幾度となく空を仰ぐ
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ティナちゃんは居るかい?」
「はい、どうかされましか?」
「実は、旦那が北西のマリッタ交易所に行ったきり帰ってこなくてねぇ…この頃、魔物の数が増えただろう?もしかしたら、それで帰ってこられないんじゃないかと思って…。悪いけど、ちょっと様子を見に行ってくれるかい?」
「マリッタ交易所…、わかりました!今から行ってみます。」
「ありがとね!でも、くれぐれも無茶はしないでおくれよ?」
「お気遣いありがとうございます!行ってきます!!」
ハイラル城下町にある父の道場は、元々ハイラル城で隊長をしていた父が剣術に惚れ込むあまり、剣術の素晴らしさをもっとみんなに知ってもらいたいと開いたものである。
以前は、その傍ら魔物退治を中心とする万屋のようなものも開いていた。
しかしこの頃、ハイラル各地で魔物の数が増えてきているせいか、道場は魔物から自分の身を守る術を学びたいという人々で賑わい、父は手が離せないでいた。
そのため剣の修行も兼ね私が万屋を引き継ぐことになり、依頼があればすぐに現場に向かっている。
マリッタ交易所といえばその途中に王立古代研究所があり、リンクもゼルダ姫達とそこへ向かっているはずだ。
もしかしたら会えるかも…と考えていると、目の前に橋と荒々しい岩肌に包まれた谷が現れ、遠くに魔物の拠点らしきものが見える。
「ここからじゃ、よく見えないな。」
谷の様子を確認するため、橋を渡り中へ進む。
そこには拠点があり、複数のボコブリンが焚き火を囲んでいた。
「このぐらいの数なら…」
息を潜めて屈みながら拠点にそっと近づき、焚き火の近くの樽を目掛けて、忍ばせていたナイフを投げる。焚き火の火が漏れ出した燃料に引火し大きな爆発を起こす。
その隙に慌てふためく魔物達の不意を突き、瞬時に双剣で薙ぎ払う。
拠点の中には魔物はおらずホッと一息ついた時、首に下げている石が突如、青い光を放った。
「!」
それに気をとられ、背後に迫っていたモリブリンに寸前まで気づかず、振り返った時にはすでにバットが振り落とされていた。
すると、聞きなれた掛け声と共にボコブリンは横に大きく飛ばされる。
「リンク!」
彼は、剣を鞘に納めると此方に視線を向けホッとした表情を浮かべた。
彼にお礼を言おうと口を開きかけた時、彼の後ろから勢いよく小さな卵型のガーディアンが飛び出し、私の足元をピロリン♪ピロリン♪と音を鳴らしがら動き回った。その姿はなんだか嬉しそうだ。
「うわっ!…この子が例のガーディアン?」
「そう。こいつがいきなり騒ぎ出して谷へ走って行ったから、急いで後を追ったんだ。そしたらティナが…、間に合ったからよかったけど、どうして此処にいるんだ?」
「助けてくれてありがとう。万屋の依頼で魔物を退治してたんだけど、突然これが光だして…。」
そう言いながら、首の石を手に取ると、先程より光が強くなっている気がする。
足元のガーディアンの目も同じように青い光を放ち、それぞれ呼応し合っているようだった。
少しの間二人で石をマジマジと見ていると、少し離れたところからシーカー族の少女と、ゼルダ姫が私達の元へ走ってきた。
2人は小さなガーディアンと私を見て、目を見開いた。
「貴方は…、!それにその石は一体…。」
私とリンクは、今の出来事を2人説明した。
「なるほど、その石はこの子に反応している…と見て間違いなさそうですね。」
考え込むゼルダ姫の横で、シーカー族の少女が口を開く。
「その石は、どこで?」
「詳しいことは私にも分かりませんが、これは母の形見なんです。」
「「…」」
私は、母の姿を知らない。
父によると、私を産んですぐに病によってこの世を去ったそうだ。
この石は母が唯一残した形見であり、肌身離さず身に付けておくようにと言われている。
父に母のことを聞いてもはぐらかされて、中々教えてもらえずにいた。
きっと、母の死を思い出したくないのだろうと思い、いつからか母のことを聞くことはなくなった。
「…なので、私も石のことは全く分からないんです。」
「そうでしたか…。話してくれて、ありがとうございます。」
「なんだか、無粋なことを聞いてしまいましたね..。」
ゼルダ姫とシーカー族の少女は申し訳無さそうな表情を見せる。
「気にしないでください!母の記憶は全くないので、悲しいとか辛いとかそういう感情はないですから。」
笑って見せると、2人は表情を少し緩ませた。
そして、ゼルダ姫は真剣な面持ちでこちらに向き直った。
「私達は、この子のことを調べるために古代研究所へ向かう途中なんです。急で申し訳ないのですが…どうか私達と今から一緒に来て頂けないでしょうか…?既に知っているかもしれませんが、今ハイラルは厄災ガノンの復活という恐ろしい危機に直面しています。この頃各地で魔物増えているのは、その時期が近付いているということでしょう。それを防ぐために少しでも足掛かりとなるもの、情報が必要なのです…!」
「私が…」
ゼルダ姫の真直ぐで真剣な目が私を見つめる。
厄災ガノンの復活。
リンクから聞いて知っているが、城下町でも最近よく噂を耳にする。
決して他人ごとではないし、少しでも貢献できるなら協力したい。
「私で、お役に立てるのなら是非!」
「本当ですかっ!?ありがとうございます!」
ズイっと、此方に乗り出した姫の両手に、私の手が掴まれる。
いつも遠くで見た事しかなかったゼルダ姫が今、自分の目の前にいるなんて信じられない。
自分に向けられた、とても美しい笑顔に頬が熱くなるのを感じた。
「そうと決まれば、先を急ぎましょう!そういえば、自己紹介がまだでしたね。私は、執政補佐官のインパです!」
インパは、元気よくニコッと笑いかけた。
「私はティナです!リンクとは幼馴染です。父が城下町の道場で剣術教室を開いていて、私はそこで万事屋をしています。リンク程ではないですが、それなりに剣術を心得ているつもりです!」
「よろしくお願いします!ティナさん!」
「ティナ、協力感謝します!」
こうして、私はゼルダ姫達と一緒に王立古代研究所に向かう事になった。
「ここまで来れば安全でしょうか…?」
ドンッ
周囲にあった物の残骸を撒き散らし、横から一体のガーディアンが、勢いよく飛び出した。
「なっ、ガーディアンが本当に私達を襲って…!早くお逃げください姫様!」
「戦いは避けてください!ガーディアンの力…、敵に回せば恐ろしい物になる筈です!」
道中、突如一体のガーディアンが暴走し私達を襲った。
ガーディアンをこんなに近くで、しかも動いている状態で見るのは初めてだった。
その破壊力は凄まじく、先程ゼルダ姫に放たれたビームも当たれば一溜りもないだろう。
それに加えてかなりの数の魔物が現れ、私達は魔物を払いつつ追ってくるガーディアンから逃げるだけで精一杯だった。
どこまでも追ってくるガーディアンから逃げ続け途方に暮れていると、小さなガーディンが発掘途中のガーディアンを起動させ、暴走したガーディアンにビームを放った。
「凄い威力…この子が私達を助けてくれたんですね。」
「発掘したままのガーディアンは他にもあります。先程と同じように起動できないでしょうか?」
インパのその言葉で、私達は小さなガーディアンと共に数体のガーディアンを起動し、ガーディアンを弱らせることに成功した。
「ガーディアンの装甲はかなり脆くなっています。今なら直接戦って打ち倒せる筈です!」
リンクとインパが弱っているガーディアンと戦っているところを少し後ろでゼルダ姫と見守っていた。ゼルダ姫の方へ視線を向けると、どこからか彼女に向けられた赤い照準に気づく。すぐに辺りを見渡すと、岩陰から禍々しいオーラを放った一体の小さなガーディアンが、ゼルダ姫に向けて攻撃を放とうとしていた。
「姫様っ!!」
気づくと私はゼルダ姫のもとへ走り、彼女を突き飛ばしていた。
「ティナっ!?」
こちらに迫る攻撃に目を閉じかけたその時、首元の石が光を放ち、攻撃が光に吸い込まれるようにして消滅した。
何が起きたか理解できず、呆気に取られその場に立ち尽くしていると、背中に腕が回され、体に微かな重みと温かさが加わった。
禍々しいオーラの小さなガーディアンの姿はすでになかった。
「ティナっ!…無事でよかったっ…」
「…姫様こそ、お怪我はないですか?」
今にも泣き出しそうなゼルダ姫の背中にそっと手を置いた。
「姫様、ティナさん!!ご無事ですか!?」
「ティナ!!」
その向こうから、ガーディアンの撃退に成功したと思われるリンクとインパがこちらに駆け寄り、私たちの無事を確認すると安堵したようだ。
それから、私達は無事に古代研究所へ辿り着くことが出来た。
「これには古代エネルギーと未知の技術が使われている…」
ガシッ
「つまり……これはミーの知らない全く新しい型のガーディアンである!」
「「「「…………………………」」」」
古代研究所の研究員ロベリーはポーズを決めた。
どう反応していいのか分からなかったので周りを見てみると、何もなかったように流していた。
それでも、ロベリーは続ける。
「シーカーストーンを含めた古代遺物の力を増幅させる機能は、その技術の一端に過ぎません。」
「なるほど、だから私達までシーカーストーンを…」
インパが納得したように頷く。
「その上!この中にはウィらが想像もしないインフォメーション、情報が眠っていたのです。」
そう言い切った彼の後ろから、もう一人の研究員プルアが現れ、彼女が解析したという、小さなガーディアンに記録されていた写し絵といわれるものを見てみると、そこにはハイラルの恐ろしい姿があった。
なぜだろう、今初めて目にしたはずなのに…私は謎の既視感を感じていた。
頭がズキズキと痛み出し、手で頭を押さえる。
「っ…!!」
すると突然、頭にある映像が流れた。
赤黒く染まった空の下、眼前に広がるのは自分が知っている城や城下町ではなく、無数のガーディアンの破壊と殺戮による惨劇だった。
遠くで赤く光る何かが浮遊しているのを見て、なぜかとてつもない喪失感に襲われる。
ただ刻々と時が過ぎてゆく中、自分だけ取り残されたようだった。
「おーーーい、大丈夫~?」
「っ…!!」
一気に意識が戻され、すぐ目の前でプルアが手を振っているのがわかった。
「わっ!」
思ったよりも近かったため、体が後ろにのけぞるがリンクに支えられた。
「ティナ、やっぱりあの時どこか痛めたんじゃ…」
「ご無理はいけませんよ?ティナさん!」
「……。」
リンクの言葉に頷くインパに、その後ろで心配そうにこちらを見つめるゼルダ姫。
「本当に大丈夫!ちょっと疲れただけですから。」
「あなた、早く休んだほうがよさそうだし…手短に言うね?あなたの石にも、このガーディアンと同じ古代エネルギーが秘められているみたい。その力がどういう働きをするのかは今の私達には全く分からない。
まぁ、ここにくる途中の話から少なくとも、ガーディアンや古代遺物の力を抑えたり、無効化する力があるんじゃないかって推測できるけど、他にも何かありそうね。」
「ガーディアンと同じ力を持つ石…。なんでそんなものを母は…」
インパがそれに続く。
「それはそうですね。一体、ティナさんのお母様はどの様な方だったのでしょうか。…わからないことだらけです。」
「今考えても、分からないものは分からないわ。これからこの子と一緒に少しずつ謎を解明していくしか無さそうね。」
プルアは預かっていた石を私に手渡すと、何処か楽しそうなワクワクした表情を浮かべ、小さなガーディアンと私を交互に見る。
「それに、ユー達がこのガーディアンと全く同じ型のガーディアンに襲われた、というのも気になるな…。」
「と、いうことで…これからココにも時々来てもらうことになるわね。ティナ、だっけ?よろしくね!」
研究所を後にした私達は、帰路に就こうとしていた。
「今日は本当に申し訳ありませんでした。私に力がないために、あなたを危険に晒してしまって…。なんとお礼を言ったらいいか…。」
先ほどの出来事から、ゼルダ姫はずっとそのことを気にしていたらしい。
「そんな…、もう気にないでください。剣の使い手としてそれなりの覚悟はしていますし、気づいたら足が動いていたんです。今、こうして2人無事ですし、姫様をお守りすることが出来て光栄です。」
「…本当にありがとう、今日はすぐに休んでください。貴女の依頼の件は同行している兵士達に引き継がせます。」
「あっ、依頼!いえ、そんなわけには…」
そう言い掛けると、インパが私とゼルダ姫の間に入った。
「姫様のおっしゃる通りです。先程のガーディアンの暴走で結果的に魔物の数がかなり減りましたし、後は彼らにお任せください!」
思い掛けないことが次々と起こり、依頼のことをすっかり忘れていた。
任された依頼を他の誰かに頼むことは気が引ける。
しばらく返答に困っていると、リンクの手が私の肩に置かれた。
「大丈夫、俺も行くから。」
彼にもそう言われ、姫様達のお言葉に甘えることにした。
家に着く頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
扉を開け中に入ると、疲れが一気に押し寄せてくるのを感じた。
すぐに夕食とシャワーを済ませ、ベッドに横になる。
「今日は、色々あったな…。」
今日起きたことすべてが頭の中を巡る。
研究所のプルアの『これから研究所にも来てもらうことになる』という言葉、そのことについて全く触れなかったが、また何らかの形で会うことになるのだろうか…そんなことを考えているといつの間にか意識は手放されていた。
「はい、どうかされましか?」
「実は、旦那が北西のマリッタ交易所に行ったきり帰ってこなくてねぇ…この頃、魔物の数が増えただろう?もしかしたら、それで帰ってこられないんじゃないかと思って…。悪いけど、ちょっと様子を見に行ってくれるかい?」
「マリッタ交易所…、わかりました!今から行ってみます。」
「ありがとね!でも、くれぐれも無茶はしないでおくれよ?」
「お気遣いありがとうございます!行ってきます!!」
ハイラル城下町にある父の道場は、元々ハイラル城で隊長をしていた父が剣術に惚れ込むあまり、剣術の素晴らしさをもっとみんなに知ってもらいたいと開いたものである。
以前は、その傍ら魔物退治を中心とする万屋のようなものも開いていた。
しかしこの頃、ハイラル各地で魔物の数が増えてきているせいか、道場は魔物から自分の身を守る術を学びたいという人々で賑わい、父は手が離せないでいた。
そのため剣の修行も兼ね私が万屋を引き継ぐことになり、依頼があればすぐに現場に向かっている。
マリッタ交易所といえばその途中に王立古代研究所があり、リンクもゼルダ姫達とそこへ向かっているはずだ。
もしかしたら会えるかも…と考えていると、目の前に橋と荒々しい岩肌に包まれた谷が現れ、遠くに魔物の拠点らしきものが見える。
「ここからじゃ、よく見えないな。」
谷の様子を確認するため、橋を渡り中へ進む。
そこには拠点があり、複数のボコブリンが焚き火を囲んでいた。
「このぐらいの数なら…」
息を潜めて屈みながら拠点にそっと近づき、焚き火の近くの樽を目掛けて、忍ばせていたナイフを投げる。焚き火の火が漏れ出した燃料に引火し大きな爆発を起こす。
その隙に慌てふためく魔物達の不意を突き、瞬時に双剣で薙ぎ払う。
拠点の中には魔物はおらずホッと一息ついた時、首に下げている石が突如、青い光を放った。
「!」
それに気をとられ、背後に迫っていたモリブリンに寸前まで気づかず、振り返った時にはすでにバットが振り落とされていた。
すると、聞きなれた掛け声と共にボコブリンは横に大きく飛ばされる。
「リンク!」
彼は、剣を鞘に納めると此方に視線を向けホッとした表情を浮かべた。
彼にお礼を言おうと口を開きかけた時、彼の後ろから勢いよく小さな卵型のガーディアンが飛び出し、私の足元をピロリン♪ピロリン♪と音を鳴らしがら動き回った。その姿はなんだか嬉しそうだ。
「うわっ!…この子が例のガーディアン?」
「そう。こいつがいきなり騒ぎ出して谷へ走って行ったから、急いで後を追ったんだ。そしたらティナが…、間に合ったからよかったけど、どうして此処にいるんだ?」
「助けてくれてありがとう。万屋の依頼で魔物を退治してたんだけど、突然これが光だして…。」
そう言いながら、首の石を手に取ると、先程より光が強くなっている気がする。
足元のガーディアンの目も同じように青い光を放ち、それぞれ呼応し合っているようだった。
少しの間二人で石をマジマジと見ていると、少し離れたところからシーカー族の少女と、ゼルダ姫が私達の元へ走ってきた。
2人は小さなガーディアンと私を見て、目を見開いた。
「貴方は…、!それにその石は一体…。」
私とリンクは、今の出来事を2人説明した。
「なるほど、その石はこの子に反応している…と見て間違いなさそうですね。」
考え込むゼルダ姫の横で、シーカー族の少女が口を開く。
「その石は、どこで?」
「詳しいことは私にも分かりませんが、これは母の形見なんです。」
「「…」」
私は、母の姿を知らない。
父によると、私を産んですぐに病によってこの世を去ったそうだ。
この石は母が唯一残した形見であり、肌身離さず身に付けておくようにと言われている。
父に母のことを聞いてもはぐらかされて、中々教えてもらえずにいた。
きっと、母の死を思い出したくないのだろうと思い、いつからか母のことを聞くことはなくなった。
「…なので、私も石のことは全く分からないんです。」
「そうでしたか…。話してくれて、ありがとうございます。」
「なんだか、無粋なことを聞いてしまいましたね..。」
ゼルダ姫とシーカー族の少女は申し訳無さそうな表情を見せる。
「気にしないでください!母の記憶は全くないので、悲しいとか辛いとかそういう感情はないですから。」
笑って見せると、2人は表情を少し緩ませた。
そして、ゼルダ姫は真剣な面持ちでこちらに向き直った。
「私達は、この子のことを調べるために古代研究所へ向かう途中なんです。急で申し訳ないのですが…どうか私達と今から一緒に来て頂けないでしょうか…?既に知っているかもしれませんが、今ハイラルは厄災ガノンの復活という恐ろしい危機に直面しています。この頃各地で魔物増えているのは、その時期が近付いているということでしょう。それを防ぐために少しでも足掛かりとなるもの、情報が必要なのです…!」
「私が…」
ゼルダ姫の真直ぐで真剣な目が私を見つめる。
厄災ガノンの復活。
リンクから聞いて知っているが、城下町でも最近よく噂を耳にする。
決して他人ごとではないし、少しでも貢献できるなら協力したい。
「私で、お役に立てるのなら是非!」
「本当ですかっ!?ありがとうございます!」
ズイっと、此方に乗り出した姫の両手に、私の手が掴まれる。
いつも遠くで見た事しかなかったゼルダ姫が今、自分の目の前にいるなんて信じられない。
自分に向けられた、とても美しい笑顔に頬が熱くなるのを感じた。
「そうと決まれば、先を急ぎましょう!そういえば、自己紹介がまだでしたね。私は、執政補佐官のインパです!」
インパは、元気よくニコッと笑いかけた。
「私はティナです!リンクとは幼馴染です。父が城下町の道場で剣術教室を開いていて、私はそこで万事屋をしています。リンク程ではないですが、それなりに剣術を心得ているつもりです!」
「よろしくお願いします!ティナさん!」
「ティナ、協力感謝します!」
こうして、私はゼルダ姫達と一緒に王立古代研究所に向かう事になった。
「ここまで来れば安全でしょうか…?」
ドンッ
周囲にあった物の残骸を撒き散らし、横から一体のガーディアンが、勢いよく飛び出した。
「なっ、ガーディアンが本当に私達を襲って…!早くお逃げください姫様!」
「戦いは避けてください!ガーディアンの力…、敵に回せば恐ろしい物になる筈です!」
道中、突如一体のガーディアンが暴走し私達を襲った。
ガーディアンをこんなに近くで、しかも動いている状態で見るのは初めてだった。
その破壊力は凄まじく、先程ゼルダ姫に放たれたビームも当たれば一溜りもないだろう。
それに加えてかなりの数の魔物が現れ、私達は魔物を払いつつ追ってくるガーディアンから逃げるだけで精一杯だった。
どこまでも追ってくるガーディアンから逃げ続け途方に暮れていると、小さなガーディンが発掘途中のガーディアンを起動させ、暴走したガーディアンにビームを放った。
「凄い威力…この子が私達を助けてくれたんですね。」
「発掘したままのガーディアンは他にもあります。先程と同じように起動できないでしょうか?」
インパのその言葉で、私達は小さなガーディアンと共に数体のガーディアンを起動し、ガーディアンを弱らせることに成功した。
「ガーディアンの装甲はかなり脆くなっています。今なら直接戦って打ち倒せる筈です!」
リンクとインパが弱っているガーディアンと戦っているところを少し後ろでゼルダ姫と見守っていた。ゼルダ姫の方へ視線を向けると、どこからか彼女に向けられた赤い照準に気づく。すぐに辺りを見渡すと、岩陰から禍々しいオーラを放った一体の小さなガーディアンが、ゼルダ姫に向けて攻撃を放とうとしていた。
「姫様っ!!」
気づくと私はゼルダ姫のもとへ走り、彼女を突き飛ばしていた。
「ティナっ!?」
こちらに迫る攻撃に目を閉じかけたその時、首元の石が光を放ち、攻撃が光に吸い込まれるようにして消滅した。
何が起きたか理解できず、呆気に取られその場に立ち尽くしていると、背中に腕が回され、体に微かな重みと温かさが加わった。
禍々しいオーラの小さなガーディアンの姿はすでになかった。
「ティナっ!…無事でよかったっ…」
「…姫様こそ、お怪我はないですか?」
今にも泣き出しそうなゼルダ姫の背中にそっと手を置いた。
「姫様、ティナさん!!ご無事ですか!?」
「ティナ!!」
その向こうから、ガーディアンの撃退に成功したと思われるリンクとインパがこちらに駆け寄り、私たちの無事を確認すると安堵したようだ。
それから、私達は無事に古代研究所へ辿り着くことが出来た。
「これには古代エネルギーと未知の技術が使われている…」
ガシッ
「つまり……これはミーの知らない全く新しい型のガーディアンである!」
「「「「…………………………」」」」
古代研究所の研究員ロベリーはポーズを決めた。
どう反応していいのか分からなかったので周りを見てみると、何もなかったように流していた。
それでも、ロベリーは続ける。
「シーカーストーンを含めた古代遺物の力を増幅させる機能は、その技術の一端に過ぎません。」
「なるほど、だから私達までシーカーストーンを…」
インパが納得したように頷く。
「その上!この中にはウィらが想像もしないインフォメーション、情報が眠っていたのです。」
そう言い切った彼の後ろから、もう一人の研究員プルアが現れ、彼女が解析したという、小さなガーディアンに記録されていた写し絵といわれるものを見てみると、そこにはハイラルの恐ろしい姿があった。
なぜだろう、今初めて目にしたはずなのに…私は謎の既視感を感じていた。
頭がズキズキと痛み出し、手で頭を押さえる。
「っ…!!」
すると突然、頭にある映像が流れた。
赤黒く染まった空の下、眼前に広がるのは自分が知っている城や城下町ではなく、無数のガーディアンの破壊と殺戮による惨劇だった。
遠くで赤く光る何かが浮遊しているのを見て、なぜかとてつもない喪失感に襲われる。
ただ刻々と時が過ぎてゆく中、自分だけ取り残されたようだった。
「おーーーい、大丈夫~?」
「っ…!!」
一気に意識が戻され、すぐ目の前でプルアが手を振っているのがわかった。
「わっ!」
思ったよりも近かったため、体が後ろにのけぞるがリンクに支えられた。
「ティナ、やっぱりあの時どこか痛めたんじゃ…」
「ご無理はいけませんよ?ティナさん!」
「……。」
リンクの言葉に頷くインパに、その後ろで心配そうにこちらを見つめるゼルダ姫。
「本当に大丈夫!ちょっと疲れただけですから。」
「あなた、早く休んだほうがよさそうだし…手短に言うね?あなたの石にも、このガーディアンと同じ古代エネルギーが秘められているみたい。その力がどういう働きをするのかは今の私達には全く分からない。
まぁ、ここにくる途中の話から少なくとも、ガーディアンや古代遺物の力を抑えたり、無効化する力があるんじゃないかって推測できるけど、他にも何かありそうね。」
「ガーディアンと同じ力を持つ石…。なんでそんなものを母は…」
インパがそれに続く。
「それはそうですね。一体、ティナさんのお母様はどの様な方だったのでしょうか。…わからないことだらけです。」
「今考えても、分からないものは分からないわ。これからこの子と一緒に少しずつ謎を解明していくしか無さそうね。」
プルアは預かっていた石を私に手渡すと、何処か楽しそうなワクワクした表情を浮かべ、小さなガーディアンと私を交互に見る。
「それに、ユー達がこのガーディアンと全く同じ型のガーディアンに襲われた、というのも気になるな…。」
「と、いうことで…これからココにも時々来てもらうことになるわね。ティナ、だっけ?よろしくね!」
研究所を後にした私達は、帰路に就こうとしていた。
「今日は本当に申し訳ありませんでした。私に力がないために、あなたを危険に晒してしまって…。なんとお礼を言ったらいいか…。」
先ほどの出来事から、ゼルダ姫はずっとそのことを気にしていたらしい。
「そんな…、もう気にないでください。剣の使い手としてそれなりの覚悟はしていますし、気づいたら足が動いていたんです。今、こうして2人無事ですし、姫様をお守りすることが出来て光栄です。」
「…本当にありがとう、今日はすぐに休んでください。貴女の依頼の件は同行している兵士達に引き継がせます。」
「あっ、依頼!いえ、そんなわけには…」
そう言い掛けると、インパが私とゼルダ姫の間に入った。
「姫様のおっしゃる通りです。先程のガーディアンの暴走で結果的に魔物の数がかなり減りましたし、後は彼らにお任せください!」
思い掛けないことが次々と起こり、依頼のことをすっかり忘れていた。
任された依頼を他の誰かに頼むことは気が引ける。
しばらく返答に困っていると、リンクの手が私の肩に置かれた。
「大丈夫、俺も行くから。」
彼にもそう言われ、姫様達のお言葉に甘えることにした。
家に着く頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
扉を開け中に入ると、疲れが一気に押し寄せてくるのを感じた。
すぐに夕食とシャワーを済ませ、ベッドに横になる。
「今日は、色々あったな…。」
今日起きたことすべてが頭の中を巡る。
研究所のプルアの『これから研究所にも来てもらうことになる』という言葉、そのことについて全く触れなかったが、また何らかの形で会うことになるのだろうか…そんなことを考えているといつの間にか意識は手放されていた。
4/4ページ