青い鳥の終焉
「……落ち着いた?」
「うん……」
どれくらい抱き締められていただろうか。やっと落ち着いたデイダラが私の肩から顔を上げるのを感じながら、ゆっくりと彼に向き直る。
「ひどい傷……デイダラ、何があったの?」
久しぶりに見たデイダラの顔は傷だらけで、いつも左目につけているあの機械もどこかで壊してきたのか、付けていなかった。
そして酷く、つらそうな顔をしている。
────なんて…悲しそうな瞳……。
今にも涙が零れてしまいそうなその瞳を見ていられなくて、デイダラの傷だらけの頬に手を添える。私までも泣きそうになっていると、デイダラは添えられた手に自らの手を重ね、声を絞り出す。
「俺、もう……嫌なんだ」
彼は何が、とは言わないし、私もそれを問うことはしない。なんとなくわかっていたから。
「もう、殺したくねぇ。でも……でも次の任務が……──」
デイダラはついに何かの糸が切れたように、ぼろぼろと涙を流しながら私の手を痛いほど強く握る。
「私を……殺せって?」
────私達の関係、バレちゃったのかな。……でも私はデイダラに殺される方が幸せ。一番の最後だよ……。
私は小国のしがない忍者。自分達の秘密が漏れることを恐れた暁は、デイダラと組織を守るため、私を消すことにしたんだろう。
全てを敵に回している暁の人間が里に属する忍と付き合うなんて……。きっと前例はないだろうし、許されもしないもの。
「い、嫌だ……そんな……!」
「でもデイダラ、呪印かけられてるでしょ……?」
「なん、で……知って……」
デイダラには強力な呪印がかけられている。死後成仏できないような、永遠に苦しみを与えられる呪い……。このことはデイダラには話してないし、話すつもりもなかった。
「知ってるから……だから、私を殺して」
デイダラは信じられないと言わんばかりに目を見開き、また涙を流す。
こんなことにならなくても、私がデイダラに殺されることは決まっていた。だってあの呪印は……──。
────伝えられなくて、ごめん……。
ひっきりなしに涙を流すデイダラの首にそっと腕を回し、抱き締める。
もうきっとこうしていられるのも最後なんだろう。
そう思うとこの時間がずっと続けばいいのに、とひねくれた考えが脳裏に浮かぶ。
────デイダラには生きてほしい……私を殺せば、その呪印も解けるから。
窓から見える空が薄紫に輝き、月がゆっくりと消えていく……──。
ー完ー
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