mha短編
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明確な敵意だとかを持っているわけではないが、私は所謂敵(ヴィラン)というやつに分類される。
初めは、付き合っていたちょっと悪い男の手助けの為に。ただ、そういう連中から見ればいい個性だったんだろう。悪い仲間内の間で評判になり、彼のメンツを守るだとかなんだとかくだらない理由でさらに手を貸した。
かわいい悪巧みに手を貸していただけのつもりが、いつのまにかどっぷり浸かってしまって彼と別れた後も後戻りは出来なくなっていた。ここまできたらまともな職にはつけないので生きていく為に続けているだけ。特別な資格や賢い頭がない自分が就くことのできる一般的な仕事よりも金回りもいいのだ、無情なことに。
今回も私の個性ならなんてこと無い、簡単な仕事だった。とある男から情報を聞き出すこと。たったそれだけだがいつもより報酬が高かったので迷う事なく仕事を受けた。
報酬が高いことに疑問を抱いていれば、入念に下調べしておけば、せめて普段よりも注意しておけば…。なんてことを考えていればこんなことにはならなかったのだろうけれど、今更どうにもならないことだ。
あと数日で月が満ちるであろう夜だった。波打つ柔らかな金髪に、胸元を大きく露出しボディラインを見せつける黒のドレスを身につけたさくらを、通り過ぎる男たちが視線で追う。
細いヒールを鳴らしながら大通りから一本入った裏路地を進むと、目的地である一軒のバーが見えてきた。カランカランというベルの音と共に扉が開く。カウンターと数席のボックス席があるこじんまりとした室内。そのカウンターの一番奥に男はかけていた。
座っていても分かる背の高さ、細身の身体、そして特徴的な黒い長髪。あれがターゲットで間違いないだろう。ゆっくりとその人物に近付いた。
「こんばんは。ご一緒してもいいかしら?」
「あ?」
ギロリ、と鋭い眼が彼女を睨みつける。ボサボサの長髪に無精髭、くたびれて生気のない表情で清潔感という言葉とは無縁な様子。
まさしく裏の人間というような風貌の彼にニコリと営業用の笑みを浮かべるが、怪訝そうな顔で睨まれた。大抵の男はこれでニヤニヤと下卑た表情をするものだけれど、珍しい反応だわ。
「誰かと呑みたい気分なのよ。ダメかしら?」
ダメ押しでそう告げると男は彼女の顔や身体をしげしげと見つめ「好きにしろ」と言い放った。内心でガッツポーズをした彼女は彼の隣に腰掛けてながらウェイターに彼と同じものをと注文した。
「やめとけ、潰れるぞ」
「まぁ…それならなおさら試してみたいわ」
余裕の笑みを浮かべた彼女だったが何杯かグラスを空にした頃、意識がフワフワと浮き足立つのを感じた。彼が制止したように、それはかなりの強い酒だったようだ。いつもだったらこのくらいの量ではなんてことないのに。それにしてもこの男は全く表情が変わっていない。何者なのだろうか。そして、遠目では分からなかったが近くでよく顔を見ると綺麗な造形をしていた。
ああだめだ思考が纏まらない。このままでは仕事に支障が出てしまいそうなので一度化粧室へ行って酔いを醒まそうと席を立った彼女の足がもつれ、フラリとバランスを崩した。
「だから言ったんだ」
「ん、ごめんなさい…」
倒れそうになる彼女の細い腰を、彼がしっかりと掴んだ。細身で生気のない見た目の割にがっしりとした腕、そして耳元で囁く低い声にさくらの心臓が跳ねた。あぁ、マズイマズイ。仕事のターゲット相手にときめくなんて。
「強いのね…お酒」
そう言い彼の顔を見上げると、彼もまた彼女の顔をじっと見ていた。その瞳にほんの少し男の欲望の色が混ざっているのを読み取り、彼女は思案する。
いつもと手順は違うが、これはこれでまぁうまくいきそうだ。別に多少酔っていようが個性を使えば全く問題ない。うん、今日はもうこのままいこう。
「ねぇ、あなたって、よくみると綺麗な顔をしてるのね」
「目までキテるのか。酔っ払いはさっさと帰れ。家は?」
「歩いてすぐよ…でも…」
チラリと彼の瞳を覗き込む。言い淀んだその先を察知したのだろう彼はハァとため息をつくと立ち上がった。
「送る」
彼女は彼の体に寄り添うようにして、いまだ足元をふらつかせていた。彼もそんな彼女の肩を抱きながら静かに夜道を歩いていた。そして彼女の案内のままアパートの一室へと到着した。
「ありがとう」
「これからは飲み方を考えたほうがいい」
「そうね、そうかも…」
じゃあな、と言う彼の服の裾を彼女の細い指が掴んだ。
「ねぇ、少し入っていかない?」
「………少し?」
「それは、あなた次第…かしら」
ドアを開き彼の服を弱い力で引くと、彼は彼女の望み通り部屋へ足を踏み入れた。ドアが閉まる音が響いた瞬間、暗闇の中で彼女は彼の頬に"口付けた"。
「"来て"」
その言葉通り彼女に続いて室内へ足をすすめる男の姿を見て、彼女は頬を緩めた。
未だにフラつく足取りで住み慣れた1LDKの室内、リビングを通り過ぎて寝室へと進み、彼もその後に続く。
「"座って"」
そう言い自らもベッドへ腰掛ける。彼もまた私の言葉通りにそこへ腰掛けた。
さくらの個性、フェロモン。
キスした相手を意のままに操ることができる。
ベッドに腰掛ける彼の顔を彼女の細い指がそっと包み込み、今度は唇同士が触れ合う。
ふーっと彼女の口から大きく息がはかれる。
「よかった。報酬良かったから心配だったけど、問題なかったわね」
これで一安心、と肩の荷を下ろす。仕事の時はその男好きする見た目を存分に利用しいい女風で行くことが多いが、元来の彼女はそうではないのだ。安堵のため息を吐きながら最後の一仕事をはじめる。
「"あなたのお名前は?"」
「…相澤消太」
ふぅん、と頬に手をつく。この辺りの裏の人間にはそこそこ詳しいが、見た目も名前も彼のことは全く知らない。気になるところだが、まぁさっさと仕事を終わらせるてしまおう。
ベッド脇のチェストの中から紙を一枚取り出した。ユラリと揺れるピアスを外しながらそこに書かれた事を読み上げる。
「えーっと、"先日雄英に侵入した敵の侵入経路を教えて?"
…ほんっと、変なこと知りたがる奴もいるのよね」
外したピアスをチェスト上に置かれたガラスケースにそっと片付ける。次はネックレス、と思ったところで返事が無いことに気付いた。
「あれ?ちょっと…」
「なぜそんな事を?」
さくらはギョ、と目を丸くした。それは明らかに彼女の個性がかかっている状態の人間の反応ではなかったからだ。
焦ったように再度唇を合わせる。今度は、唇を開き舌を絡ませる。そうして背後へ押し倒しベッドへ倒れ込む。
入念に舌を這わせながら、頭の中ではなぜ、で溢れかえっていた。こんなことはこの仕事を始めてから初めてのことだった。いったいどこで間違えたと言うのか。だけど今度こそ大丈夫、これだけしっかりやれば充分なはず。
数分舌を絡ませれば、自然と息はあがる。ハァ、と荒い呼吸になりながらようやくさくらは唇を離した。
今度こそ…そう思った時、彼女の下でベッドに横たわる男が、彼女の細い腰を掴み自分の腰を擦り付けた。そこには硬く隆起したモノの感触が…
「ひゃあっ!!」
悲鳴をあげて思わず身体を離そうとしたが、強い力で腰を掴まれていてそれは叶わなかった。さくらは顔を真っ赤にしながら、仕事用の演技も忘れて大声をあげた。
「な、な、なに??は、え?!なんで?!?!」
「そりゃあ、あんだけ熱いキスをされて勃たねぇ男はいない」
「いや、そ、そういうことじゃ…」
しどろもどろになりながら自分の下に組み敷いている男を見る。窓から溢れる薄明かりに照らされる彼は、先ほどとは違い髪が上がっていて瞳の色が紅く光っていた。雰囲気も先程までよりも、鋭くなっているような…
「悪いな、俺には効かん」
ギクリと身を硬くする。効かないって、どういうこと?バレてる?もしかして、そういう個性?そんなのアリ?!
ていうかこの状況、かなりヤバいんじゃ
「色々聞きたいことはあるが、まずは悪い子猫におしおきだ…」
そう言うや否や視界がグルリと反転し、彼の瞳が鋭く彼女のそれを捉えた。彼女の背には柔らかなベッドの感触、彼女よりも一回り以上大きな身体が覆い被さるように重なりズシリと重みを感じる。そして手首を掴まれ、縫い付けられるようにベッドに押し付けられている。どうにか抜け出そうともがくが全く身動きが取れなかった。見た目は細身だというのに、なんて強い力だろう。
「にしても随分下手くそなキスだったな。お手本をみせてやる」
勃たせてるくせにどの口が、と考えているうちにと彼の紅い瞳と重なった。鋭く熱のこもった瞳から眼が離せずにいると、それが段々と近付き、唇が重なった。啄むように重ねたあと、ヌルリと舌が侵入してくる。
個性を、発動させて、逃げないと。
そう思うのに、いまだに彼の瞳から眼が離せずにいる。彼の舌は緩やかな動きなのに、彼女を翻弄する。ゾクゾクと背筋にナニカが走る。この感覚はいったい何?彼の瞳に捉えられると、彼の舌に捉えられると、身体の芯が熱くなる。どうして、たかがキスでこんなことになるの。
そっと唇を離し、首筋を触れるか降らないかの絶妙なタッチでなぞられると、ゾワゾワと電気がはしる。
「ひ、あっ」
思わず甘い声が口から溢れ出て、さくらは紅い唇を押さえようとする。しかし、腕を抑えられているのでそれは叶わなかった。
男好きする容姿、そしておあつらえ向きな個性。しかし、だからこそ、男性経験は決して多くなかった。周囲の者は皆後ろ暗い者ばかり。彼女の見た目で寄り付いた者も、その個性を知ればすぐに離れていく。特にキスは嫌がられる。
彼女にとってキスは仕事で他人を操るために行う行為。それがこんな未知の感覚を呼び起こすものだとは思ってもいなかった。そして自分の喉から出たとは思えないような声。
さくらは顔を林檎のように真っ赤に染めているがいまだに自分の身に何が起こったのか理解しきれない様子だった。
「?、?、?!?!」
「随分可愛い声だ」
「あ、あなたも…フェロモンの個性、なの…?」
見た目の妖艶さとは裏腹に少女のような反応を見せるさくらの問いに、彼は目を丸くし吹き出した。
「褒め言葉と受け取っておこう」
そう言い再び唇を合わせると、ドレスの上から彼女の腰をそっと撫で上げた。
そうして淫らで甘美な長い夜は更けーーー彼の言う"おしおき"は、暗い空が明らむまで続いた。
初めは、付き合っていたちょっと悪い男の手助けの為に。ただ、そういう連中から見ればいい個性だったんだろう。悪い仲間内の間で評判になり、彼のメンツを守るだとかなんだとかくだらない理由でさらに手を貸した。
かわいい悪巧みに手を貸していただけのつもりが、いつのまにかどっぷり浸かってしまって彼と別れた後も後戻りは出来なくなっていた。ここまできたらまともな職にはつけないので生きていく為に続けているだけ。特別な資格や賢い頭がない自分が就くことのできる一般的な仕事よりも金回りもいいのだ、無情なことに。
今回も私の個性ならなんてこと無い、簡単な仕事だった。とある男から情報を聞き出すこと。たったそれだけだがいつもより報酬が高かったので迷う事なく仕事を受けた。
報酬が高いことに疑問を抱いていれば、入念に下調べしておけば、せめて普段よりも注意しておけば…。なんてことを考えていればこんなことにはならなかったのだろうけれど、今更どうにもならないことだ。
あと数日で月が満ちるであろう夜だった。波打つ柔らかな金髪に、胸元を大きく露出しボディラインを見せつける黒のドレスを身につけたさくらを、通り過ぎる男たちが視線で追う。
細いヒールを鳴らしながら大通りから一本入った裏路地を進むと、目的地である一軒のバーが見えてきた。カランカランというベルの音と共に扉が開く。カウンターと数席のボックス席があるこじんまりとした室内。そのカウンターの一番奥に男はかけていた。
座っていても分かる背の高さ、細身の身体、そして特徴的な黒い長髪。あれがターゲットで間違いないだろう。ゆっくりとその人物に近付いた。
「こんばんは。ご一緒してもいいかしら?」
「あ?」
ギロリ、と鋭い眼が彼女を睨みつける。ボサボサの長髪に無精髭、くたびれて生気のない表情で清潔感という言葉とは無縁な様子。
まさしく裏の人間というような風貌の彼にニコリと営業用の笑みを浮かべるが、怪訝そうな顔で睨まれた。大抵の男はこれでニヤニヤと下卑た表情をするものだけれど、珍しい反応だわ。
「誰かと呑みたい気分なのよ。ダメかしら?」
ダメ押しでそう告げると男は彼女の顔や身体をしげしげと見つめ「好きにしろ」と言い放った。内心でガッツポーズをした彼女は彼の隣に腰掛けてながらウェイターに彼と同じものをと注文した。
「やめとけ、潰れるぞ」
「まぁ…それならなおさら試してみたいわ」
余裕の笑みを浮かべた彼女だったが何杯かグラスを空にした頃、意識がフワフワと浮き足立つのを感じた。彼が制止したように、それはかなりの強い酒だったようだ。いつもだったらこのくらいの量ではなんてことないのに。それにしてもこの男は全く表情が変わっていない。何者なのだろうか。そして、遠目では分からなかったが近くでよく顔を見ると綺麗な造形をしていた。
ああだめだ思考が纏まらない。このままでは仕事に支障が出てしまいそうなので一度化粧室へ行って酔いを醒まそうと席を立った彼女の足がもつれ、フラリとバランスを崩した。
「だから言ったんだ」
「ん、ごめんなさい…」
倒れそうになる彼女の細い腰を、彼がしっかりと掴んだ。細身で生気のない見た目の割にがっしりとした腕、そして耳元で囁く低い声にさくらの心臓が跳ねた。あぁ、マズイマズイ。仕事のターゲット相手にときめくなんて。
「強いのね…お酒」
そう言い彼の顔を見上げると、彼もまた彼女の顔をじっと見ていた。その瞳にほんの少し男の欲望の色が混ざっているのを読み取り、彼女は思案する。
いつもと手順は違うが、これはこれでまぁうまくいきそうだ。別に多少酔っていようが個性を使えば全く問題ない。うん、今日はもうこのままいこう。
「ねぇ、あなたって、よくみると綺麗な顔をしてるのね」
「目までキテるのか。酔っ払いはさっさと帰れ。家は?」
「歩いてすぐよ…でも…」
チラリと彼の瞳を覗き込む。言い淀んだその先を察知したのだろう彼はハァとため息をつくと立ち上がった。
「送る」
彼女は彼の体に寄り添うようにして、いまだ足元をふらつかせていた。彼もそんな彼女の肩を抱きながら静かに夜道を歩いていた。そして彼女の案内のままアパートの一室へと到着した。
「ありがとう」
「これからは飲み方を考えたほうがいい」
「そうね、そうかも…」
じゃあな、と言う彼の服の裾を彼女の細い指が掴んだ。
「ねぇ、少し入っていかない?」
「………少し?」
「それは、あなた次第…かしら」
ドアを開き彼の服を弱い力で引くと、彼は彼女の望み通り部屋へ足を踏み入れた。ドアが閉まる音が響いた瞬間、暗闇の中で彼女は彼の頬に"口付けた"。
「"来て"」
その言葉通り彼女に続いて室内へ足をすすめる男の姿を見て、彼女は頬を緩めた。
未だにフラつく足取りで住み慣れた1LDKの室内、リビングを通り過ぎて寝室へと進み、彼もその後に続く。
「"座って"」
そう言い自らもベッドへ腰掛ける。彼もまた私の言葉通りにそこへ腰掛けた。
さくらの個性、フェロモン。
キスした相手を意のままに操ることができる。
ベッドに腰掛ける彼の顔を彼女の細い指がそっと包み込み、今度は唇同士が触れ合う。
ふーっと彼女の口から大きく息がはかれる。
「よかった。報酬良かったから心配だったけど、問題なかったわね」
これで一安心、と肩の荷を下ろす。仕事の時はその男好きする見た目を存分に利用しいい女風で行くことが多いが、元来の彼女はそうではないのだ。安堵のため息を吐きながら最後の一仕事をはじめる。
「"あなたのお名前は?"」
「…相澤消太」
ふぅん、と頬に手をつく。この辺りの裏の人間にはそこそこ詳しいが、見た目も名前も彼のことは全く知らない。気になるところだが、まぁさっさと仕事を終わらせるてしまおう。
ベッド脇のチェストの中から紙を一枚取り出した。ユラリと揺れるピアスを外しながらそこに書かれた事を読み上げる。
「えーっと、"先日雄英に侵入した敵の侵入経路を教えて?"
…ほんっと、変なこと知りたがる奴もいるのよね」
外したピアスをチェスト上に置かれたガラスケースにそっと片付ける。次はネックレス、と思ったところで返事が無いことに気付いた。
「あれ?ちょっと…」
「なぜそんな事を?」
さくらはギョ、と目を丸くした。それは明らかに彼女の個性がかかっている状態の人間の反応ではなかったからだ。
焦ったように再度唇を合わせる。今度は、唇を開き舌を絡ませる。そうして背後へ押し倒しベッドへ倒れ込む。
入念に舌を這わせながら、頭の中ではなぜ、で溢れかえっていた。こんなことはこの仕事を始めてから初めてのことだった。いったいどこで間違えたと言うのか。だけど今度こそ大丈夫、これだけしっかりやれば充分なはず。
数分舌を絡ませれば、自然と息はあがる。ハァ、と荒い呼吸になりながらようやくさくらは唇を離した。
今度こそ…そう思った時、彼女の下でベッドに横たわる男が、彼女の細い腰を掴み自分の腰を擦り付けた。そこには硬く隆起したモノの感触が…
「ひゃあっ!!」
悲鳴をあげて思わず身体を離そうとしたが、強い力で腰を掴まれていてそれは叶わなかった。さくらは顔を真っ赤にしながら、仕事用の演技も忘れて大声をあげた。
「な、な、なに??は、え?!なんで?!?!」
「そりゃあ、あんだけ熱いキスをされて勃たねぇ男はいない」
「いや、そ、そういうことじゃ…」
しどろもどろになりながら自分の下に組み敷いている男を見る。窓から溢れる薄明かりに照らされる彼は、先ほどとは違い髪が上がっていて瞳の色が紅く光っていた。雰囲気も先程までよりも、鋭くなっているような…
「悪いな、俺には効かん」
ギクリと身を硬くする。効かないって、どういうこと?バレてる?もしかして、そういう個性?そんなのアリ?!
ていうかこの状況、かなりヤバいんじゃ
「色々聞きたいことはあるが、まずは悪い子猫におしおきだ…」
そう言うや否や視界がグルリと反転し、彼の瞳が鋭く彼女のそれを捉えた。彼女の背には柔らかなベッドの感触、彼女よりも一回り以上大きな身体が覆い被さるように重なりズシリと重みを感じる。そして手首を掴まれ、縫い付けられるようにベッドに押し付けられている。どうにか抜け出そうともがくが全く身動きが取れなかった。見た目は細身だというのに、なんて強い力だろう。
「にしても随分下手くそなキスだったな。お手本をみせてやる」
勃たせてるくせにどの口が、と考えているうちにと彼の紅い瞳と重なった。鋭く熱のこもった瞳から眼が離せずにいると、それが段々と近付き、唇が重なった。啄むように重ねたあと、ヌルリと舌が侵入してくる。
個性を、発動させて、逃げないと。
そう思うのに、いまだに彼の瞳から眼が離せずにいる。彼の舌は緩やかな動きなのに、彼女を翻弄する。ゾクゾクと背筋にナニカが走る。この感覚はいったい何?彼の瞳に捉えられると、彼の舌に捉えられると、身体の芯が熱くなる。どうして、たかがキスでこんなことになるの。
そっと唇を離し、首筋を触れるか降らないかの絶妙なタッチでなぞられると、ゾワゾワと電気がはしる。
「ひ、あっ」
思わず甘い声が口から溢れ出て、さくらは紅い唇を押さえようとする。しかし、腕を抑えられているのでそれは叶わなかった。
男好きする容姿、そしておあつらえ向きな個性。しかし、だからこそ、男性経験は決して多くなかった。周囲の者は皆後ろ暗い者ばかり。彼女の見た目で寄り付いた者も、その個性を知ればすぐに離れていく。特にキスは嫌がられる。
彼女にとってキスは仕事で他人を操るために行う行為。それがこんな未知の感覚を呼び起こすものだとは思ってもいなかった。そして自分の喉から出たとは思えないような声。
さくらは顔を林檎のように真っ赤に染めているがいまだに自分の身に何が起こったのか理解しきれない様子だった。
「?、?、?!?!」
「随分可愛い声だ」
「あ、あなたも…フェロモンの個性、なの…?」
見た目の妖艶さとは裏腹に少女のような反応を見せるさくらの問いに、彼は目を丸くし吹き出した。
「褒め言葉と受け取っておこう」
そう言い再び唇を合わせると、ドレスの上から彼女の腰をそっと撫で上げた。
そうして淫らで甘美な長い夜は更けーーー彼の言う"おしおき"は、暗い空が明らむまで続いた。