カメレオンの記憶 第3部
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────この、記憶は……。
「アサギちゃん、お母さん役ね」
たくさんの子ども達が遊ぶ部屋の片隅で、友達といつものようにままごとの役決めをしているわたしがいる。
そのわたしの耳に、とある会話が滑り込んできた。
「以前長期任務に行っていた者達のことですが」
玄関から聞こえるその声に思わず耳を澄ませる。
「はい……どうされました?」
「暁との接触後、部隊は全滅しました」
「そんな……」
「こちらに遺族の方もいらっしゃるとのことでしたので、お伝えに、と……」
この頃、両親が任務へ出てからおそらく2ヶ月ほどが経っていたと思う。
名を聞かず、会話の意味がいまいちわからなくとも、それが自分の両親のことだとすぐにわかったわたしは友達にトイレに行く、と嘘を吐き、裏口から外へ出た。
誰にも気づかれないように扉を閉めて孤児院を背に走る。
溢れた涙を拭いながら走って走って走り続け、辿り着いたのはブランコと低い滑り台だけがある、寂しい公園だった。
────ここ……って…そんな、まさか……。
間違いない。
そこはわたしがシカマルとアイスを食べた、あの公園だった。わたしは過去にここへ来たことがあったんだ。
軋むブランコに腰かけながら沈んでいく夕陽を眺め、幼いわたしは俯く。
かなしい。さびしい。
ただそんな感情だけが流れてくるような気がした。
「なにしてるの?」
背後から突然声をかけられ、驚いたわたしは肩を震わせながら振り向く。
────う、そ。
そこには当時のわたしと同じ歳くらいの男の子がいた。黒髪の幼さが残る顔は、確かにあの面影を残している。
「さびしいの」
わたしがそう答えると男の子は悲しそうに目を伏せ「おれも」と言いながら隣のブランコに腰かけた。少しの間を置いて、男の子が問う。
「なんでさびしいの?」
「ママも、パパもかえってこないから」
「そっか。おれも、にいさんがあんまりかえって来なくて、一緒にいられないんだ」
「おんなじだね」
「うん。おんなじ」
それからわたし達は互いに名乗ることなくいろんな話をした。
彼の家のことや、わたしの孤児院のこと、両親のことやもうすぐ通うことになるアカデミーのこと。
最初はブランコに乗って話をするだけだったのが、彼と話しているうちにだんだんと元気をもらえたわたしは滑り台に乗って遊んだりもするようになった。
しかしそんな楽しい時間も長くは続かず、彼の名を呼ぶ声が終わりを知らせる。
────あの人は……。
「サスケ」
呼ばれた幼いサスケは振り向いて声の主を認めると嬉しそうに走って行った。
「にいさん!」
────イタチ、にいちゃん。
その姿と声に心が揺さぶられる。
早く知りたいことがたくさんあるのに、今見ている記憶の先を予測することができず、これからどうなるのか、彼らとどういった関係になっていくのかがどうしても思い出せなかった。
もどかしい気持ちのまま、内側から眺めていることしかできない。
「ダメじゃないか、勝手に飛び出したりしたら……皆心配してたんだぞ」
「ごめん、にいさん……でも! ともだちができたんだ」
「ああ、ごめんね。うちの弟が……」
「ううん、わたしも、たのしかった」
「おれ、サスケ。名前は?」
「わたし、アサギ」
「アサギ、またあそぼう! おれも、ここに来るから」
藍色に染まった空へ溶けて行くように去って行く2人の背を見ていると、当時のわたしの複雑な気持ちが伝わってくる。
友達ができて嬉しい反面、家族がいる彼が羨ましい。
同時に自分には何も無くなってしまったことを突きつけられたような気がして、すごく胸が苦しくなった。
2人が見えなくなるまで見送ってから、やっとわたしも歩き出す。孤児院へ戻る道中はとても足取りが重く、悶々とした気持ちを抱えていた。
「アサギ!! あぁ、心配したんだよ」
怒られるかもしれないと思いながらもそっと裏口から戻ると、意外にも孤児院の院長や副院長は涙ながらわたしを抱き締めた。
きっと大人達もわかっていたんだろう。わたしが全てを悟ってしまったと。
縋り付く宛もなかったわたしはそこで初めて院長達に泣きついた。大きな声を出して、涙が枯れるまで泣く。
その間心配した友達や年下の子達なんかも、皆がわたしを撫でたり抱き締めてくれた。
──── すごく悲しいのに、心が温まる記憶。そっか、わたしはこんなに愛されてたんだ。