mha短編
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夢小説です。ネームレスの原作に出ないキャラがヒロインとして出ます。苦手な方はバックしてご自衛ください。
全年齢ですが、ちょい下ネタありです。
何でも許せる方のみどうぞ。
「ごめんなさ〜い、今日最下位なのは○○座のアナタ。10年に一度の厄日になりそう。何をやっても上手くいかない最低の1日、苦手な人との縁が出来ちゃうカモ
でも大丈夫、そんなアナタのラッキーアイテムは赤いフンドシ⭐︎」
さぁ今日もいってらっしゃ〜い、と爽やかに手を振る女子アナのあまりの無責任さにポロリと咥えていた歯ブラシを落としそうになった。
占いは良い。かの有名な経営者たちも占いを信じたと言う話を聞き、私も毎朝見ているニュース番組の中の占いコーナーを注視するようになった。雄英高校で経営を学ぶ一員として、有益な情報は身をもって実践してみなければ。
しかし、興味本位で見始めたモノだったが、なかなかどうしてよく当たるのだ。おかげで毎日真剣に見ているのだが、ここまで酷い内容の最下位も珍しい。何も上手くいかず、嫌な縁ができるって、本当に嫌な日だ。
そしてなにより、赤いフンドシってどういうことだ。フンドシなんて今日日誰が持っているというの?今が何時代だと?しかし、ラッキーアイテムは大事だ。最低な日のラッキーアイテムなら尚のこと。
しかし下着の入った箪笥を見回しても、勿論そんなものはない。うーん、と頭を抱えたところで、ハッとあるモノを思い出す。
先日の学園祭のくじ引きで当てたアレ。アレならイケるんじゃないだろうか。クローゼットの奥に貰った袋のまま仕舞ってあるソレを引っ張り出してみる。
ピラリ、と引っ張り出したそれは見事に真っ赤な下着。普段自分が着けているものとは、素材も形も違いすぎて、高校の学校祭の景品にしては下品すぎると仕舞い込んでいた。
赤いフンドシ…フンドシではないが、下着という意味では、これもイケるのでは無いだろうか…。でも、こんなのを学校に履いて行っても良いのだろうか…。コレを当てた時、自分は勿論周囲の友人達もコレはヤバいとはしゃいでいたのだ。それをスカートの下に履いて何食わぬ顔して一日を過ごすと?恥ずかしいにも程がある。
しかし、ラッキーアイテムとして該当しそうなのはコレしかない。それに、今日は体育も無くて着替えも無いから、気をつけてさえいれば下着を見られることは、まぁ無いだろう。
ううううと唸り声をあげながら、私はソレをそっと脚に通したのだった。
「大変っ」
普段は始業の30分前にはクラスに到着し予習に励んでいる私が、今日に限ってギリギリの時間になってしまったのは、当然朝の占いのせいである。どうするべきかとアレコレ悩んで準備して、結局、今私は普段とは違うお尻の感覚にソワソワしながら足早に学舎へと向かっていた。
寮から校舎まで徒歩5分。しかし、その校舎が広すぎる為、玄関から教室まではさらに5分かかる。
今のペースでは間に合わないかもしれない、と早歩きだった足取りを駆け足へと早めた。早朝まで降っていた雨のせいで足元が悪い。転ばないように気をつけて駆けていたが、大きめの水溜りに足を着きバシャと泥水が跳ねた。その時だった。
「ァア゛?」
「え?」
怪訝な声がしてそちらを見れば、私が跳ねたであろう泥が男子の制服を汚していた。「ごめんね」と言いながらその人物の顔を見て、ビタリと私の身体が強張った。
爆豪勝己だ!!!
ヒーロー課1年A組出席番号17番。
個性爆破の目立つ彼は、経営科2年の中でも話題の人物だ。個性、フィジカル共にトップクラスの成績を残しているが、言動が粗暴すぎてその評価は分かれる。
実力に加えてビジュアルも良いのでその言動すらギャップで人気が出ると全てに高評価する派閥と、あの言動は敵のソレだと低評価する派閥とで、評価は二分されていて、定期的に討論されている人物だ。ちなみに私は後者の方。昔から、こう言う人物にはイジメられる事が多いタチなので、どうしても苦手だ。
これは余談ではあるが、意外と女子人気も高い。ワルイオトコに憧れる女子は、いつの時代も一定数存在するのだ。
授業でも見た体育祭映像の中でも抜群に目立っていた彼が、映像では無く実際に目の前にいて睨みつけてくる。
ゴクリ、と思わず生唾を飲み込んだ。よりによって爆豪くんに泥をぶっかけてしまった。ど、どうしよう、爆破される?…流石にソレは無いだろうか…でも胸ぐら掴んで怒鳴られるくらいはするのかな…うぅ、怖い。
ビクビクと怯えている私を一瞥すると、爆豪くんはチッと舌を打った。
「気ィつけろヤ」
「ご、めんなさい…」
それだけ言うと、爆豪くんはさっさと校舎に入って行った。爆破も、殴られも、怒鳴られもしなかった…。ホッとしたような、ソレでも睨まれたのが怖くて心臓が普段よりも大きく鼓動した。
やはり、あの占いはよく当たる。
結局、ホームルームには遅刻した。
気分にムラの多い担任の虫の居所が悪い日だったらしく、遅刻をこっぴどく怒られて昨日やったばかりの日直を今日もする事になった。
お気に入りのシャープペンシルを落とした瞬間クラスメイトの熊井くん(個性熊。大柄)が通って踏まれて折れてしまった。
やっとお昼になって美味しいランチラッシュのランチを食べようとしていたら、4限の先生に片付けの手伝いを命じられた。
ツイていない事ばかり起こる。勇気を出して履いた真っ赤な下着はあまり効果が無かったのだろうか?ソレともコレを履いていなかったらもっと恐ろしい事が起こっていたのだろうか。
はぁー、と幸せが逃げていきそうな大きなため息を吐きながらランチルームにやってきた。昼休みは半分ほど過ぎていて、食べ終わって談笑している人たちもいるくらいだった。早く食べられるものにしようとラーメンを注文しようとしたが、売り切れていた為おうどんにした。
いつも友人達と座る席は、ランチルームの奥の方。普段から混雑しているが今から食べる人や食べ終わった人たちが入り乱れていて、人の動きが多い。
おうどんを溢さないようにと気を引き締めて歩いていた、その時だった。
「っだとコラァ」
耳元、といっても過言では無いと言うほど。すぐ近くで聞こえた今朝聞いたばかりの声に、ビクッと全身が跳ね上がった。
「きゃ!わ、わ!!」
おうどんが。
熱々で湯気の上がっているおうどんを乗せたお盆が、私の手の中でグラグラと揺れ動く。ついでに私自身もグラグラ揺れて体勢が定まらない。湯気立つソレが自分の方に波立ちながら迫ってくる。あぁ、これは、間違いなく最下位だ。
もはや私の手の中では制御できない、と心が折れかけた時、素早い何かが私の暴れるお盆を掴んだ。
「ッぶね」
「!!!!!」
先程の、耳元という発言は過言であったと訂正したい。今度こそ本当の本当に私の耳元で、女子とは全く違う、低い声が鼓膜を揺らした。
片手にお盆、そしてもう片手で私の身体を支える爆豪くんを、周囲にいた彼の友人達が讃えた。
爆豪くんと同じくヒーロー課1年A組の3人、切島鋭児郎くん(出席番号8番個性硬化)、瀬呂範太くん(出席番号13番個性テープ)、上鳴電気くん(出席番号7番個性帯電)だ。勿論彼らも履修済。
「さすが爆豪!漢だぜ!」
「反応速度やべーじゃん」
「つーかうどん湯気たってるし、危なかったなぁ。何科?一緒に食う?」
と、大変盛り上がっているが、私はそれどころじゃない。何故、よりによってまた、この人と。一方的に知ってはいたが今まで全く接点などなかったと言うのに。流石に呆れられるのでは無いだろうか、いや、でも私の顔なんて覚えてないだろうか。あ、待って、私まだお礼言ってない。
「あ、ありがとう……」
「あ?テメェ、朝の……」
震える声でお礼を告げれば、彼の赤い瞳に至近距離で射抜かれた。その瞬間、片眼だけをすっと細めた彼の口から朝という言葉が出て、胸に鉛が落ちる。
えぇ、覚えていらっしゃいました。さすが座学も優秀な、優等生であられる。記憶力がいい。
上鳴が「なになにかっちゃん知り合いかー?紹介しろよ水臭いなぁ」と茶化したのに対して爆豪がキレて返していた。
というか、すごく距離が近い。普通科の女子が騒いでいたのを思い出した。確かに本来の造型は整っているのだと考えているうち、頬が熱くなってきた。
しかし、その時私は驚愕の事実に気付いてしまったのだった。
爆豪くんが私を支える手が、おしり!おしりに!!!私の臀部に手がある!!!ももももちろん咄嗟に支える為であって全く他意は無かったのだろうけれど、でも、お尻は、ダメなのに!きょ、今日は、そのスカートの下のお尻には心許ないほど小さな面積の布地しか無く、ほとんど出ているのだ。もしかしたらその感触で、バレてしまうかもしれない。真っ赤で布地の小さい下着を着ける変態だと思われてしまうかもしれない。
「ア」と、爆豪くんが何かに気づいたような声を出してパッと私の身体に回していた手を離した。その瞬間、かあっと全身が茹で上がったように熱くなり大きな声を出してしまった。
「ば、爆豪くんのえっち!!!」
私の声がランチルームに響き渡り、シン、と辺りが一瞬静まりかえる。
一瞬後にブハッと3人が吹き出す声が大きく響き、それとほぼ同時にどこからか現れた峰田実くん(1年A組出席番号19番個性もぎもぎ)が血の涙を流しながら叫び声を上げた。
「ばくごー!テメー!何女子の尻触ってんだよ!!!」
タイミングの良い?峰田くんの声で状況を理解したであろう切島くん瀬呂くん上鳴くんが腹を抱え涙を浮かべながらランチルームに響き渡るほど大きな笑い声を響かせている。
「ギャーハハッお前っ!ドサクサすんなよ!」
「何してんだよ爆豪くんのえっち!!」
「ヒーッ!ヤメロwww死ぬwww」
「テメェらぶっ殺すぞ!!!!!」
「あ、や、ちが、ご、ごめ」
まさかの状況に、焦って訂正しようとするがうまく言葉にできない。そんな私の声を聞き、爆豪くんがグリンと恐ろしいはどの勢いで首をこちらに向けた。なんと目尻の角度が大きく釣り上がって45度ほどまで上がっている。
「テメェもだクソ女!!!ぶっ殺す!!!」
「ひぇっ」
掴みかかるような勢いの爆豪くんを、3人が抑えた。
「ギャハハ、ぶっ殺すなぶっ殺すな!ひー、ひー」
「ごめんなーかっちゃんもわざとじゃなかったと思うぜ?イッテ!」
「そーそー!けど今多分話通じねェから、ぶはは、ワリィけど逃げてくんねーか?」
まるで体育祭の時のような形相でコチラを睨み怒鳴りつける爆豪くんを、3人がかりで抑えている。殴られたり小さな爆破を受けたりしている様子に、顔を青ざめて「ごめんね」と言えば「ダイジョブダイジョブ、メシはまた今度一緒に食お」と上鳴くんが手を振ってくれた。ペコリと頭を下げてから、その場を後にした。
急ぎランチルームを出て、教室へと戻った。教室に着いてからも、まだ心臓がバクバクと大きく鼓動している。ランチルームから戻ってきた友人たちがなんで来なかったの?そんな時間かかった?と声をかけてくれた。なかなかの騒ぎになったよう感じていたがどうやら友人たちの席まではあの騒動が伝わっていなかったようで少しホッとした。
5限が始まるチャイムに重なって自分のお腹もぐうと小さくなった時、ようやくおうどんを食べ損ねたことを思い出した。
「……おなか空いた……」
友人から貰った飴ちゃんでどうにか放課後まで空腹をやり過ごした私は、一人日直日誌を書き終えてフゥと息を吐いた。
散々だった1日もようやく終わりが見えてきた。今日はもうさっさと寮に帰って夕食まで部屋に篭ろう。パタンと書き終えた日誌閉じながら、そう思った。
パタ、とすぐそばのカーテンが靡く。秋風が心地良さそうで先ほど開けた窓の施錠をして、日誌を持っていけば今日は終わりだ。立ち上がり窓に近付いた時、クラ、と視界が白んだ。
立ちくらみだ
時たま我が身に起こるそれに、特に焦りは無かった。空腹のせいだろうか、いつもよりも強いソレに、どこかに手を着こうと伸ばした。手を伸ばしたそこに、あるはずの窓が無く身体が傾いた。グルン、と一気に頭が下がり腰が窓枠に引っ掛かり足が浮いた。
「キャアッ!!」
どこかに手を付きたいが、未だに目が白んで、視界が定まらない。足がどんどん高く浮いてくるのを感じる。
「や、た、たすけてっ!」
ズルッと再び体勢が下がり、もう駄目だと目をつぶった。その時だった。
BOOM BOOMと大きな爆発音が響いた。
「ッッッぶねぇな!!死にてぇのかァ!?」
お昼にさんざ聞いた怒鳴り声が耳に劈くと同時に、グッと力強い腕に身体を支えられた。気付けば、落ちかけていた窓枠から教室に戻っていた。
私の足が教室の床に触れるまで、爆豪くんの手が背中を支えていてくれた。
「ば、くご、くん」
震える声で彼の名前を呼べば、窓枠に脚をかけたままの爆豪くんは私の顔を見て、その端正な造りの顔を歪ませ溜息をついた。
「またテメェかよ……。どんだけ鈍臭ェんだァ?運動神経死んでんのかよ!?」
「ひえ、」
ごめんなさいと言う私から興味なさげに目を逸らし、教室をぐるりと見回した爆豪くんは「お前2年だったんか」と呟いた。頷けば生意気だと再び文句を言われたが、それは流石にどうしようもない。しかし、お昼の怒りは収まっているようでホッとした。
「そんな鈍臭くてよくやっていけるな」
「今日は、たまたま…ちょっと…。普段はこんな事は無いんだけど……」
「ハッどうだか」
本当なのに、と口を尖らせる私を見てフンと息を吐いた爆豪くんは、器用に窓枠の上で体勢を変え私に背中を向けた。
「俺ァ戻る。テメェと長居してたらまたセクハラ野郎扱いされちまうからな」
「待って、爆豪くん!あの、お昼はごめ…」
「ゥオッ!?」
まだお昼のことをちゃんと謝って無いのに、と思わず彼の服をギュッと掴み個性を発動させてしまった。
私の個性「吸着」。大したことはない、ただ数センチほど近くのモノを引き寄せたりモノを握らなくても持っていられるというだけの、何とも残念な個性。だけど、不安定な窓枠の上、傾きかけていた姿勢の所に私が個性で引き寄せてしまったせいで、爆豪くんの見事な体幹を崩してしまった。
静かだった教室にドタドタ、ガタガタと大きな音が響いた。
一体何がどうなったのか。ピタゴラスイッチもビックリな大転倒をかました私達は何故だかいつの間にか、教室の床に倒れ込んでいた。
後頭部を床につけ仰向けに倒れ込んだ爆豪くんの、その硬いお腹の上辺りに私は尻餅を付いた。
「い、たた」
「ッッテェな!!!マッッッジでなんなんだテメェ……は……………」
言葉は尻すぼみに弱くなり、ついには消えてしまった。不思議に思い彼を見れば、赤い瞳が丸くなって口が薄く開いていて、普段釣り上がったり歪んでいる眉はアーチを描いている。怒っているわけでも呆れているようでもないその顔は、映像の中でも今日何度か顔を合わせた中でも初めて見る表情だった。
捲れ上がったスカートから普段見えない白い太腿が露出して、その脚の間から爆豪くんのその表情が覗いている。爆豪くんのお腹の上にお尻をついて、足は彼の両脇の辺りに着地しているからだ。
その光景が、なんだかえっちだなぁと何の根拠も経験もないのに思っていて、ふと気付いた。爆豪くんの真っ赤な瞳が、ある一点をじっと見据えて動かないことに。そしてその視線の先にあるのが、恐らく、いや間違いなく私の捲れ上がったスカートの、その中であろうことに。
「え?」
「ッッッ!!!テメェ………さっさとどけや」
小さく上げた私の声に、爆豪くんがビクッと身体を揺らした。それからジロッと見覚えのある鋭い目つきで私を睨みつけ、地を這うような低い声で唸った。
「あ、うん、ごめんね」
そう言いながら爆豪くんのお腹の上からお尻を退けて、床に座り込んだ。彼も身体を起こして座り込みずっと私を睨んでいる。けれど何故か何も言わず、沈黙が苦しくて「あの」と声をかけると「んだよ」と睨みながら返された。睨み付ける目つきはお昼やさっきと同じなのに、なぜか……目尻が少し赤らんでいるせいだろうか……少し穏やかなように見えて、思わずまた言わなくていいことを言ってしまった。
「み、見た?」
「俺が見たんじゃねェ、テメェが見せてきたんだろォが!」
「えぇ!?」
「えジャねェわ!!人の腹の上で脚おっ広げてたら、そら見えるだろが!!!」
そう言われると途端に恥ずかしさが込み上げてくる。異性に下着を見られるだなんて幼稚園以来無いのではないだろうか。しかもよりによってこんな下着の……日に……。「あ」と声が漏れる。そうだった。今日は、普通の下着じゃ無いんだった。ちょっと待って。アレ、アレを、見られたの?爆豪くんに?嘘でしょう?あん、あんなの、あんな変態みたいな下着着けてるのに?え?え?嘘だよね?
あっという間にカカカッと顔に熱が集まってくるのを感じる。慌てて頬を押さえたが、きっとそれは爆豪くんから見ても一目瞭然の変化だったんだろう。私の顔をみた爆豪くんは、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべて「つーかよォ」とさっきよりもワントーン低い声を出した。
「アンタこそ、大人しそうな顔して随分なモン着けてるじゃねェか」
「ッッッ!は、や、ち、だって、そ、ちがッ」
「何言ってっかワカンネェ」
色くらいは見えてるかもだけど、もしかするとそんなにばっちりは見えてないかもという考えは、爆豪くんの口から告げられればあっさりと覆された。あんなえっちな下着を着けるフシダラな女と思われてしまった。というよりも、どこまで見えたのだろうか、見えてはいけないものまで見られてはいないだろうか。考えれば考えるほど恥ずかしさが込み上げてきて、まともに声を出す事もできない。
そんな私の首の後ろに爆豪くんの腕が回され、グッと引き寄せられる。耳元に彼の吐息を感じるほどの距離だ。
「わ、わ……ッ」
「アンタの方がよっぽど"えっち"なんじゃないですかねェ、先輩?」
低くてそれなのにどこか甘さを感じさせる声が鼓膜を揺らし、背筋にゾクゾクと感じたことの無い震えが走って「ひゃ」と小さな悲鳴をあげた。もはや完全にキャパオーバー、頭は真っ白で瞳に涙が潤むのを感じた。
「ち、が、わ、わたしっ」
「誘ってんなら受けて立つぜ?」
「っ、」
からかうような声色に反して、赤い瞳が真っ直ぐ私を射抜いた。その瞳を見てしまった私は蛇に睨まれた蛙のように、身動きを取れず、声も出せなくなってしまった。ただ、彼の瞳を見ることしかできない。
首を傾け、少し開いた唇がドンドンと近付いてくる。蜂蜜色の彼の髪が私の黒い髪にサラリと重なった時、ギュッと目を瞑った。そしてーーー
「いたっ!!」
ガリッと、鼻に痛みが走った。
「え、え???」
一体何が起こったのか、ズキズキと痛む鼻先に目を白黒させる私の頬を、硬い掌がムニュッと挟んだ。その圧力で唇がプクッと前に突出した。
「ふぁに」
「蛸みてぇ」
それは、唇のことなのか、顔色のことなのか。はたまた両方なのか。分からないが爆豪くんは私の間抜けだろう顔を見てハハッと満足そうに笑うと、スッと立ち上がった。それから先程私が落ちかけた窓枠に脚をかけ「俺ァ戻る」と言った。
「鈍臭ェんだから、気ィつけて帰れや。もう面倒かけんじゃねェぞ」
「え?あ、うん…気をつけマス」
「…………次面倒かけたら、マジで食っちまうからな」
「なっ!?!?」
爆豪くんの言葉に再び顔を真っ赤に染めて言葉を詰まらせる私を見て、満足そうに笑った爆豪くんは、そのまま窓から飛び降りた。慌てて覗いたけれど、彼の個性ならこのくらいの階数はなんて事ない。爆破で落下のスピードを落としてなんの問題もなく流れるように着地すると、そのまま振り返る事なく走り続けた。
窓から見送ったその背中が見えなくなると、ズルズルと足の力が抜けて再び床にパタンと座り込んだ。
「な、なんなの……?」
未だにジンジンと痛む鼻先と暴れ続ける心臓を押さえた。一体、今日はなんという日だ。今まで授業の中での存在だった爆豪くんと、1日に3度も遭遇し、しかもあんなことやこんなことを……未だに恥ずかしさが消え去らなくて頭を抱えて蹲り、ようやく動けるようになった頃にはもう夕食の時間だった。
巡り巡らせた思考の末、やはりラッキーアイテムは大切だという結論に至った私は、明日からは絶対にラッキーアイテムを遵守しようと心に誓ったのだった。
夢小説です。ネームレスの原作に出ないキャラがヒロインとして出ます。苦手な方はバックしてご自衛ください。
全年齢ですが、ちょい下ネタありです。
何でも許せる方のみどうぞ。
「ごめんなさ〜い、今日最下位なのは○○座のアナタ。10年に一度の厄日になりそう。何をやっても上手くいかない最低の1日、苦手な人との縁が出来ちゃうカモ
でも大丈夫、そんなアナタのラッキーアイテムは赤いフンドシ⭐︎」
さぁ今日もいってらっしゃ〜い、と爽やかに手を振る女子アナのあまりの無責任さにポロリと咥えていた歯ブラシを落としそうになった。
占いは良い。かの有名な経営者たちも占いを信じたと言う話を聞き、私も毎朝見ているニュース番組の中の占いコーナーを注視するようになった。雄英高校で経営を学ぶ一員として、有益な情報は身をもって実践してみなければ。
しかし、興味本位で見始めたモノだったが、なかなかどうしてよく当たるのだ。おかげで毎日真剣に見ているのだが、ここまで酷い内容の最下位も珍しい。何も上手くいかず、嫌な縁ができるって、本当に嫌な日だ。
そしてなにより、赤いフンドシってどういうことだ。フンドシなんて今日日誰が持っているというの?今が何時代だと?しかし、ラッキーアイテムは大事だ。最低な日のラッキーアイテムなら尚のこと。
しかし下着の入った箪笥を見回しても、勿論そんなものはない。うーん、と頭を抱えたところで、ハッとあるモノを思い出す。
先日の学園祭のくじ引きで当てたアレ。アレならイケるんじゃないだろうか。クローゼットの奥に貰った袋のまま仕舞ってあるソレを引っ張り出してみる。
ピラリ、と引っ張り出したそれは見事に真っ赤な下着。普段自分が着けているものとは、素材も形も違いすぎて、高校の学校祭の景品にしては下品すぎると仕舞い込んでいた。
赤いフンドシ…フンドシではないが、下着という意味では、これもイケるのでは無いだろうか…。でも、こんなのを学校に履いて行っても良いのだろうか…。コレを当てた時、自分は勿論周囲の友人達もコレはヤバいとはしゃいでいたのだ。それをスカートの下に履いて何食わぬ顔して一日を過ごすと?恥ずかしいにも程がある。
しかし、ラッキーアイテムとして該当しそうなのはコレしかない。それに、今日は体育も無くて着替えも無いから、気をつけてさえいれば下着を見られることは、まぁ無いだろう。
ううううと唸り声をあげながら、私はソレをそっと脚に通したのだった。
「大変っ」
普段は始業の30分前にはクラスに到着し予習に励んでいる私が、今日に限ってギリギリの時間になってしまったのは、当然朝の占いのせいである。どうするべきかとアレコレ悩んで準備して、結局、今私は普段とは違うお尻の感覚にソワソワしながら足早に学舎へと向かっていた。
寮から校舎まで徒歩5分。しかし、その校舎が広すぎる為、玄関から教室まではさらに5分かかる。
今のペースでは間に合わないかもしれない、と早歩きだった足取りを駆け足へと早めた。早朝まで降っていた雨のせいで足元が悪い。転ばないように気をつけて駆けていたが、大きめの水溜りに足を着きバシャと泥水が跳ねた。その時だった。
「ァア゛?」
「え?」
怪訝な声がしてそちらを見れば、私が跳ねたであろう泥が男子の制服を汚していた。「ごめんね」と言いながらその人物の顔を見て、ビタリと私の身体が強張った。
爆豪勝己だ!!!
ヒーロー課1年A組出席番号17番。
個性爆破の目立つ彼は、経営科2年の中でも話題の人物だ。個性、フィジカル共にトップクラスの成績を残しているが、言動が粗暴すぎてその評価は分かれる。
実力に加えてビジュアルも良いのでその言動すらギャップで人気が出ると全てに高評価する派閥と、あの言動は敵のソレだと低評価する派閥とで、評価は二分されていて、定期的に討論されている人物だ。ちなみに私は後者の方。昔から、こう言う人物にはイジメられる事が多いタチなので、どうしても苦手だ。
これは余談ではあるが、意外と女子人気も高い。ワルイオトコに憧れる女子は、いつの時代も一定数存在するのだ。
授業でも見た体育祭映像の中でも抜群に目立っていた彼が、映像では無く実際に目の前にいて睨みつけてくる。
ゴクリ、と思わず生唾を飲み込んだ。よりによって爆豪くんに泥をぶっかけてしまった。ど、どうしよう、爆破される?…流石にソレは無いだろうか…でも胸ぐら掴んで怒鳴られるくらいはするのかな…うぅ、怖い。
ビクビクと怯えている私を一瞥すると、爆豪くんはチッと舌を打った。
「気ィつけろヤ」
「ご、めんなさい…」
それだけ言うと、爆豪くんはさっさと校舎に入って行った。爆破も、殴られも、怒鳴られもしなかった…。ホッとしたような、ソレでも睨まれたのが怖くて心臓が普段よりも大きく鼓動した。
やはり、あの占いはよく当たる。
結局、ホームルームには遅刻した。
気分にムラの多い担任の虫の居所が悪い日だったらしく、遅刻をこっぴどく怒られて昨日やったばかりの日直を今日もする事になった。
お気に入りのシャープペンシルを落とした瞬間クラスメイトの熊井くん(個性熊。大柄)が通って踏まれて折れてしまった。
やっとお昼になって美味しいランチラッシュのランチを食べようとしていたら、4限の先生に片付けの手伝いを命じられた。
ツイていない事ばかり起こる。勇気を出して履いた真っ赤な下着はあまり効果が無かったのだろうか?ソレともコレを履いていなかったらもっと恐ろしい事が起こっていたのだろうか。
はぁー、と幸せが逃げていきそうな大きなため息を吐きながらランチルームにやってきた。昼休みは半分ほど過ぎていて、食べ終わって談笑している人たちもいるくらいだった。早く食べられるものにしようとラーメンを注文しようとしたが、売り切れていた為おうどんにした。
いつも友人達と座る席は、ランチルームの奥の方。普段から混雑しているが今から食べる人や食べ終わった人たちが入り乱れていて、人の動きが多い。
おうどんを溢さないようにと気を引き締めて歩いていた、その時だった。
「っだとコラァ」
耳元、といっても過言では無いと言うほど。すぐ近くで聞こえた今朝聞いたばかりの声に、ビクッと全身が跳ね上がった。
「きゃ!わ、わ!!」
おうどんが。
熱々で湯気の上がっているおうどんを乗せたお盆が、私の手の中でグラグラと揺れ動く。ついでに私自身もグラグラ揺れて体勢が定まらない。湯気立つソレが自分の方に波立ちながら迫ってくる。あぁ、これは、間違いなく最下位だ。
もはや私の手の中では制御できない、と心が折れかけた時、素早い何かが私の暴れるお盆を掴んだ。
「ッぶね」
「!!!!!」
先程の、耳元という発言は過言であったと訂正したい。今度こそ本当の本当に私の耳元で、女子とは全く違う、低い声が鼓膜を揺らした。
片手にお盆、そしてもう片手で私の身体を支える爆豪くんを、周囲にいた彼の友人達が讃えた。
爆豪くんと同じくヒーロー課1年A組の3人、切島鋭児郎くん(出席番号8番個性硬化)、瀬呂範太くん(出席番号13番個性テープ)、上鳴電気くん(出席番号7番個性帯電)だ。勿論彼らも履修済。
「さすが爆豪!漢だぜ!」
「反応速度やべーじゃん」
「つーかうどん湯気たってるし、危なかったなぁ。何科?一緒に食う?」
と、大変盛り上がっているが、私はそれどころじゃない。何故、よりによってまた、この人と。一方的に知ってはいたが今まで全く接点などなかったと言うのに。流石に呆れられるのでは無いだろうか、いや、でも私の顔なんて覚えてないだろうか。あ、待って、私まだお礼言ってない。
「あ、ありがとう……」
「あ?テメェ、朝の……」
震える声でお礼を告げれば、彼の赤い瞳に至近距離で射抜かれた。その瞬間、片眼だけをすっと細めた彼の口から朝という言葉が出て、胸に鉛が落ちる。
えぇ、覚えていらっしゃいました。さすが座学も優秀な、優等生であられる。記憶力がいい。
上鳴が「なになにかっちゃん知り合いかー?紹介しろよ水臭いなぁ」と茶化したのに対して爆豪がキレて返していた。
というか、すごく距離が近い。普通科の女子が騒いでいたのを思い出した。確かに本来の造型は整っているのだと考えているうち、頬が熱くなってきた。
しかし、その時私は驚愕の事実に気付いてしまったのだった。
爆豪くんが私を支える手が、おしり!おしりに!!!私の臀部に手がある!!!ももももちろん咄嗟に支える為であって全く他意は無かったのだろうけれど、でも、お尻は、ダメなのに!きょ、今日は、そのスカートの下のお尻には心許ないほど小さな面積の布地しか無く、ほとんど出ているのだ。もしかしたらその感触で、バレてしまうかもしれない。真っ赤で布地の小さい下着を着ける変態だと思われてしまうかもしれない。
「ア」と、爆豪くんが何かに気づいたような声を出してパッと私の身体に回していた手を離した。その瞬間、かあっと全身が茹で上がったように熱くなり大きな声を出してしまった。
「ば、爆豪くんのえっち!!!」
私の声がランチルームに響き渡り、シン、と辺りが一瞬静まりかえる。
一瞬後にブハッと3人が吹き出す声が大きく響き、それとほぼ同時にどこからか現れた峰田実くん(1年A組出席番号19番個性もぎもぎ)が血の涙を流しながら叫び声を上げた。
「ばくごー!テメー!何女子の尻触ってんだよ!!!」
タイミングの良い?峰田くんの声で状況を理解したであろう切島くん瀬呂くん上鳴くんが腹を抱え涙を浮かべながらランチルームに響き渡るほど大きな笑い声を響かせている。
「ギャーハハッお前っ!ドサクサすんなよ!」
「何してんだよ爆豪くんのえっち!!」
「ヒーッ!ヤメロwww死ぬwww」
「テメェらぶっ殺すぞ!!!!!」
「あ、や、ちが、ご、ごめ」
まさかの状況に、焦って訂正しようとするがうまく言葉にできない。そんな私の声を聞き、爆豪くんがグリンと恐ろしいはどの勢いで首をこちらに向けた。なんと目尻の角度が大きく釣り上がって45度ほどまで上がっている。
「テメェもだクソ女!!!ぶっ殺す!!!」
「ひぇっ」
掴みかかるような勢いの爆豪くんを、3人が抑えた。
「ギャハハ、ぶっ殺すなぶっ殺すな!ひー、ひー」
「ごめんなーかっちゃんもわざとじゃなかったと思うぜ?イッテ!」
「そーそー!けど今多分話通じねェから、ぶはは、ワリィけど逃げてくんねーか?」
まるで体育祭の時のような形相でコチラを睨み怒鳴りつける爆豪くんを、3人がかりで抑えている。殴られたり小さな爆破を受けたりしている様子に、顔を青ざめて「ごめんね」と言えば「ダイジョブダイジョブ、メシはまた今度一緒に食お」と上鳴くんが手を振ってくれた。ペコリと頭を下げてから、その場を後にした。
急ぎランチルームを出て、教室へと戻った。教室に着いてからも、まだ心臓がバクバクと大きく鼓動している。ランチルームから戻ってきた友人たちがなんで来なかったの?そんな時間かかった?と声をかけてくれた。なかなかの騒ぎになったよう感じていたがどうやら友人たちの席まではあの騒動が伝わっていなかったようで少しホッとした。
5限が始まるチャイムに重なって自分のお腹もぐうと小さくなった時、ようやくおうどんを食べ損ねたことを思い出した。
「……おなか空いた……」
友人から貰った飴ちゃんでどうにか放課後まで空腹をやり過ごした私は、一人日直日誌を書き終えてフゥと息を吐いた。
散々だった1日もようやく終わりが見えてきた。今日はもうさっさと寮に帰って夕食まで部屋に篭ろう。パタンと書き終えた日誌閉じながら、そう思った。
パタ、とすぐそばのカーテンが靡く。秋風が心地良さそうで先ほど開けた窓の施錠をして、日誌を持っていけば今日は終わりだ。立ち上がり窓に近付いた時、クラ、と視界が白んだ。
立ちくらみだ
時たま我が身に起こるそれに、特に焦りは無かった。空腹のせいだろうか、いつもよりも強いソレに、どこかに手を着こうと伸ばした。手を伸ばしたそこに、あるはずの窓が無く身体が傾いた。グルン、と一気に頭が下がり腰が窓枠に引っ掛かり足が浮いた。
「キャアッ!!」
どこかに手を付きたいが、未だに目が白んで、視界が定まらない。足がどんどん高く浮いてくるのを感じる。
「や、た、たすけてっ!」
ズルッと再び体勢が下がり、もう駄目だと目をつぶった。その時だった。
BOOM BOOMと大きな爆発音が響いた。
「ッッッぶねぇな!!死にてぇのかァ!?」
お昼にさんざ聞いた怒鳴り声が耳に劈くと同時に、グッと力強い腕に身体を支えられた。気付けば、落ちかけていた窓枠から教室に戻っていた。
私の足が教室の床に触れるまで、爆豪くんの手が背中を支えていてくれた。
「ば、くご、くん」
震える声で彼の名前を呼べば、窓枠に脚をかけたままの爆豪くんは私の顔を見て、その端正な造りの顔を歪ませ溜息をついた。
「またテメェかよ……。どんだけ鈍臭ェんだァ?運動神経死んでんのかよ!?」
「ひえ、」
ごめんなさいと言う私から興味なさげに目を逸らし、教室をぐるりと見回した爆豪くんは「お前2年だったんか」と呟いた。頷けば生意気だと再び文句を言われたが、それは流石にどうしようもない。しかし、お昼の怒りは収まっているようでホッとした。
「そんな鈍臭くてよくやっていけるな」
「今日は、たまたま…ちょっと…。普段はこんな事は無いんだけど……」
「ハッどうだか」
本当なのに、と口を尖らせる私を見てフンと息を吐いた爆豪くんは、器用に窓枠の上で体勢を変え私に背中を向けた。
「俺ァ戻る。テメェと長居してたらまたセクハラ野郎扱いされちまうからな」
「待って、爆豪くん!あの、お昼はごめ…」
「ゥオッ!?」
まだお昼のことをちゃんと謝って無いのに、と思わず彼の服をギュッと掴み個性を発動させてしまった。
私の個性「吸着」。大したことはない、ただ数センチほど近くのモノを引き寄せたりモノを握らなくても持っていられるというだけの、何とも残念な個性。だけど、不安定な窓枠の上、傾きかけていた姿勢の所に私が個性で引き寄せてしまったせいで、爆豪くんの見事な体幹を崩してしまった。
静かだった教室にドタドタ、ガタガタと大きな音が響いた。
一体何がどうなったのか。ピタゴラスイッチもビックリな大転倒をかました私達は何故だかいつの間にか、教室の床に倒れ込んでいた。
後頭部を床につけ仰向けに倒れ込んだ爆豪くんの、その硬いお腹の上辺りに私は尻餅を付いた。
「い、たた」
「ッッテェな!!!マッッッジでなんなんだテメェ……は……………」
言葉は尻すぼみに弱くなり、ついには消えてしまった。不思議に思い彼を見れば、赤い瞳が丸くなって口が薄く開いていて、普段釣り上がったり歪んでいる眉はアーチを描いている。怒っているわけでも呆れているようでもないその顔は、映像の中でも今日何度か顔を合わせた中でも初めて見る表情だった。
捲れ上がったスカートから普段見えない白い太腿が露出して、その脚の間から爆豪くんのその表情が覗いている。爆豪くんのお腹の上にお尻をついて、足は彼の両脇の辺りに着地しているからだ。
その光景が、なんだかえっちだなぁと何の根拠も経験もないのに思っていて、ふと気付いた。爆豪くんの真っ赤な瞳が、ある一点をじっと見据えて動かないことに。そしてその視線の先にあるのが、恐らく、いや間違いなく私の捲れ上がったスカートの、その中であろうことに。
「え?」
「ッッッ!!!テメェ………さっさとどけや」
小さく上げた私の声に、爆豪くんがビクッと身体を揺らした。それからジロッと見覚えのある鋭い目つきで私を睨みつけ、地を這うような低い声で唸った。
「あ、うん、ごめんね」
そう言いながら爆豪くんのお腹の上からお尻を退けて、床に座り込んだ。彼も身体を起こして座り込みずっと私を睨んでいる。けれど何故か何も言わず、沈黙が苦しくて「あの」と声をかけると「んだよ」と睨みながら返された。睨み付ける目つきはお昼やさっきと同じなのに、なぜか……目尻が少し赤らんでいるせいだろうか……少し穏やかなように見えて、思わずまた言わなくていいことを言ってしまった。
「み、見た?」
「俺が見たんじゃねェ、テメェが見せてきたんだろォが!」
「えぇ!?」
「えジャねェわ!!人の腹の上で脚おっ広げてたら、そら見えるだろが!!!」
そう言われると途端に恥ずかしさが込み上げてくる。異性に下着を見られるだなんて幼稚園以来無いのではないだろうか。しかもよりによってこんな下着の……日に……。「あ」と声が漏れる。そうだった。今日は、普通の下着じゃ無いんだった。ちょっと待って。アレ、アレを、見られたの?爆豪くんに?嘘でしょう?あん、あんなの、あんな変態みたいな下着着けてるのに?え?え?嘘だよね?
あっという間にカカカッと顔に熱が集まってくるのを感じる。慌てて頬を押さえたが、きっとそれは爆豪くんから見ても一目瞭然の変化だったんだろう。私の顔をみた爆豪くんは、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべて「つーかよォ」とさっきよりもワントーン低い声を出した。
「アンタこそ、大人しそうな顔して随分なモン着けてるじゃねェか」
「ッッッ!は、や、ち、だって、そ、ちがッ」
「何言ってっかワカンネェ」
色くらいは見えてるかもだけど、もしかするとそんなにばっちりは見えてないかもという考えは、爆豪くんの口から告げられればあっさりと覆された。あんなえっちな下着を着けるフシダラな女と思われてしまった。というよりも、どこまで見えたのだろうか、見えてはいけないものまで見られてはいないだろうか。考えれば考えるほど恥ずかしさが込み上げてきて、まともに声を出す事もできない。
そんな私の首の後ろに爆豪くんの腕が回され、グッと引き寄せられる。耳元に彼の吐息を感じるほどの距離だ。
「わ、わ……ッ」
「アンタの方がよっぽど"えっち"なんじゃないですかねェ、先輩?」
低くてそれなのにどこか甘さを感じさせる声が鼓膜を揺らし、背筋にゾクゾクと感じたことの無い震えが走って「ひゃ」と小さな悲鳴をあげた。もはや完全にキャパオーバー、頭は真っ白で瞳に涙が潤むのを感じた。
「ち、が、わ、わたしっ」
「誘ってんなら受けて立つぜ?」
「っ、」
からかうような声色に反して、赤い瞳が真っ直ぐ私を射抜いた。その瞳を見てしまった私は蛇に睨まれた蛙のように、身動きを取れず、声も出せなくなってしまった。ただ、彼の瞳を見ることしかできない。
首を傾け、少し開いた唇がドンドンと近付いてくる。蜂蜜色の彼の髪が私の黒い髪にサラリと重なった時、ギュッと目を瞑った。そしてーーー
「いたっ!!」
ガリッと、鼻に痛みが走った。
「え、え???」
一体何が起こったのか、ズキズキと痛む鼻先に目を白黒させる私の頬を、硬い掌がムニュッと挟んだ。その圧力で唇がプクッと前に突出した。
「ふぁに」
「蛸みてぇ」
それは、唇のことなのか、顔色のことなのか。はたまた両方なのか。分からないが爆豪くんは私の間抜けだろう顔を見てハハッと満足そうに笑うと、スッと立ち上がった。それから先程私が落ちかけた窓枠に脚をかけ「俺ァ戻る」と言った。
「鈍臭ェんだから、気ィつけて帰れや。もう面倒かけんじゃねェぞ」
「え?あ、うん…気をつけマス」
「…………次面倒かけたら、マジで食っちまうからな」
「なっ!?!?」
爆豪くんの言葉に再び顔を真っ赤に染めて言葉を詰まらせる私を見て、満足そうに笑った爆豪くんは、そのまま窓から飛び降りた。慌てて覗いたけれど、彼の個性ならこのくらいの階数はなんて事ない。爆破で落下のスピードを落としてなんの問題もなく流れるように着地すると、そのまま振り返る事なく走り続けた。
窓から見送ったその背中が見えなくなると、ズルズルと足の力が抜けて再び床にパタンと座り込んだ。
「な、なんなの……?」
未だにジンジンと痛む鼻先と暴れ続ける心臓を押さえた。一体、今日はなんという日だ。今まで授業の中での存在だった爆豪くんと、1日に3度も遭遇し、しかもあんなことやこんなことを……未だに恥ずかしさが消え去らなくて頭を抱えて蹲り、ようやく動けるようになった頃にはもう夕食の時間だった。
巡り巡らせた思考の末、やはりラッキーアイテムは大切だという結論に至った私は、明日からは絶対にラッキーアイテムを遵守しようと心に誓ったのだった。