と言い捨ててやれば、女はポカンと目と口を開けたまま驚いていた。
「ふふ、ありがと。爆豪って意外といい奴だったんだね」
「意外とってなんだよ」
少し困ったように笑う顔も、可愛い。認めるしかねぇ、可愛い。
もう一度キスしたい。どうせならファーストキスをもらいたかったが、今更仕方のない事だ。それに大した事ないキスしかした事がないなら、もっと気持ちいいキスを教えてやりたい。快感を感じたことがないというこの女がそれを感じた時、どんな顔を見せるのか……知りたい。
「ディープキスはしたことあんのか」
「でぃーぷ?」
「ベロとベロ合わせるキス」
「べろ!?」
「ねェんかよ」
答えを聞かずとも分かる。この反応は無い。
マジか。絶対ェヤルことヤッてると思ってたのに思っていた以上に何も知らない女に、思わず喉が鳴る。
ヤベェちんこ勃ってきた。キスしたい。胸を揉みたいし、セックスもしたい。自分の中の汚ねぇ欲望がドンドン膨らんでいくのが分かる。駄目だヤバい、もう部屋に戻った方がいい。適当に会話を切り上げて、部屋でシコりゃいい。オカズにするくらいなら許されるだろう。
「うん、無い……あ、待って、そういえば、ベロ入れられた。でも、気持ち悪くて……それで……」
「殴ったんか」
「ちがうよ!ちょっと離れてほしくて押したら、飛んでっちゃっただけ!」
「ふーん」
もう辞めなければと思っていたのに、女の言葉にドス黒い感情が湧いてくる。なんだコリャ。分かんねぇが、腹が立つ。もういい、キスはもうしちまったんだ。もう1度するくらい、大した違いはねェだろう。ちょっと舌は入れるが、大した違いは……ねェだろう。
「じゃあ、次はディープキスするぞ。押したり殴ったりすんなよ」
「う、き、気をつける……。でも、上手にできるかな……やったことないからな……」
「いい。今度は俺からする」
「え?でも、爆豪したことないでしょ?」
「お前もしたことないなら、どっちがしても同じだろ。それに、いざという時スルのは男からだから、俺もやっておきたい」
「そっか、そぉだね。…………じゃあ、私は……どうしたらいいの?」
「別に。余計な事考えずに、キスに集中しとけ。なんかあればその都度言うから、言う通りにしろ。したくなくなったら口で言え、個性は使うなよ」
「わ、わかった」
「じゃあ、スルぞ」
女が小さく頷いたのを確認してからグルン、と体勢を入れ替えて今度は女を壁際に寄せてやる。やられた事はやり返してやらねェと気が済まないんだ、俺は。
スルリ、と頰に触れる。柔らかな肌は自分とは違う、女のものだ。自分よりチビだとは思ってはいたが、近付くと思っていたよりも更にチビだし、顔も俺の両手で覆い隠せそうなほどの大きさだ。一捻りすればどうとでも出来てしまいそうな錯覚に陥りそうだが、実際はゴリラ並みのパワーなのでそうはいかねぇ。
童貞では無いと言っても、入学以来そういったことを気にかける暇は全くなかったので女の肌に触れるのは随分久しぶりだ。その感触が心地よくて何度か繰り返し撫でていると、何故か顔がどんどんと俯いていく。
コイツほんとに馬鹿だな、それじゃキス出来ねェだろ。両手で顔を包み込んで自分の方に向ければ、先程までと違い頬を真っ赤に染め上げ眉尻を下げた表情が見えて、グッと喉が渇くような妙な感覚が襲う。
はあ?なんだその顔。彼女の見せる表情は、女が「ソウイウ気分」になった時に見せるものとよく似ていて、爆豪は自分の下腹に熱が集まるのを感じた。堪らなくなり、爆豪は彼女の唇に自分のソレをそっと重ねた。
何度か角度を変えながら触れるだけのキスを重ねた後、はむはむと啄む様にして柔らかな唇を喰む。そうしていると、女は閉じた瞼をギューっと硬くし身体をどんどん強張らせていく。勿論唇も硬く閉ざしていて全然気持ちよくねェ。まだ舌も入れてねェのに力みすぎだろ、ヘッタクソだなコイツ。
「んッ!?!?」
力んで硬い唇に舌を這わせると、女は驚いたように瞼を上げて目を丸く開いた。なんだその面、ディープキスするって言っとったろォが。そのまま何度か彼女の唇に舌を這わせるが、ガチガチに固まった唇には簡単には舌を入れる事は出来ない。無理矢理捩じ込むことも出来るが、コイツに噛まれたら舌が無くなるかもしれねぇ。ソレは流石に勘弁なので、一旦唇を離した。
「おい、力入りすぎ。口開けろや」
「へ、ぁ……え……?」
「舌入れらんねぇだろ。ほら、あー」
「……ぁー?」
「よし、絶対ェ噛むんじゃねェぞ」
控えめに開かれた唇から真っ赤な舌が覗いていいて、ゾクゾクと欲望が刺激される。コクリと喉を鳴らし再び唇を合わせると、今度は柔らかな感触がした。
何度か啄むように唇を合わせて、それから舌を差し込めば今度は抵抗なく口内に入った。先程チラリと見えていた真っ赤な舌に自分のソレを絡ませてやれば、ぬるりと生暖かい感触が心地よくて堪らない。一瞬ぴくりと身体を硬くした花咲も、暫く舌を絡ませている内にどんどんと力が抜けていっているようだ。
「ん……ッ、ふ、ぁっ」
舌を絡ませる合間に鼻から抜けるような吐息が女から漏れると、下腹部がズンと重くなるような感覚が襲う。堪んねぇ、気持ちいい。もっともっとと欲望のままに舌を絡ませて、口内の隅々まで舐め上げて。随分と長い間、夢中になってキスをしていた。
ようやく唇を離した頃には、2人とも肩で息をして顔を真っ赤に染め上げ、熱っぽい表情でお互いを見つめ合っていた。花咲の唇は2人の唾液でグズグズに濡れていて、普通なら汚ねぇと思う筈なのに堪らなくて、指でグッと拭ってやると女の瞳がグラグラと揺れた。
まるで、もっとと強請るかのようなソレを見たら、自分でも気付かないうちに花咲の肩を掴み壁に押し付けて再び唇を合わせていた。駄目だ、止まんねぇ、ヤベェ、気持ちいい、可愛い、ヤベェ。
「はぁっ、んぅっ…………ば、くごぉ」
「ハァッ、ハッ」
もう1度唇を離す頃には、女は全身から力が抜けて立っていられないようだったので、脚の間に自らの膝を差し込んで支えてやった。真っ赤に染まった頬と涙で潤んだ瞳が、めちゃくちゃ唆る。再びその唇に吸い寄せられそうになったのを、女が「ふふ」と笑い声を上げてピタリと止めた。
「なに笑っとんだ」
「……なんか……す、すごかった、ね」
「あ?」
「今までしたキスと、全然違った」
「アッソ。…………気持ち良かったかよ」
「えっと、どぉ、かな。よく、分かんないけど、でも、なんか頭の中真っ白になって、なんか、すごかった……」
「そりゃ、気持ち良かったって事だろ」
「そうなのかな?」
「そうだろ」
そっか…と呟きながら自らの頬に手を当てる女の髪を、指にくるりと巻き付けて遊ばせてみる。自分の硬い髪と違い柔らかなソレは、数回巻きつけるとスルリと指を離れていった。
「ば、爆豪は……?気持ちよかった?」
「さぁな。どうだと思う?」
「えぇ、そんなの分かんないよ。でも、あの、爆豪さ……さっきから、なんか、エッチな顔してる、よ?」
言われた言葉に思わず目を見開いた。「そりゃお前の方だろ」と思わず返してやると女もまた驚いた顔をしていた。どうやらお互いエロい顔をしていて、自分では無自覚だったようだ。
「まぁソウイウ気分になってっからな、エロい顔にもなんだろ」
「え?」
「あ?」
「え、ば、爆豪は、ソウイウ気分になってる……の??」
「は?なるだろ、そりゃ…………は?お前はなってねェんかよ」
「うーん、分かんないんだもん」
女の言葉に呆れて声も出ない。
キスで腰砕けてる上にそんなエロい顔してて、ソウイウ気分になってないってどういうことだよ。分かってねェだけだろそれ。そうだ、アホなんだったコイツは。はっきり言わねぇと分かんねぇし、押しに弱い。
「俺はもっとキスしてぇし、その先もしてぇと思ってるけどな」
「な、なに……言ってんの、爆豪」
「花咲が分かんねぇならもっかいシようぜ、キス」
顔を覗き込みながら普段よりも低い声でそう言えば、女の瞳がグラグラと揺れ動く。あぁ、キスしてぇな、この目をもっとぐちゃぐちゃのドロドロにしてやりてぇ。
「イヤか?」
「そ……そおいう、わけじゃ、無い……けど……でも……」
でも、だって、と小さく繰り返す唇に指を這わせてやると、女は顔を真っ赤にして口を噤んだ。あー、もう無理だ、我慢できねェ。「嫌なら殴れ」と一言だけ告げて再び唇を奪った。
女の柔らかな舌に自分のソレを絡ませても、女から拳が飛んでくる事はなく、むしろ彼女も自分から舌を絡め合わせてきた。女は嫌がる素振りは全く見せずに、トロリと潤んだ瞳をうっとりとさせながらキスに応えている。漏れ出る吐息が最高に唆る。
「ぁっ、ふぅ……ッ。〜〜〜ハ、ん」
口腔内を隅々まで舌で犯し、舌を絡ませ歯列をなぞりながら、履いている意味が分からないくらいに短いショートパンツから伸びる太腿に手を置き撫で上げる。滑らかで、吸い付くような肌だ。撫でてるだけなのになんでこんな気持ちいいんだ。ヤベェ。
舌をヂュッと吸い上げて唇を離せば、名残りを惜しむように2人の唇を銀の糸が繋いだ。女の顔は真っ赤になって、瞳は瞬きをすればこぼれ落ちそうなほど涙を蓄えている。めちゃくちゃソウイウ表情にしか見えない。
「どうだよ、ソウイウ気分、なってっか?」
「ん、わ、わかんないっ、けど、なんか……おなかの奥あつくて、じんじんして、くるしいっ」
「は、」
なんッッッじゃソレ。なんだそのAVみてぇな台詞は。クッソエロい。本当に無意識なんか。分かって言ってんじゃねェのか。クッソエロい。セックスしてぇ。ヤベェちんこ痛ぇ。なんだこいつ可愛すぎる。
は、待てよコイツ、さっきの言い方。もしかしてまんこ濡れてんのか?
気付いてしまった事に、ゴクリ、と思わず生唾を飲み込んだ。足の付け根までしか無いショートパンツから伸びる白い脚に、どうやったって目がいく。しかも問題の付け根部分には自分の膝があって、眩暈がしそうだ。
いや、落ち着け、処女だろコイツ。AVじゃねェんだ、処女がそう簡単に濡れる筈がない。しかし、目が離せない。触って確かめてぇ。いや、流石に駄目だろそりゃ。けど、濡れてんだったら触ってやらねぇ方が可哀想なんじゃねェのか?いや、それは無いか。無いか?どうなんだ?駄目だもう分かんねェ。
この女に触りたい。抱きたい。キスしたい。泣かせたい。セックスしたい。
太腿に置いた手がスルスルと脚の付け根の方へと登っていく。しかし、女の身体が怯えたようにビクリと跳ねたように感じ、グッと拳を握った。
駄目だ。お前は誰だ、爆豪勝己。将来オールマイトをも超えるナンバーワンヒーローになる男だろう。こんな所で色恋にうつつを抜かしてる暇なんて1秒もない。そんな暇があれば筋トレをするべきだ。しかも相手はこれから3年間、いやもしかするとプロになってからも多少の縁はあるであろう、共にヒーローを目指すクラスメイト。論外だ。そんな相手とこんな事をするべきでは無い。一時の感情に身を任せるな。
そうだ、駄目だ。落ち着け、落ち着け、俺。
言え、言うんだ。男に下手な事を言うなと。夜中に無防備な格好で外を出歩くなと。これに懲りたら考えを改めろと。さぁ、言え。言うんだ、爆豪勝己。
女の細い手首を掴み、目を覗き込み、俺は口を開いた。
「ーーー俺の部屋、来いよ」
女の細い手首を弱く掴むと、少し迷ったように視線を彷徨かせたあと、俺の目を見て小さく頷いた。それをしっかりと見届けて手を引けば、なんの抵抗もなく俺の後をついて来た。それから男子棟の寮へと繋がるエレベーターに乗り込み4階のボタンを押した。それから部屋に着くまで2人とも無言で、真っ赤な顔のまま連れ立った。
長いようで短い道程を終えて自らの部屋のドアを開けた。それから、再度女の顔を覗き様子を伺う。女の顔は未だ火照っていて熱っぽい視線が返ってきた。
パタンという音を立ててドアが閉まった。薄暗い廊下に、人陰は残っていない。