貴方と私と先輩と
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「よっし! 今日は廃部記念、卒業祝いとしてパーッと歌っちゃいましょう!」
「んだよ廃部記念って……喜んでいいことじゃねぇだろ、うん」
「そうだけど……でも、もう決まっちゃったことだし、最後くらい楽しみたいの。ほらほら! 思い出いーっぱい作りましょーよサソリ先輩!」
少し狭いカラオケの個室、サソリ先輩とデイダラの間に飛び込んでスマホを掲げる。
臨場感を残したくて、撮られる準備ができていない2人を他所にシャッターを切った。
「いきますよ~はい、チーズ!」
何度かシャッター音を鳴らすと、撮れた写真を確認しようと2人が私の携帯を覗き込んだ。
「あ、おま! オイラ変な顔してんじゃねぇか!」
「え~? いいじゃん、愛嬌があって」
「くそ…旦那だけ綺麗に映しやがって……!」
「サソリ先輩はお人形みたいに動かないから」
「落ち着いていると言え」
先輩達の間で繰り広げられるこの会話も今日で最後。明日にはサソリ先輩は卒業してしまう。
そう思うだけで涙が溢れてきそうになった。
部活がなくなれば、きっと私達はバラバラになる。
この部活が私を、私達を……私とサソリ先輩を繋ぐ唯一のものだった。
先輩に惹かれていってから今まで、この気持ちを言うことは一度もなかったしこれから先もその予定はない。
これでいい。これでよかった。
廃部になるってだけで十分気が滅入るのに、告白なんかしてさらにサソリ先輩を困らせることになんて、なりたくないもの。
最期まで、私は部員の仲間としてここにいる。
「オイラちょっとトイレ」
「いってらっしゃ~い」
「漏らすなよ」
「漏らさねぇよ!」
充分にはしゃいだ頃、デイダラが席を立った。
デイダラはサソリ先輩に気づかれないよう、瞬きほどの間だけ、私に意味ありげな視線を投げかける。
それがどんな意図をもっているのか、そんなことわからなかったけど、私はサソリ先輩のそばに座りながら何の気なしに話かけた。
「サソリ先輩、飲み物いります? もしあれだったら入れてきますよ。あ、でもまだ入ってますね。それじゃあ次に歌う曲でも決めてましょうか。次は3人で歌えるやつがいいな~……これとか!」
「おい」
「は……い────っ!?」
先輩に呼ばれて振り向くと急に視界と体が傾いた。
一瞬何が起こったのかわからずに戸惑ってしまう。けどすぐに先輩に押し倒されたんだと知って耳に熱が集まった。
「せせせ、先輩!? 酔ってます!? お酒頼んでませんけど!」
「そうだな……俺が酔ってるように見えるか?」
そう言いながら先輩の手はだんだんと下り、制服のスカートの中にゆっくりと忍び込んでくる。
必死に自由の利く左手でサソリ先輩の手を止めながら、どうにか思いとどまってもらおうと捲し立てた。
「こんなのおかしいですよ!! いつもの先輩ならこんなことしないじゃないですか! 酔った先輩なら…ってまだ未成年ですしそんなのわかんないですけど! でも取りあえず先輩ちょっとヘンだし…! そっ、それになんだか今日は目が怖い────」
気恥ずかしさと少しの恐怖でそう抵抗すると、サソリ先輩はさらに影の落ちた顔をして言った。
「当たり前だ。デイダラなんかにお前をやるわけにはいかねぇからな」
「……へ?」
────どういう……こと? デイダラなんかにって……え?
「お前のそばにいていいのは俺だけだ。俺なら精神的にも肉体的にも、お前のことを満足させてやれる。ガキなアイツじゃ、そんなの勤まらねぇだろ?」
求めるようにそう言われ、胸が痛いほどに締めつけられた。
サソリ先輩の言葉の意味を考えている間にも首筋に暖かな吐息がかかり、あの手が太ももを撫でる。
そこで我に返り、慌てて口を開いた。
「ちょちょちょ……っ! 待って待って!! あ、あのそれってその、つまりサソリ先輩は私のこと────」
煽るような表情をしたサソリ先輩が、だんだんと口篭ってしまう私の言葉に被せて言い放った。
「あ? 言わねぇとわかんねぇほど鈍感だったか?」
「え……と、それじゃあ……私、とサソリ先輩は……その………両…想いって……こと…………です、ね…」
……言った。ついに、言ってしまった。
本当は言うつもりなんてなかったけど、今ここで彼を説得できそうな言葉がこれしか思いつかなかった。
「……今なんて」
サソリ先輩はゆっくりと起き上がり、私の目を真っ直ぐに見た。
告白するつもりなんてほんとなかったから、顔中に熱が集まってようやく解放された両手で視界を覆う。
とてもじゃないけど今はサソリ先輩の顔を見るなんてムリ。
「わ、私もサソリ先輩のことが好きだって言ってるんです……っ」
そうはっきりと言わなきゃいけない状況になって、声を震わせながら伝えると、サソリ先輩はため息を吐きながら私の上から退いた。
私も捲れ上がったスカートを慌てて直しながら、できるだけ何も無かったかのように座る。
────どどど、どうしよう、告っちゃった……!
先輩も私のことが好きって意味だよね? 私、勝手に勘違いしたりしてないよね??
大丈夫だよね……!?
サソリ先輩は何も言わない。不安になってそっと盗み見てみると、彼の真っ赤になった耳が見え、思わず悶えてしまった。
────てっ、照れてる……!!!
「はぁ~。ったく、世話が焼けるぜ。うん」
「デイ……っ!?」
ドアの開く音とともに聞こえたデイダラの声。弾かれるように顔を上げると腰に手を当てた彼が得意げな顔をして立っていた。
「上手くいったみたいだな」
「どう、いう……──」
「どういうことだ、デイダラァ」
右手で顔を隠しながら睨むサソリ先輩を見て、デイダラはなぜか勝ち誇ったような顔をする。
「オイラがいつまでもガキだと思ったら大間違いだ。全部知ったうえで、配慮してやったんだよ。旦那がアサギのことを好きなのも、アサギが旦那のことを好きなのも。ま、旦那はアサギの気がオイラにあると思い込んでたみたいだけどな、うん」
────つまり……全部知ってたデイダラは、今日ここをその会場にするために動いたってこと? 明日サソリ先輩が卒業しちゃうから……。
んでサソリ先輩は結構独占欲強いとこがあるから、私とデイダラがくっついちゃうんじゃないか、って不安になってあんな行動に出たの……?
なにそれ……なにそれなにそれなにそれ……!!
「────んもう最高!!! ありがとう2人とも!!!!」
「やっ、やめろ…っ」
「うんうん! オイラ本当に良い仕事したよな!」
嬉しさのあまり、2人を強く抱き締めた。
高校生活はまだ始まったばかり。
サソリ先輩は先に卒業しちゃうけど……でも、ずっと繋がっていられる。
デイダラも応援するって言ってくれた。だからたまには3人で遊ぼう、って。
確かな絆を手に、私はまた前を向く。
「俺のそばに置くんだ、それなりの覚悟はできてるんだろうな?」
「もちろん────!」
ー完ー
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