一年草
夢主設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「わ、わたしが……っ。やら…なきゃ……」
しかしそれ以上は何を言っていいのかわからなくなってしまい、ただ自分の足元を見て次の言葉を探す。
すると少し間を置いて短いため息が聞こえた。
「……わかった」
その声に思わず顔をあげる。
「この木剣は俺が持つから、その教科書荷台に乗せて」
言われるがままにわたしは頷き、いったん教科書全てを机に置く。そして木剣の束を男の人が抱えたあと、再び荷台の上にバランス良く教科書を並べて出発した。
アカデミーの離れにある倉庫へ向かう間、わたし達はいろんな話をした。
男の人の名前は〝はたけカカシ〟。一応このアカデミーで生徒を見ているんだそうだ。
なんで先生なのに見覚えがないのかと思ったけど、卒業試験の時に試験官としてしか顔を出していないから、と聞いて納得した。
そしてたまたま以前の卒業生達の結果を報告しに来た先生は準備室の窓からわたしが困っているのを見つけ、駆けつけたんだと説明してくれる。
────だとしてもそこは普通に教室から入って来てくれればよかったのに……なんでわざわざ準備室の窓から。
おかげで寿命が縮んだ。
「それで……君は、何があったの?」
自分のことをあらかた話してくれたカカシ先生はわたしへ問う。その言葉に嫌でもだんだんと目の前がにじんでいくのがわかった。
────今まで……誰も、気づいてくれなかったのに……。
この人は、気づいてくれた。先生は、 〝こういう性格の子〟で終わらせず、ちゃんとわたし自身を見てくれる。
それが嬉しくて、ほっとして、わたしは倉庫に着いて片付けが終わってからもしばらく先生に話を聞いてもらった。
上手くは話せてないかもしれないけど、先生は相打ちをすることもなくじっと耳を傾けてくれる。
編入してからだんだんと始まっていったいじめのこと。
担任の先生は愚か、他クラスの先生でさえも誰も気がついてくれないということ。
わたしも自分で言い出すことができず、最近では孤独に耐えられなくなって死さえも選ぼうとしたこと。
全てを話終え、すっきりした頃には涙も枯れていた。
「お前はよく頑張ったよ。本当に、よく耐え忍んでくれた。成績では奴が首席だろうが、一番忍の素質があるのはアサギ、お前だ」
その言葉と共に触れた大きくな温もり。
────こんな気持ち、いつぶりだろう……。もう、独りじゃないんだ。
強く、そう思えた。
初めて誰かに認めてもらえた気がして、わたしの頬にまた一筋の涙が流れる。枯れたと思っていたのに、それはあとからあとから溢れては止まることを知らず、それでもわたしは笑っていた。
それから数ヶ月────。
あの日からわたしは強くなった気がしていた。
心の持ちようがすぐに変わったかと言われればそんなことはない。でもカカシ先生に忍の素質があるのはわたしの方だ、と言われてからは独りでいても前ほど苦にはならなかった。
だからか自然といじめられることもなくなっていき、だんだんと自信を取り戻せたように思う。
そして今日、わたし達の学年は卒業試験を受けた。
無事に合格したわたしは、それを確認するように先程もらったばかりの額当てに触れる。
あの日からカカシ先生には会えていないけど、また会えるだろうか。
そう思いながら廊下を歩いていた時────。
「よっ、アサギ。元気してた?」
「カカシ先生……!」
そこには本を読みながら壁に背を預けているカカシ先生の姿があった。あの時と変わらず気だるげな雰囲気を纏い、右手を軽く上げてわたしを呼び止める。
わたしは嬉しさのあまり、その胸に飛び込むような勢いで駆け寄り、今までのことを止まることなく話す。あの時、あまりまともな会話ができなかったわたしが、珍しく捲くし立てるように話すからか、先生は驚いた顔をしていた。
そしてようやくわたしが落ち着きを取り戻した時────。聞き覚えのある怒鳴り声が耳を劈いた。その声に驚いたわたしは反射的に肩を震わせ、窓の向こうを振り返る。
「くっそ、あンの野郎! 俺は首席だぞ!? マスクなんかしてクールぶりやがって!!」
────あれは……吟、くん……? あの態度を見るに、まさか……。
そう思ってカカシ先生を見る。
「……仲間を大切にできない奴は、忍になる資格なんてないのよ」
怒鳴り散らかす吟くんから目を逸らさずにそう言った先生の表情は悲しいような、怒りがこもってるような、複雑な思いがにじんでいる気がした。
でも……そうか。吟くんは忍になれなかった。
わたしは彼と同期でいる必要がない。やっと……開放されたんだ。
「アサギは人の痛みを知ってるでしょ。きっといい忍になれるよ」
そう言って先生はあの日みたいに頭を撫でてくれる。心が暖かくてくすぐったいような、何かが溢れて止まらないような感じがして、わたしはとびっきりの笑顔で思いを込める。
「……っありがとうございます!」
ー完ー
3/3ページ