愛すべき者は手放さないで
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柔らかく降り注ぐ朝の日差しを背に、多くの保護者が我が子を連れて歩く。
そんな中、姉である私が16という歳の差で生まれた弟を連れていても、きっと傍から見れば親子に見えているのかもしれない。
両親が忍である以上、覚悟していたことではあるけれど、2年前に2人を亡くしてしまった私達姉弟は力を合わせて生きるしかなくなった。
こうして弟が父や母の背を追うようにアカデミーへと通うのも、正直言えば止めたい気持ちでいっぱいだ。
私だってあの一件からはその道を諦めたわけだし、彼氏ともそれがきっかけで別れた。
もうその道を生きる人達とは無縁の場所で生きたい、と。でなければまた心が引き裂かれるような思いをしなければならない。
忍として生きるということは、常に死が付き纏うということでもあるから。
でもどうしても弟を止めることができなかったのには理由があった。
幼いながらも愛に溢れていた彼は自身もつらいだろうに、私を守るためだと言って聞かなかったのだ。
もう決めたことだから、と。
これ以上大切なものを無くしたくない、と。
そんな弟に根負けした私はこうして里から支援を受けながら毎日弟をアカデミーへと送迎していた。
今の私が弟へできるのは登下校の間、少しでも守ってやることだ、と思ったから。それにまだまだ学び始めのひよっこ忍をほっつき歩かせるなんて、到底できなかった。
「あっイルカせんせー! おはよ!!」
「おはよう、タキ。今日も元気がいいな」
アカデミーの入口にはいつも数人の先生方が立っている。挨拶と見回りとを兼ねたものらしいけれど、おかげで私も安心して弟のタキを送り出せていた。
「ほら、さっさと行って来なよ。遅刻するでしょ」
いつもだらだらと先生達に話かけてなかなか登校の札を書いてくれないタキに、呆れたように言い放った。
見送りに来た保護者は自身の子どもが登下校時に札へと名前を書くのを見届けてからでないと帰ることができない。
これが出席した印にもなるし、保護者が出席簿を書いていた、と証言できるから。
「あぁ、お姉さんもおはようございます」
「おはようございます。いつもすみません、うちの弟が……あ、そうだ先生────」
タキが時間を稼いでくれているのをいいことに、私は先生へと質問を投げかける。
質問、と言っても他愛ない会話が得意ではない私は、事前に用意していたタキに関する質問や、アカデミーに関する疑問をぶつけることしかできなかった。
先生はなんでも親身になって答えてくれたけれど、楽しい時間は一瞬で終わりを迎えてしまう。
「では、タキ君を確かにお預かりしますね」
「はい。いろいろありがとうございました。よろしくお願いします」
「いえいえ。いってらっしゃい」
〝いってらっしゃい〟。なんて夫婦みたいな会話なんだ……。
先生がこの言葉を誰にでも言っていることは知ってるけれど、それでもなんだかその一言だけで今日一日頑張ろう、と思えるほどの力を持っている。
そんなことを噛み締めながら私は背を向け家路へと就いた。
一度家に帰って支度を済ませてから仕事へと向かう。
道中、考えていたのはイルカ先生のことばかりだった。
最初は全く意識していなかった先生のこと。
楽しそうに子ども達と戯れているのを偶然見かけ、そこから気になっていった先生のこと。
先程話した先生の仕草や表情、声、笑顔────。
どれをとっても胸の辺りが温かくなり、彼を含めたこの世の全てを抱き締めたいと思うような、壮大な気持ちが駆け巡る。
先生にはご家庭があったりするんだろうか。仕事柄なのかピアス等はおろか、結婚指輪すら先生達は誰1人として付けていない。
そのため先生が妻子持ちなのかどうかすらわからない状況にあり、この恋を進めたくも足踏みしている状態だった。
普通にいろいろと世間話をして聞き出せればいいのだろうが、どんなに台詞を準備していったところで彼を前にすれば緊張と嬉しさからくる思いで全てすっ飛んでしまう。
一歩一歩、どうにか私のペースで進んで行けたら……そう、思っていた矢先だった。
