貴方と私と先輩と
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高校生活も早半年────。
中学で美術部に入ってたから、ただそれだけの理由で高校でも同じように美術部に入ったけど、部員は私を合わせてたったの3人しかいなかった。
「デイダラ! ここなんだけど、どうやったら立体感出るの?」
「お前なぁ。オイラは先輩だぞ? 呼び捨てはやめろ。あと敬語。うん」
「なんだよ〜。別にいいじゃんか~」
「後輩にナメられるテメェが悪い。アサギ、喉が乾いた」
「あ、了解ですサソリ先輩!」
「オイラ!? オイラが悪いのか!?」
「はい、デイダラお茶持ってって」
1つ上のデイダラは話しやすくて、まるで年上な感じがしない。
部活に入りたての頃もずっと付きっきりでいろいろ教えてくれたし、すごく頼りになる。
対照的に2つ上のサソリ先輩は無口で愛想がなくて、最初の印象は最悪だった。
今ではこんなふうに話せるけど、まだ先輩のことを誤解していた頃────。
いつも頼りにしてたデイダラが部活に来れず、やむなく、まともに話したこともないサソリ先輩と2人きりになってしまったことがある。
「あれ……」
ただただ静寂が続く教室で、コンクールに出す予定の絵を描いていたら、アクリル絵の具の白色がなくなってしまった。
サソリ先輩は相変わらず黙々と彫刻に勤しんでいるし、それを邪魔するのも悪いから、とそっと教室を抜け出して準備室へ向かう。
部活に入りたての頃、デイダラにある程度説明は受けていたし、絵の具くらいすぐに見つけられると思って取りに来たけれど、引き戸を開けて絶句した。
「……なにこれ、きったな……」
初めて入った準備室は埃っぽく、床には乱雑に本が積まれ、資料のようなものもたくさん散らばっている。
戸棚には見たことのない筆がいくつも箱から飛び出した状態で捨てられたように転がり、作りかけの彫刻や粘土細工なども押し込まれていた。
そんな中、足元に注意しながら手のひらサイズほどの絵の具を探す。きっとこの感じだと絵の具は箱から出てしまっているかもしれない。
天井近くにまで積まれた、いくつもある段ボールの中から絵の具を探していた時、背後から腕が伸びてきて戸棚の一番上の段を開けた。
「うわぁ"!!」
それがあまりに急だったから、心臓が跳ね、悲鳴が口を突いて出た。
振り返ると片手で耳を塞ぐサソリ先輩と目が合い、しばらく硬直してしまう。
けどサソリ先輩はそんな私を他所に口を開いた。
「絵の具は一応こっちにまとめてある。ったく、あのクソ顧問、んな高いとこに置いたらわかりにくいだろーが」
言いながらサソリ先輩は私が探していた白色の絵の具を箱の中から取り、それを持って歩き出した。
そして引き戸に手をかけながら無言で振り返る。
私待ちなのに気がつき、慌てて先輩のあとを追って礼を口にした。
「あ、あの! ありがとうございます。でもなんで私が必要な色────」
「見てればわかる」
言いながらサソリ先輩はそれを私の手に乗せるとそそくさと教室へと戻って行ってしまった。
私が個人的に使おうとした色。
いくらその絵の具達が部で使われているものだとしても、絵を描かないサソリ先輩は絵の具に触ることがないはずだから、驚いてしまった。
無愛想でいつも自分の世界にいる人だと思っていたけれど、その認識は間違っていたのかもしれない。
その瞬間から、意外にも私を見てくれていた先輩に対しての印象はガラリと変わった。
「芸術はいい……半永久的に残るこの造形こそが俺の求める美だ」
「いいや、儚くも美しいのがいいんだよ。ドーンっと爆発するようにな! うん!」
「デイダラ…だからってせっかく作ったの壊すのはやめようよ。なんかマゾっぽいし」
「ま、どちらにせよ俺はこの部活にもっと人を呼んで賑やかにしていきたい」
「それはオイラも賛成だ」
「だね! 私も頑張ります!」
先輩が卒業しちゃっても、わたしとデイダラで部活を盛り上げていこう。先輩のためにも────。
そう、思っていたのに。
「サソリが卒業した時点で、この部を廃部とする」
「え…?」
「はぁ!? んな……急に!」
顧問に突然告げられた廃部宣言。それはもう、覆ることのない決定事項だった。